第13話
事の発端の話。アンチサイトの一件から、というかそのちょっと前から知らぬ間に恐山君とかるての仲に変化というか、芽生えがあった。それはある日の異形狩り(私とかるての二人で)の異形提出の帰りの事でそうなのだと理解した。
キッカケはやはり恐山君の推しているサイト主がかるてだったから……と思いきや、いやそれも少なからずあったのかもしれないが、どうやら二人は波長が合うらしい。
私は恐山君をよく知らないので、かるてと最近何やら楽しそうに架空の話で盛り上がっているから、踏み込んで彼が実の所どういう人間でどういう考えの持ち主なのか気になって、かるてに聞いた。聞いてしまった。
「私、あの日叶が気絶してる間に恐山と二人きりで話してたんだけど、私は口が軽い方だから話の流れで家族事情話したのよ。私母親だった人に捨てられて、まあ離婚ね。パパがお兄ちゃんと私を可愛がってくれたの。それがあったから救われてた訳だけど、お兄ちゃんはすごく海外で頑張ってて、パパは仕事で家に帰るのが遅いの。だから家帰ってお兄ちゃんの部屋でギャルゲやったり電波サイトの運営とかしてた孤独なやべー女なワケ」
かるてのオタク事情は相変わらず。否定はしない。肯定もしない。電波サイトに関しては今は消えているが。
「恐山、それ聞いてからほんとに少し口開いてくれたんだけどね? あ、私口軽いから叶には言うよ? なんかあっちも複雑で、でもあっちは家族一人欠けてない、むしろ父、母、祖父母、一人っ子の恐山、で、私からしたら揃いに揃ってる方なのよ。巴もだけど。でも巴とは真逆で、恐山は家族全員嫌いなんだってさ。家族と仲悪いんだってさ。毎日内心怒り心頭なんだってさ。正直毎日余裕ないみたい。それくらいしか聞けてないんだけど、あのよく分からない人格形成も、たまに怒ってる不穏な顔も、家族絡みプラスあの叶の言ってた靴の仕掛けの首謀者、ヴィンテージアクセサリーに姿を変えられたガブリエルの束縛も絡んでるのかもね、知らんけど」
随分口が軽くて心配になったが、折り入って聞いたのは私の方だったのでありがたく聞いた。
「何考えてるか分からないけど恐山、私は好き。だって、あいつ私を馬鹿にしないし、嘘つかないし、何よりさ、楽しいんだよね、最近。恐山と話すのが」
「それは、ライク? それともラブ?」
「それ系の二択苦手なんだけど、多分恐山へのこれは愛ではあって恋ではないなー。だって恐山にキュンに値する優しさなんてされた事ねぇもん」
「かるてはキュンさせられると恋になるの?」
「言ってすぐその判定も難しいって言うのも変だけど、なんだろな、なんなんだろな、結局。あ、私は人間見た目も大事だと思うよ。恐山綺麗だし。うん、そだな、キュンさせられたら恋かもな。それが優しさとかじゃなくてもさ。でも……なんか恐山と話してるときたまにさ、私も分かってあげられなくなるんだよね」
かるてはうつむいて、少し言うのを躊躇った。
「叶、ここからは二人の秘密にしてくれる?」
「勿論だよ。私がこれから仲間としてやっていく恐山君を少しでも理解したいというだけの話で、かるての意見を吹聴したりなんかしない」
かるては安心したのか一呼吸つき、言った。
「ムカつくの。私も恐山みたいに怒りがあるの。恐山に対してさ、思う事があるのよね」
本当に、声にしてくれるだけてありがたい。
本当に、話してくれるのがありがたい。
かるては少し苦しそうにこう言ってくれた。
「なんで、そこまで一人で抱えこんじゃったの……? どうして今まで、皆鴨や口枷に相談一つしてこなかったワケ……? 恐山は、何がしたいの……? って、思っちゃうのよね、ほんとに、それが、私には分からなくて」
「…………」
「本人は言いたくないのかもしれない。分からないけど。本人は言うつもりはないのかもしれない。分からなくて悔しいけど。こんな事、深く考えてわざわざ言っちゃダメな気がして、少し、もやってた……」
最後にはにかんで、フランス人形の様なかるては口を閉じる。
「教えてくれてありがとう。私、かるてのそういうところ、すごく好きだから、大丈夫だよ」
そういう感情持ってて、いいんだよ。絶対、いいんだと思う。人間の素直な感情に抑制をかけると、壊れてしまう人がほとんどなはず。かるてには、壊れてほしくない。
「叶、ありがとう……」
「あと恐山、かなり前にDVDショップで未成年にも関わらずアカン映像作品四枚くらい借りてたから、案外健康的な方ではあると思うよ」
「はぁ!?」
相変わらず私は意地悪だった。そこからくだらない話で盛り上がってしまい、その日は終わった。というか、その日を境に何かが終わった。それは裏世界から戻ったひとけのいない田舎過ぎず都会過ぎない街中で起きた事。
「む、こんな場所で女子に会うとは」
それは全身包帯ぐるぐる巻きの堅物そうな軍服男。
