伯母からの手紙
「失礼します。クラウディアお嬢様、お手紙が届いております」
「まあ、誰からかしら?」
クラウディアは手紙を書くのももらうのも多い。
届けられる度に持ってきてもらうのは大変なので毎朝まとめて持ってきてもらうことにしている。
届いてすぐに持ってくるものはすぐに返事が必要なものと、待たせるわけにはいかないような人物の時だけだ。
「クノス公爵夫人です」
「まあ、伯母様から。何かあったのかしら?」
クノス公爵夫人は母の姉だ。
クラウディアの刺繍やレース編みの師匠でもある。
彼女はその腕で先代の公爵夫人に気に入られ、嫁入りしたのだ。
今では公爵夫人として如才なく辣腕を振るっている。
「すぐにお読みいただけるように封だけは開けさせていただきましたが、中身は見ておりません」
「ありがとう」
トレーの上から手紙を取り上げる。
「失礼致します」
一礼して彼は部屋を出ていった。
すぐに封筒から便箋を取り出す。
広げて文字を追う。
読み進めるうちに頭痛がしてきた。
思わずこめかみに手を当てる。
「お嬢様、どうなさいましたか?」
キティが心配そうに訊いてくる。
「伯母様が会いたいそうなの」
「それで何故そのような憂鬱顔なのですか?」
伯母とは頻繁にというわけにはいかなかったが、呼ばれれば会いに行く仲だ。
だから別に会うことは憂鬱ではない。
問題なのは書かれている内容だ。
「お父様に贈ったリスのハンカチが見たいそうなのよ。一体どこまで話が広がっているのかしら?」
伯母は公爵夫人という立場から耳が早い。
それにしても、だ。
話は王城内にとどまらないということか。
キティには父に贈った刺繍のハンカチが王城内で話題になっていることは話してある。
「公爵夫人は耳が早うございますからね。まだそれほどではないのではありませんか?」
慰めるようにキティが言う。事実、慰めでしかないのだろう。
「……そうね」
本当にそうだったらどれだけいいか。
クラウディアは一つ溜め息をついて気持ちを切り替えた。
「伯母様に返事を書くわ。便箋を用意してくれる?」
「どのようなものになさいますか?」
「そうね。格式の高いものをいくつか出してくれる?」
伯母とはいえ公爵夫人だ。それなりのもので出さないと失礼にあたる。
「承知しました」
キティが一礼してクラウディアの傍を離れる。
伯母と会うのは嫌ではない。
彼女に会うのなら自分で刺繍を施した外出着がいいだろう。
今の自分の腕を見てもらえる。
まだ刺繍していない外出着があるだろうか?
なかったら手持ちのものに刺繍を足してもいいかもしれない。
これもキティに後で確認しよう。
もう一度手紙を読み直す。
内容は、久しぶりに気軽にお茶をしましょう、というものだ。
父のハンカチが見たいということ以外特に何の要求もない。
本当に久しぶりに会いたいだけのようだ。
伯母に会うのはクラウディアも楽しみだ。
だが父からあのハンカチを借りることはかなり面倒くさいことになりそうだ。
早いうちに話は通しておいたほうがいいだろう。
きっとごねられるだろう。
その想像までついてクラウディアは思わず溜め息をついた。
読んでいただき、ありがとうございました。




