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第7話 (途中から三人称視点→叶視点に戻る)

 あれから私と口枷君、恐山君、皆鴨君は勉強をしながら異形や裏世界、謎の戦士達について考察したり雑談したりしていた。このメンツなだけにかなり長い事盛り上がったので、お昼の事を思い出して、聞いてみた。


「お昼、どっかで食べてく?」


「そういえばお腹空いたな」


「僕外で食べるなら安い所がいいな」


「ヨーゼリアとか?」


「そうだね、そうしようか」


 と、私こと柚木森、皆鴨、口枷トリオで話を進めていると、またもやスマホで何かを確認する恐山君。


「何? どうしたヒュータ?」


「……止まってる」


「え?」


「時間が──止まってる。電波サイト覗いた時、十時過ぎだった。けど、あんなに話してたのに、まだ十時二十三分。おかしい。このスマホ、機種変したばっかりなのに」


「嫌な予感と嫌な事を言うけど、確か、裏世界は時間の流れが狂ってるんだよね。だから単純に、僕達は今気づかないうちに裏世界へ……」


 一同ヴィンテージアクセサリーを取り出す。私も首にかけていたネックレスを掴む。


「外、出てみようか」


 私はそう言って、三人を外へ誘導した。一応、裏世界とはいえ、うちで暴れられるのはちょっと嫌だったから。勿論それだけではないが。


「晴れてるね」


「6月とはいえ暑いな」


「…………」


「ねえ、異形ってそういえば、どういう条件で出てくるんだっけ?」


「ああ、それなら柚木森さん。異形はヴィンテージアクセサリーに反応するよ。異形は昔から何故か、四大天使を特に狙っている。だから天使達はいつも静かなのかもね」


「じゃあ、ヴィンテージアクセサリーさえ持っていなければ、私達は助かるって事? 勿論、今更逃げようだなんて微塵も思ってはいないけど」


「そういう事になるね。呪われているのさ、天使も異形も、僕達戦士も」


「でも反応しないな。おい、ラファエル、何か大声出してくれないか? 異形を倒さない事には、元の世界に変えれないんだから」


「ガブ、聞こえてる?」


 皆鴨君と恐山君がヴィンテージアクセサリーに話しかけるが、ぴくりともしない。


「おーい、ウリエルくーん」


「ミ、ミカエル……」


 私達もそれに応じて話しかけるが、無視。


「し、素人意見で恐縮ですが」


 私はついにあの有名な台詞を初めて吐き、三人に素人意見キターみたいな目をされてしまう。


「……ひょっとしてさ、こうも考えられない? 恐山君と皆鴨君が遭遇した戦士の二人が既にここにいて、既に異形と戦っていて、だから私達の前には現れないんじゃないかって……もしくは……」


「本当に素人意見だな、柚木森さん。あのヴェル女の二人はヴィンテージアクセサリーを所有してなかったんだぞ。謎だらけなんだ。もし知らぬうちに、新しい何かしらの規定があったとして、あの二人は……。……!」


 何かに気づく皆鴨君に、私は頷く。


「そう、それなんだよ皆鴨君。もしかしたら、何か新しい規定……新しい要素ができてるかもしれない。四大天使が言っていた『対なる神』が、何かをしたのかもしれない。分からない事だらけだけど、そういうのも、ありうるかもしれない」


「おい、あれ!!」


 恐山君が声を荒げ指差す方向に、蜃気楼の如くうっすらと、異形らしきものと煙が見えた。


「あっちって、ホワイトヴェール女学院付近じゃねぇか!?」


「行ってみよう!」



◆◆◆◆◆



「かるてパーンチ!!」


 金髪ウェーブショートの少女、黄食かるてはフライパンを巨大化させ、大きく振りかぶって白い異形の頭部に打撃を喰らわせた。


「ナイスかるて!」


 と、鼓舞するざんばら頭のタッパのでかい少女、草薙巴もまた、高級そうな大きめのハサミを使って白い異形の腹を切ろうとした。


 白い異形。何か文字の書いてある大量のふせんが不規則に貼られた、真っ白で巨大な天使の彫刻の異形。


「ッ固い! このヴィンテージなハサミ、彫刻は流石に無理っぽい!」


「どどどどうしよう巴! なんかこっち見てる!」


 天使の異形はかるてを見つめ、ゆっくりと腕をかるての上に殴り付ける様に構え、かるては急いでフライパンを巨大化させ、大きな音と共に殴られるのを防いだ。防いだのだが、異形の力はどんどん大きくなり、やがてフライパンは小さくなっていく。


 巴は異形の腹にいれたハサミがぬけず、足を使ってなんとかしようとする。


 主にかるてが絶対絶命かと思われたその時、一人の戦士が異形の目を薙刀風ビニール傘で突き刺した。その威力はとてつもなく強大で、目にヒビどころか、顔半分にヒビが入った。そして異形は顔を抑える。


 かるてはフライパンを普通の大きさに戻し、何が起きたのか把握しようと異形を見る。


「っ……」


「………」


 綺麗に周りながら落ちていく彫刻の様に美しい青年恐山ヒュータは、その時黄食かるてを流し目で見つめていた。


(こいつ、昨日の!)


