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第27話

────八月三十一日。チョーカーを身につけた私達が死に至るかもしれない遊びに招かれる日。


 私と口枷君、恐山君と皆鴨君の瓶詰メンバーで轟沙汰高校のやけに人の少ない校舎を真剣な顔つきで歩いていた。


 轟沙汰高校に行くのは初めてだ。なんだか以前の私達への扱いもあって、敵チームのアジトに侵入するみたいだった。


「柚木森さん、絶対大丈夫だからね」


「うん、私は大丈夫」


「恐山、怖いか?」


「怖いよ。柚月は?」


「言いたくない」


「ずる」


 恐山皆鴨ツインズは緊張感があまりない様に見えた。きっと緊張も不安もあるだろうけど、口枷君がちょっと不穏だから、これくらいくだけてくれると、ありがたい。


「ここはもう裏世界なのかな?」


「どうなんだろう。分かる?」


「まあ、まだ裏世界ではないだろうな」


「そうだな」


 と、生徒会室目の前へ着く。口枷君はごくりと唾を呑み、茶色い扉を開けた。


「!」


 そこは、広々とした円卓で、既に何人か座っていた。座っている席には、それぞれ用意された名前札……テーブルサインがあった。轟沙汰の例の四人────揺器黎冥さん。深船修羅さん。茶々柱油芽さん。乙坂純夜さん。そして茶々柱さんのお付き────豊洲野禅歌さん。鬱霧ひややか……さんって言うんだ。そして────ニール・リンカーさん。


 そして、巴と空知火。


「空知火……! 巴!」


「よっす、よく眠れる訳ないよね。しかし広いよなあ、轟沙汰の生徒会室」


 いつも通りの巴、に見える。


「叶、隣座って。名札ある」


 空知火に机に置かれた透けたテーブルサインを指差し、空知火の隣に柚木森叶と私の名前がある事を確認する。少し気持ち悪くなり、流れるまま座る。


 私に続いてまだ来ていないかるての名前がある。一つ開けて、恐山君、口枷君、皆鴨君が座る。


「黄食は遅刻か?」


「全く、なに考えてるんだあいつは……」


 扉が再び開く。やっと来たかと思うと、ぐちゃぐちゃの顔をしたかるてがそこにいた。


「遅れちゃいましたぁっ」


 誤解を招きそうな顔は、轟沙汰の豊洲野さんの瞳を射止めていた。射止めるな。ていうか、泣いてた? 何してた? かるて大丈夫?


「ごめん叶、なんか泣いちゃった」


「大丈夫?」


 私はこの台詞で間違ってないか心配だったが、かるては私に背中をさすられ、恐山に頭をポン、と撫でられると、満足そうに笑った。それが更に豊洲野さんを射止めていた。射止められるな。


 続いて入ってきたのは最後のメンバー。無所属組こと二年A組の担任兼現国担当────高柳(したり)先生と、轟沙汰の教師、恐らくあの人が────有栖川(ありすがわ)仙樹(せんじゅ)先生だろう。


 二人だけだったんだ。


「遅れました」


「右に同じく。ふふ……」


 二人もまた、首にチョーカーをしていたが、有栖川先生は明らかに酔っているし、なんなら想像していあ有栖川先生と三百六十度丸々違う。名前からして女性を想像していたし、そこに立っているのは細長くも高貴で優しい顔つきをした、鼻の高いお爺ちゃん先生だった。


「イケオジだね……」


 かるてって結構年上に敏感よね、なんて言ったらかるてに怒られてしまいそうなので黙って頷いた。


 全員が着席してしばらく、沈黙して五分くらいすると、ニールさんのチョーカーから雑音が流れ、音声が流れた。


『────あー、あー、まずはおはよう戦士諸君。集まってくれて感謝でいっぱいだよ。きたる八月三十一日のデスゲーム主催者のボク、岩倉チェインだ』


 ニールさんは一切動じない。


『これから戦士諸君の特殊なチョーカーをこちらで起動させて、精神世界へとご案内する。──ダンジョン型探索ワールドへね』


 急に親しみやすいゲームチックな単語が出てきた。なんだろう、最深部でも目指すのだろうか。


『ダンジョンと聞いて親しみがない戦士クンもいるかもしれないが、まあ簡単に言うと、ダンジョン最深部を目指すゲームだよ。最深部にはボク岩倉チェインが願いを叶える秘宝を持って待っているよ。最新部まで生きてられたらだけど。勿論こちらも容赦はしない。各階層のフロアごとに異形やちょっとした問題を用意してある』


