表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/40

第37話

「それじゃあ岩倉さんとゆぎかなの和解と私達戦士の決着にぃー」


 そこは開放的な体育館で、華やかな飾り付けと用意されていた机に並ぶ美味しそうな料理達があった。


 そして勿論。戦士全員がそこにいた。


 音頭をとったのは行動力のある、エアマイクをしているかるてで、私達はそれに続けて紙コップを上にあげた。


「「────乾杯!!」」


 全員で、そう言ったのが、まるで嘘みたいだった。


 そりゃあ半分嘘の人達もいるんだけど。


「空知火ちゃんのチョーカーをまさか修羅が噛みちぎるなんて、よくできるよねぇ、お兄さんにはできないよぉ」


 と、向こうから空知火、黎冥さん、深船さんのカッコ良いトリオが話していた。チョーカー、結局どうなったんだと思えば、そっちでなんとか助かっていたのか。良かった。


「おかげで僕は即リタイア扱いになったけどね」


「空知火の為だ。可愛い妹の様な者だ。当然といったところか。豆知識。我輩といれば、大体ギリギリ生き残れるか、死ぬ」


「僕本気で危なかったんじゃんか!!」


 空知火は楽しそうだった。


「草薙巴。いい勝負だった」


「鬱霧先輩こそ」


 と、巴、鬱霧さんと戦ったの……? 家庭的な面のある二人だから料理勝負とか?


 そして、さっきから気になっていたのは茶々柱さんを囲む面々達。茶々柱さんが何やらニールさんと有栖川先生と長そうな話しをしており、それを豊洲野さんが涙して聞いており、乙坂さんはそれを見守る。


 何故か恐山君もいるし。


 なんだあの派閥。妙に艶っぽいのは置いておいて、なんか企んでるのか? 変な事じゃないといいけれど。


 ん。


「あ、柚木森さん、ちょっと」


「あ、口枷君」


「あのーその隣の岩倉さんは……」


 岩倉さんは現実世界に帰ってから私の隣から離れず、なんなら抱きつきっぱなしである。


「まあ、いいじゃない」


「いいけどサァ……」


 口を尖らせる口枷君。


「あのね、柚木森さんが何を願ったのか知らないけど、聞かないけど、羊坂さんがこの世界に来てたみたいで、さっき話した」


「「!」」


 私、ついでに岩倉さんも反応する。


「なんて言ってたの?」


「それがね……」


 私達は口枷君からの伝言を聞いて、真面目な顔つきになった。


 どうやら、主犯らしき神様も天国も天使もなにもかもいなくなったけど、浄化されなかった異形は地獄に落ちて、ここ、地球にも少し残ってしまっているそうだ。つまり、異形標本の作業は続く。終わりがどこだとかは、考えても分からない。


 武器は使えるから、目立たない程度に、戦士を続けてほしい、との事だ。今度は裏世界じゃなくて現代そのもので、別に変わった事はないが、確かに人目には気を付けなくてはならない。羊坂さんは角を失ったそうで、暫くは夢だった下界の書店で働くそうだ。


 全員に異形関連の報告はしたが、その後のパーティーはそれなりに盛り上がった。


 皆でおおっぴらに夢を語り合っちゃったり、豊洲野さんと恐山君がヒップホップを踊ったり、空知火と岩倉さんが和解とはいかずとも家庭環境が似てるとの事で少しだけ距離が近づいたり、色々。


 私は外に出て、口枷君を見つける。


「口枷君」


「何かな……叶さん」


「!」


 私は突然の名前呼びにびっくりしてしまう。


「まだ早いんじゃないかな」


「あれだけ皆でワイワイおっきい夢語り合っちゃって、誰一人叶いませんでしたじゃ笑えないでしょ。一歩目として、ここから変えてくのもアリかなって」


「ふーん」


「な、何さ」


 私はふふんと鼻でくすむ様に笑い、口枷君の後ろに回る。


「業火君。……って呼んじゃ駄目なの?」


 そのまま、背中にもたれかかってみたりした。


「……叶さんならいいよ。業火って名前、嫌いな訳じゃないんだけど……親のエゴでつけられた様なものだから」


「それが子供の名前ってもんじゃない?」


「あはっ、そりゃそうか。うん、業火でいいよ、叶さん」


 私と口枷君は笑い合った。葉っぱが落ちていくのが、なんだか桜みたいでおもしろく、春になったら皆で見たいなぁ、なんて思ったり。


「ままならないね」


「? 何が?」


「結局、戦士として戦っていくんだなって」


「それは皆同じだし、僕は叶さんがいるからより平気。それに、轟沙汰の皆も、好きでバチバチしてた訳じゃないってのも分かって和解できたのも、嬉しかった」


「それは、そうだね」


「ゆるく生きたいね」


「どこに?」


 口枷君……業火君はあはっと吹き出して、笑って言った。


「新婚旅行とか?」


「だから早いんだって」


「国内でー、暑くなくてー、ご飯が美味しいとこ」


「北海道」


「蟹食べたい?」


「カニカマしか知らないから」


「えっ…………じゃあ絶対食べようリストに入れなきゃ。あと、そろそろ重いでーす」


 と、もたれかかった私を背中でゆっくり跳ね返す口枷君。


「そっちも重いでしょ。精神的に」


「その節は本当に申し訳ありませんでした」


「いいって改まらなくて。そろそろ皆の所戻ろう。暑いでしょ。年中学ラン男」


 口枷君はふーと息を鼻で吹いて、私の手を握って、先陣を切る様に体育館に戻ったのだった。



◆◆◆◆◆



 高校三年生の秋初め、あれから私達は異形とこっそり戦いつつ、なんとかもがいたり息抜きしたりして生きている。異形申請だが、簡略化されている。前はかなりグロテスクな作業だったが、今は首を刈ればそれだけでいい。それだけで、浄化され、羊坂さんの住まいというか、標本部屋に収納される。羊坂さんの負担も、戦士側の負担もあんまり無いというものだ。