「べ」


 軽く舌を出すヒュータに、かるてはイラッとしたが、その後続々と現れる戦士達に動揺した。


「キミ、大丈夫?」


 口枷業火。武器は万年包丁。


「へ、誰!?」


「俺達も戦士という訳だ」


 皆鴨柚月。武器は盾とそこから生える無数の定規。


「昨日の……!」


「でも──うちの柚木森さんがもう倒しちゃうかも」


「──はぁっ……!?」


 一瞬空が暗くなり、太陽をカラスが通ったのかと思うかるてだが、それはカラスではなく死神の様な鎌を持った柚木森叶という戦士の少女で、叫びながら異形へと飛び、立ち向かった。


「────ぐおらああああああぁっ!!」


『あ、あ、あ……』


 異形からは少女の声がした。


『壊さ、ないで……傷つけ、ない、で……』


 ヒビの入った瞳から涙を流す異形を、柚木森は見逃さなかった。けれど時は既に遅く、柚木森の威力は風よりも早く、あっという間に首を切り落とした。


――――決着がついた。


「僕達、出番ないなあ。ね? 柚月」


「そうだな、手伝いに行くか」


「はぁー!? ぽっと出のあんたらが何者かは知らないけどさぁ、人の獲物横取りするってどうなの!?」


「獲物? キミこそぽっと出で何者かは知らないけど、異形にだって心はある。元は報われない魂の人間だったんだよ。まるでお宅らにメリットがあるかの様な言い方は、不謹慎極まりないね」


「……? っ?」


 かるては何が何だか分かっていない様子だった。自分が何故そんな風に責められなければいけないのか、という感じだ。その反応に、業火と柚月も、違和感を覚える。


「ダッー! やっと抜けた!」


 巴は異形の腹からハサミを解放し、落ちた頭部へと向かっていく。既に叶とヒュータがいて、ヒュータが傘で彫刻の天使の頭部を割っていた。走って目の前で止まる巴。


「っはぁ、はぁ、……あんたら、何者?」


「戦士です。助けに来ました」


「助けぇ? あー……まあ、ありがとう。助かった。でも驚いた。戦士が私とかるて以外にいる事は知っていたけど、まさかあんたの様な女の子までいたなんて」


「別に、女の子だって戦いますから」


「それはそうだけど……」


「……あの、貴方は、貴方とあの金髪の女の子は、いつから戦士をしていましたか?」


「つい最近。あんたらからしてみたら新人戦士ね。先輩が新人に洗礼でもしたかったの?」


「? いえ、普通に助けて仲間になろうと……」


「はあ?」


 何かが噛み合わず、そこでかるて、業火、柚月達も叶達の所へ合流する。


「柚木森さん! ちょっと事件かも!」


「え、事件…………わ」


 叶はかるてを見ては、ひさしかた女の子を心から可愛い、お人形の様な美少女だと見惚れる。


「山羊目のフランス人形……」


 頬を染めてかるてを見つめる叶に少し妬けてしまう業火と、複雑そうなかるて。


「あ、あの、助けてくれて、ありがとうございますだよ」


「喋った……」


「で、でもぉ! ここは私達の縄張りだからぁ!」


「は?」


「説明するね柚木森さん。どうやらこの子達、誰かに誘われて戦士になったんだって! 天使ではなく、人間そのものに!」


「っ!? ……と、驚いてはみたけれど口枷君、私はまだ異形狩り二日目だし、そういう可能性も普通にすんなり受け入れられるんだよね……ごめん」


「話が早くて助かります柚木森さん……」


 巴は怯えたかるてを抱き締めて、四人に話しかける。


「とりあえず、異形提出したら、皆で話をしたりできない? 戦士として、というか、これからの為にも」


「勿論その気です。口枷君……私と恐山君で、今回は異形提出しに行ってもいいかな? 私も提出の事とか、知っておくべきだから」


「分かったよ」


 ヒュータは少女の生首を優しく持っていた。そして、叶をじっと見つめながら「行こう」と行った。


「じゃあ僕達現実世界のユーゼリアで待ってるから」


「う、うん」


 叶はよく食べ物のある場所に行けるな、と引いていた。それはともかく、かるてと巴は何だか腑に落ちない顔をしている。それを叶も三人も察知しており、何やらややこしくなりそうだ、と思っていた。



