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主人公 ヴェネット・リー・ウィルキンス
第一王子 エドマンド・ブラック・スコット
第二王子 ヴィヴィス・ブラック・スコット
ヒロイン ハナ・ジェーン・フー
「号外!号外だよ!!」
「…な、に…?」
けたたましい騒ぎ声でヴェネットは目を覚ました。時刻は10時。こんな時間に起きたのは初めてだった。きっと疲れからか、寝過ぎたのだろう。ヴェネットはベッドから起き上がり、周囲をキョロキョロと見回すがマリーはいない。彼女のことだ、ヴェネットのために朝食となるものを何か買ってきているのかもしれない。
ぐっと一度ベッドの上で伸びをする。外はまだ騒がしい。城下町の朝はこんな感じなのかと、まだ動かない頭でぼーっと考えていると急にドアが開く。
「ヴェネット!!これ見たか!?」
家に飛び込んできたマリーが焦ったようにヴェネットに何かを手渡す。なにも把握できていないヴェネットは、ぼーっと彼女から受け取った新聞に目を通す。
「え、うそ」
サーっと全身の血の気が引いていくのがわかる。
号外には大きな見出しで、 “第二王子ついに帰国“ と記載されているが、頭がうまく回らずそれ以外の文字が読めない。
「あいつが帰国したのは今日の早朝らしい。それで今日の昼頃にあいつの帰国を祝うパレードが行われるらしい。」
「.…」
ヴェネットは言葉が出なかった。彼女の予想通り、ヴィヴィスは予定よりも1ヶ月もはやく帰国した。しかも、ヴェネットが王宮を抜け出した直後である。
この時彼女の心を占めていたのはヴィヴィスが帰国する前に逃げ出せて良かったという感情より、もしかしたら彼の妻になってしまっていたかもしれないという、凄まじい恐怖が大半だった。
「ヴェネット、ヴェネット!
どうする?お前がいますぐここから逃げたいというのなら、私がいろいろ手筈を整える。まだ、ここにいたほうがいいと思うのならここにいてもいい」
ヴェネットの計画としては、平民となった後はヴィヴィスが帰国する前に出来る限り早く他の国へ逃げる予定だった。ただ、もうヴィヴィスが帰国してしまい、しかも帰国後かなりの時間が経っている。ヴィヴィスのことだ、なんとか国王や王妃を言いくるめて、もう国境で取り締まりの体制を敷いている可能性が高い。そうなるとこの国から逃げることは難しくなる。
「ごめん。私が昨日休むように促したから」
「ううん!全然、マリーのせいじゃないわ!まさか、今日彼が帰国するとは思っていなかったし、私も昨日は疲れていた。あとはできるだけ遠くに移動するだけだったから油断していたわ。」
ヴェネットが何も言えずに考え込んでいると、マリーが謝罪の言葉を口にした。しかし、マリーは何も悪くない。実際昨日は隣国へ行く馬車は動いておらず、平民となってしまったヴェネットが他国へ移動するのは難しかっただろう。とにかく気持ちを切り替えて、どうするか考えなければ。
「…今、下手に動いたら見つかってしまう可能性も高いし、もし見つかってしまったらマリーも処罰されてしまうわ。だから、申し訳ないけどもう少し情報を集めてきてくれると助かるわ」
「ああ、私もそう思う。とりあえず、今からもう一度町に出て、私が情報を集めてくるから、ヴェネットはここにいてくれ」
「ええ、ええ、本当にたくさん迷惑をかけてごめんなさい」
「…」
マリーに謝った後に、ヴェネットは思わず泣き出しそうになってしまう。ヴィヴィスに見つかるかもしれないという恐怖と大切な友人であるマリーに頼りきりで、しかも彼女を危険に晒しているからだ。
「…ヴェネット。
