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第19話

珍しく、目が覚めると全員眠っていた。


 というか、私と高柳先生だけが起きていた。


「先生……ここは」


「おはようございます柚木森さん。ここは現実世界。瓶詰高校の保健室です。安心してください。今日は休日で人の入りも滅多にありませんから」


「いえ、そうではなくて。何故私のベッドにかるてがいて、何故隣のベッドに口枷君、恐山君、皆鴨君がぎゅうぎゅうに一つのベッドで眠っているのですか?」


「仕方なかったんです。空きも少ないですし、何せ黄食さんに至っては他校の生徒ですから。私だって、怒られるのは嫌ですから」


 そ、それはそうか。納得していいよね?


 にしても、終わったのか、終わらせてくれたのか、皆鴨君と恐山君。……一体何があったのだろう。聞きたい事は山程あるけど、無理矢理起こすのは可哀想だ。そういえば、首から下が軽い。よ、良かったー! ()()も戻ってるみたい!


「柚木森さん、異形狩りはいつから始めたのですか?」


「今月の……始めくらいですかね」


「そうでしたか……。口枷君達は、私が想像を絶する程幼い頃から戦士だったそうですね」


「はい、らしいですね」


「反面教師の私がいうべき台詞ではありませんが、こんな世界、間違っていますよね。子供はもっと健やかであるべきですよね」


 その台詞に、私は少しだけムッとして、本当に少しだけ言い返してしまった。


「それはそうですけど。どうして私に賛成を求めるんです?」


「子供の意見も聞こうと思いまして。ほら、異形って自殺した魂が殆どって聞きましたし」


「それはそうですけど」


「口枷君、普段はいい子ですのに、浄化という言葉にかこつけて、こういう場所でストレス発散気分になっているんじゃないか、不安になってしまって」


 はい……? それは貴方の見当違いで、不安になる必要はないんじゃないですか?


「あの」


「口枷君、普段は素直でお人好しなのに、こんな事して内心病んだりしてないか、心配してしまって。勿論、口枷君という一人の生徒に限った話ではないのですが──」


「──あの。あまり知った様な口を聞かないでもらえますか。申し訳ないですけど。あの三人やかるてが遊び半分で、まさか憂さ晴らしで異形狩りに挑んでるとでも言いたげですか? まあ、岩倉さんの願いの話があるにしろ、少なくとも口枷君はとてつもない重さを背負って立ち向かってるんです。私も全て知っている訳じゃない、です、けど……ちょ、ちょっと」


 高柳先生は土下座していた。


 や、やめてほしい。こんな事で。


「申し訳ありませんでした。謝ります。少しだけ、探りを入れてみようと思ったのですが、この世界では教師生徒関係なく、誰もが計りきれないものを背負っていますもんね」


「顔を上げてください」


「はい」


「まぁ、自殺自殺といっても、全てが清い魂ではないと思いますがね」


 私は話題を変えた。なるべく、高柳先生に寄り添った様な、実際私の本音を混ぜた台詞。


「……」


「人を傷つけたり、人を殺したりした後に自殺する卑怯者がいるみたいな事、かるてが言ってました。私も実はそう思ってます。自殺って、被害者みたいな扱いになってますけど、グレーゾーンですけど、現に容疑者加害者の逃げもあ────」


「────あぁん!?」


 !? ……高柳先生は形相を、というか人を変えて私の胸ぐらを掴んだ。それだけではなく、近くで寝ていたメンツ全員起きた。


「その言い方だと他の自殺した人間達が報われねぇじゃねぇか! そもそも、裏世界は楽園として作られる予定だったんだからそういう汚ない人間共の魂は地獄にでも落ち腐れてるんじゃねぇのか!? そういう類いの発言には責任持てやこの野郎がぁッ!!」


