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第6話 (かるて視点)

 私の名前は黄食(おうしょく)かるて。よくおうしょくをきいろって読み間違える人がいるから、きいろかるてになってしまっている事がよくあるが、そんな事はどうでもいい。


 私は今、煮詰まっている。


 ストレスが溜まっている。


 私は生まれつき金髪金眼で色も白いし、よくお人形さんみたいだねっなんて言われては愛される。最初はその愛され方が気に入っていた。自分にも合っていた。


 けれど、中学の時に、それは馬鹿にした方の『かわいい』だという事に気づいた。思えば私は見た目だけ何もせず恵まれていたが、勉強ができたわけでもないし、運動神経や美術系、その他に取り柄があった訳でもなかった。


 後から気づいた。あの時馬鹿にされていた事。悩み事なんて一つもなさそうって言われた。それって私が馬鹿だから? 一生そのままでいてほしいって言われた。その方が将来苦労してそうだから? かるてってその見た目利用すれば儲かりそうって言われた。大人から搾取される私は面白そうだから?


 全部早く気づけた方だと思う。もともと我が強かったし、人の顔色も伺う方だし──そういう点においては、自分の軸はぶれていなかったと思う。


 だから私は残りの中学生活を勉強や努力で塗り固めた。血の滲む様な、血反吐を吐く様な努力だった。中学生というのは治安が悪くも案外素直な人達が目立つ。学力面や他で目立っていく私を見て、周りの教師は勿論、クラスメイトはちょっとびっくり、くらいに対応を変えて、私を遠い存在として扱う様になった。


『かるてちゃんすごーい! 可愛いだけじゃなかったんだね!』


『完璧美少女じゃん! アニメみたい!』


『高校ヴェル女にすんの!? 敵わねー』


 そこに嫉妬や嫌みが混じっていても構わない。私はそれらを素直に喜んだ──軽く同情もした。


────晴れてホワイトヴェール女学院に入学した私は、よからぬ事を考えていた。


 私の可愛いは、完璧は、うまく使えば中学一年生の時の愛されを遥かに別次元のものとして生まれ変われるんじゃないのかって。


 その思惑通り私はクラスで愛される存在となった。私の下手くそなぶりっ子は受け入れられ、勉強や運動のできるギャップは良いスパイスとなり、やがてクラス中が黄食さんってなんか素敵よねーとか、黄食さんはあたしらが守るみたいなのができあがっていた。


 愛されたかった。あの時、馬鹿だった頃の私は愛される事がとても心地よかった──それは今でも。


 家庭に問題がある訳ではなかった。父と兄と私の三人家族だが、二人共程よく私をしつけ、程よく私を可愛がってくれた。むしろそれが恵まれ過ぎていたくらいに。


 心の内で自覚していたのだ。自分が可愛いくて世渡り上手、おまけにこの子は傷つけてはいけないと思わせる様なオーラを持っている事。


────でもやっぱりどこかノイズがあった。原因はなんとなく分かっている。海外旅行にでかけたお兄ちゃんが部屋を好きに使っていいと言ってくれて、部屋中の美少女ゲームやライトノベル、パソコンの履歴を見まくった事が原因だ。そこから性格が歪んだ。


 私はそういう作品達に感化され、時には地雷を踏み、時には作者に感想メールを送り、元々の吸収癖故に歪んだ人格形成ができあがってしまった。元からひねくれる素質があったとはいえ。


 些細な事で頭にきたり、些細な言葉に悩まされたり、思春期といえばそうなのだが、正直それはありきたりなストレスだが私にとっては大きかった。


 ひねくれひねくれ、人には言えない様なインモラルなオタクになってしまった。


 二年に上がった頃、草薙巴(くさなぎ ともえ)とかいう、巨女と同じクラスになった。


 草薙巴は巨乳でタッパもかなりあり、何より黄緑色の髪色と、独特なざんばら頭が特徴的だった。私は美少女ゲームにでてきそうな一部のウケが良さそうな引くくらいの美少女を目にして、またよからぬ事を考えた。


────こいつを私の友達にして、学院の美少女二人組伝説となろう、と。自分の為にそこからよく話しかけたり関わる様になった。


 だが草薙巴は私よりしっかりしていて、しかし不良気質なデザイン系志望のアネゴさんで、ある日私の机まで来て言い放ったのだ。


「────あんたの計画もなんとなく分かるけど、あたしはあんたに利用される気はないよ。あたしはあたしのやりたい様にやる。そして、今度不誠実に近づく様な事したら、彫刻刀で刺すから」


 クラスはざわついた。私の胸も然り。……え? わざわざ教室でそんな事言うの? 時と場所とか考えないの? うわ、最悪だ。バレてたのも、周りが見てるのも、何もかも最悪、最悪、最悪────。