謝らなくていい。悪いのはお前じゃない。悪いのはすべてあいつだ。お前は自分のために、自由のために戦っているだけだ。謝る必要なんて全くない。それにお前はあんな突拍子もない計画を立てて、実行して、成功させることができたんだ。大丈夫、今からもうまくいくよ」
「マリー…」
マリーはそんなヴェネットの気持ちを察したのか、ぎゅうっとヴェネットの両手を握りしめ、優しく彼女に話しかける。そのとき初めて、ヴェネットは自分の両手がブルブルと震えていることに気がついた。
「それに、私は全て私のためにやっている。ヴェネットが気にすることはないよ」
「でも、私を匿っていたことがもしバレてしまったら、あいつのことよ、何をしでかすかわからないわ」
思わず瞳が濡れる。子供のように大声で泣き喚きたい気持ちになる。
「ヴェネット、私の目を見ろ」
青色に光るマリーの目を見つめる。涙でぼやけてうまく視点を合わせられない。
「私とお前がいれば、絶対うまくいく。絶対に失敗しない」
なんの根拠もない言葉だった。しかし、ぼやける視界の中でマリーの確信が感じられた。そして、有無を言わさずに頷かせるような不思議な説得力でヴェネットは無意識にこくりと頷いていた。
「よし!じゃあ、私は外に出て第二王子の動向について探ってくる。お前はとりあえずこれに着替えて、いつでも逃げられる準備をしておいてくれ。」
「…わ、わかったわ」
マリーに手渡された服を受け取りながらこくりと頷く。その際にポロリと堪えていた涙がこぼれ落ちる。
「それからこれ」
マリーが小脇に抱えた紙袋から美味しそうなパンを取り出し。
「腹が減っては戦はできぬだ。食え」
「…うん。ありがとう」
マリーはニヤリと子供っぽく笑うと、紙袋を置いて外へ出て行った。その顔を見て、先ほどまでの恐怖や罪悪感は薄れていった。
そうよ、ヴェネット。
私は1人じゃない。マリーがいるんだもの、きっと大丈夫よ!
よくわからない自信が湧き、こうしちゃいられないとヴェネットも立ち上がり、朝の準備を始めた。
朝の準備といっても、そんなにすることはない。洗顔し、髪を整え、マリーから受け取った服に着替える。基本的女性はスカートを着るのが普通だが、マリーはスカートは動きにくいから嫌いと一枚も持っていない。ほとんど初めて着るズボンは変な感じだ。
着替えが済んだ後、マリーが買ってきてくれたパンを一口食べる。素朴な味がする。朝から豪華な食事を食べていたヴェネットにとってはあまりに質素だが、それがよかった。たまらず二口目に齧り付く。そして、見たくはなかったが、もう一度新聞に目を通すことにした。先ほどは混乱してしまい、あまり内容を読み込めていなかった。こうなることは予想していたが、起床した直後ということもあり、思った以上に動揺してしまったようだった。
新聞を読む前に深呼吸をする。オイルの匂いが鼻をくすぐる。新聞に目を向ける前に、くるりとマリーの部屋を見渡すと、様々な形、種類の時計が至るところにひしめいている。それもそのはずだ、マリーは時計の修理を生業としている。彼女の祖父が時計職人でその影響らしい。彼女に会いに行くとき彼女からはいつもオイルの匂いがして、顔も汚れていた。女性としては美しいとはいえないだろう、だけど、真剣な表情で時計の修理をしている彼女はいつも輝いていて、誰が何と言おうとこの世で一番美しい姿だった。
オイルの匂いの中で、ふとヴェネットはマリーの存在さえもすでにヴィヴィスにバレてしまっているのではないかと疑った。マリーとはヴィヴィスが留学中に出会っており、また彼女と会うときはいつも使用人もつけずお忍びで城下町に来ていた。昨日彼女の家に来る際にも、彼女の家が馬車の従者に特定されないように最新の注意を払っていた。バレるわけはないのだ。しかし、どうしても最悪を思い描いてしまう。