「か、叶……?」


「すみません……気を付けます」


 寝転がったかるてが私の腕に手を絡め、高柳先生はうつむいて私の服から手を離した。


「こちらこそ。取り乱しました。では、皆さん目覚めた様ですので、今日はもう帰るように。ヴィンテージアクセサリーの事も今回は見逃します。それでは、失礼しました」


 高柳先生が去っていった所で、全員起き上がる。


「い、いやぁー、すごかったね。高柳先生でもあんな感情的に怒鳴るとは……」


 頭に手を当てる口枷君。私の彼氏。


「教師なんて怒鳴ってなんぼだろ」


 と、達観した様な事を言う恐山君。


「………………」


 皆鴨君は何か考えてるのだろうか。皆鴨君に至っては散々高柳先生のあら探しいびりしてきたわけだから、少しは怯んでいてほしいけど。


「ね、帰らん?」


 かるての一言に、全員が立ち上がる。


「柚木森さん、ちょっと二人で帰れないかな」


「うん、帰ろう」


 私達の間を気遣って、三人は団体で保健室から出ようとした。


「黄食、途中まで送るよ」


「えー恐山ぁ! かっこいいぞぉ! 皆鴨は?」


「特に言う事は」


 恐山君は柚月の頭をポスンと軽く叩き、かるては大きく手を振る。


「じゃあ叶、口枷、またねー!」


「またね、かるて」


「またねー!」


 そして、保健室には私と口枷君二人きり。


「……僕達も帰ろうか」


「そうだね」



◆◆◆◆◆



 学校を出て、コンビニでちょっとしたスイーツを買って、川のある公園のベンチに座った。あんなに綺麗だった桜並木は緑に生い茂って、6月というのも、なかなか暑い。これからもっと暑くなるのか。


「体育祭終わって、衣替えも終わって、もうテスト終わっちゃえば夏休みだけどさ、柚木森さんは夏休み、女子組でどっかいくの?」


 口枷君はいちご大福の包みを開けて、私は汗をかいたペットボトルの、つぶつぶザクロを手に持っていた。


「うん、皆で色々行く予定があるんだ。水族館。それから映画も見に行く」


 すると口枷君は、ちょっとびっくり、みたいな顔を浮かべ、それから少し微笑んだ。


「へーいいなぁ。ていうか知らなかったな、そんなに発展してたなんて」


「発展もなにも。巴がそういうの提案するの好きで、それに私達がわんさか乗ってるって感じかな」


「本当にいいなぁ。恐山君も柚月もインターハイとかで忙しいみたいでさ」


 そうか。薙刀部と弓道部だったか。うちの高校はやけにそういった精神統一系な部活が多くみられるが、


「口枷君はどこもいかないの?」


「うーん、インドアな家庭だし、八月中旬になったら二人共完全に戻ってくるし、その時行けたら行きたいな」


「じゃあ、私とは、会わない?」


「えっ……。でも」


 口枷君がいちご大福を見つめる。


「八月になったら、会おうよ。一緒に、どっか出かけようよ」


 口枷君は、少し頬を赤らめて笑顔になる。私も、嬉しくなる。


「────勿論。出かけよ! どこいく? 水族館と映画館以外がいいよね?」


「んー、被ってもなんら問題はないけど、そうだなぁ」


 私はペットボトルの蓋を顎につけ、考える。ザ・夏みたいな場所には確かに7月あたりで行くなぁ。口枷君とならどこでも全然オッケーなんだけど、折角の思い出作りたいし……。


「……柚木森さんは、植物と食べ物だったらどっちが好き?」


「植物も食べ物だよ?」


「あはは、そうじゃなくって、緑かカレーかみたいな話だよ」


「それなら断然カレー」


「オッケー。食フェス……って知ってるかな?」


「?」


 職フェス? 職人のフェスの事?


「それもあながち間違いではないんだけど、食べ物の祭典……まあ食べ物を買って食べまくるフードフェスだよ。よくあるのが一つの食材を元に各店舗で屋台みたいにそれぞれ調理した料理が売られてて……みたいな……あはっ、柚木森さん好きだね?」


「うん……もう既にヨダレが止まらない。いつやるの?」


「んっとね、期間は長いんだけど……」


 口枷君はいちご大福を咥え、スマホ取り出し何やらタップしたりスクロールしたりしている。申し訳ない。


「最終日が八月三十一日だから、八月上旬はどう? 詳しい日程や、絶対食べたいお店も後でチェックしようよ」


「うん、了解。ちなみに今回のテーマは?」


「肉だよ」


「肉!」


 およだが止まらないよっ……!


