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第8話 (後半三人称視点)

「ん……」


 私は目覚める。気絶していたはず。いつもよりふかふかの所にいる気がする。ベッド……? 私の部屋の? にしてはふかふか過ぎる。なんだこの素材、ふかふかや……。


「おはよう柚木森さん」


「!!??」


 それは地獄のデジャヴにして地獄の相手だった。


 恐山ヒュータ君。


 何何何何どういう事だ!? まさかあの後運んでくれたのは恐山君で、しかも私の家じゃないときた。まさかまさかここは恐山君の家の恐山君の部屋で、まさかまさか恐山地獄の威圧的看病再来なのか!? いやそれで済むなんて考えが甘いよ柚木森叶! 恐山君は私を諦めている(はず)とはいえ、多少恨みを買っているかもしれないし、いや多分気づかないところで買っているし、きっとこの後【自主規制】みたいな展開になるんだー!!


 お、終わったーー!! 柚木森叶の異形標本、これにて最終回! バッドエンド! 皆ありがとう!


「あ、あの……」


 ん。山羊目の金髪美少女……。


「ごめんなさいです……」


「へ? な、何で貴方が謝るの?」


 というか何でいるの? いや、いてくれて滅茶苦茶ありがたいんだけど。


「紹介するね、柚木森さん。このお方は黄食さん。黄食かるてさん。なんと──電波サイト『天使の濡れ場』の管理人の『天使教黙示録』さん本人なんです!!」


 え? あ、ああ。え?


「言うなー!!」


 頭を抱えるかるてちゃん。と、いう事は。……私は恐山君にとって自分より価値のある存在であるはずの黄食かるてちゃんを見ては、安堵し、勝手に納得した。そしてかるてちゃんの肩を優しく掴んだ。


「かるてちゃん。なんて可愛らしいの。そして地獄へようこそ」


「何でー!!?」


「黄食さん、今朝方は裏世界での数々のご無礼お許しください。もし何かあったら、俺を頼ってください。そしてどうか、足を舐めさせてほしい」


「こっっわ」


 目覚めたのか? ……私もかるてちゃんに施す事にした。


「かるてちゃん、何かあったら何でも私に相談してね、例えかるてちゃんが恐山君に道を外されようとも、私はかるてちゃんの理解者になるから」


「何もかも嫌なんですけど!!」


「黄食さん、俺のスマホのブックマーク見て、ちゃんと全部読みこんでるんだ。このサイトの存在を忘れた日なんてないくらい」


「なんかこの人怖いーー!!」


 ぎゃーぎゃーと泣くかるてちゃんを私と恐山君で可愛がっていると、広い部屋の扉から、全員、つまり異形狩りの戦士メンバーが入ってきた。


「おいおい何やってんのさあんたら、かるていじめんなや。かるてをいじめていいのはあたしだけだよ」


「ちょもえー……」


「あ、柚木森さん、起きたんだ、ぐっもーにん!」


 口枷君は謎に指で頬を膨らませたこ焼きを作っていた。なんだそれ、可愛いな。


「ぐっもーにん」


「…………」


 私、口枷君のまとまり。皆鴨君、恐山君のまとまり。かるてちゃんと黄緑の子のまとまり。


 私達は、自己紹介をした。


「柚木森叶です。至らぬ点も多いですが、なにとぞ」


「口枷業火だよぉー! 業火って名前では呼ばないで! 口枷って呼んでねー!」


「皆鴨柚月だ」


「恐山ヒュータ。おそれざんじゃなくて、おそれやま」


「黄食の黄を食べると書いておうしょく、ひらがなでかるて。黄食かるてです」


「草薙巴、よろしく」


 以上、自己紹介終了。そして、巴さんから話し始めた。


「あたし達は口枷達の話を聞いて、理解した。自分等が騙されていた事にね。だからあたしとかるてはこちら側につく事にした」


「そ、その前に一ついい? 今って何時? ていうかまだ土曜日? ここって誰の家なの?」


「土曜日の午後六時。ここはあたしん家だよ。どうやらこのメンバー全員訳アリ家族みたいだからね。ここはあたしの部屋。あの後ヨーゼリアで私とかるてと口枷皆鴨で話してた。恐山から口枷に電話があって、どうやらあんたが気絶しているみたいだったから」


「それで、巴さんの家まで……」


「いっとくけど運んだのは俺じゃないよ。羊坂さんの分身が運んでくれたんだ、安心したら」


 と、恐山君。羊坂さんの分身……?