 まあ、死んで地獄に落ちたら、また戦わなくちゃなんだろうけどね。 


 岩倉さんだが、なんとか皆で協力して、岩倉父を静められている。岩倉さんは学校にたまに足を踏み入れては「やぁ」と笑いかける。髪の毛がショートになったので、鼻の高さや切れ長の瞳と声の中性感が相まって、学年のゆるい有名な怪異と噂されている。


 殆どは私の家で詩を書いているけれど。


 恐山君は少女漫画家になると決めたそうだ。かるてとかるてのお兄さんと協力して、なんと今度コンクールに応募するんだとか。


 巴はデザイン系の大学に行く為に勉強に集中するらしく、その間皆鴨君が空知火を引き取る事になったらしい。クラスが変わっても皆鴨君と高柳先生のレスバは変わらず、むしろ磨きあがっており、学校内ではニッチな人気を帯びている。


 轟沙汰メンバー、特に乙坂さんと深船さん、そして黎冥さんは刑務所学校で一年を過ごすそうで、ニールさんと有栖川先生の力もあり(勿論本人達も)、いつかは教師として帰ってくるらしい。詳しくは知らないけれど、黎冥さんは大丈夫か? あの人はあの人で、色々何かある事ない事渦巻いてそうだけど。


 豊洲野さんは芸能事務所にスカウトされて、お付きを解雇され自由にやっているとか。まあ、鬱霧さんがいるし。


 そして茶々柱さんは高校三年生にして理事長になった。本気? 本気らしい。恐山君との出会いをキッカケに、女性という生き物に半分寛容になった。成長はしているのだろう。かなり。私もかなりの高そうな品と共に謝罪をいただいてしまった。


 そして今度異形関連の遠い村の仕事を共に解決してほしいと懇願までされている。


 断れなかったし、断る気もなかった。業火君も承諾してくれたのも大きい。


 そう、口枷業火。


 私と違うクラスだけど、お昼はいつもニッコリスマイルで私の席に来てくれる、美術部一番の腕っぷし。賞を一個取ったらしく、今度展示が海外でもされるらしい。自慢だ。自慢の彼氏だ。


「叶、お昼食べよ」


「うん」


「今度茶々柱さんと村行くんだって? 詳細は?」


「まだ詳しくは。因習村って言ってたよ。まだそんなのが存在するなんて、ゾッとしちゃうね」


「ああー……そうだったんだ。ごめんね、ついていけなくて……海外の展示だけど、数日で帰ってくるから」


「気にしないでいいよ。電話してね」


「うん! 本当に危険があったら逃げてね?」


「逃げれたらね」


 弁当箱を開けて、箸でそれぞれ具材を掴む。


 長い様で短い一年だった。


 矛盾もある。無駄もある。何もかもがある。


 異形狩りに出会ったあの日も。

 他校の生徒達と仲良くなったあの日も。

 電波サイトが炎上したあの日も。

 大変な事になっても友達でいたあの日も。

 DVDショップのあの日も。

 濃厚な夏休みのあの日も。

 ダンジョン風デスゲームのあの日も。


 全部全部、懐かしくも愛おしい。


 楽観的でどこか闇の深い青年。

 怖そうで実は乙女趣味な青年。

 クールで冷笑的だがいつも優しい青年。

 破天荒でどこか突拍子もない人形みたいな少女。

 その親友でいる事がどうしようもなく嬉しい少女。

 何を考えてるか分からないけど心強い少女。

 暴君気質で実は女の子だった少女。

 その暴君と未来を約束した綺麗好きの青年。

 何が真実で何が嘘かいまいち分からない成人してそうな青年。

 自殺志願で包帯がトレードマークな青年。

 男尊女卑がモットーの由緒正しき青年。

 武道館を夢見るおちゃらけ体質のあのお付きの青年。

 料理が得意でカチモリお団子が可愛いあのお付きの青年。

 あるいは真っ当な教師を志すあの二人。あるいは詩人。漫画家。四大天使。神様。エトセトラ。

 

 許せる人もいただろう。許せない人もいただろう。


 それでもどこか皆前に向かっているだろう。


 私もそうでありたい。私も皆に追い付きたい。


 茶々柱さんから頂いた名刺を見ながら、一攫とはいかずともまあ一攫千金も悪くないなあ、いやいい。と、ご飯を咀嚼し、業火君と談笑した。学校や社会からいじめやいじめ未満の嫌がらせ、マウント、ハブり。その他の戦争や事件は未だに無くならない。


 そうだね、汚いかもね。この世界。


 私達はそれに隠される様にそれぞれの重みや闇と呼ぶには光り過ぎている暗い何かを抱えて、日々を生きている。しんどいけど、毎日戦っている。


 それだけで、一人一人に立ち向かう戦士の称号がある。


 世界から戦争が無くならなかった。

 誰にも気づかれず泣いている子供がいた。

 笑い合っているけどどこかズレがあった。

 なかなか夢が叶わなかった。

 志半ばで朽ち果ててしまった。


 それら全てに救いがなくとも、見えない光が宿っている。掴むのは到底難しいだろう。また、今日誰かが顔色を変える。


 それでも世界は美しい。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ここまで読んでくださった読者様には頭が上がりません。Xの方で自給自足のセルフファンアートを暫く描いてたりするかもしれません。描いてなくても、とにかくこの物語のキャラクターもなにもかも私の大好きな宝物です。この作品が誰かの娯楽に少しでもなれていたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