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妹のお願い

何とか父を止めることができたクラウディアは、若干よろよろとしながら自室に戻るために廊下を歩いていた。

前から歩いてきていた妹のシルヴィアがクラウディアを見つけて駆け寄ってくる。


「あ、お姉様! お父様とのお話は終わりまして? 少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、いいわ」

「ありがとうございます」


クラウディアはシルヴィアに腕に腕をからめられて、そのままシルヴィアの部屋に連行された。




目の前にはクラウディアの好きな領地で作られているお茶が出された。

ティーカップを持ち上げて一口飲む。

心が緩やかにほどけていくようだ。


「やっぱりラグリー領(うち)のお茶は美味しいわね」

「当然ですわ。どんな高級なお茶でもラグリー領(うち)のお茶には(かな)いません」


自慢げにシルヴィアが言う。

クラウディアもそうだがシルヴィアも、ラグリー領もそこに住む領民もみんな自慢なのだ。


「そうね」


お茶を飲んで一息ついたところでシルヴィアが本題を切り出した。


「お姉様、いつ領地に帰られますか? その時にご一緒したいのですが」


すぐにその理由にピンと来る。


「また仕入れかしら?」

「ええ。そろそろ仕入れに行こうかと思いまして。お姉様、是非ご同行くださいね」


シルヴィアは領民が作ったものを買い取り、王都で店を開いているのだ。クラウディアもお世話になっていて色々作ったものを買い取ってもらっていたりする。


定期的に仕入れられるものは、シルヴィアではなく家の者が買い取りに行って王都まで運ばれてくるらしい。

その他の不定期に作られるものーー主に手作業で作られる小物類などをシルヴィアは直接足を運んで買いつけてくるのだ。


仕入れにはよくクラウディアも同行していた。

領民たちが作るものも興味深いし、どういうふうに作ったのかとか、どうしてそういうアイデアが生まれたのかとか、話を聞くのも楽しい。

お互いに刺激し合って新たなアイデアが浮かぶことも多い。

それがわかっているからシルヴィアはクラウディアを一緒に連れていってくれる。


だから是非とも一緒に行きたいのだが、今回は断るしかない。とてもとても残念だが。


「急ぎなら悪いけど一人で行ってくれる? 私は当分王都にいるわ」


シルヴィアの持つティーカップが揺れてお茶がこぼれそうになる。

それに気づいたシルヴィアはティーカップを置いたが、がちゃんと音を立てていた。


「お、お姉様、どうなさったの!? あ、何か気になるものが王都にありましたか!?」


クラウディアは妹の動揺に苦笑する。


「シルベスター様の一件があったでしょう? ヴィヴィアンとアーネスト様が気を遣っていろいろ出掛けようと提案してくださったのよ。せっかくだから今シーズンくらいは王都にいようと思って」


それを聞いてシルヴィアは落ち着いたようだ。


「ああ、シルベスター様。あの見る目のない方ですね」


声が冷たい。

シルベスター侯爵令息に見る目があるかないかはクラウディアにはわからない。


「そういうことならばわかりましたわ。まだ余裕はあるのでもう少し様子を見ます。もしお姉様が急遽(きゅうきょ)領に戻られる時は一声お声掛けくださいまし」

「わかったわ」


さすがに誰にも言わずに領地に帰るようなことはしない。

表情をきらきらさせたものに変えてシルヴィアがクラウディアに言う。


「お姉様、せっかくですからわたくしともお出掛けくださいましね」

「いいわよ」

「本当ですか!? 楽しみにしておりますね」


嬉しそうにシルヴィアは微笑(わら)う。

そんなに喜んでもらえるなら、今シーズンだけでも王都にいて妹に付き合うのも悪くないかもしれない、と思った。


読んでいただき、ありがとうございました。


※家の者=ラグリー伯爵家の使用人、です。

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