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第9話 (後半三人称視点)

────月曜日、朝一番に学校に着いた。勿論、彼も。


「柚木森さん、おはよう」


「おはよう、口枷君」


 私達は少し見つめ合って、にへら、とくだけてにやける。


「日曜日なんもなくて良かったね」


「そうだね。あ、でも……」


「何々? 何かあったの?」


「んやね、私じゃなくて、かるてが電波サイトの運営主って知ってる?」


「うん、ヨーゼリアで草薙さんがバラしたから」


 ああ。まあ、いいか。


「実はかるてのサイトのアンチ……っていうか、それ叩く為だけのアンチサイトが見つかったらしい」


「ええっ、黄食さん大丈夫なの?」


「なんか、一人が管理してるサイトに、コメント欄みたいなのがあって、そこで管理人と匿名の誰かがアンチしてるみたいな……かるてはショック受けてたけど、開き直って今度は恐山君と巴誘ってなんか企んでたよ」


「うわ、関係者にならなくてよかった」


「ほんとだね」


 そしてあははうふふと笑ってその日は終わった。そしてそれから3日後くらい、事件は起きた。


「おはよう、柚木森さん」


「口枷君、おはよう──皆鴨君って来てる? 確かパソコン系に強くて、冷静な眼鏡だったよね?」


「はい?」


 私はがしっと恐山君の両肩を掴んだ。


「かるてが前に新しく投稿した架空の話が、結構あちこちで広まっててね、SNSでスコッパー的な人が切り取ったのがバズって、ちょっと、かなりヤバい」


「き、聞きたくねー!」


「かるての作り出した架空の宗教団体が、かなりハマる人にハマっていたのか、実際に作られてたり、動きだしちゃってたり、かるてこと天使教黙示録のDMに大量のメッセージが送られていたり、かるてが教祖になってしまう! というかそのエセ宗教団体はかるてを教祖だと信じている!!」


「ひいいいいいぃ怖い怖い怖すぎる。まじ何やってんのあの子ー!」


「元々危ないコンテンツだったんだよ。かるての作り出す話やサイトは。というか、話聞いてるとやっぱかるて自体かなりアカンから……とにかく、とにかく皆鴨君だ!」


「弓道部! 弓道部行こう!」


「うん!」


 この時の私達は他人事だったのかもしれないし、物事を甘くみていた。甘すぎて不味かった。私達は弓道場へ行って一人朝練をする皆鴨君に事細かく事情を説明して、それだけで満足していた。なんとかしてくれると思っていた。


「やだよ。俺もともとオタクって嫌いだし、何より関わるメリットがない。関係値もない」


 一気に青ざめる私と口枷君。


「そもそも黄食って結構ヤバい人だと思ってたんだよな。電波サイトもそうだけど、未成年なのに美少女ゲーム家でやってるらしいじゃん」


「「それはそうだけど……」」


「だから一回炎上して痛い目を見させるのも大事だと思うよ、俺は。まあ、一番いいのは元凶を途絶えさせる事なんだけどね」


「皆鴨君の言い分も分からないでもないけど、でもやっぱり、今日の放課後私はかるての家行く。友達が危ないのに、見捨てたくないよ」


「僕も行くよ」


「なんなら今から行く?」


「うーんそうしたいけど」


「私は行くよ」


「じゃあ僕は放課後。安心して、放課後絶対に行くから」


「「おー!」」


「あ、元凶っていうのは、黄食の電波サイトを消す事だからな。絶対に見ず知らずの第三者共に会うんじゃねぇぞ…………はぁ、何で一瞬でいなくなるんだよ、馬鹿ばっかり」



◆◆◆◆◆



 運良く青ざめていたので早退届はすんなり通り、急いでかるての家へ向かった。かるての家を知っているのは、私達女子組は巴の提案で位置情報を共有しており、なんなら家がかるてと偶然にも近いのだった。電車は使うけど。一本で行ける。


