第11話
「空知火! 巴! 私! 新人戦士親睦会! 改めてよろしくさん! 改めて異形狩り頑張ろう! カンパーイ!!」
「「「「「「カンパーイ」」」」」」
その日は巴の家でとにかく遊んだ。自己紹介も済ませたし、時間が経過するにつれて私達は稗田さんをいつの間にか下の名前で呼ぶ様になった。
「じゃあ空知火は将来アーティストになるんだ」
「まだ夢の段階だよ。今作ってる音楽、なかなか歌う気になれなくて」
「じゃあ今度この四人でカラオケ行こ!」
「かるて、歌えるの?」
「電波ソングからアニソンからボカロまでなら歌えるけど?」
「社会の歪みだな」
「せめてアーティストは歌えてほしいね」
巴と私で少し冗談を言う。
「それこそ社会の歪みだろぉ!?」
空知火はクスッと笑う。この四人が集まって意外だったのが、空知火はどちらかというと私になついているという事。今だってソファーに座るかるてと巴と私だが、空知火は私の膝に寝っ転がっていたのだ。
こういうスキンシップの甘え方をされるのは滅多にない為に、少し驚いたが、空知火が居心地いいなら、それで全然良い。
「叶、叶は何歌うの?」
「シューゲイザってジャンル寄りの曲かな」
「えーなんじゃそりゃ! 聞きたい!」
「口枷君は?」
「僕、歌うのあんまし得意じゃないんだよねー。あっ、恐山君と柚月は滅茶苦茶上手いよ!」
「「えぇ……」」
引いてしまう私とかるて。
「こういう反応されるから言うなよ口枷」
「全くだ」
「じゃあ今度の休みはカラオケ?」
「戦士だとはいえ男女混合カラオケは私はちとなぁ」
巴とかるてがそんな話をしては、空知火がこんな話をする。
「僕今度の休みは好きな漫画の新刊買いたいんだよね。女子カラオケ、来週ならいけるかも」
「空知火でも、漫画読むの?」
「読むよ、北倉カイン先生とか好き」
「ぴくり」
かるてが反応するのを、私と恐山君は見てしまった。
「北倉作品はサヨナキドリが傑作なんだよ」
「うおおおおそらちー大好き大好き大好き」
「何だよかるて、やめろ、頬擦りするなぁ!」
「重い、二人共重い」
「サヨナキドリって?」
「まず、北倉カイン先生は小説も漫画原作もござれの超絶天才作家なのです! インモラルなオタクに優しいタイプのね!」
やっぱりそっち系なのか、とこの時私と恐山君は同じ事を考えていたに違いない。
かるてが我が説明しようと言わんばかりにポテトをくるくる回す。
「で、サヨナキドリは複雑な話なんだけどでもまー君達に分かりやすく言うと、デスゲームものっすわ。実写映画化もされてるけど、かなりマイナーなんだよね。主人公の小夜が、デスゲーム主催をもくろむ男子生徒二人の会話を盗み聞きしていて、そこから二人の男子と関わりながらもなんやかんやあって協力する事になるってのがあらすじですわな」
「それだけだと女性向けみたく思われがちだけど、繊細な心理描写や壮大な音楽と共に進行する残酷な物語は、北倉作品の要ともいえるね」
かるてと空知火はガッと固い握手をした。
「でも私はデスゲーム自体が地雷な節あるからな、なんかそういうのあったよね、男子二人と女子一人のテロリストもの」
「あったな。そもそもデスゲーム主催というのが非現実的なんだよな」
「「えぇー!」」
と、ひねくれる私と恐山君は、心のどこかで、おっ、面白そー。今度チェックしてみるかぁ、なんて同じ事を考えていたに違いない。
「北倉カインってヨナキウグイスっていうのも描いてなかった?」
「そうそう! 口枷君知ってんじゃーん」
「ヨナキウグイスはサヨナキドリの前日譚。これもなかなかだけど、人を選ぶ描写が多いかも」
「「…………」」
私と恐山君は黙る。
「こいつら、絶対ひそかに好きだよな」
「やめておけ草薙さん、そっとしてやるのも優しさだ」
巴と皆鴨君がそんな風に喋っているのは意外な光景で、知らぬうちに皆打ち解けてたりするのだな、と何だかこちらまで嬉しくなる。
そんなところで、インターホンが鳴る。
「誰だろ」
「あたし見てくる。荷物かも」
ふと──嫌な予感がした。
「はぁーい」
『お届けものでーす』
「少々お待ちくださーい」
そんな若い声の主が、仕事なんてしているのだろうか?
