似た兄妹とほどほどの兄妹
扉が叩かれた。
ヴィヴィアンが「どうぞ」と言うと、扉が開かれ彼女の兄アーネストが入ってきた。
「やあ、クラウディア嬢、来ていたのか。ちょうどいい、お菓子を買ってきたからよかったらどうぞ」
「お邪魔しておりますわ。そしてお菓子をありがとうございます」
アーネストは侍女に紙袋を渡して指示を出すとテーブルのほうに寄ってきた。
「ご一緒しても?」
「ええ、もちろん構いませんわ、ねぇ?」
ヴィヴィアンが言い、クラウディアももちろん頷いた。
「ええ、もちろんです。今日はお仕事ではなかったのですか?」
「お前は働きすぎだって職場を追い出されてしまったよ」
常に忙しい王城の文官をやっていて、それでも働きすぎだと追い出されるほどの仕事ぶりとはさすが仕事中毒者だ。
彼が椅子に座るとすかさず紅茶が出される。
侍女に「ありがとう」とお礼を言ってから口をつける。
よく似た兄妹だ。
榛色の髪に琥珀色の瞳という柔らかい色合いで、顔立ちも優しい顔立ちをしている。
髪質も似ているのか二人とも柔らかくウェーブがかかっている。
目尻もやや下がり気味でそれがなおさら柔らかい雰囲気を出している。
こうやって並べばすぐに兄妹とわかる。
翻って自分たち兄妹はどうかと思い返す。
瞳の色はみんなばらばらだ。
兄のロバートは青い瞳で、クラウディアは菫色の瞳、妹のシルヴィアは紫色だ。
髪の色も兄と妹は真っ直ぐな黒髪だし、クラウディアは濃い焦げ茶色の髪でわずかに癖がある。
兄は目つきがやや鋭いが、顔立ちが中性的なのでうまく中和されている。
妹は切れ長の目が涼やかで声は鈴を鳴らしたようなもの。結果、受ける印象は何故か可愛らしい、というものだ。
対してクラウディアは同じように切れ長の目なのだが、ややつり上がり気味なので気の強い印象を周囲に与える。
二人ずつで並ぶとあまり似ていないのだが、何故か三人で並ぶとしっかりと兄妹に見えるのだ。
それぞれの似ているところと似ていないところが三人揃うと妙に噛み合うのだろう。
「クラウディア、どうかした?」
ヴィヴィアンが軽く首を傾げて訊いてくる。
「あっ、ごめんなさい。お二人はよく似ているなとふと思って。それに比べたらうちはあまり似ているとは言われないわね、と考えてしまって」
そう正直に告げるとアーネストはきょとんとしてヴィヴィアンは納得した顔になる。
「似ていない? そうだろうか? そんなふうに言うとロバートが泣くよ?」
「三人並べば不思議と兄妹に見えるのですが、二人ずつですとあまり似ていないのですわ」
「そうね。お二人ずつだと、対照的なところばかり目が行くわね」
「ああ、言われてみればそうか。きっとそれぞれが魅力的だからそちらに目が行ってしまうのだろう」
自然に褒めてくれる。
これはお世辞ではなく彼の素だ。
「ありがとうございます」
「本当のことだ」
「お兄様、これでどうしてモテないのかしら?」
嘆くようにヴィヴィアンが言う。
「こんなに魅力的な方なのにモテないの?」
それは不思議だ。
「そうなのよ」
「婚約者がいたのだからモテる必要はないだろう」
アーネストが苦笑して言う。
「きっと仕事中毒がすべてを打ち消してしまうのだわ」
「そもそも夜会とかにあまり出られないからアーネスト様の魅力を知る方が少ないのではなくて?」
「ああそうかも。クラウディアと同じね?」
ヴィヴィアンが悪戯っぽく笑う。
「私と一緒にしたら失礼よ」
「いや、私と一緒にした方が失礼だろう。クラウディア嬢は魅力的だ」
ヴィヴィアンがころころと笑う。
「お兄様とクラウディアのほうが似ているわね。わたくしとお兄様が似ているところなんて色彩くらいよ」
「えっ、そんなことないわよ。顔立ちも雰囲気も似ているし、優しくて素敵なところもそっくりよ?」
びっくりして思っていることをそのまま言ってしまう。
「わたくしのことを優しいと言うのはクラウディアくらいね」
「私も優しいと言われたことはないな」
それは不思議なことだ。
ヴィヴィアンもアーネストも優しいのに。気づかれていないだけなのだろう。
何とももったいないことだ。
「それは皆様損をなさっていますわね」
「わたくしはクラウディアがそう思ってくれているだけでいいわ」
「私もだな」
「お二人ともやはり似たもの兄妹ですわね」
クラウディアのところとは大違いだ。
見た目もそこそこしか似ていないが、性格はもっと似ていない。
いや、一つのことに熱中した時の集中力の凄まじさはそっくりか。
ということは、性格もそこそこ似ている、ということになるのだろうか?
「クラウディア嬢には敵わないな」
「本当ですわね」
兄妹はそっくりな微笑みを浮かべていた。
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