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第28話

「野球部の異形!?」


 恐山ヒュータ、球技に関しては知識ゼロ。


 目の前には野球服を着たヒュータより何倍か大きめのバッター。空中に浮かぶ大きさの違う野球ボール達。バッターは手始めに一番小さいボールをヒュータ目掛けて打った。


「っ!」


 ヒュータは薙刀風ビニール傘もとい────憩傘(いこいがさ)と名付けた傘で真っ二つに切り落とした。割れたボールは煙を放ち、熱を持っているのが分かる


「まだ本気出すなよ……」


 ヒュータの呟きに対し、バッターの異形は大きめの球を手に取り、指で回転させる。それはどちらかというとサッカー部がやりそうな指さばきで、サッカーボールより大きい野球ボールは物凄い速さで回転し、熱を帯びる。


(嘘だろッ……!?)


 ヒュータはさすがに死ぬと思い間合いを詰める為に走り出す。普通の人間でなくとも他の戦士が死ぬと思ったら逃げるものであるが、ヒュータはそういう概念の中に存在していなかった。


 バッターの異形もすぐにボールを打った。その文字通りの熱球はヒュータ目掛けて一直線だった。しかし、ヒュータは物凄いスピードと角度で交わしながら憩傘を構え、空中に浮遊するボールに乗る。


 そしてバッターの異形は手当たり次第近くに浮かぶボールを打てるだけ打った。


「くそっ」


 勿論ボールが打たれれば他の浮遊しているボールに当たって二次災害から次々へ行くのは当たり前で、ヒュータは無差別に打たれるボールを全て交わす事はできなかった。


「いっっ!」


 太ももにかすったボールのせいで制服のズボンが僅かに破れてしまう。一旦地面に体をつけて、ほふく前進で逃げる事をやっと決意したヒュータ。


 バッターの異形は消えたヒュータを探し、ほふく前進で野球上の隅に逃げているヒュータを見つけ手を伸ばす。


「っ!?」


 それに気づいたヒュータは慌てて起き上がり、最後の手段だと憩傘を構える。


「!」


 しかし、手段を使う暇もなく、バッターの異形はヒュータへ近づき、大きな手のひらから道具を渡した。


「グローブと、帽子……?」


 頷くバッターの異形。


「これで戦えって?」


 首を横に降るバッターの異形。


「試合……?」


 バッターの異形はグットポーズをする。


 ひょんなことから、ヒュータの初野球試合が始まる事になった。



◆◆◆◆◆



(現在スタート地点の時点で一位の私がこのまま下を目指すのが無難……ですが)


 油芽はチョーカーを触り、水色の表を見る。この世界では車椅子がなくとも失明していようとも関係なく体の不自由なく過ごせている。それなのにこの優遇というかハンデっぷり。油芽は舐められているのかとも思ったが、この世界で復讐したい相手のいる階層、つまり上へ上がらなくてはならないと考えた。


(岩倉さんには悪いですが、逆走させていただきます。叶えたい夢など、私にはありませんから)


 その頃禅歌が油芽を心配しているとも知らずに。



◆◆◆◆◆



「うわぁぁああああああっ!!」


 情けない声と共にリミナルスペースフロアを駆け回る軍服姿の青年────乙坂純夜。


 かれは体中に巻き付けたホースの端を持って、後ろから迫りくる黒い謎の異形から逃げるべく、長いリミナルスペースと呼ばれる空間を全力疾走していた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


 柱に隠れ、異形なのかも怪しいすばしっこい何かを撒いた。体に巻き付けられたホースの片方の端には、シャワーヘッドが取り付けられていた。


 純夜の武器は、シャワーホース。ぴったりでなくともどこかへ付けられる事ができれば、そこからの『水分』を吸い取り最上級の威力で発射する事が可能だ。


 吸い取った水分は保存しておく事もできる。


 そのリミナルスペースは救いにも湿気や水があり、純夜は安堵して体からホースを解いた。しかしあの素早い異形を倒すにはもっと大きな水溜まり……プールか水没しそうな程の溜まり水がなければならない。


「一旦戻るか……」


 自身を冷静にすべくわざわざそう呟いて、来た道を辿ると、後ろに新たな異形がいる事に気づく。


「ひ」


 その異形は先程の真っ黒クリーチャーというよりかは、細長い人間の様で。


「ぴゃあぁああぁあああ!!」


 再びあの線の無い駅の様な場所へと走り出す。


 しかし、異形は追いかけてこなかった。


 猪突猛進する純夜は柱のある奥が真っ暗な長い廊下を走り、また長い螺旋階段を見つけ降りる。


(皆……今頃こんな風に下へ向かってるのかな。黎明さんや修羅さんは大丈夫だろうけど、僕や油芽さんみたいな弱い人間には、こんな精神世界とかいうふざけたゲーム、端から勝てる要素ないんだよな……)


 そんな事をぼんやり考えながら、降りていた。


「ッ!」


 水の気配を感じ、急いで降りた。


 そこは、リミナルスペースとも思える不安を煽る室内プールが存在した。純夜はゆっくり螺旋階段を降りて、プールサイドへと足を踏み入れる。


「水……今のうちに入れておこう」


 純夜はまた呟き、プールにホースの端を付けた。みるみるうちにプールの水が減っていく。ごくごくと飲むように、そして圧縮される様にホースは水を吸い取り、やがてプールの中の水を空にしてしまう。