私は急いで巴のいる玄関へ走った。
「ちょ、どしたん叶」
「いいから、私が開ける」
そして――――。
「こちら、草薙さん宛です」
大きな段ボールを抱えているのは、普通のおじさんだった。
「ありがとうございます……」
それだけだった。
「叶、それ重くない? なんかよく分からんけど、心配する事ないよ、うち、何もないからさ」
「うん……」
リビングに荷物を抱えて、皆は段ボールに注目した。
「えー! 何々! 今日蟹!? 蟹なの!?」
「バカ言うんじゃないよ。私物だよ私物」
そして巴はカッターナイフで段ボールのガムテープに刃を入れて、手慣れた手つきでテンポ良く中身を開いた。
「手紙と、何これ、首輪? あたしこんなの知らないけどな」
「読むよ」
私が手紙を開くと、そこにはこう書かれていた。
『戦士達御一行へ 轟沙汰高校の裏世界でデスゲームを行う。是非戦士達に参加願いただきたい。夏休み、八月三十一日に、轟沙汰高校の生徒会室へチョーカーを着用してお越しください。持ち物は首につけるチョーカーと精神力。それまでに各自宿題を終わらせておくように。岩倉チェイン』
それを読み上げて、パーティムードはあっけなくシリアスな空気になった。
「どうするんだ」
「どうするもこうするも、岩倉チェインさん主催なら、行かない理由はないと思うな」
「僕も柚木森さんと同意見だよ」
「そうだな、知りたい事もあるし、行かなかったらまた何されるか分かったもんじゃないしな」
瓶詰メンバーは同じ意思でチョーカーを取った。
巴はイラついた表情でチョーカーを取る。
かるてと空知火は不安げな、特に空知火は目を真っ暗にして、それをかるては不安に思いながらも、二人もチョーカーを受け取った。
しんとするリビング。
パチン! と手を大きく叩き、楽しげな声でその場をがらりと変えたのは、口枷君だった。
「まあまあ! 皆そうしんみりしちゃうのも分かるけどさ、今六月だよ!? 夏休み最終日まであと二ヶ月でしょ!? なら、僕達の青春は、まだ終わってないね」
「でも、デスゲームって」
「ゲーム、ね。それはごっこ遊びかもしれないし、まあ本物かもしれない。それは僕にだって分からない。夏休み最終日にならないと誰も分からない。けど、僕達はそれくらいで毎日悲観的になるのなんてごめんじゃない?」
それはそうだ。私も、皆も。でもやっぱり、得体の知れないものは怖いのだ。私も、皆も、きっと口枷君でも。
「皆、このチョーカーは各自八月三十一日まで持ってようね。それで、それまで僕達は何の変哲もない毎日を送る。たまに遊んで、たまに裏世界で異形を救済して、毎日、毎日、貴重に生きていく。とりあえず、今日はこの辺でおっけい?」
皆それぞれのタイミングで頷く。心配もある。不安もある。終わりもあるのかもしれない。けど、そんな最悪の事態なんて私が狩ってあげなくちゃ。
恐らくこの場にいた全員、心のどこかで全員を守ろうと、八月三十一日まで楽しく生きてやろうと、そして八月三十一日は全員で勝ち誇ろうと、決意をしていたのだった。
岩倉チェインさん、大好きな作家だけれど、貴方の言葉は大好きだけれど、貴方は正直得体が知れないし、聞きたい事だらけだし、軽蔑さえもする。貴方の事も、いずれ狩ってあげる事になるのかな。
「私夏休み、お兄ちゃんが帰ってくるんだよね」
と、切り出したのはかるて。
「かるてのお兄さんってやっぱ金髪美青年?」
「ううん、お兄ちゃんは黒髪なんだぁ、帰ってきたらすっごい怒られるのよねー。だって勝手に部屋荒らしすぎたしさぁ」
「そりゃ自業自得だね」
「かるて、二度と電波サイトなんて運営するなよ。というかもう創作コンテンツ作るな」
「そこまで言う!?」
あはは、と笑う私達に、口枷君と恐山君、皆鴨君も微笑んだ。
そうだ、私達はこれでいい。これがいいのだ。
この時から私は、本当の意味で毎日を大切に過ごした。さぁ──岩倉さん。悔しかったら出ておいで。痛みなんて感じさせないうちに狩ってあげるから。