◆◆◆◆◆



「異形提出って、まずはどうするの?」


 私は恐山君に聞いた。


「まず、こうやって武器で空間を引き裂く様に空間を作る」


 恐山君がギギっと傘で空間を文字通り切り裂く様に切り開いた。そこから紙が破れたかの様に異空間が存在しており、私達は中へ入る。


 そこは赤いカーペットのある高級そうなホテルの様な場所で、エレベーターがいくつかあった。


「エレベーターはどこでもいい、この上のボタンを押して、上に上がるだけ」


 しばらくするとエレベーターがチーンと音を立て、開く。私達は中へ入る。やはり、高級ホテルだ。


「七階を押す。他は行けないから、気をつけてね」


「うん」


 上に上がる感覚はやはり現実世界と同じで、なんともいえない奇妙な展開に、私は少し緊張する。ちなみにこの時私は少女の頭部を抱えており、ボタン等の案内は恐山君がしてくれた。


「着いた」


 と、私を先に出す様にエレベーターの開いた扉を抑えててくれて、私は少し早い動きでエレベーターから出た。


「ホテルじゃん……」


 高級ホテルの高級なカウンターには、何やら羊の角を生やしたデコ出しおかっぱ黒髪男性がいる。若いが私達より一回り上くらいの年齢に思え、高級ホテル的な内装にはあまり合っていない書店員の様な緑のエプロンをしていた。


「お待ちしておりました。ヒュータ様。そして、新戦士の叶様」


 私の名前も把握済みらしい。


羊坂(ひつじざか)さん、柚木森さんに色々教えてやって」


「かしこまりました。ささ、こちらへ」


 私は少女をカウンターに持ってき、黄金の皿の様なものに置くように指示される。


「異形をこちらへ」


「え……は、はい」


 形が皿っぽいだけに、躊躇してしまうが、言われるがまま置く。私は生首を寝かせて置いた。


「ありがとうございます。……では、異形の提出はこれにて終了。ここからは標本申請の手続きでございます」


「標本申請……?」


「はい、ここの液晶画面に手をかざしていただきますと、完了します」


「ここ、ですか」


 私はカウンターの端側にある水色の液晶画面に手をかざした。すると隣の皿の上の頭部が、みるみる穏やかな顔をして、首の断面が赤ではなく肌色に変わった。


 ……何だろう、これは。


「叶様、いつもは私めがこちらで標本部屋に異形を管理しているのですが、ご一緒なさられますか?」


「ど、どうしてる? 恐山君……寝てるし」


「私としては是非叶様に来ていただきたいのですが……あ、業火様はよくご一緒なさられます」


 この人も真顔で得体が知れない。この人はほぼ棒読みだから、余計分からない。けど……。


「口枷君がそうなら、私も行ってみます」


「承知致しました、ではご案内しますので、こちらへ」


 羊坂さんはカウンターの扉から出てきて、更に隣の扉を開けた。


「ささ」


「失礼、します」


 私はそこへ入って、素早く前に来る羊坂さんのプロ的な対応を見ながら、なんだか、なんだかなあとぼんやり歩く。


 やがて廊下は白一色となり、更に扉を開けて中へ入ると――――そこには数々の人間の頭部が飾られていた。


「っ…………」


 老若男女を問わず、人外人間を問わず、様々な生物の安らかな顔の頭部が、標本の如く飾られていた。私は傷物でも見るような顔で、羊坂の後ろを歩き続けていた。


「何ですか、これは……」


「何ですか、これは? 異形標本です。先程叶様が手をかざしていただいた事によって、魂は安らかにあるべき本当の天国へ旅立ったのです。ですから、もぬけの殻となった異形……頭部はこうして標本として飾っているのです」


「何の為に」


「何の為に? それを聞いて叶様はどうするのですか?」


「知りませんよそんなの」


「……教えましょう。この標本は父なる神達が望んだ事です。対なる神は違いますが、望まれたら答える、それが羊坂ヨルヲと戦士達なのですよ」


「口枷君は、どうしてここへ?」


「業火様に限った話ではありませんが、たまに少数派の戦士がここへ来たがるのです。私はプライバシーに介入されなければ、ここへの立ち入りは自由にさせています。たまに自分から標本にしたいと言う方もいますよ。それが業火様かはさておき」


 口枷君達は、こんなにもたくさんの異形と戦ってきたの? いや、そりゃそうか、私の記憶だと、小学生の頃からあの三人は戦士だったのだから。


 その時、口枷君のお決まりの台詞である、あの台詞が頭を流れる。


────柚木森さん、それでも世界は美しい……!


 ……あの時は希望に満ち満ちていたが、今は何を持って世界が美しいと言えるのか、言いきれるのか、疑問で仕方がなかった。


 それから長い事歩いた。具合が悪くなる光景を歩き、それでも尚続く長い廊下の両脇には、やっと安らかな顔をした頭部の標本のいない空きがある場所へと辿り着く。


 まさか、ここに生首を?


 羊坂さんは生首を独特な道具に立て掛け、手を合わせた。私もその時はつられて手を合わせる。


 なんだか、なんだかなあ。


「…………。……さて、叶様、帰りましょう。叶様!?」


 私は倒れた。体に力が入らない。その後の事は、よく分からなかった。ただ、口枷君が、本日から付き合う事になった口枷君が、より分からなくなる一方だった。ねえ、世界って何が美しいの?

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