「はにゃー?」
更に癖っ毛ロン毛の和服がやけに似合う色っぽい男。
「はて、女子も制服を着るのですね」
加えて清楚な風格の茶髪おかっぱ糸目の和服男。
「……あ! あ! こいつら岩倉さんが仰られていた瓶詰高校の柚木森叶と電波サイトの人ですよ!!」
そして最後に明らかに陰キャな軍服男だった。
私は嫌な予感がして、それは予想を超えて的中するのだが、かるてを庇う様に前に出た。
「貴方達、その感じですとひょっとして岩倉チェインから勧誘を受けた戦士達ですか? 通行で平行に歩くなんて、世間知らずですね。どいてください。私達もう帰るので」
「帰るとは、地獄にか?」
包帯男は言う。
「勧誘とは、宗教団体?」
色っぽい男は言う。
「世間知らずとは、男尊女卑の話?」
清楚な男は言う。なんかこの人やだな。
「どいてとは、僕達がですか?」
そうだよ、明らかな陰の者め。
この話がほぼ全員通じなさそうな四人組は、ひょっとしてあの噂のスパルタ男子校、轟沙汰の人達なのだろうか。制服は和服と軍服なの? まあ、それより。
「叶、あっちから帰ろう」
「それもそうだね」
私とかるては少し不安になりながら背中を見せて進行方向を変えた。それだけなのに――――。
「背中を見せるのが、面白い」
「勧誘されてないのが、面白い」
「世間知らずなのが、面白い」
「恨まないで──くださいね」
四人組は順番にそんな意味不明な台詞を吐いて、正直私は最初の包帯男の台詞で嫌な予感がしまくっていたが、振り向く暇もなく、振り向く事すらしようとせず、轟音に近い、摩擦音が鳴り響く。武器と武器が、衝突する感じの、そんな音。
「「!?」」
私とかるてが振り向くと、そこには恐山君が単体で武器をあらわにした四人組の攻撃を一人で全て防いでいた。薙刀そのもので。
包帯男の刀を薙刀を盾にして止め、色っぽい男の鬼の様な金棒を右足で止め、その後ろで清楚な男は扇子を構えており、その隣で陰キャ男はホースを持っていた。
「あんたらなんなんだ。女子に数と脅しと背後のフルコンボとか。義務教育どころか地獄からやり直せ」
それは、私達にとってはとても格好よかった。私達でなくとも、きっとそうだ。
「「お、恐山君!!」」
「せめて一体一にしな。俺はそういう方が燃えるね」
「「お、恐山君……」」
台無しだよ。燃えるが萌えるじゃないのが唯一の救いだけど。
「名乗ってやんよ。俺の名前は恐山ヒュータ、瓶詰高校二年薙刀部所属。怒りの象徴恐山ヒュータだ!!」
なんか決まったみたい!
「ど、どうしますか、皆さん……」
と、陰キャ男は言う。どうもこうも、今日のところは貴方がたが大人しく帰ってくれるのが一番穏便なのだが。
「僕達も帰ろう、地獄に」
と、色っぽい男。
「そうですね、帰りましょう、地獄に」
と、清楚な男。
「全く持って、地獄だな」
と、包帯男。
「えへへ、まあ、僕には帰る家もないんですけど」
と、陰キャ男。
それで、今日は本当に終わると思ったその時、恐山君がかるてと私の方へ近づき、薙刀を置いて、ぽすん、と両者の頭に手を置いたのだ。
それで、それだけの事だと思っていたそれがそれだけの事ではないらしく、恐山君のブローチ、カブリエルが恐山君のポケットから声を出した。その時、恐山君を除いた私とかるての二人は、初めてガブリエルの声を聞いたのだった。
『もう無理……限界……限界限界限界限界限界限界……。許さない、許されない、許してはならない……』
「うるさいな、俺はもうお前に従うのはやめたんだよ」
『だからって見せつける様にヒュータから伝わってくるこの感情は何!? このもどかしさをどこで誰に伝えればいい!? お前は許さない、絶対許さない、柚木森叶も、黄食かるても、口枷業火も、皆鴨柚月も、後ろにいるバカルテットも!』
「バ」
「カ」
「ル」
「テット……?」
何が何だか分からない轟沙汰メンバーことバカルテットと、何やら話だけ事前に聞いていたあたりこれから何がどうなるのかヒヤヒヤしていた私達。
そして。
『閉じ込めてやる、永遠に、永劫に、二度と邪魔が入らない様に────』
恐山君のポケットからオレンジの光が溢れだし、そこにいた計七名は、光に包まれて地獄を味わう事になる。それは放課後だったり、それはテスト期間だったり、それは体育祭だったり。今思えば極力恐山君が女子とはべらない様なイベントが多かった。恐山君は放課後は薙刀部だし、テスト期間は勉強一筋だし、体育祭はそもそも種目が男女別な上に外の待機椅子ですら男女分けされているのだ。
私達は自分達がガブリエルの理想の世界の中に閉じ込められる前に、ありとあらゆる拷問を受け、記憶を改変された。思い出す度にも。だ。
それ故に私は正直今回ばかりは、何もしたくなかった。ガブリエルの方が、恐山君の何倍も怖かった。