「もーう肝心な話の時っていっつも柚木森さんがいないんだよなあ。あのね──黄食さんと草薙さんはある人から戦士勧誘を受けて、僕達とは違う特別な武器を貰って、縄張り……ホワイトヴェール女学院付近でよく異形狩りをしていたそうなんだ」


「んん、私は巴の紹介から始まったけど」


 と、口枷君の話をやや折るかるてちゃん。そして皆鴨君が眼鏡を上に上げる。


「なんだか話が噛み合わないと思ったら、まだまだ世界には戦士がいて、この地域で俺達の知らないうちに派閥みたいなものができあがってるんだとか。縄張りってのはそういう事だろうな」


「ああ、あたしが知ってる限り、この県内だと轟沙汰(とどろきざた)高校、桜ノ前(さくらのまえ)高校、無所属、かな」


「柚木森さん知ってる?」


「全く……」


「轟沙汰はゴリゴリのスパルタ男子校で、桜ノ前は通信制の共学校だよ。あたしの知ってる無所属は大人の奴らだった」


「そんなに戦士がいるんだ……むしろ何で今まで出会わなかったのか、ああ、縄張り、だっけ」


「そ、恐らくあんたとそこの古参戦士トリオを除いて、新たな改革みたいなのが起こった。あたし達を戦士に勧誘した張本人――――岩倉(いわくら)チェインによってね」


 また新たな名前が……! ん? 岩倉チェインって、あの岩倉チェイン!?


 私の大好きな詩集を書いている、あの!?


「ちょ、ちょっと待ってごめんね。……こ、この人?」


 私は急いでスマホ検索をし、顔写真を見せた。そこには黒髪に赤い帽子を被った、オパールの瞳をした美少女なのか美少年なのか分からない、長髪の麗人がいた。


「! そう……こいつさ。何だ、芸能人なのかい、こいつ?」


「芸能人というか、性別不明、年齢不明、学歴不明の謎のヴェールに包まれた天才の詩人、岩倉チェイン先生! 私、本になってる詩集はほぼコンプリートしてる」


「あーこれ前に柚木森さん好きだって言ってたね」


「詩人、ね。納得いくよ。うまい綺麗な言葉で翻弄して、あたかも導いてくれそうな奴だった」


 岩倉チェインが……。


「ちなみに岩倉チェインは何故か異形に襲われない。戦士ですらない。怪しいけど、勧誘されて騙されたよ、あたしとかるては」


「その騙されたっていうのは……」


「あたし達言われたんだ。異形は悪い存在で、それを倒せば、倒し続ければ、願いが叶うって。甘い響きだったね、自分で言うのもなんだが、このあたしですら願いがあったから。派閥ができたのも、岩倉チェインが原因。あいつが言ったのさ。チームで異形を倒すなら、一番功績を残したチーム全員の願いを叶えてあげるってね」


「わーを、僕達何も言われてないや」


 そう、何も言われてない。けど、けれども一つ、ひねくれながらも怪しく考えてしまう事があった。


「こんな考え方はひねくれた私だからしちゃうんだけど──四大天使を所有する私達が、単にハブられてる可能性もあるよね……」


「!」


 それに反応したのは口枷君。他のメンバーはあまりピンときていないのか、表情を変えなかった。


「それ、ありうる」


「? どうしてだよ口枷」


 皆鴨君と恐山君は疑問符を浮かべ、口枷君を見つめた。それに口枷君は大変言いにくそうに言う。


「いや……実はね、多分、なんだけど。岩倉チェインさんってひょっとしたら、うちのクラスの不登校の子かもしれなくて……」


「え?」


 瓶詰高校メンバー全員が固まる。


「いやほら、岩倉チェインって絶対偽名でしょ? うちのクラスの不登校の人……岩倉やえっているじゃん。僕一回だけ岩倉さんの家に提出物届けに行った事あるんだけど多分あの写真は……かなり、岩倉やえさん……に、思えて」