 かるてハウスにつくやいなや、私は慌ててインターホンを連打し、ドタドタドタドタと物凄い足音がし、扉が開くと同時に、武器を構えられた。恐山君と巴に。


「な、何だ叶か、アンチサイトの連中が来たのかと……」


「え?」


「いいから、急いであがって」


 あ、あがりたくないよぅ。まあ、自分も助けるって決めたから、その眼光ガンギマリの二人を見習って、かるてに会いに行くか。


 そして、家の鍵を厳重に閉めて、二階へ、かるての部屋へ上がった。


「! みんな! 叶! 私どうなっちゃうのかなぁ、うわーん!!」


「いやほんとお前こればっかりは泣け! 泣いて済む話じゃないが泣け!」


 巴……、本音を言うと私も心配はあれどかるてには己の危うさを自覚してほしい。


「黄食! お前本当にお前! サイト消せよ!」


 恐山君がかるてに対してさん付けがなくなっているあたり、事態は相当なものだ。


「かるて、サイト消してないの?」


 私はなるべくかるてをこれ以上パニックにさせない様に、優しく聞いた。


「だって、私にはこれしかないし……」


「ああもう! 私が消す!」


「やめてえええええ!!」


「何がやめてだ馬鹿野郎! あんたストレスなんてカラオケボックスでもショッピングでもできるだろ! ストレス発散なんてあたしらが付き合う! なあ!? 二人共」


「「うんうん!」」


 私と恐山君はこれでもかというぐらい頷いた。ヘドバンだ。かるて、これでも分からない……? 貴方今、とっても危ない状況なんだよ。


「……。……。……。じゃあ消す」


「かるてよぉしよぉしいい子だぁ! この件が落ち着いたらカラオケだぁ! ショッピングだぁ!」


「黄食、もしまたなんか別の、安全な媒体の創作コンテンツ作るなら、協力する」


「私も付き合うよ、だって私達友達だもの」


「みんなぁ!」


 こうしてかるてはサイトを消す決意をしてくれた。そして、その最後の削除ボタンのはいを押すのに、十分くらいかかった。


「ふぅっ……ふぅっ……はぁっひいっ、はぁ」


「……どうする? こいつもう殺す?」


「まあまあ巴、もう少し様子見ようよ」


「はあっ!!」


 ポチリと、かるては勢いで消した。消してくれた。そうして、私達はかるてを落ち着けて、その後パソコンから一つのメッセージが届いた。


「こ、怖い……誰か私の代わりに見て!」


「俺が見る、パスワード何」


「ぜろいちぜろなな」


 そしてパソコンを触る恐山君の手は片手ではなく両手で、何故か一本指使いの者だった。まだ絶滅していなかったのか。と、私は一週回って感心する。


「…………。………っ」


 メールを見る恐山君は、非常に汗を垂らしていて、かるてにこう言った。


「かるて、特定されてる。アンチサイトのやつに。学校とこの家」


「覚悟はしてたよ……アンチサイトはそれくらいやってくるって」


 冷静ではなくとも、諦めてうつ向くかるて。


「アンチサイトの管理人が個人的にかるてと話したいって、あと、架空の宗教団体、天使教の集まるビルの住所も書いてある。私、アンチサイトの管理人に貴方本人が会ってくれるのなら、天使教黙示録さんの事はもう深追いしないし、なんならSNSの騒ぎも全部確実に丸く収める事が可能だって。もしアンチサイトの管理人に会いたくないなら絶対に天使教のビルに行け、そのどちらかができないのであれば」


 次の恐山君の台詞で、かるての表情が変わった。


「──今お前の兄が乗っている飛行機を墜落させるって…………」


 かるては複雑な表情になり、そして最後には、私達に見せなかった怒りの表情を、少なくとも私は、初めてそれを見た。


「ふぅん、そうなんだ、そういう事できるからってそういう事しちゃうんだ。分かった、私を怒らせるとどうなるか、そのアンチサイトさんに教えてあげなきゃ。私、行くよ、恐山──アンチサイトの住所教えて」


「行かなくていい。俺が行く」


「恐山ァ!!」


「恐山、かるてに教えるだけ教えてやってよ、勿論一人で行かせるつもりなんてないからさ」


「……××市、××××の廃墟」


「…………」


「そんじゃ、私今から一人で行ってくる。大丈夫。フライパン持ってくから。アンチサイトの脳ミソ目玉焼きにしてやるよ」


 かるては部屋からいなくなった。駆け足で。


 まあ、まあ、まあまあまあ。


 かるてを一人でそんな場所に行かせる私らじゃない。何より、当たり前に、私達はかるてを助けたかった。そして、アンチサイトを絶対に許したりはしない。私達もアンティークアクセサリーを持って、かるての後を追った。



◆◆◆◆◆



「教祖サマおっそーい! 俺待ちくたびれちゃったぁ」


 癖のあるロン毛の神父服のコスプレをしているのは、轟沙汰高校三年生────揺器黎冥(ゆらき れいめい)


「教祖サマ教祖サマー、こうでいいのか?」


 包帯ぐるぐる巻きの神父服のコスプレ男、轟沙汰高校三年生────深船修羅(ふかぶね しゅら)


「怖いです、ここに異性の方がくるかもしれないなんて、嗚呼、怖い、怖い」


 茶髪おかっぱの糸目の神父服のコスプレ男―、轟沙汰高校三年生────茶々柱油芽(ちゃちゃばしらゆめ)


「…………」


 自信なさげな黒髪の陰湿そうな神父服のコスプレ美男子、轟沙汰高校二年生────乙坂純夜(おつさかじゅんや)


