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第10話 (後半三人称視点)

「私さ、許せない事があってさ、恐喝とか、脅しとか、何より──幸せを壊そうと企んでくる暇なやつ」


 かるては先頭で廃墟を歩きながら、静かに怒りを現にした。


「そういうやつさ、冷笑オタクっていうのかな。なんだろ。私ああいう人間嫌いなのよね。大嫌い」


「……」


「だから、話す事なんてこっちはないけど、私は私なりに相手の心へし折ってやろうと思うのよね。文字と機械を見る度吐き気と嘔吐に見舞われるくらい。金髪と女子高生を見る度心が壊れるくらい。ね、巴いいでしょ?」


「まあ、ほど程にな」


 かるて、そんなに人格破綻してたっけ。でも確かにアンチサイトの管理人はやり過ぎた。被害を受けていない私でも、きっと私でなくとも激怒の対象だ。


「黄食、あまり前に出るな。ひょっとしたら、あそこでモニター睨んでるのがアンチサイト野郎かもしれないからな」


「え、そんなやついる? ん……」


 かるてと私と巴は目をすぼめた。この空間は廃墟の中でも霧がかかっていたから、蜃気楼の如く現れる人物に、私達は警戒し、立ち止まる。


 そこには──椅子に座って、カタカタと何かを打っている人物がいた。大きなモニターと小さな無数のモニターには私達には到底理解できない言語や画像等があって、考えるまでいかない。


「おい──お前ひょっとしてアンチサイト? ちゃんとこっちに来たよ、あんたの大嫌いな元、天使教黙示録サンがね」


 かるてが敵意剥き出しでそう言うと、その人物はエンターキーを力強く押して、一息ついた。


「はぁ…………」


 その声は透き通った女の子の声だった。


 机から椅子を離して、片足でくるっと椅子を回転させるその女の子は、もう片方の足を椅子に曲げてつけており、なんだか、いかにもハッカーみたいなポージングだった。


 かるてと同じ金髪で、金髪というよりは暗めのオレンジゴールドの束がぱらぱらしたボブの髪型。灰色のまん丸の瞳。神秘的な薄いそばかす。ズボンスタイルでダボダボのセーターからはダボダボのシャツがはみ出ている。この子もこの子で、美少女だった。


「────必ず来ると信じてたよ。黄食かるて。仲間がいるのは、ちょっと見当外れだったけどね」


 天使教黙示録ではなく、かるてのありのままの名前を呼ぶ。そして、生き急いだかの様に言う。


「単刀直入に言う。僕の配下になれ。詳細は追って説明する。答えは」


「答えはNoに決まってんだろ」


「何故話を最後まで聞かない?」


「分からない? 私貴方が嫌いなの」


 笑顔で言うかるてに、何か思いついたように言うアンチサイトの管理人。


「ああ、怒っているのか。安心しなよ、黄食かるてがここへ来る事は確信していたから、飛行機は墜落しないし、何なら君のお兄さんは無事ワシントンの地に足を着けているし──加えて先程SNSでの騒ぎを丸く収めておいた。というか、僕よりやばいやつらの端末を、かなり悪質なものにしてあげたよ。僕は約束事は守るからね」


「それで?」


「──僕の配下になれ」


「またそれ? 聞き飽きたんだけど」


「僕も異形と戦う戦士だ」


「──!」


「岩倉チェインに誘われて、戦士となった」


「あんた、どこの学校?」


「桜ノ前高校二年生。稗田(ひえだ)空知火」


 稗田さんは何故か自分の名前を言った。それが本名か定かではないにしろ、稗田さんからかるてへ一刻も早く警戒を解こうという雰囲気が伝わってきたのが不思議に思える。


「岩倉チェインは最初、地域ごとに派閥を作ろうとしていた。けれどホワイトヴェールの唯一の戦士、黄食かるてと草薙巴が岩倉チェインの避けていた瓶詰の戦士達と邂逅を果たしてから──岩倉チェインの理想の派閥争い計画は狂った」


 稗田さんは至って冷静に、至ってシンプルに、真顔でかるてを見つめていた。


「その後岩倉チェインは轟沙汰の連中と私にかるてのサイトを炎上させ、精神的苦痛による再起不能の敗北を味合わせる様に要求してきた。理由としては、黄食かるてが岩倉本人が好んで選んだ戦士ではないからだろうね。そこのデケェねーちゃんの紹介のせい。僕は僕で逆らえないから、言われるがまま遂行した」


「あたしのせいで、かるてが……」


「真に受けんなー? で、稗田さんは結局言われるがまま、私を負かそうとした訳だ。貴方が脅されていたとしても、飛行機が無事着陸しても、私はまだ、貴方の口から聞くべき謝罪を聞いていないんだけど?」


「ああ、そうだね。謝るよ。僕は岩倉チェインと違ってプライドの塊でもないし、何なら僕の戦士としての地位は最下層だし、配下になってくれないのなら、僕が君達の配下となり屈服するのも悪くない」


 稗田さんは喋りながら正座し、長くて細い手を綺麗に床につけ、まさかとは思ったが、土下座をした。日本人で一番その土下座は神々しかった。


「────本当にごめんなさい」


 それは、少し震えた真っ直ぐな声。かるての心境としてはこれくらいじゃ我慢ならないだろうが、私は少し申し訳なくなってしまっていた。かるてと稗田さんが一対一で会ったとしても、こうなる様な気がして。大前提悪さをしたそちら側はそちら側だが、稗田さんは今一人で謝罪していて、数で脅している様な私達に胸が痛んだ。