「えっ!」


「それだっー!!」


「ハブられてたのか俺ら」


「え、待ってよ、それじゃあ岩倉チェイン、騙してた訳じゃないって事? 貴方達瓶詰高校のメンツがハブられてるだけで、私達は私達でやっていれば願いを叶えるのに近づけたんじゃ……!」


 かるてちゃんが目をぐるぐるして取り乱す。


「まあかるて、確かに騙してた訳じゃないかもだけど、異形が悪い存在ってのは嘘じゃん。異形は元を辿れば被害者な訳だし」


「…………被害者かどうかなんて誰にも分からないじゃない。人を散々傷つけて自殺に逃げた奴らかもしれないじゃない。そういう自殺も、現にあるんだから」


 確かにかるてちゃんの言う事も理解できる。けど今折角こうして集まっているのに、仲違いなんてごめんだ。


「……あの、かるてちゃん、巴さん」


「はぁー……。呼び捨てでいいって、別にちょっと取り乱しただけで、もともとなかった夢みたいなものだし」


「あたしも巴でいいよ。かるてと同じ意見。あんたらとは、特に叶とは仲良くなりたいしね」


「……! かるて、巴、私達まだ分からない事だらけだけど、これからはなるべく一緒に戦わない? 岩倉チェインさんの事も、はっきりさせたいし」


「いいよー別に。高校ちと離れてるから合流は難しいけど、叶達の方が他の連中より信頼できそうだし」


 思っていたよりくだけた口調で、なんだか物わかりの良いかるて。そして──。


「あたしも全然オッケー。岩倉チェインには薄々ムカついてたから、そうだね、瓶詰高校もヴェル女も、もやもやしてるこたぁ、はっきりさせよう。願いの事は、都合よく忘れるよ、とりあえず今はね」


 夢に何か想いがありそうな、けど真っ直ぐ透き通った瞳でこちらを見据える巴。


「改めて、よろしく」


 今日、私に初めて呼び捨てでお互いを呼び会う、女の子の友達が二人もできた。


 本当は、それだけで私は良かった。


「はいっ! 何かまるっとゆるっと集約したし、一応今のうちに連絡先交換しとこう! メールも電話もだよー!!」


 口枷君がスマホを取り出すと、全員がスマホを取り出し、その時間は連絡先交換タイムとなった。そういえば私は口枷君の連絡先しか知らなかったな。交換するのって、なんか儀式みたいでドキドキするけど、交換し終わったら、なんか、良い気分だな。