 次の日の朝私は手芸部に行った。草薙巴に復讐する為に。復讐なんてくだらない──でも私は世の中の役に立たない娯楽が大好きだから、別に良かったのだ。


「巴、あんた私が猫被ってるっていつから気づいた?」


 巴はなにやら絵を描いていた。気になるが今はそれどころじゃなかった。


「最初から。多分周りも気づいてるよ。この前トイレであんたの悪口言ってる女子いたし」


「そんな事どうだっていいのよ。私は教室で私を晒し者にしたあんたに復讐しなきゃならないんだから」


「へぇ、黄食そんな事言えるんだ。何? あんまり過激だったらこっちも黙ってないけど」


「う……」


 正直怖かった。巴はでかいし、多分心も体も強い。


 でもやるしかなかった。そうするしか分からなかったから。


「あんたの作ってる衣装、その気になればいつだって台無しにできるんだから、覚えておいてよね。もし私の本性またクラスでほのめかすんだったら────」


 すると私の髪の毛ごと壁に彫刻刀がめり込んだ。


「っ…………!」


「困ったな、こんな小さな女子に怒る事なんて滅多にないから、どうしてしまおうか」


 ど、どうされてしまうんすかねぇ。 


「あたし実はあんたの事嫌いな訳じゃないんだよ。あんたのぶりっ子、面白いし、空気も読めるから、話しかけられる事自体は、嬉しかったんだ」


 え……?


「けどあんたがそんな陰湿な台詞吐くだなんて思ってなかったからかなりショックだよ。言葉って放つだけなら嘘でも言えるけど、もしあんたが私の衣装に、ウチラの衣装に何かしようってんなら、あんた、二度とあたしに関わらないでくれる? ──許さないから」 


 泣きそうになった。これに関しては、悔しかったから。自分の陰湿さが。自分の馬鹿さが。本当は美少女伝説なんてどうだっていいくらいに、巴に話しかける時の楽しさを、相手に伝えきれてなかった自分の愚かさが。


 壁ドンされる私は、へたりと地面に落ち、ついに涙を流した。


 惨めだ。惨敗だ。終わりだ。やはり惨めだ。ここまで私は惨めになれるのか。


 弱くて汚い私は、友達になれそうだった彼女を失ってしまうのか。怒りなんてどうでもよく些細なものだと気づかされ、本当の気持ちに今更気づく。


「はあ……泣くくらいなら言うなよ。だる」


「うっさいなぁ!! このざんばら巨女!!」


「ざ、ざんばら巨女!?」


「私だってこんなに自分が腐ってるなんて知らなかったよ!! だってあんたずるいもん!! 一人でも大丈夫みたいな顔して、でも手芸部で凄い服作れるし、私の事見向きもしないし、なんか雑だし、でもやっぱり軸ぶれしてないし、私は、確かにあんたに不誠実に近づいた腐れ野郎だけど、でも私だって楽しかった! 周りと違うあんたが好きだったんじゃないんですかね、知らないけどさ!! もー馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!! うわーーーん!!」


 その後は溢れる涙を抑える事ができず、ひたすら号泣し、ひたすら床を殴った。惨めだ。


「あんたさぁ、もっと素直になりなよ。言いたい事、もっと聞くから。それともあたしから言わなきゃダメ?」


 やはり巴は大人だった。そんなの甘えるしかなくない? そんなの利用になっちゃうけど乗るしかなくない? 私はこの時初めて素直になった。


「ご、ごめん、なさい。さっきのは嘘。できもしない嘘。近づいたのも、半分は自分の事ばかりだった。でも私やっぱり本当は、巴と純粋に仲良くなりたい、友達になりたい。もっと遊んだり話したりしてほしい」


「うん」


「巴ともっとお昼食べたい」


「うん」


「できれば放課後でいいからカラオケとかも外出とかもしたい」


「うん!」


「誰もいない学校で裸でプール入りたい」


「うん?」


「うわーん!!」


「泣くな泣くな。あたしも彫刻刀投げたりしてごめん。クラスでわざわざ言ったのも、ちょっと意地悪だったよね」


「ひぐっ……。で、友達になってくれるの?」


「あたしはもう既に友達のつもりだけど……。そうだね、ここからまた友達になるってのもアリだね」


「なるなら、ちゃんと仲直りしたい」


「うん。あんたの事、何も知らないから、これからお互いに知ってこうや」


「うん、巴──ありがとう」


 私は巴にハグした。抱きついたのだ。巴は軽く笑って背中を撫でてくれた。


「あはっ、素直になれんじゃん。あたしもありがとね、本当のかるての言葉で話してくれて」


「!」


 その苗字から下の名前呼びは、私にとっては革命的なものだった。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。


「あたし達さ──きっと良い関係になるよ」


「うん」


「どうする、この後、手芸部見てく?」


「今日はもう帰るわ。このままだと──もっと甘えたくなっちゃうから」


「そかそか。じゃあ、まだいいや」


「? 何が?」


「秘密。明日かるての目が腫れてなかったら言うよ!」


「楽勝だわ」


 こうして私達は、お互いに良い作用をもたらす友達となった。その後巴が異形狩りとかいう戦士になっている事を知り、私も戦士として関わっていく事になるが、そんなの今日とこれからの青春に比べたら、ほんの些細なアクシデントってだけなのであった。


 なんていうか、人生生きてりゃ良い事あるもんなんだね。キッカケはよく分からないけどさ。


 更に加えて暴露すると、私がストレスのはけ口として運営している電波サイトの運営主である事を伝えると、巴は呆れながらもよくいじってくる様になった。というか、協力すらしてもらってたりなんかもする。


 こりゃあ、誰もいない学校で裸プールも近いな。

 なんて、それに関しては冗談だけれどね。

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