侯爵からの手紙
「お帰りなさいませ、クラウディアお嬢様。戻ったら顔を出すように、と旦那様の仰せです」
「お父様はお帰りなの?」
「はい。書斎にいらっしゃいます」
「わかったわ。着替えてから行きます、とお父様に伝えてくれるかしら?」
「かしこまりました」
「お願いね」
クラウディアはキティを連れて一度自室に戻った。
着替えを済ませて書斎に行くとすぐに中に通された。
「ただいま戻りました」
「ああ、クラウディア、お帰り。これが届いたから中身を確認してくれ」
父に渡されたのはシルベスター侯爵からの手紙だった。
クラウディアは手紙を開いて読む。
内容は子息であるギルベルト・シルベスター侯爵令息の件での謝罪と慰謝料の額についてだった。
想定より多い。
多い分は孤児院への寄付と領民のための積み立てのほうに回そう。
ああでも、教会にも寄付したほうがいいわね。
孤児院は領内だけでなく、王都のほうのも寄付しておいたほうが無難だわ。
「クラウディア?」
「確認しました。問題ありません」
「額もそれでいいか? 少ないようならもう少し出してくれるだろう」
恐らく口止め料も含まれているのだろうが十分な額だ。
欲を出してシルベスター侯爵家の不興を買うのもよくない。
「いえ、想定より多いくらいでした。多い分は積み立てと孤児院と教会への寄付に回そうと思うのですが、孤児院は物のほうがいいでしょうか?」
こういうことは父に伝えておいたほうがいい。
そして、父の判断を仰ぐのが正解だ。
「孤児院はどこに寄付するつもりだ?」
「王都と領内のと両方ですね」
父はふむと頷いた。
「王都のほうは現金のほうがいいだろう。領内のほうは物のほうが助かるかもしれん。直接聞いてみなさい」
領内の孤児院には時々顔を出しているので、確かに直接聞いてしまったほうがいい。
「はい。教会と王都の孤児院への寄付はお父様にお任せしても構いませんか?」
「そのほうがいいだろう。納得したなら今返事を書いてしまいなさい」
「はい」
父の執務机を借りて、父監修のもとシルベスター侯爵に全て了承の返事を書く。
あとで父の書簡と一緒にシルベスター侯爵家へと送られることになった。
ふっと力を抜いた父がクラウディアを見た。
「クラウディアはいつ領地に戻るんだ? 慰謝料が送られてくるまではある程度時間がかかるだろう。なんなら私が立て替えてお前にすぐに渡してもいいが?」
用事がなければすぐに領地に戻っていたので、父は今回も当然そのつもりだと思っているのだろう。
クラウディアもヴィヴィアンに会いに行くまでは、あと二、三日したら領地に帰るつもりだった。
だが状況が変わった。
「私はしばらく王都にいますわ」
父が驚きに目を丸くし、クラウディアの額に手を当ててくる。
「熱はないな。具合は? どこか具合の悪いところはないか?」
本気で心配してくれているのはわかる。
わかるのだが、ちょっとおかしい。
「お父様、体調は大丈夫です。ヴィヴィアンとアーネスト様と約束があるのでしばらくこちらにいるだけです」
「そうか」
父は深く安堵したようだった。
いくらなんでも王都にいるだけで体調を崩したりはしない。
「ヴィヴィアン嬢とアーネスト様……アーネスト様か」
「はい。王城で今回の一件を聞いたようで心配してくださったのですわ」
「そうか。アーネスト様は最近婚約も解消されているしな……問題はないか……」
父もアーネスト様が婚約を解消されたことを知っていたようだ。
こうなると知らなかったのはクラウディアだけかもしれない。
すぐに気持ちを切り替えたのか父は真面目な顔でクラウディアを見た。
「とにかく領地に帰る時はきちんとその旨を告げてから帰るように。それからヴィヴィアン嬢とアーネスト様に迷惑をかけないようにしなさい」
子供へするような注意をされてしまった。
「わかっていますわ」
「何でもかんでも自分の興味に走るのではないぞ? ちゃんとお二人のことも考えて行動するのだぞ?」
「大丈夫ですわ」
本当に大丈夫か? と顔にでかでかと書いてある。
「アーネスト様に手紙を出しておいたほうがいいか……?」
ぶつぶつとそんなことまで言い出した。
「おやめくださいませ。私は小さい子供ではありません」
「だがなぁ」
「だがなぁ、ではありません。絶対におやめください」
「ほら、お前が迷惑をかけないかも心配だしなぁ」
「迷惑なんてかけませんわ。信じてくださいまし」
「信じてやりたいが、でもなぁ」
止めたいクラウディアとのらりくらりと躱す父との攻防はしばらくの間続いた。
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