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幕間 (前半・豊洲野視点 中間・柚木森視点 後半三人称視点)

【その壱 豊洲野禅歌の内情】



 踊るの禁止(授業や部活動はOK)。歌うの禁止(授業や部活動はOK)。スキップ禁止。恋愛禁止。そんなホワイトヴェールより圧倒的に厳しい高校に入って、俺は全てを一旦諦め、一旦全てを再構築しようと決意した。入学初日、俺が立候補してお付きとして介抱する主様、茶々柱油芽様に出会った。


 油芽様は鬱切ひややか、後に俺がひやりんと呼ぶ程親しくなる男と共に校門先で現れた。


「ああ、貴方が私の新しいお付きですか……?」


 あ、綺麗な顔した華奢で弱者そうな男の人……それが最初の感想だった。でもどこからか匂う危険な違和感。


「はい、豊洲野禅歌です。これから三年間、ゆるくよろしくです────」


「頭が高い」


「!?」


 いつの間にか扇子を自分の頭に乗せられており、油芽様は扇子を手放してはいなかったが、力は抜いておられる様で、何故かその頭に乗っかる扇子はとてつもない重さだった。俺は跪く様に頭から落ちる。


「背が高い」


「!?」


 俺は訳も分からず跪く。足が背中にのし掛かる。この足は油芽様本人だろう。扇子は俺の体をなぞる様に降りてくる。


「志が高い、意識が高い、トーンが高い、鼻が高い……」


 と、鋭利な刃に思えてくる扇子をトン、と俺の鼻に当ててくる油芽様に、俺は死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬとひたすら頭を絶望気味にさせていた。


「全て削って低くしてから出直してきなさい」


「せ、せめて容姿は許してくださいませんかね……」


「ええ、よろしいですよ? では、内面の高圧的な全てを削る様に。私も鬼ではないので、手伝ってさしあげます」


 あぁ、この人はただの弱者じゃない。

 弱い立場だからこそ相手の精神を自分より弱いものにする事に全身全霊賭けている……そう。言うなれば、人格破綻型尊厳破壊モンスターだと……。

 こうして俺はせめて表向きにはと内面の全てを削る事になり、このモンスター……油芽様のプライドゼロのお付きとなる事になったのだった。


「油芽様ってたい焼きどこから食べますか?」


「たい焼き?」


「あっ、返事しちゃうんですね」


 俺の適当な性格、そして俺が女でないというだけで、初めて自分を良かったと思えたのが、思わされたのが、油芽様だった。


「貴方、自分の立場はわきまえた方が身の為ですよ」


「そうでした。すみませんー」


「本気で悪いと思っている謝り方じゃありませんね。今はいいですよ、それで。さあ、鬱霧、豊洲野も、行きますよ」


 行くのか、地獄に。これから三年間、何が起こっても涙一つ流さず、愚かな関係一つ作らず、無事卒業するんだ。少なくとも俺は、ね。


 まさかこの後油芽様をかなり目が離せない、助けてあげたい、けど俺じゃ無理な感じを味わいながらお付きをやっていく事になるのだが、未だにそんなすげー人間に出会わないし出会う余地もなかったのだった。







【その弐 夏祭り】



────8月15日、私達戦士は祭りへと出かけた。


 これが、最後の宴だと、誰かは思っていたのかもしれない。私、空知火、巴、かるて、口枷君、恐山君、皆鴨君の七人で、夜に催しを楽しんだ。


 全員着物だった。私はわざわざ巴の家にお世話になって、着物を着付けて貰うだけじゃなく、髪飾りまで借りてしまった。


 かるては白い高級そうな着物。巴は黒い上品な着物。皆鴨君と恐山君は甚平で、ジャンケンに負けて夜ご飯買い出し中の空知火と口枷君は甚平だった。そらちーはそらちーらしいといえばそうなのだが、下手したらどっちも男と間違われかねない。問題は……今日はなさそうだが。


「うっわー恐山背ェ伸びたな!? あはははっ」


「黄食は縮んだな」


「あぁ!?」


 あそこはなんだか、恋愛的というより、兄妹みたいになっている。恐山君はガブリエルの一件以来なんだか清々しいというか、皆鴨君と話してそこで何か深い絆が産まれたのか、思考が変わったのか。