 問題……? 岩倉さんがクイズを出す訳ないか。


『ダンジョンが精神世界であるからといって、君達が死なない訳じゃない。もし争い事が起きてどこかを破損したり血が流れたりすると、現実世界の君達の脳にダメージがいく。下手すると再起不能になる。ちなみにスタート地点のフロアは全員バラバラに設定してあるよ。全員同じスタートだとつまらないからね。ああちなみに、()()()()もあるから、楽しんでってくれ』


 轟沙汰はともかく、私達が仲間内で傷つけ合う事は確実に無いと思ってここまで来てるから、そこは心配したくないな。


『以上かな。不明な点がある戦士クンはいるかい?』


 全員無反応。


『ないのかい? 構わないけれど。ちなみにリタイアする時はチョーカーの赤いスイッチをしっかり押す事。しかし脳にダメージは行くので懸命な判断を頼むよ。それじゃあ、ボクの言う通りにしてくれたまえ。目を瞑って、膝に手を置いて、ボクの声だけを聞いて────七、六、五、四、三、二、一、零────』



◆◆◆◆◆



 三××階……水族館フロア────柚木森叶スタート地点。


 二××階……視聴覚室フロア────口枷業火スタート地点。


 七××階……野球場フロア────恐山ヒュータスタート地点。


 六××階……ゲームセンターフロア────皆鴨柚月スタート地点。


 九××階……プールフロア────草薙巴スタート地点。


 八××階……フォトスタジオフロア────黄食かるてスタート地点。


 千×××階……墓石フロア────稗田空知火。


 六××階……ショッピングモールフロア────高柳滴スタート地点。


 九××階……屋台フロア────有栖川仙樹スタート地点。


 五××階……教会フロア────揺器黎冥スタート地点。


 八×階……病院フロア────茶々柱油芽スタート地点。


 九××階……お化け屋敷フロア────深船修羅スタート地点。


 九××階……リミナルスペースフロア────乙坂純夜。


 九××階……動物園フロア────ニール・リンカースタート地点。


 八××階……ライブハウスフロア────豊洲野禅歌スタート地点。


 五××階……オフィスフロア────鬱霧ひややかスタート地点。


 以上────十六名戦士達。


 デスゲーム開始。


「まさか僕が最上階からのスタートなんてね、こりゃあいいステージだ……ん」


 空知火の首輪から何か水色に光りだし、ヴィン、と電子音が鳴る。そこには四角形の、先程の全員がどこの階層にいるかの詳細が書かれていた。


「成る程、これで会うのを避けたい人と避けられる事も可能な訳だ」


 と、周りは空と草原と墓石達で、墓石に囲まれた空知火は真ん中に黒い底の見えない中くらいの穴を見つけ、飛び下りた。


「うっーーーー!!」


 絶叫系は無理らしい。



◆◆◆◆◆



「ゲームセンターぁ?」


 柚月は心底気持ち悪そうな顔をして、広過ぎるゲームセンターを歩き回った。柚月はゲームセンターと縁がない。業火とヒュータに連れられて行った事はあるが、あまり楽しめた覚えがないそうだ。


(なんて居るだけで頭が悪くなりそうな場所なんだ…………ん)


