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第22話

「肉フェスぅ!? 良かったねぇ!? 楽しんできてねぇ!? お土産よろしくぅ!!」


「かるて、落ち着け落ち着け。圧が強い」


 私達は水族館のレストランでランチをしていた。フォークで刺してきそうな勢いのあるかるてを、隣の席の巴がなんとか戻してくれた。ちなみに私、空知火、巴はカレーで、かるてはあれ程肉肉言っていたが、お子様ランチである。食べれるんだ。高校生でも。


「なんだよー口枷と叶が異形狩り始める前から仲良しで、疎遠になりつつも異形狩りを通して分かり合おうとえっさほいさしてたなんて……およよ……」


 えっさほいさ?


「でも、その四大天使ってのが喋らなくなったのはなんでなんだろうね」


 ちなみにミカエルの力で人の記憶に潜れる事は言っていない。あの日以降できる訳でもなかったし。


「分からないけど、私の予想だと岩倉さんが絡んでたりするのかなぁって、思ってる」


 あくまで憶測だが。ミカエルはあれっきり喋っていない。話しかけても無反応だ。


「要は岩倉チェインをなんとかしないと何も分からずじまいってわけか……」


「岩倉さん主催の八月三十一日のデスゲームで、岩倉さんのしっぽを掴めたらとは考えているけど」


「叶、下手に岩倉に近づくな。死ぬ事だってあるかもしれない。僕が岩倉の元にいた時ですら得体が知れなかったんだから。あと嘘つきだし」


 空知火はカレーをぱくぱく食べていた。


「分かったよ……」


 私もカレーに手をつける。


「そもそもさ、岩倉チェインってなんなの」


 かるてのその珍しい声を聞いて、私は咄嗟にかるての顔を見れなかった。かるて? どうしたの?


「ていうか、何であたし達が異形狩りなんかしなくちゃいけないの」


「と、巴?」


 もともこもない事を言う巴には顔を上げて見たが、巴の目は渦巻きが巻いていて様子がおかしくなっており、かるてもまた渦巻きアイズになっており、これはまさか、と空知火の方を向く。


「っ空知火!」


「うん。僕達は大丈夫みたい。まさかこんな日に限って裏世界に呼ばれちゃうなんてね」


 立ち上がり周りを見渡すと、人が私達四人以外いなくて、水槽の中は魚の骨が泳いでいた。


「やっぱりお嬢様は育ちがいいだけあって洗脳されやすいのかな、叶、精神作用型って言えばピンとくる?」


「うん、なんとなく。このフロアの異形が、そうなんだって事でしょう?」


「その通り、さあ、異形様のお出ましだ」


 と、スタッフの出入りがされる入り口から、一人の顔の無いウェイトレスさんが入ってきた。


 そのウェイトレスさんは「イラッシャイマセ! オキャクサマァー!」と高い声を通すと共に、首が三つに裂けて、そこから三つ首の魚頭に変身し、服はぎちぎちにウェイトレスさんの格好をした、二刀流のナイフを構えた魚人ができあがった。


 そして私達も武器を召還する。


 私は鎌を持って。空知火はゴテゴテした大きめサイズのハンマーを所持していた。


「────さあ、狩ってあげるよ!」


「────ここで終わりにしよう!」


 と、台詞が被った。


「「!」」


 私達はこの状況で顔を会わせたりしなかったが、多分同じ事を考えている。


 決め台詞ってなんかできちゃうよねーっ! って。


 さあ、異形が飛びかかってきたぞ。



◆◆◆◆◆



 その頃恐山ヒュータは都内某所で薙刀の大会を見事に勝ち進め、優勝という成績を残した。


「恐山先輩、見事な勝ちでしたねっ!」


「うん、籠鳥もなかなかだった」


「えぇそうですかぁ? どう頑張っても恐山先輩みたいに軽く持てないっていうかぁ、肝心なところがっていうかぁ、うーん?」


 ヒュータの一つ下の後輩────籠鳥巣喰(かごとりすくい)


 彼女は一年生だが、ヒュータに看病された事はないらしく、むしろされたくない。なんなら彼氏いるから。と切り捨てている。ヒュータも籠の鳥が巣を喰らうみたいな怖い名前の後輩がやけに絡んでくるくらいの認識で、しかし部内では有名な方の二人だった。