フルフルと頭を横に振り、そんな考えを振り払う。とりあえずはマリーから渡された新聞に目を通すのが先だろうとやっと新聞に目を向ける。新聞にはデカデカと "第二王子本日帰国" と書かれている。本来の予定では帰国まであと一ヶ月あったが、持ち前の頭脳を生かし、巻いて終わらせてきたようだ。まあ、ヴィヴィスほどの頭の良さならそんなこともあり得るだろう。そしてもう一つ驚いたことがある。本当は彼は昨日帰国する予定だったようだ。幸運にも馬車が壊れてしまい、それを修理するために一日費やしてしまったようだ。ヴェネットは思わず神に感謝した。
ヴェネットは新聞を一通り読み終えると、持ってきた鞄をゴソゴソと探る。そこから、旅行券と身分証明書を出す。国から出るために必要な書類だ。これもヴィヴィスが留学中に手配したものである。この二つの書類もマリーに手伝ってもらい、裏の方から作成してもらった。ヴェネットが貴族であったならすぐに手配できていただろうが、平民となれば話は別である。しかも、旅行券も身分証明書も取得するのに時間がかかる。そしてそのことを事前から知っていたため、あらかじめ、偽装の旅行券と身分証明書を確保したのだ。
しかし、この二つももう意味をなさないかもしれない。今、マリーが情報を集めてきてくれているが、多分国を出るのに検閲を超えることが必要となるだろう。そしてその検閲をヴェネットは超えられる自信がなかった。なぜならヴェネットの瞳は特徴的な色合いをしており、それをヴィヴィスも知っているからだ。彼女の美しい桃色の瞳は大変珍しく、この瞳の色は家族の誰からも受け継いでいない。そのため最初はよその子だと疑われたが、成長するにつれ母親に似てくる容姿に、それはただの杞憂であったことがわかった。
そのため、検閲では確実に目の色を確かめられるだろう。そしてこの時代には目の色を誤魔化せるような技術などない。目が見えないと嘘をついても、逆に怪しまれてしまうだろう。
そう、つまり検閲がもう敷かれているのであれば、ヴェネットがこの国を出るのは大変難しいのである。
しかし、このような考えはただの杞憂で、検閲など行われていない可能性もある。マリーにヴィヴィスの帰国を伝えられた直後は悪いことを想像してしまい、検閲が引かれている可能性を考えた。しかしヴィヴィスはこの国の第二王子とはいえ、権力的にはまだまだ弱い。国境の閉鎖もしくは検閲などを訴えても施行されない可能性が高い。なぜならヴェネットはもう貴族ではなくただの平民であり、連れ戻す必要などないからだ。そしてこのようなことに人員を割くのはあまりにも馬鹿らしいことだ。そう、頭では思っていても、嫌な予感は止まらない。そんな人間であったなら、彼女は貴族社会から逃げずともうまくやっていけただろう。彼女は彼の彼女への執着を誰よりも理解していた。
「やられたよ」
難しそうな顔をし、マリーが帰宅した。
「国境は開いてはいるが、検閲が始まっている。今からこの国を出ようとしても捕まるだろうな」
「…やっぱり、そうなのね」
悪い予感とは当たるものである。むしろ今までがうまくいきすぎたせいかもしれない。
「正直まだわかってないことも多いんだが、あのバカ王子のポケットマネーかなんかを使って無理やり検閲をしているらしい。本当は国境を閉じる予定だったが、それは国王様に止められたそうだ」
ふうとため息を吐きながらマリーは勢いよく椅子に腰掛ける。いつの間にやらあいつからバカ王子に名称が変わっている。
