お出掛け計画
アーネストが買ってきてくれたお菓子をつまむ。
美味しい。
思わず顔が綻んだ。
「このお菓子、美味しいですわね。どちらのものなのでしょうか?」
「では今度行ってみるかい? コルム通りにある店のものだよ。カフェも併設してあったし、そこでお茶をして帰りにお土産に買うのはどうだい?」
自分用ではなく家族や使用人に食べさせてあげたいということまで見透かされている。
「あら、素敵ですね。そうだわ、お買い物に行って、そのカフェで一休みするのはどうかしら?」
ヴィヴィアンが手を打って提案する。
「いいんじゃないか? どうだろう、クラウディア嬢?」
「ええ、いいと思いますわ」
反対する理由もない。
一緒に出掛けるなら手始めに買い物は悪くないだろう。
「お兄様、今度のお休みはいつですか?」
「次の公休は三日後だな。まず間違いなく休日出勤はさせてもらえないだろう」
余程のことがない限りはそうだろう。
それにしてもさすがは仕事中毒だ。本来なら休日でも働きたいのか。
「わたくしも三日後なら空いていますわ。クラウディアはどう?」
「私はすぐに領地に帰るつもりだったからずっと予定は入っていないわ」
しばらく王都にいるならあちこちに出掛けるつもりではあるが、それは約束のない日にすればいい。
「では、三日後に一緒に出掛けようか。朝に迎えに行くから」
「ありがとうございます。お待ちしておりますわ」
「もし、何か用事が入ったら遠慮なく言ってくれて構わないから」
「はい。ありがとうございます。アーネスト様もヴィヴィアンも用事が入ったならそちらを優先していただいて構いませんから」
「いや、できるだけクラウディア嬢を優先するよ」
「わたくしも」
当たり前の顔でそう言われる。
そこまで気にかけてもらわなくても大丈夫だ。
「いえ、本当に。お付き合いもあるでしょうから、私のことはお気になさらず」
だが、二人はさも当然、というように言う。
「今、クラウディア嬢のこと以上に優先するものはないかな」
「わたくしも」
ヴィヴィアンは親友だからそう言ってくれるのはわかる。
だがアーネストは、妹の友人で、友人の妹というだけだ。
それだけの関係なのにクラウディアに心を配ってくれるアーネストは本当に優しい人だ。
「ありがとうございます」
二人は優しい微笑みを浮かべた。何故?
今のやりとりにそんなふうに微笑むような要素があっただろうか?
クラウディアが内心で首を傾げているとアーネストが話を戻した。
「あとはどこに行こうか? 何か欲しいものがある?」
誰かと買い物に行く時は、だいたい同行者の行きたいお店に行く。
欲しいものがある時は侍女を連れて一人で買い物に行っていた。
だから改めて訊かれると困る。
クラウディアが答えられないでいると、ヴィヴィアンが助け船を出すように言う。
「あら、当日ぶらぶらと歩いて気になったお店に入ればいいではありませんか」
あの辺りは比較的治安がよく、高級店も多いため、貴族の子女がよく出歩いている場所である。
クラウディアも妹や母と行ったり、ヴィヴィアンと行ったりすることもある場所だ。侍女だけを連れて行ったこともある。
「ああ、そうだな。もし買いたいものがあれば当日に言ってくれれば寄るから」
「はい」
「ありがとうございます」
「お兄様も寄りたいお店があればおっしゃってくださいね」
「うん、そうさせてもらうよ」
「ああ、でも、お昼はお兄様のお勧めのところに行きたいですわ」
妹の可愛らしい我が儘にアーネスト様は優しく頷いた。
うちとは大違いだ。
「わかった。クラウディア嬢もそれでいいかな?」
「ええ、構いません」
「苦手なものはあるかい?」
「いえ、特にはありませんわ」
アーネストが微笑みを見せる。
「よかった。では昼食は私の馴染みのところを予約しておくよ」
「楽しみにしていますわね、お兄様」
「クラウディア嬢も楽しみにしてくれていいよ。味は保証する」
「はい。楽しみにしていますね」
クラウディアは微笑んだ。
何だかんだで出掛けるのが楽しみになってきた。
読んでいただき、ありがとうございました。