「そういえば恐山先輩、最近は保健室に看病行きませんねぇ。怠慢期的ですかぁ?」


「最近は自分に時間を使うって決めてるんだ。看病は、保険医でもない俺がむやみやたらにするべきではなかったし、何より、女子生徒の気持ちを逆に踏みにじっていた事に遅ればせながら気づいたんだよ」


 巣喰はニヤリと笑い、恐山を試す様な事を言う。


「だから辞める、と。でもそれって、これからもっとたくさんの生徒を踏みにじっていた事に気づくうえに、もっと恐山先輩学校内で生きづらくなりそうですけどねぇ」


「ははは」


「いやはははって。まあ初期の恐山先輩がやばかったのはかなり怖かったですし、いいんですけどね」


「初期の俺?」


「はい! 私が友達の付き添いで恐山先輩の看病についてった時の事です! 覚えてますか? 私の友達で一番可愛い、品部(しなべ)結香ちゃんです!」


「覚えてるよ。品部さんはテニス部のエースだろ」


「おげぇー覚えてたかぁ。まあその子です! 結香ちゃんの痛めた(本当かは知らないよーん)足を見るや否や、恐山先輩、脱がしてマッサージしてたじゃないですか! モミモミしてたじゃないですか!」


「そうだっけ」


「『ここ……痛い?』という恐山先輩に一向に『うん……よく分かりません』と曖昧な返事をする結香ちゃんは見たくありませんでした!」


 と、誰が想像するのか分からない発言をする巣喰に対し、ヒュータは少しも動じず、反論するだけだった。


「それってつまりは俺に対しての恐怖じゃなくて品部さんに対してじゃないか?」


「いいえ! 結香ちゃんの足ならずソフトボール部のボーイッシュ王子こと寺島凛ちゃんまでもの精神を翻弄して、なおかつそれらを真顔で全く動じず看病する恐山先輩は変態です! 変態でなければ滅茶苦茶に度胸のある男そのものです!」


「最後褒めてくれてる?」


「褒めてません!」


 巣喰はぷんぷん頬を膨らませ、必死に説教染みた事やヒュータにとっての世迷言を吐いていた。


「じゃあ、私そろそろ着替えてくるんで、お先でーす」


「うん、お疲れ様」


 ヒュータは一人になって、ふぅ、と呼吸を吐く。


「ガブリエル殺した事、柚月にしか言えなかったな……」


 体育館の外の階段に座り込んで、自身の手首を見つめる。そして脈を図る。


「ちゃんと、人として生きてるのに。ちゃんと、してきてるはずなのに。あの感覚はにわかに覚えている」


「あっ、恐山先輩」


「何!?」


「きゃは! 今日一のイイ声ですねぇ! なんか友達が恐山先輩のサインほしいから呼んで来てって」


「なんで俺なんだよ。薙刀やってる以上プライドは持ってくれよ。断ってくれ」


「汗でめまいがするそうです」


 ニヤニヤと言う巣喰。


「じゃあ病院行って」


「きゃはー! ホントに変わっちゃいましたね! こりゃ女だー!」


 と、ケラケラ笑いながら体育館に戻っていく巣喰を見送って、ヒュータはこんな風に思った。


(変えてくれたのは、ずっと側にいてくれた男友達だよ)



