曇天と耳飾り
次の日は朝から曇っていた。
「せっかく公園に行くのに残念ですね」
キティが窓から空を見上げて残念そうに言う。
今日はヴィヴィアンとアーネストと公園を散歩して、お弁当を食べる予定なのだ。
そのために料理人に頼んで昼食をバスケットに詰めてもらったのだが。
「天気は持つかしら?」
同じように窓から空を見上げてクラウディアは呟く。
「念のため傘などもご用意しておきますね」
「お願いね」
「はい。春用のコートも一緒に準備しますね」
「ええ」
クラウディアは改めて自分の服装を確認した。
今日は青い外出着のドレスで裾のほうに白い小花が散っているものだ。
公園内を歩くので装飾品はアーネストにもらった耳飾りだけだ。
鞄はやはり小振りな肩掛け鞄だ。
キティが傘とコートを出してきて昼食を入れたバスケットの傍に置く。
「そろそろ時間かしらね。下に下りましょう」
「はい」
キティがバスケットと傘とコートを持つ。
クラウディアはキティを連れて部屋を出て階下に下りた。
クラウディアの姿を認めた執事長が寄ってくる。
「クラウディアお嬢様、今お呼びしようとしたところでした」
「いらしたのかしら?」
「はい」
どうやら少しばかり遅かったようだ。
「わかったわ。ありがとう」
そのまま執事長を伴って玄関に向かう。
執事長が開けてくれた扉から外に出ればモーガン家の馬車が停まっており、その前にアーネストがいた。
「おはよう、クラウディア嬢」
「おはようございます、アーネスト様。お待たせ致しまして申し訳ございません」
「いいや、大丈夫だ」
御者がキティの手からバスケットを受け取り、馬車に乗せてくれた。
「公園に行くのに曇り空とは残念です。雨にならないといいのですが」
「そうだね」
今日もヴィヴィアンの専属侍女が一礼して御者席に向かう。
クラウディアはアーネストの手を借りて馬車に乗り込んだ。
「おはよう、ヴィヴィアン」
「おはよう、クラウディア。あっ!」
ヴィヴィアンが淑女らしからぬ大きな声を上げる。
「ヴィヴィアン」
咎めるようにアーネストが名を呼ぶ。
「申し訳ございません。忘れ物をしたことに気づきまして」
「わかった。クラウディア嬢、申し訳ないが屋敷に一度寄っても構わないだろうか?」
「ええ、もちろん構いませんわ」
「ありがとう」
アーネストが御者に一度屋敷に戻るように伝えて乗り込んできた。
キティはすでにクラウディアの隣に座っている。
ゆっくりと馬車が動き出す。
アーネストがクラウディアを見て嬉しそうに微笑った。
「先日贈った耳飾りをつけてくれているんだね。やはりよく似合っているよ」
「ありがとうございます、アーネスト様」
「本当によく似合っているわ」
「ふふ、ありがとう」
「選んで贈ったものを身につけてもらうというのは嬉しいものだね」
アーネストには婚約者がいたのだから、いくらでもその機会はあったはずだ。
だがアーネストは本当に嬉しそうだ。
「あら、あの方はお兄様が贈ったものを身につけたりはなさらなかったのですか?」
ヴィヴィアンの眉がきゅっとひそめられる。
「いや、そんなことはない。もちろん身につけてくれていたよ。ただ、いつも彼女に贈るものは彼女の好みに合わせたものだったから。思えばこうやって似合うものを吟味して贈ったことはなかったかもしれない」
「あの方はご自分のセンスに絶対の自信をお持ちでしたから。仕方ないかと」
アーネストは苦笑するだけで咎めはしない。
つまりは、そういうことなのだろう。
アーネストもヴィヴィアンと元婚約者の仲があまり良くなかったことを知っていたのかもしれない。
そんなふうに話しているうちにモーガン邸に着いたようだ。
馬車が停まり、少しして外から扉が叩かれる。
「開けてくれ」とのアーネストの言葉を受けて外から扉が開けられる。
「クラウディア、ごめんなさい。少し待っていてね」
「ええ。急がなくていいわ」
「ありがとう」
先に降りてヴィヴィアンが降りるのに手を貸したアーネストが空を見上げる。
「雨が降りそうだ」
ヴィヴィアンも空を見上げて頷く。
「少し様子を見たほうがいいかもしれませんね」
「そうだな。クラウディア嬢、一度屋敷に入ってもらえるかい? 雨が降るかもしれない」
「はい」
キティが馬車を降り、クラウディアもアーネストの手を借りて馬車を降りた。
そのままエスコートされて屋敷に入ったのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
ロバート(兄)の一人称がばらばらだったので「俺」に統一しました。
公式の場では「私」で通しているのでプロローグはそのままです。




