お土産の行方
午後は母も入れて三人で刺繍をして過ごした。
母にもその際にお土産を渡すことができた。
午後のお茶の時間に出されたお菓子は、お土産にクラウディアが買ってきたものだった。
そして晩餐時。
「クラウディア、貴女にもらった手袋はいいわね。先程試してみたのだけれどつけ心地もいいわ。今度出掛ける時に早速使わせてもらうわね」
母には絹の手袋をお土産として渡していた。
「お母様のお眼鏡に適う物だったのならよかったです」
「ふふ、さすがは私の娘ね」
「ありがとうございます」
母と二人で微笑み合っているとシルヴィアに声をかけられる。
「ふふ、お姉様、わたくしは次のお茶会の時に早速あのリボンをしていこうと思いますわ」
「嬉しいわ」
「シルヴィアはリボンだったのか」
「はい。お兄様は何でしたの?」
「俺は文鎮をもらった」
「文鎮?」
「紙を押さえるものだ。クラウディア、あれはなかなかいいな」
「まあ、お兄様のお役に立てたのでしたらよかったです」
最初は気に入らなかったようだったのでクラウディアは密かに気にしていた。
「使ってみれば思ったよりずっとよかった。あれはどこで売っていたんだ?」
「いい文房具のお店を見つけましたの。今度ご案内致しますね」
「ああ、頼む」
よほど気に入ったようだ。
父がきょろきょろと家族を見回す。
「何の話をしているんだ?」
「クラウディアからもらったお土産の話よ、あなた」
「お土産?」
父がきょとんとする。
当然だ。父には渡していない。
「ええ、昨日のお出掛けのお土産をお姉様からいただきましたの」
「クラウディア」
父が期待と不安を綯い交ぜにしたような顔でクラウディアを見る。
「私の分は?」
「ありませんわ」
ばっさりと切るように言うと父が狼狽する。
「な、何故だ?」
クラウディアはナイフとフォークを静かに置き、父を真っ直ぐに見た。
「アーネスト様に手紙を送ったそうですね。あれほどおやめくださいとお願いしましたのに。お父様だってわかったとおっしゃっていましたよね? アーネスト様から手紙のことを聞いて恥ずかしかったんですからね」
「それはだな、やはり心配になってだな……」
とあたふたとする父につんとクラウディアはそっぽを向いた。
がくりと落ち込み、食事をする父にお酒を注ぎながら執事長がくすくす笑って暴露する。
「旦那様、今お召し上がりのお酒はクラウディアお嬢様が旦那様のためにと買っていらしたものですよ」
「クラウディア!」
喜色を浮かべる父をちらりと見てクラウディアは母と兄に告げる。
「お母様もお兄様も遠慮なく召し上がってくださって構いませんから」
この国では、貴族男性は寄宿学校を卒業してから、貴族女性は結婚してからでなければ酒は飲めない。
結婚の予定のないクラウディアは一生酒を飲めない可能性があるが、別に構わない。
平民に関しては特に制限は設けられてはいないが、概ね十代半ばくらいが初酒だと聞いている。
「ええ。このお酒、美味しいわね」
「料理にも合っていて飲み過ぎそうだな」
「飲み過ぎには気をつけてくださいませ」
「ああ」
そのやりとりをにこにこと微笑いながら聞いていたシルヴィアが言う。
「お姉様よかったですね。料理長とお料理の相談をなさっておいででしたものね」
「クラウディア!」
父はますます喜色を強める。
料理長とメニューの相談をするのは伯爵夫人である母の役目だ。
そこにクラウディアはちょこっと参加させてもらっただけだ。
「料理長が頑張ってくれたのですわ」
「そうか。後で労っておこう」
「是非そうしてくださいませ」
「クラウディア、ありがとう」
「……飲み過ぎないでくださいましね」
「ああ」
だが、結局、多めに買ってきたのが裏目に出たのか、機嫌よく飲んでいた父は見事に酔っ払い、翌日母にしこたま怒られていた。
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