「おーい祭で喧嘩すんな」


「草薙さん、下駄、疲れたらいつでも言ってね、おんぶできるくらいには身長伸びたか────ら」


 つい胸を見てしまった恐山君。おいおい。


「あ?」


 胸を隠すでもなく恥じるでもなく笑顔で怒る巴。


「巴、やっちゃってー!」


「草薙さんが喧嘩してどうすんの……」


 と、呆れる皆鴨君。皆鴨君はなにげに口枷君より地味に低い身長なので、恐山君がいきなり成長した事に少し根に持ってそうなテンションだった。


「やきそば諸々買ってきたよーん」


 と、口枷、空知火。空知火はイカ焼きを加えていた。


「早く食べよう」


「いやそらちーもう食べてるじゃん!」


「はい、おつりだにゃーん」


「口枷、そのにゃんっていうのをやめろ」


 食べよ食べよとベンチに座り、皆で焼きそばやらたこ焼きやらもんじゃ焼きやらをシェアして食べた。肉フェスとは別に、それはそれで美味しかった。


 射的で無双する皆鴨君と空知火。皆鴨君は飛び道具が武器らしいから、かなり当てまくって、お店の人を困らせていた。思わず空知火と笑ってしまい、逃げたくなったが景品は一個だけもらって帰った。


 一等が当たる余地のないくじを引くかるて。家にゲームも機材もたくさんあるはずなのになぁ? と、言うとそれはそれでこっちはこっちなのー! とぷんぷん可愛いかるて。


 輪投げが全然入らない恐山君。巴がお手本を教えるけどやっぱりこの二人は相性というか、摩擦が起きるというか、結局何がとわいわないが揺れる巴を見て無意識に、恐らく無意識に鼻血を出してしまった恐山君。立ち去る巴。


 その後巴はかるてと私と空知火で型抜き対決をしたが、巴と空知火の大優勝。手先の器用さは二人にはかなわないね。


 そして、花火が上がった頃。私達は花火なんてまるで興味を持たず、見ていたのは口枷君くらいのもので、それぞれ雑談をしていた。まあ、そんなもんか。ロマンチックの欠片もないのが、私達だ。


 花火が終盤になるにつれて、皆の雑談も止み、なんだなんだ来るか来るかと花火へと集中していった。その頃には口枷君は興味を無くした瞳をしていて、なんだこいつ、と思ってしまったが、まあ、いい。


 私、やってみたいから、でやる人ではないけど、どうやら口枷君と比べたらなかなか自分から動けない人みたいで、キッカケがないとこういう、恋人っぽい事ができない。


「口枷君」


「なぁに?」


 私は数歩近づいて────口枷君の頬に口づけをした。


「えい」


 その時口枷君、どんな顔してたかな。

 私は少ししてすぐ離れて「いきなりで恐縮だけど、こういう時しか、できない人だからさ」と、言い訳混じりに言う。そして恐る恐る口枷君の顔を見てみると、その白い肌は林檎の様に高揚していた。


 こんな時、私も恥ずかしがれたら、可愛いのかな。しめしめ、みたいに思ってる私は、変だったかな。


「ちょ、別に、いい、けどさ、柚木森さん皆がいる時はやめよ!?」


 小声で私を茂みに追いやる口枷君。


「でも皆花火に夢中だし」


「人間物理的に視野広いからっ! 意外と見えちゃうパターンもあるからっ!」


「分かった分かった、あ、この音……。私最後の花火見たい。壮大で、綺麗だし」


「あ、ちょっと」


 私はくるりと振り返り、花火をバッグにこう言った。


「×××××、×××」


「っー!」


 なんて、不健全なのだろう。


「わー綺麗だなぁ」


「っほんと……、本当に、綺麗だよ」


 私と口枷君は、あっけらかんに散りゆく花火を綺麗だと笑った。


 その後の帰り道は、少し寂しかった。

 また来年も来ようねって言い合った。誰もそれを拒まなかった。なのに、一年後は皆将来の事を考えて、そしてその次の年になれば、皆気軽に会えなくなる。早くも私はそんな風に哀愁に浸るはめになったのだ。


 また来年も、花火見たいな。



◆◆◆◆◆



「おはよーう、空知火ぁ……」


「うん、おはよう……」


 大きなベッドでぎゅむぎゅむに空知火と共に起きる巴は、空知火の首のチョーカーを見て、ああ、そういえば今日だった。ギリギリ平和過ぎて忘れてたわ、と、ベッドから起き上がり、チョーカーを手に取る。


「いつからチョーカー付けてたの? 随分肝が座ってるじゃん。なんで?」


「…………うん」


「うんじゃ分からないけど、何か変な事に気づいて一人でに企んでるなら早い事げろっちゃいなよ、何が行われるか、分かってないんだし」


「うん、大丈夫」


 寝癖頭の巴もチョーカーを首に着けた。そのガチャンという音は、全てが終わるまで外れなそうな強さだった。


「着替えようか、制服に」


「そうだね、僕はずっとセーター愛用だけど」


 幕が閉じて、新たな幕が開演する。

 これから嘘みたいに地獄を堪能するんだろうなと、チョーカーを手にした戦士誰もが思った。

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