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第26話 (後半三人称視点)

「じゃあ、気をつけてね柚木森さん。僕はここで」


 口枷君は疲れはてた顔をして、手を振った。


「うん。口枷君も気をつけてね。また」


 口枷君は少し離れてから、大きな声を出して再び手を振った。私もそれに答える。


「今日はありがとー!」


「うんー!」


 そうして解散し、無事帰宅。いやあ、にしてもお肉美味しかったなあ。ああいう催しがあるなんて、知らなかったなあ。口枷君は世界を広げてくれ……ん? なんだろう、家からいい匂いがする。というか、電気つけっぱにして出かけてた私!?


 あ、導さん帰ってきたのかな。


 私は鍵を開けて「導さんただいまー」と言って、リビングへ早足で歩く。


「導さんごめん。今日は食べてき────」


 扉を開けると、茶々柱さんのお付き、イケメンの軍服男子がそこに。黒髪デコ出しハーフサイドお団子イケメンさんは導さんのエプロン姿で、おたまを持っていた。人の家の人のキッチンで、匂いから察するに味噌汁を作っていた。勝手に。


「あっ、お帰りー。ごめんね、台所借りましたー」


「ぎゃ」


 私が叫ぼうとすると、待て、のポーズをしてきた。手の大きさ長さに、少し怯む。


「あ、待って待って。生き急がないでー。俺はたまたま不法侵入して、たまたまこの部屋をみかねて、たまたま掃除とゴミを片付けた、普通の不審者だからさ」


 それつまりそのままの不審者じゃん!


「通報します」


「あー本当に待ってー。訳は言えないけど、本当にもう帰る予定だったからさ」


「じゃあ帰ってください」


 私は受話器を置いて、床に座る。


「柚木森叶さん、一ついい?」


「何ですか、轟沙汰の生徒さん」


「俺は豊洲野禅歌。轟沙汰をいつか廃校にしたいと思ってたりしなかったりする普通の元ダンサーだよ」


「はあ、豊洲野さん。なんですか」


 豊洲野さんがこの家にいつからいたのかは知らないし正直知りたくもないが、長くいられればいられる程困る。口枷君の信頼を失いたくないし、何より貴方が既に好きじゃない。


「あのね、僕は女の子に甘いから特別に教えるけど。夏休み最終日、岩倉チェイン主催のデスゲームが行われるでしょ? あれ、実は抜け道があるんだよね」


「抜け道?」


 それは私にだけ伝えられると逆に困る。


「抜け道っつーか三途の川っつーか」


「?」


 豊洲野さんはしゃがんで私に語りかける。


「これは俺の勘だけど、チョーカーは全て同じ作りじゃないよ。岩倉チェインが卑怯卑劣な真似をしないとは到底思えない。一つ一つ、正しく使わないとね。そのうち一つは、確実にただじゃあ済まない、本当の意味でDEATHしちゃうであろうチョーカーがある」


 私は聞き入っていた。そんなチョーカー、私達の中に一つでもあってほしくない。私達の中でなくとも、あっていいはずがない。


「更に君を見て勘が増えたんだけど、確実にそっち側にそのデスチョーカーがあるんだと思う。岩倉チェインの考える事だ。きっとそうに違いない。そっちに機械におっそろしい程強い人材がいない限り、下手に分解するのもやめた方がいい。だからこれだけ。覚悟はしておいてね」


「覚悟って……言われても……」


「あっ、今思い付いたけど、もしそっちに超絶怒涛のハッカーキャラがいたとして、そのデスチョーカーを、俺のチョーカーと交換する事は可能だよ」


「……交換はいつしてくれますか」


「連絡先」


「それは困ります。一応、こちらにも勘の鋭い彼氏がいるので」


「じゃあ当日でもいいよ、岩倉チェインは特別扱いされたがりだから、遅れてやってくるだろーし」


「分かりました。なるべく早く友達を頼ろうと思います」


 そして私の目の前にいた豊洲野さんは立ち上がり、帰る事を決めてくれたみたいだった。


「あっ、今日作ったご飯、ちゃんと明日にでも食べてねーそんじゃ」


 それも困る件だ。頼んでないし。


 でもまあ、うちには機械に強い三人がいる。その中でも一際強いのが────空知火。


 豊洲野さんが帰るのを見送って、厳重に鍵を閉めた私はスマホを取り出し、空知火に連絡を取った。部屋に戻りながら、電話で空知火を呼び出す。


『はい、稗田だよ』


「空知火、今話せる?」


『うん。今は巴ん家の巴の部屋。ちなみに巴はシャワーだから、話しにくい事でも大丈夫だよ』


「うん、いや、皆に伝えるべき事かもしれないんだけど、もしできなかった時、皆を不安にさせたくないから。空知火なら、できると思った事、話していい?」


『勿論。僕に何をどうしてほしいって?』


 頼もしい。


「実は────」


 私は豊洲野さんが家に来た事、そしてデスチョーカーの事を話した。そうしたら、空知火はあっけなく一蹴した。


『成る程……と言いたいところだけど、その問題なら大丈夫』


 空知火!!


「それって……」


『ああ、恐らく……いや、確実に僕のチョーカーだろう。最初は絶望したよ、どこにも僅かな穴が一つもなくってね、でもなんとか、僕の力で解読した。解毒みたいに解除は何故かできなかったけどね』


「巴には言ってある……?」


『いや、言ってない。誰にも言わないでおこう。あくまで僕、叶、禅歌の三人での秘密だ。交換も秘密裏に行う。というか、僕が禅歌と面識があるから、休みの日使って交換しに行くよ』


「ありがとう……。……空知火、こんな事言ってる場合じゃないって分かってるんだけどさ……豊洲野さんは、いいのかな……」


『? 多分、禅歌は処世術に長けているから、失敗しなきゃ死なないと思うよ』


「そうかな……」


『叶、気持ちは分からないでもない。けど、僕達には僕達の世界がある。ぽっと出の男に、情を沸かせちゃおしまいなんだよ、僕達戦士はね』


 豊洲野さんにも、轟沙汰にも世界はある。


 けど、空知火は私を想って言ってくれてる。


「分かった。絶対皆で生き残ろう」


『そうだね』


 その時の空知火の声は、いつもより下向きに晴れやかだった。その時から私は、気づけなかった。


『じゃあ、巴が裸体でこっちに向かってくる気配がするから、またね』


「うん、おやすみ」


 そこで電話は切れた。


 なんだろう、なんか、腑に落ちない。


 空知火、なんか、変だった気がしなくもない。


 最後はいつも通りの感じだったけど……。


 とにかく、これで万が一の最悪は防げた。豊洲野さんの事はしばらく頭から離れなさそうだけど。



◆◆◆◆◆



「あっ、稗田空知火ちゃん、おはよーふわぁ」


 空知火は翌日、巴が起きるより前に轟沙汰の校門に立っていた。


「要件はこれだけだ」


 空知火はチョーカーを差し出す。


 禅歌はチョーカーを見て、空知火を見て、黙った。


「うん、チョーカーだね」


「どうした? 死ぬのが怖くなったか? もしそうなら深船や黎冥辺りのチョーカーと混ぜてしまえ」


「いいや、僕が貰っときますっと」


 チョーカーを受け取った禅歌は、すぐに空知火に自分のチョーカーを渡した。


「確かに受け取った。じゃあね」


 背を向ける空知火に、禅歌はこう言った。


「……××、×××××××××××?」


 空知火はまるでそんなはずがないと笑う様に、言った。


「××」

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