「あはっ、およだって。方言なの、それ?」


 くすくす笑う口枷君は、スマホを置いていちご大福をまるまる一口頬張る。そのリスみたいなやわい頬を眼福し、飲み込むのを待った。


「ちなみにねぇ、冬はほぼ毎年柚木森さんの好きなイチゴフェスがあるんだよね」


「え? 私イチゴ好きって言ってたっけ?」


「あっ……ごめん。柚木森さんってイチゴみたいに赤い目をしてるでしょう? だからずっと見てると、そんな気にも思えてきちゃって。飲んでるのも赤いし……先入観で言っちゃったね、ごめん」


「ううん。実際赤い食べ物好きだし。トマトもビーフもフルーツも。口枷君は何が好きなの?」


 この時私は口枷君から、イチゴみたいな赤い目をしていると例えられた事がとてつもなく素敵な例えで嬉しかったが、その照れは隠す事にした。


「僕は肉も卵も、好き嫌いなく食べるけど……あ、洋菓子よりかは和菓子が好きかも。あんことか、もちもちしてるのとか、お茶に合うもの、好き」


「…………成る程」


 覚えておこうっと。いつかなんらかの形で口枷君のお家にお邪魔する事になったら、手土産は和菓子だ。


「あっ、ちなみにこしあんも、つぶあんも、いけます」


「了解です」


 ペットボトルの中身が減った頃、夕暮れ時の空は綺麗だった。夕暮れ時の太陽を反射するかの様に、川がぎらつくのもまた、心を安らげるものがある。


 そういえば口枷君は、絵が描けるんだっけ。


「ねえ、口枷君」


「ん?」


 聞くか迷ったというか、聞いた方が動く動機になると思ったというか。ふと、口枷君の美術事情が気になった。


「絵は、今は描いてるの?」


「……描いてるよ」


「美術部には……」


 入らないの? とまでは聞かなかった。少し、遠慮がちに。でも気になったし。


「……んー。入りたい事は入りたいんだけど、正直、こんな微妙な時期に入って歓迎されると思ってないし、なんていうか、タイミング逃したって気持ちが強くてね、なかなか、踏み出せない」


 勿体ない、と思った。口枷君の絵を見た事があるわけではないので、絵に関する気持ちではなく、まだ猶予はあるんだから、若いんだから、若くてそういう所属場所に恵まれている環境にいるんだから。と、そういう気持ちで、勿体ないと思った。


「多分僕は、認めて貰いたい気持ちが人より強いから、自分より絵の上手いやつに出くわすのも、歓迎されないのも、怖いのさ。傲慢だろう?」


────確かに、口枷君ってそういう部分ある。けど、それだけで、それだけで本当に怖がって終わりなの?


「────自分より絵の上手いやつに会ったらそいつより上手くなればいい。歓迎されないなら心ゆくまま自分のやりたいようにやればいい」


「え?」


「これが、一年の時の口枷君。最近失いがちな、私の知ってる口枷語録の一つなはずなんだけど」


 口枷君は、顔を伏せて言った。


「じゃあ、柚木森さん来てよ」


「どこに?」


「僕の家に、今から。絵を間近で見てほしいんだ」


「いいの!?」


「勿論。それで決めてよ。柚木森さんが僕が美術部に入るに値するかどうか」


「いやいや口枷君。美術部は競う世界ではないはずだよ。初心者だって、先生の技術を指南してもらって、みたいな世界なはずだよ」


「えーじゃあ来てくれないのぉ?」


「いや行くって。行けばいいんでしょ」


「よしっ決まり! じゃあ行こっ」


 と、すくっと鞄を持って立ち上がり、私に手を差しのべる口枷君。私はフッと微笑み、口枷君の手をとった。


 なんていうか、それだけで分かってしまったのだ。口枷君の素直じゃないっぷりに。それかキッカケがほしかったのかな?


 口枷君が、美術部に入る勇気や気力を完全に引き出すキッカケ。それは、私に絵を見てもらう事なのだろう。


 それで私がよしよし上手いね、美術部入るべきだよー! とでも? 笑わせるな。


 だが、今はそれでいい。それでないと前に行けないなら、気づいちゃったうえで、口枷君が大好きな私が、後押ししてあげたい。甘やかすつもりはないけど、甘えてほしくない訳じゃない。


 そして、口枷君はふいに私の手を握った。


「……」


 言葉にするのが今は本調子じゃない口枷君。

 それを甘んじて受け入れ繋ぎ返す私。


────二人は並んで歩く。多分、これからも。

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