「ポケットマネーということは、いつかお金は尽きるし、国王陛下もいつまでも検閲することをお許しになるわけはないわ。とりあえず今は動かずに、申し訳ないけどマリーの家で匿ってもらっていた方がいいわね」
「まあ、私はヴェネットと一緒に入れて嬉しい限りだけどな」
にやっといたずらっ子のようにマリーは笑う。彼女のこういうところが本当に好きだ。
「ありがとう、マリー。私もよ。このままマリーと一緒に暮らして行けたら一番いいのだけどね」
「嬉しいこと言ってくれるね。私もお前と一緒に他の国に行くのもいいな」
ふんふんと鼻歌混じりにマリーは答える。表情からお世辞ではなく、本心で言っていることが伝わる。そうなってくれたらヴェネットも嬉しいと本気で思っている。
「まあ、今日は私も仕事は休みだし、ゆっくり過ごそう。クソ王子が帰ってきて、焦ったがすぐに居場所はバレるわけじゃない。なんなら焦って行動した方がボロが出る。…なんならお祝いでもするか?」
またいたずらっ子のように笑うマリーは本当に可愛い。
「私お祝いより、いつもみたいにマリーとお話がしたいわ。」
「ふふ。結局それが一番楽しいよな」
豪華絢爛なお茶会よりも、何よりもマリーと話すことが一番楽しい。マリーもそう思ってくれていたら嬉しい。
結局その日は丸一日マリーと色々なことを話した。いつか話すことが尽きるのではと思ったが、そんなのはただの杞憂で、話せば話すほど、どんどんと話したいことが溢れてくる。マリーが作ってくれた昼食と夕食は驚くほど美味しくて、マリーを褒めたら、照れくさそうに笑うだけだった。そんな温かいやりとりが久しぶりでたまらなく幸せだった。
眠りにつくときも幸せな気持ちだった。
そう端的にいえば油断していたのである。
「ヴェネット!」
耳元で囁き声が聞こえる。目を擦る。またもや寝過ぎたと思ったが、時刻は朝の5時。寝過ごしてはいない。しかし焦ったようなマリーの声で全てを察する。
「隠れろ!」
家の外でドタドタと激しい音がし、瞬時に覚醒する。素早く自分の全ての荷物、痕跡をまとめマリーに促された場所に隠れる。確定はしていないが、早朝からヴェネットを探すために、騎士団が回って来ているようだ。きっと、あえて早朝に尋ねることで、油断を誘おうとしたのだろう。
ヴェネットが隠れ終わったその瞬間にどんどんと強めのノック音が響く。心臓が高鳴り、額から大量の汗が流れ落ちる。
「なんだい?朝っぱらから」
ドアをあけ、不機嫌そうな声でマリーは尋ねる。
「第二王子の指令により現在この女を探している。この女に見覚えはないか。桃色の瞳が特徴的だ。」
高圧的な声がヴェネットの耳にも響く。何も見えないが、多分ヴェネットの似顔絵か何をマリーに見せているのだろう。
「…知らないね。」
数秒間があき、マリーが不機嫌そうに答える。
「それは本当か?もし匿っていたりなどしたら、どんな罰が降るかわからんぞ」
「知らないものは、知らないよ。もう、いいだろ。仕事の準備をしなきゃならないんだ。はやく帰ってくれよ」
しっしっとマリーが彼らを手で追い払うジェスチャーをする様子が頭に浮かぶ。
「…そうはいかんのだよ。言葉ではなんとでも偽れるからな。…中に入らせてもらおう」
「ちょっ!おい、勝手に入るなよ!」
だんだんだんと足音が響く。何人分の足音か判別できないが、とにかく多くの人がマリーの家に入ってきたのがわかる。
呼吸が荒くなり、汗は絶えず吹き出ている。
「待てって!」
「おい!勝手に物品に触るな!」
マリーの怒鳴り声が響く。音から察するに彼らは彼女の声を無視し、部屋のあちこちの捜索を行なっているようだ。
「隊長!このベッドの下に何かあるようです!」