◆◆◆◆◆



「柚月、アイス何食べていいー?」


 人の家の冷蔵庫をちゃんと許可を取り漁る男────口枷業火。


「カップは駄目。棒のならいいよ」


 お高いカップアイスは譲らない男────皆鴨柚月。


 二人は宿題を終わらせる為に勉強会という名目で柚月の家におり、業火はほとんど終わらせて休憩中である。柚月は必死に業火に追いつこうと休まず筆を動かしていた。


「んーじゃあソーダもらうね」


「ん」


 少し教材をめくって、考える素振りをする柚月。それを見て業火は、パッケージからアイスを取り出しこう言った。


「手伝おうか?」


「駄目。自分でやらなきゃ意味ないから」


 相変わらず真面目というか、本当に偉いやつだと業火は感心する。だが……。


「でも僕あんまり柚月に頼られた事ないからさぁー、たまには頼られてみたいなぁなんて」


「……じゃあ脇で踊ってて」


 言われるがままアイスをマイクにノリノリなダンスを披露する業火は、すぐに柚月の反感を買った。


「……、……。気が散る!」


「理不尽過ぎない!? まだ何かありますか?」


「懲りないな……。あ、でもアイスを食べた口枷のサーモグラフィ変化はちょっと見てみたいかも」


「きっしょ!! 僕は自分のサーモグラフィ見たくない! そもそもそんな技術僕にはない!」


「ははは」


「はははて! いやはははて!」


「はっはっはっはっ」


「あ! サーモグラフィといえば柚木森さんがね」


「サーモグラフィといえば柚木森さん!?」


 業火は柚月の疑問を無視し、話を続けた。


「柚木森さん達今日水族館行ってるらしいよ。いいないいなあ。柚月も恐山君が帰ってきたら三人でどっかいこうね!」


「いいけど、体力まるでないから近場な」


「うーん、お祭りとか? 恐山君帰ってきたら女子誘ってさ」


「いい事言うじゃん」


「えぇ? 珍しい」


 そこで柚月は眼鏡を上げる。


「勘違いするな。屋台の食べ物が好きなのであって、女子の浴衣がどうとかではないからな」


「べっつに女子が浴衣でくる確約してませーん! 何々? 誰がどんな柄の浴衣着るのかって?」


 やらしく微笑む業火。


「勉強!」


 二人は二人で、楽しそうだった。



◆◆◆◆◆



「ゔっ!」


 私は水槽に体を打ちつけて、背中の水槽周りにヒビが入る音を聞いた。


「叶! なんとかかるてと巴起こせない!?」


「やるけど、待って……」


 私はずり落ちて、立ち上がる。そしてかるてと巴の後ろに立つ。


「かるて、巴……」


 ぶつぶつ何かを唱える渦巻き瞳の二人の頭を掴み、多少荒い方法ではあるが、やるしかない。


「ごめんねっ!」


 頭と頭が衝突するちっとも心地よくない音と共に、かるてと巴はしっかり目を覚ましてくれた。


 金色の山羊みたいな瞳のかるて。

 黄緑色の切れ長な瞳の巴。

 やっぱり二人は、こうだよね。


「いってぇー、ってうおぉなんだあの三つ首魚人! ここって裏世界!?」


 巴は魚人の異形を見て椅子から転げ落ちる。ドッキリ仕掛けられた芸人じゃないんだから……。


「そうだよ、戦える?」


「戦いたくないけど戦っちゃうよ!」


 かるてがフライパンを出現させる。


「それ、いいね」


「え?」


 巴も巨大なハサミを出現させる。


「それも、使えるかも」


「ああ、叶の言いたい事、分かるかも」


 巴が絶対的な信頼を抱かせてくれて、そこから私達は作戦会議を緊急でして、空知火に加勢した。


「遅いよ!」


「ごっめんそらちー! フライパンでさくっと仕留めちゃうよー!」


「こっちも準備おっけー!」


 そして、空知火は何かを察して、後ろへ下がった。


「オキャクサマノエガオ! オキャクサマノイブクロ! オキャクサマノナイゾウ!!」


「静かにしてぇえええ!!」


 と、かるてがフライパンを巨大化させ、三つ首の全てを打ちつけた。そして、そのまま地面へと抑えつける。


「今!」


 空知火の合図と共に、私は巨人のたくましい右手を、刈った。巴は巨人のたくましい左手を、切った。


 ナイフを持ったままの両腕が、ぶつ切りに途絶える。


 かるてがフライパンを引っ込め、後ろへ下がる。


「それじゃあ後は三人でやっちゃって!!」


 私は困惑する右側の魚頭に、空知火は真ん中の魚頭に、巴は左側の魚頭にめがけて、武器ごと体ごと飛んで首を刈る勢いで、いや刈るのだけれど、素早く飛び込んだ。


「ぐおらあぁぁぁあああ!!」


「おらあぁぁぁあああ!!」


「どりゃあぁぁあああ!!」


 目を光らせて飛び放った私達は──ほぼ同時に、三つ首魚頭を見事刈ってみせた。


 魚頭が地面にドサドサと落ちていく。落ちたのは三つだけだけど。


「はぁーこれじゃあ元の世界に帰ってもご飯は食べられそうにないよ」


「何で? 食べるでしょ、かるてなら」


「諦めかぁ!? 諦めからくるそれなのかぁ!?」


「とにかく、中身を取ろう」


「うん……あたしがやるよ」


 私達四人はこの作業がなかなか慣れなくて、一番億劫でつらかったのであった。大丈夫。お揃いのキーホルダーがあるから、頑張れる。

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