「んじゃ、今日はかいさーん」


「え? うち泊まってかないの?」


「いやいや、さすがにこの人数でお世話になるのはまずいし」


 強く頷くのはかるてを除いた瓶詰メンバー。いや本当に、広い部屋だけど、さすがに、さすがに。


「父、母、妹、妹、弟いる大家族だけど、うち広いし、ていうか叶が運ばれてきた時に両親に泊めるって言っちゃった。てへぺろ」


 だ、大家族だ……。でもさすがに悪い気がする。


「えー何で全員そんな顔をするわけさ? じゃあせめて叶だけ泊める。心配だからね」


「ええっ! 巴私はぁ?」


「あ、忘れてた!」


「っがーん! 巴のばかばかばかばかばかばか」


「じゃあ俺達帰るんで……」


 と、皆鴨君を筆頭に咄嗟に立ち上がる瓶詰トリオ。


「お邪魔しました草薙さん!」


「黄食さん……!」


 恐山君は懲りずにかるてに媚びる。


「巴! 早くこいつをどこかへ追い払って!」


「おう! 玄関まで送ってくよ、かるてついてきな」


「へ、へい……」


――――パタン……。


 巴の部屋に私が一人となり、嵐の後の静けさ。


 何だ、あの不登校の人が、岩倉やえさんが、岩倉チェインだったとは……。ん、なんかスマホに早速メッセージが来てる。口枷君からだ。


『柚木森さん、今日は大変だったよね、お疲れ様。しばらくこんな日が続くと思うけど、何もなければまた月曜日、学校で会おうね』


 口枷君……。相変わらず文章はほっこりしている。


『写真が送信されました』


 あら、何だ?


「…………」


 そこには、かるてちゃんのおでこが写りこんでいる口枷君の自撮り、というか玄関先での集合写真。ブレブレだ。私はその自撮りの下手さが面白くて、くすっとなる。そしてその写真を保存し、その日は宝物の様に眺めた。


 さてさて、この後は新しくできた友達二人と早速お泊まり会。何故だか私って、私の人間関係って、良ければ良い程、展開が早いのなんでなんだろう?


 でも、嬉しいからいいか。



◆◆◆◆◆



「という訳で──かるてと巴が瓶詰の連中に寝返った。高校は一番近いから、所詮両方なかよしガッコーだからまあある程度予想はしていたけれど、轟沙汰の皆さんには女の子がどうとか弱いものいじめがどうとか気にせず、滅茶苦茶やってほしいのさ。嫌いだろう? ──幸せそうなやつら」


 赤いニット帽にエスニック風の服装。オパールの瞳が眩しいその神秘的な雰囲気の黒髪美人は、中性的な声で和室に集まる和服と軍服の、雅で可憐な男子達に語りかけていた。彼女の名前は岩倉チェイン。


「──はて……女の子って下女の事ですか? あぁっ、失礼でしたらすみません。謝ります。何せそれ以外の接点がないものですので……」


 清楚で凛とした風格の、お茶を丁寧に持った茶髪おかっぱ糸目男子。黄緑色の和服を召している。


「──弱いものいじめはめっ、だよ岩倉さん。どうしてもっていうならそれ相応の賄賂が必要だよねぇ、賄賂が紙幣とは限らないけれど、私兵の僕に頼むにはちょっと後先考えてないよねぇ、お兄さん心配です」


 癖のある黒髪ロングを小さく一つに結んだ中分けの、一番背が高くどこか艶っぽい、酒瓶を持ってあぐらをかく茶色和服男子。


「──滅茶苦茶なのは岩倉の、貴方だ。平等に瓶詰の輩にも願いの事を、新しい規定を言えば良かったはずだ。平等とはいかなくとも、正々堂々するべきのはずだ。そんな貴殿の滅茶苦茶さには少々恥を自覚すべきだ」


 と、気難しそうに正座する、目と口以外は包帯ぐるぐる巻きの、お茶のペットボトルを持つ軍服のミイラ男子。


「──なんか、今更ですが笑っちゃいますよね。僕達みたいな救い様のないクズが戦士とか。ていうか黎冥さん、さっき紙幣と私兵をかけてませんでした? ぐふっ、すみません、そういうの面白くて、こんな時に笑っちゃって……ぷくっ、ぷぷぷ、すみませっ、はひっくくく」


 と、前髪が長い黒髪の軍服美男子は、お前が一番救い様のないクズだよという視線をという茶色い和服のロン毛男子から冷ややかな視線を浴びせられていた。


「…………」


 そして、青と緑のオッドアイが飴細工の様な、白髪ボブの軍服美男子が黙って岩倉チェインを見つめる。一番背丈が小さく、一番くだけた座り方をしていて、この男性的な男子の中で一番女の子の様な、もしくは女の子より綺麗な顔立ちをしている。


 そして岩倉チェインは笑顔でこう思うのだった。


(こいつら本当に扱いにけぇー)

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