声が響き、ヴェネットの胸がどきりとなる。
「…どこだ。」
隊長と呼ばれた人物であろう、ぴたりとやんだ足音の中でその人物の足音だけが響く。
「おい!家主の意見を聞かずに勝手に開けようとするなよ!」
マリーの怒声が響く。離せよという声が聞こえるため、マリーは拘束を受けているようだ。
そんな声などおかないましに、彼の足音はベッドに近づき止まる。ギギギっとベッドが動いている音だろう。頭上から嫌な音が聞こえる。ヴェネットの心臓は痛いほど高鳴っている。
「これか。」
ベッドの下から現れた、何かに隊長は目をやる。
「あけろ」
「はい!」
扉のような何かがあったのだろう。ギギギっと音が響く。
ヴェネットは体を小さく折りたたみ、両手を胸の前で組み、お願いやめてと心の中で叫ぶ。握り締めすぎた両手は恐怖で真っ白く、冷たくなっている。
そんなヴェネットの願いなど虚しく、がたんと扉が完全に開く。マリーはずっと声を上げている。
「…なんだこれは」
扉の先を見た、隊長と思わしき人物が、少しばかり困惑した声を上げる。
「時計?のようですね。…壊れているようですが」
「触るな!私の宝モンだよ!」
マリーの声にははっきりと怒りが混じっている。
「はあ、紛らわしいことを。撤退だ。邪魔して悪かったな」
がたんと扉を閉めたであろう音が響き、続いて多くの足音が響く。
「権力を使ってやりたい放題だな。二度とくるなよ」
「…口には気をつけたほうがいいぞ、小娘。裁かれないことに感謝するんだな」
忌々しそうに吐き捨てるマリーの声が聞こえる。そしてバタンと強く扉が閉められ、思わずヴェネットはびくりと肩を振るわす。
しばらくの沈黙の後、ギギっと音がし、頭上からあかりが差し込む。
「ヴェネット、大丈夫だったか」
「ああ、マリー、マリー」
思わず泣き出しそうな顔をしたマリーに下から抱きつく。涙を浮かべ震えるヴェネットの肩をマリーは彼女の震えを止めるように強く抱きしめ返す。
ヴェネットは地下の収納庫に隠れていた。実はマリーの家には2つ、地下に収納庫があり、ヴェネットはもう1つの収納庫に隠れていたのである。マリーの家は自宅兼仕事場で、彼女が作業する場所、そして生活する場所と顧客の待合所を隔てるように、長い机が設置してある。その机は固定されているように見えるが、実は一部は後から設置しており、その部分だけ動かせるのである。そしてその机に隠れるようにして、地下に収納庫があり、ヴェネットはその狭い収納庫に身を隠していたのだ。
恐ろしい時間だった。ほんの数分だっただろうが、ヴェネットとマリーにとっては恐ろしく長い時間だった。
「どうしよう、マリー。このままじゃ私見つかっちゃうわ」
瞳にいっぱいの涙を溜めながら、ヴェネットはマリに言う。声は酷く震えている。
マリーは何も答えずにぎゅうとヴェネットを抱きしめる。はらはらとヴェネットの瞳からは涙が流れ落ちる。ヴィヴィスに捕まるのが堪らなく怖い。こんな思いを一体後何回繰り返せばいいのだろうか。
どれくらいそうしていただろうか。ヴェネットの啜り泣きだけが聞こえる。
「…これは最終手段だと思っていたんだが」
マリーが徐に声を出す。
「あんなところに行かせるなんて馬鹿なことはわかっている。お前の身も心配だし、助かる保証もない。」
「…?マリー、なんの話をしているの?」
ぶつぶつとマリーは独り言のように呟く。ヴェネットは何もわからず、呆然とし、少し涙が引っ込んだ。
そして、マリーは急にヴェネットの体を引き剥がし、ヴェネットを見つめると、決心した顔でこういった。
「魔界だ、魔界に行くんだよ」
「…え?」
ヴェネットの掠れた声が部屋の中に静かに響いた。