 柚月はクレーンゲームの並びを抜けて、とある人物がいる事に気がつく。


「────たっ、高柳先生!?」


 高柳滴。現国担当。二年A組の担任教師。そして戦士の一人。そんな滴はプリクラ機を背景に、水も滴る真顔で答えた。


「おや、皆鴨君ですか。奇遇ですね、こんな所で出会うなんて」


「いやっ、スタート地点はバラバラのはずじゃ……」


「ええ。私は最初ショッピングモールフロアにいました。ですが何事もなく問題を打破し、この層へ辿りつき、下へ続く穴を探していたところなのです」


 丁寧に説明してくれる滴に、柚月は少し詮索させてもらおうと思った。


「先生」


「何でしょう」


「問題って、何だったんですか?」


「それは言えません」


「ッ!!」


 不覚にも動揺する柚月。というか冷静になって柚月は、問題が全員同じ内容な訳はないし、ジャンルすらも異なると結論し、落ちついた。


「強いて言うのであれば、恐らくこの精神世界で示す問題というのは、クイズや暗号ではなく、その人に基づいた問題、という事くらいなものでしょう」


 淡々と冷徹に答える滴に今度は動じず、成る程と考える様に眼鏡を上げる柚月。


「では、皆鴨君も死なない程度に頑張ってください」


「待ってくださいよ、高柳先生」


「はい?」


 柚月は気づけば己の専用武器、定規盾(ルーラーシールド)(柚月が夏休みの前半名付けた)を滴に構えていた。


「逃げてください」


「なんのつもりですか?」


「なんのつもりもありません。というか……ご教授くださいよ、先生。生徒が操られているかの様に武器を構えてる時の対処法を」


「つまり、故意ではないと」


「だから逃げてもらえると助かるんですがねぇ!?」


 三角定規が飛び出すと同時に、滴は転がる様に体ごと避けた。そして滴は武器を出さずに、ただ交わしながら逃げるだけだった。飛び出す定規達が滴を逃しクレーンゲームのガラスや対戦ゲーム機に刺さり破壊されていく。


「皆鴨君、恨まないでくださいね」


「それはこちらの台詞ですよ!」


「いえ、私の台詞になります。だってもう、貴方の試合を終わらせますから」


 滴は逃げるのを辞め柚月の真っ正面を向き立ち止まり、そのまま柚月に向かって走る。


「いや危ないんですけど!」


 柚月は不本意に体が動き、動く滴に盾を向ける。そしてやはり定規は勝手に飛び出し、滴に目掛けて放たれる。が、滴はそれをイナバウアーの如く華麗に避けて、柚月の足を崩し、柚月が倒れ落ちる前に片手で抱え、また片方の手で柚月の額に何かを貼った。


────ペタ。


「!? ……? ……?」


「私の武器は万能万年筆というもので、紙等に何か書いてそれを相手に貼ると、その通りになるという力を発揮する、戦いには不向きな武器なのです」


「動……ける……。……盾も消えてるし……」


 柚月はもう大丈夫かと額の付箋を触ろうとするも、滴に力づくで止められてしまう。


「私が下のフロアへ降りるまで剥がさないでください。私が降りれば終わる問題に思えますし」


「ちなみになんて書いたんですか」


「戦意喪失すると書きました」


 柚月はそれが気に入らなかったのか、少し、いやかなり悔しい止められ方だと立ち上がる。


「ご教授くださいよ、先生」


「何をでしょうか」


 柚月は怒りを携えて、滴を睨むだけだった。


「こんなメモ書きされて、友達は皆先へ進んでるかもしれないのに、先生がゴールを見つけるまで待て、と? そのやり場のない怒りは、どこで発散すればいいんですか?」


「……待てだなんて言ってませんし言いません。一緒探してくれませんか。下への新たな道を」


 柚月は勘違いをしていた視野の狭い自分に恥じ、悔しさも感じながら、歩きだした。


「皆鴨君、どこへ」


「下の階層への道を探すに決まってるじゃないですか。行きましょう。一次休戦です」


「皆鴨君……。皆鴨君は、私の何が気に入りませんか?」


 柚月はピクリと体を反応させ、顔だけ少し振り返って、複雑な顔をする。


「聞かないでください。思春期特有の反抗期ですよ」

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