妹と刺繍入りハンカチ
ありったけの無地のハンカチをお互いに出してくるとシルヴィアの希望を聞いてハンカチを決め、ちくちくと刺繍をする。
クラウディアは図案をハンカチに下書きをすることはない。
習い初めの頃はきちんと図案を写していたが、今では図案を見ながら下書きなしで布に刺せるようになっている。
キティとケリーが無言で選ばれなかったハンカチを片す。
目の前ではシルヴィアが図案集とにらめっこしながら図案を考えていた。
ふと目を上げたシルヴィアが、片づけられていくハンカチを見てはっとした。
「そうでしたわ」
シルヴィアの呟きを拾い、手を止めて顔を上げる。
「シルヴィア、どうかした?」
シルヴィアはスケッチブックと鉛筆を置いてクラウディアを見た。
「お姉様、他にも刺繍したハンカチがありますよね? 一昨日の買い物の時にハンカチがなくなったのでと言って買い足していらっしゃいましたし」
「ええ、あるわよ」
「では買い取りますので出してくださいませ」
「領地で刺した分を渡したでしょう? そんなにあっても困るのではない?」
「それが、先日お姉様の刺繍したハンカチを買い占めた方がいたようでそちらだけ在庫がほぼない状況ですの」
「まあ」
渡したハンカチはそれなりの量があったはずだ。
それが在庫がほぼない状態とは。
一体それほどハンカチを買ってどうするのだろうか?
「だからお願いします」
「わかったわ。キティ」
「はい。少々お待ちくださいませ」
キティが刺繍入りのハンカチの入った箱を持ってきてくれる。
受け取ったクラウディアは箱のふたを開けて中身を取り出し、シルヴィアの前に置く。
「好きなものを持っていっていいわ」
「全部でもよろしいですか?」
「いいけど、確認してからにしてね」
「お姉様の作るもので駄目なものは一つもありませんわ。でもお姉様がおっしゃるので一応確認は致しますね」
「ええ」
シルヴィアが一枚一枚手に取って確認する。
「どれも素敵ですね。売れること間違いなしですわ」
「そうだといいのだけど」
在庫としていつまでも抱え込ませたくはない。
「まあ、お姉様のハンカチは人気商品ですのよ。売れ残ることなんてあり得ませんわ」
自信満々にシルヴィアは言い切る。
「そ、そう。ならいいわ」
クラウディアは顔がひきつりそうになったが堪えた。
「ですので全部引き取らせていただきますわ。料金はいつも通り執事長のほうに渡しておきますわね」
「ええ」
クラウディアのお金の管理は執事長がしてくれている。
王都にいる間は王都邸の執事長が、領地にいる時は本邸の執事長が担ってくれている。
彼らはきちんと明細を出してくれて帳簿の確認はクラウディアもしている。
帳簿の読み方も習ったのでクラウディアも読めるのだ。
ただ、自分で作ったものの価値はよくわからないのでそのへんは周囲に丸投げしている。
みんな信頼に足る人物なので安心して丸投げできるのだ。
「お姉様、この箱をお借りしても?」
「ええ、構わないわ」
「ありがとうございます」
ハンカチはさっと歩み寄ったケリーが箱に丁寧に詰めていく。
「お部屋のほうにお運びしてきます」
「ええ、お願い」
ケリーが箱を持って退出していく。
それを見送ってクラウディアはシルヴィアに訊く。
「明日、お兄様と公園に行くのだけど、シルヴィアも行く?」
「いいえ、残念ですが、明日は用事があるのです」
「そう」
「ですがお姉様、お兄様、明日お休みではなかったはずでは?」
「先月の分の振り替え休日だとおっしゃっていたけど、それほど忙しかったの?」
試しに訊いてみるとシルヴィアは思い出すように間を空けてから答えた。
「確かにお姉様の戻っていらっしゃる少し前はとてもお忙しそうでしたわ。わたくしもあまりお兄様にお会いしませんでしたもの」
「そうなのね」
兄の言っていた通りのようだ。
別に疑っていたわけではないがまあ一応。
シルヴィアが微笑む。
「明日は楽しんでいらしてください」
「ありがとう」
クラウディアも微笑み返した。
読んでいただき、ありがとうございました。