「よし」


「あんた」


「ぴゃ!?」


 と、驚き振り替えると、そこには乳白色の可憐な制服を着用した、首のチョーカーが目立つ、ホワイトヴェール女学院所属の草薙巴がいた。


「あんた──上から降りてきたのかい? 丁度いいや、一緒に出口探さない?」


 純夜にとっては敵じゃあないが、轟沙汰にとってはホワイトヴェールの戦士も、瓶詰の戦士も、無所属も敵なので、一応警戒の姿勢は取る事にした。あくまで自分の力が上回っているからわきまえとけよ、という感じで。


「で、出口を探すのは構いません。で、ですが、もし都合が悪くなれば、貴方を盾にしたり、逃げたり、も、もしくは大変な映像をお届けする事もやぶさかではありませんから……」


 全く説得力がなかったにしろ、事実ではある。


「あーおっけ。一時休戦的なね」


 巴は全てを理解した様だった。


「乙坂……さんだよね?」


「そういう貴方は草薙巴さん……」


 歩き始めると、雑談という名の自己紹介が始まった。


「──この前はかるてと叶を背後から武器で襲おうとしたらしいじゃん」


「しッ、仕方がなかったんですよ! あの時の僕達はどうかしていて、まあ今もどうかしているけれど────とにかく仕方がなかったんです!」


 まるでそんなつもりはなかったという非行少年の様に、純夜は強めに言った。


「そ。まあ過ぎた事はいいんだけどね」


「なら話題にすら出さないでいただきたい」


「あんたを確かめたかったのさ。話が通じる奴なのかね」


「通じないのは修羅さんくらいなものです」


 深船修羅。心中に巻き込まれ生き残って以来心中に人を巻き込む様になった危険人物。


「あー。いやそこも知らないけど。ところで乙坂さん──轟沙汰で一番敵に回したくない相手って誰?」


「えっ……そーうですねぇ……」


 純夜はその巴のトーンを聞いて、探っているのだとすぐ分かった。しかしここで嘘をつくのも可哀想だしこの草薙巴相手には無意味だと思ったのか、素直に考える純夜。


「話が通じる前提ですと、黎冥さん。あの癖毛一本縛りの人ですよ。まあ、強いて一番を上げさせていただきますと…………茶々柱油芽さん。の、お付きの一人、鬱霧ひややかさんですね」


「? えっと、誰だっけ」


 純夜はきょとん、として、今朝会っていたのに、テーブルサインに名前で書いてあったのに、と思う。


「あの糸目男の隣にいた青髪カチモリお団子の人ですよ。毛先が長い奴です」


「ああ、あの大男か。にしてもどうして?」


「鬱霧さんは豊洲野さんと一緒でなんとなく生きてたら轟沙汰に入学させられた可哀想な人なんですけど、まあ鬱霧さんは人見知りで話が通じないうえに、恐ろしい程強いんです。だから、戦闘面で対峙を試みるのはおすすめできません」


 巴はそれを聞いて、こう言った。


「要するに味方につけちゃえばいいって事だろ」


「! それは違います! 第一あの人を味方につけれる人材なんて、茶々柱さんと豊洲野さんしかいないですよっ!」


「二人もいるじゃん」


 巴の謎の自信に、いやいや、と、手を横に降る純夜。


「まあ言うなれば鬱霧さんを怒らせない、煩わせない、否定しないの三点セットを大切にする事です」


「そうだね、頭に入れておくよ。んで? 武器は何を所持してるんだ?」


「ここからは有料コンテンツです」


 と、手をパーにする純夜。


「何も持ってないよ」


「ええ、ですからそちらの情報で構いません。そうですね、柚木森叶さんの情報をいただきたい」


「叶?」


 巴は何で叶の情報を売らなきゃならんのじゃ、と思ったが、売ったところで何か問題になる事はないのではとも思った。慎重ではあったが。


「うちのガッコーの生徒に、まあこのデスゲームに参加してる轟沙汰の戦士に、柚木森叶さんに復讐しようとしている方がいるんですよ」


「はぁ?」


「僕も二人の間に何があったかは分かりませんが、この精神世界においては多分……柚木森叶だろうと誰であろうと、倒せそうになさそうな方ですから……気にするだけ無駄なんですけど。一応仲間ですし、心配っちゃ心配なんですよ。これでも」


 と、肩を回すやたらと動きの多い純夜。話を聞いて巴はすぐに分かった。それがあの水族館で遭遇した車椅子の男であるのだろうという事。


 車椅子の男こと茶々柱油芽は、恐らくなんらかの精神的要因で叶を根深く嫌って恨んでいる。そしてそれはそれだけの事ではなく、油芽にとっては重要な事であるという事。


 勝ち負けがどうであれ、絶対に会わせたくないなと、巴は唇を噛んだ。ちなみに純夜の言う有料コンテンツと引き換えに彼が欲しがる叶の情報は、一言も言わなかった。

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