「純夜」


「は、はいっ! 何でしょうか、会長……」


「黙るな。いつもの救い様のないゲラはどうしたんだ。気分悪い。帰りたくなる。黙るな。また溺れたいのか」


「へ、へへ、へへへへへへ」


 会長、と呼ばれたシスターのコスプレ衣装を着て手を組み合わせる、シスターそのものに思える美少女否美少年は、轟沙汰高校三年生現生徒会長────ニール・リンカー。


 そして、予期せぬ足音が聞こえ、扉が開く。


「俺の名前は皆鴨柚月! 割にも合わず厨二病の信者共を根絶やしにする男だ!」


「僕もいまぁーすっ!」


 例の定規と縦がくっついた武器を構える柚月と、万年包丁をひらひらピースしながら見せびらかす業火。


 そして、五人の異質な男子達は、睨むでもなく蔑むでもなく怯むでもなく、ただただ笑顔で拍手をした。


────パチパチパチパチパチパチパチパチ……。


 静まると同時に、ニールは涙を流しながら二人に言った。


「……素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい! なんて健気な友情なのだろう。なんて情の熱い愛情なのだろう。劣情なのだろう。恋情なのだろう。ああ、なんて気色の悪い!!!!」


「どう? 自慰発言終わってすっきりした? 君達がどこぞのだれなのかすら知らないけど、この宗教団体はちと困る。何より柚木森さんの頼みだ、断れない」


「そして僕達をどうするのだ? ここはただの逸脱の過ぎるコスプレ会場なのだがね」


「そうだね、僕と柚月からしたら逸脱どころの騒ぎじゃあないけど」


「本当に、誰に命令されたとしても最低だよあんたら。俺がお前らに対して道を踏み外しそうになるくらいにな」


「勘違いするな──ここにあの金髪菌が来たとしても、何も酷い事をする気にならない。なれないのだがね。言論で弾圧し、自ら首を刈らせる事くらいしか思いつかないよ、ああ、ちなみにこれは僕の思想ではない」


「そういう感じで言うと思ったから、逆にボコされる気分をこれから味わいなよ、あ、僕の武器は一応人にむやみにむけると取り返しのつかない事になるので、皆鴨君、やっちゃえー!」


「ああ──もうやった」


「? …………!」


 ニールは気づいていなかったのか、後ろを向くと、四人の神父達の首には、三角定規が締められていた。三角定規の穴で締められていたのだ。四人はぐったりと倒れていた。


「どうしたクソガキ。子分がいなくなって怖くなっちゃいまちたか?」


「……おい」


「これくらいで怒るなんて、笑えるぜ。さあ、許してくださいと言え。警察に全員つきだしてやるからよ」


「おい──下男共! いつまで寝たフリをしているのだ!?」


「!?」


「っ……!」


 柚月と業火は確かに見ていた。唖然とした顔で三角定規の穴に首を締められる瞬間を。


 ぐったり倒れる四人はゆっくり起き上がり、その途端ピシピシと各々の首枷となる三角定規にヒビが入るのが分かる。


「あーもう会長、これくらいで不安にならないでくださいよぉ、ちぇ、もうちょっとで会長の泣き面見れたのに」


 と、黎冥。彼の首枷が割れる。


「あまりふざけ過ぎるのもよくないが、たまには悪くないな、こういうのも」


 と、修羅。彼の口枷も割れる。


「ふふ」


 と、油芽。彼の口枷も割れる。


「ごめんなさい会長……悪気なんてないですからねっ!」


 と、純夜。彼の口枷も割れる。


 まるで、遊んでいたのだと言わんばかりに、立ち上がって前へ出る。


 業火はやばい、と万年包丁を目の前にいる黎冥の肩に刺そうとしたが、片手で抑えられてしまう。


「危ないよ、こんなの持ってちゃ。お兄さん心配」


「っ……!」


 物凄い力で、口枷の腕を掴む。柚月はどうするすべもなく、あっさり修羅に押さえつけられてしまう。


「柚月!」


 結論から言うと二人は縄で縛られ、隅に置かれた。


「どうしようか、どうしようか柚月」


「喋るな……! 殺されるぞ!」


「僕は殺し等はしない。殺し等はしないが、その無様な姿、いつ限界が来るか見届けさせてもらうぞ」


 ニールは二人の目の前のパイプ椅子に座った。他の四人もパイプ椅子に座り、それぞれつまらなそうにしていた。


空知火(そらちか)の電話が来るまで、暇だ)


 そんな誰かの事を考えては、足で柚月の顔を軽く蹴る等していた。業火と柚月、絶体絶命のピンチである。しかし、業火はこころのどこかで、うまくいく様な気がした。そう。ニールは業火の希望を知らない。かるての事情を知らない。あちらであんな事が起きているとも知らずに。

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