「顔、あげて」


 それはどうやらかるても同じらしく。


「空知火、あんた今日からそらちーね」


「は……?」


 と、いうよりかはかなり情の深さを見せてきた。巴の影響なのか、もともとこうなのか。


「実はさー、稗田空知火って名前どっかで聞いた事あるなーって思ってたんだよね。記憶をフル回転させてピンときたの。あんた保育園でずっとむっつかしい本読んでた稗田空知火ね」


 なんと、かるての知り合いだったとは。


「覚えてないよ、人の顔なんて。ましてや幼少期なんて」


「でも私覚えてるもーん。そらちーすぐ転校したから接点ないかもだけど、私は少し気がかりだった。ありのままで生きてるだけで、一人ぼっちのそらちーが、なんだか似ててさ、私に」


「それは侮辱と捉えるぞ」


「言っとくけど侮辱じゃないよ」


「じゃあ同情か? 僕の一番嫌いな!」


「そうだよ、同情してるの」


「っ!」


「でもいいじゃない。そらちーの事許す許さないの心境はまだ今はあやふやだけど、私、素直な子嫌いじゃないし、そらちーも岩倉チェイン苦手なんじゃないの? そらちーも私達の仲間になればいいじゃん。いいよね、皆」


「どうするよ、瓶詰のお二人」


「俺はかるてに任せる」


「私は賛成。稗田さんのお友達になりたい」


「お、友達……っていうのは、あの、放課後集まったり、暇電したり、する、あの、お友達?」


 震える稗田さんに、皆が集まる。


「そだよ。そらちーと私らは、今日からお友達!」


「いいの? 僕が、僕が友達でも」


「いいから集まってんのさ」


「…………ずっと、ずっと友達でいたい。それを許してくれるなら、約束の指切り……」


 稗田さんは細長い小指を恐る恐る出して、全員すぐに小指で触れて答えた。これにて、電波サイト編完結……と思ったが、私は大変な事を忘れていた。


「あ、ちょっと和やかムードのとこごめん」


 私はスマホを取り出した。


「ごめん、ほんとごめん。忘れてたんだけど、私達が行かなかった方の信者……恐らく轟沙汰の人達が集まってるビルにね、口枷君と皆鴨君を派遣したんだ」


「え!? 叶何勝手な事してんのー!?」


「おいおい、まさか連絡があれから来ないとかじゃないよね?」


「うん、来ない……」


「ああ、それなら僕に任せて。借りるよ」


 そこで稗田さんが私のスマホを取って、電話番号を何やら素早く打ち込んだ。口枷君、皆鴨君、どうか無事でいて────。



◆◆◆◆◆



 緊迫する空気はかなり口枷と皆鴨を疲れさせた。かなり強めに縛られているし、一人を除いて、神父服の男達の威圧感は恐れるに値する。


『プルルルルルル……プルルルルルル……』


「む」


 そこで電話が鳴る。シスター衣装のニールのポケットから、端末が震える。ニールはその端末の名前を見ると、首をかしげ、出た。


「はい、轟沙汰高校三年生生徒会長、ニール・リンカーです」


「「!!」」


((名前言うなよ))


(…………阿呆)


(名前どころか全ての個人情報をおっぴろげたね)


 神父服の男達は汗を垂らす。


『あ、ニール? 僕だよ僕、稗田空知火』


「! 空知火! どうした? 何があった? こちらは瓶詰の男子生徒を二人確保したところだ」


『それなんだけど、その二人解放してね。解放しないと──許さないから』


「な、何を……言っているんだ?」


『僕ね、友達ができたの。だから僕、もうこういうの辞める! ニール、お前もういらない! あはっ』


 そこで電話が切れる。


 その電話越しの透き通った声は丸聞こえで、暫く沈黙が流れる。神父服の四人は、ひたすら微笑む事をして、最後に黎冥が吹き出してからは、ニールのメンツがなかった。


「っぷく」


「「「あははははははははは!!」」」


 黒髪の前髪の長い男、純夜を除いて、神父服の三人は大爆笑していた。ニールはただプルプルと震え、舐めやがってと顔を崩す。


「ニールまた女子にフラれててウケる! つーか今のは傑作過ぎて!」


 黎冥はけたけた笑い。


「笑ってしまいます。顔が崩れてしまいます。何でしたっけ、お前もういらない、でしたっけ」


 油芽はくすくす笑い。


「くっくっく」


 修羅はそのまんま堪えて笑った。


「じゃあ、帰ろうかー僕達もさー暇じゃないし」


 黎冥が先に扉を出て、続いて口を丁寧に抑えて笑う油芽、修羅も笑いながら去っていった。純夜とニールが残り、ニールはひたすら戸惑って汗をだらだらかいていた。


「純夜」


「は、はいっ」


「そこの二人を解放して野にでも放っておけ……」


「はいぃ!」


「この●●●が!!」


 不適切な単語を羅列したニールもそこから立ち去った。


 口枷と皆鴨は何が起きているのか訳が分からず、拘束から解放され、置き去りにされた。


「な、なんだったんだろうー……てことは柚木森さん達の方は解決したって事かな? 連絡しよっと」


「連絡してみるか。その前に、あいつらが轟沙汰の連中か。スパルタ男子校と聞いたが、平日の真っ昼間からコスプレごっことはどんなスパルタ学校なのかご教授願いたいところだったな」


「あは、まあ一件落着的なね。あっ、柚木森さんから返信来てる」


「見せろ」


 口枷のスマホからは、写真が一枚送られていた。


「何、廃墟……? この子誰?」


『稗田空知火ちゃんが、異形狩りの仲間になる事になりました』


「何か、増えてくな……」


「何か、女子楽しそー」


 そしてこの後、学校を早退した事をいいことに、うちあげならぬ空知火、かるて、巴の歓迎会という名目の親睦会が行われる事になるのだった。

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