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引きこもり令嬢と呼ばれていますが、自由を謳歌しています  作者: 燈華


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最終目的地

「いよいよね」


重々しく言ったヴィヴィアンにクラウディアも重々しく頷いた。


「二人ともどこに行く気かな? 書店に行くだけだよね?」


苦笑いでアーネストが訊く。


「ええ、もちろん書店に行くのですわ」


クラウディアも大きく頷いた。


「さあ、行きましょう、お兄様、クラウディア」


さらに大きく頷いたクラウディアはヴィヴィアンと二人並んで意気揚々と歩き出す。

その後ろをアーネストが微苦笑してついていった。




書店は三階建ての建物で、一階から三階までぎっしりと本が詰まっている。

手軽に本が手に取れるようになったのは、安価で大量の紙を作れるようになり、印刷術が発展したここ三十年ほどのことだ。


それまでは書物といえば貴重なものでこうやって庶民も気軽に入れる本屋というものもなかった。

識字率もぐんと上がったと聞く。

いずれにせよクラウディアたちの生まれる前の話だ。


クラウディアたちは生まれた時から書物が身近にあった。

平民の識字率は若い者ほど高い状態だ。




「別行動にしましょう」


店に入るなりヴィヴィアンが提案する。


「ええ」


そのほうがお互いに気を遣わなくていいだろう。


「お兄様もよろしいですね?」


アーネストは苦笑して頷く。


「うん。時間になる頃にそれぞれ声をかけにいくよ」

「はい」


ヴィヴィアンが頷き、自身の侍女に目配せしてあっという間に消えていった。

それをアーネストは優しい()をして見送る。


「ヴィヴィアンはここに来るのが本当に待ち遠しかったのですね」

「そうだね」


ヴィヴィアンが好きなものがあることが嬉しいと言うように柔らかく微笑んでアーネストが言う。


「ヴィヴィアンが必要なものは甘えるのは、一冊でも多く本を買いたいからだからね」


それがわかっているからこそアーネストもヴィヴィアンに男の甲斐性を見せるのだろう。


「さあ、クラウディア嬢も好きに見てくるといい。私もそうさせてもらうから」

「はい」


クラウディアはキティに目配せして階段に向かった。上から制覇してくるつもりだ。




三階に着く。

ここもぎゅうぎゅうに本が詰められている。


店によっては最上階には稀少本を置いてガラスケースの中に入れてあるところもあるが、ここは違う。

一階から三階までとにかくぎゅうぎゅうに本が置いてある。


高いところにある本は店員に言えば取ってもらえるし、踏み台や梯子(はしご)も置いてあるので自分で取ることもできる。……クラウディアにはその踏み台や梯子を使うことは許されていないが。

だから上のほうの本が見えにくいのが難点だ。


階段のすぐ側にはカウンターがあり、そこで会計をしたり、探している本の所在や相談も受けてくれる。

会計は各階ですることになっていて本も頼めば配送してくれる。


キティが置かれている籠を持った。


「荷物持ちはお任せください」

「お願いね」


書店に来るのも久しぶりだ。

領地に戻る前に来ようと思っていたのにすっかり忘れていたのだ。

本を読むことは好きだが、ほかにもたくさん好きなことや興味があることがある。


ぎっしりと詰まった本を眺めて気になったものを手に取る。ぎっしりと詰まってはいても本が取れないほどにぎゅうぎゅうには詰まっておらず、すっと本が取れた。

ぱらぱらと(めく)り、内容が気になったのでキティの持つ籠に入れた。


「あ、キティ、もし気になる本があったら籠に入れていいわよ」

「ありがとうございます」


いつもキティには苦労をかけている。少しくらい返せるなら本の何冊かなど安いものだ。


今日はヴィヴィアンたちと来ているのでゆっくりと見ていく暇はない。

気になるものを片っ端から手に取り、ぱらぱらと捲って瞬時に判断していく。


上のほうの本もざっと眺めて、気になったものを何冊か取ってもらった。

同じように気になったものは籠に入れ、辞めたものは取ってくれたまま近くに控えていた店員に返す。


領地では商人が本を運んできてくれるが、こうやってたくさんの本の中から好きに選ぶのはやはり楽しい。

やっぱり今度図書館にも行こう。

一日籠るのもいいかもしれない。


今後の計画を頭の(すみ)に入れてクラウディアは次々と本を選んでいった。

キティの持ってくれる籠がいっぱいになる頃に会計をして配送手続きをして下の階に下りる。




二階でも同じような感じだ。

ヴィヴィアンやアーネストともすれ違ったが、そこは暗黙の了解でお互いに声をかけなかった。




一階まで回って一階分の会計まで済ませて、入り口近くで本棚を眺めているとヴィヴィアンが近づいてきた。


「クラウディア、終わった?」

「ええ。ヴィヴィアン、機嫌が良さそうね。いい本はあった?」

「ええ。探していた本もあったし、興味深い本もあったし満足よ」


ヴィヴィアンが好むのは令嬢の好むような娯楽本ではない。いわゆる実用書だ。

一部の者たちには眉をひそめられるかもしれないが、目的の本を手に入れたヴィヴィアンが満足そうに微笑(わら)っている顔がクラウディアは好きだ。


「よかったわね」

「ええ」


その場でヴィヴィアンと小声でお喋りをしていると、アーネストがゆっくりと階段を下りてきた。

クラウディアたちを見て目を丸くする。


「おや。まさか私が最後とは」

「お兄様はいい本がありまして?」

「ああ。二人とも買い物は終わったかい? いい本はあったかな?」

「ええ」

「はい」

「それはよかった」


アーネストが柔らかく微笑む。それから懐中時計を取り出して時間を確かめた。


「さて頃合いだ。そろそろ帰ろうか」

「ええ」

「はい」


書店を出て馬車を停めてある場所に向かった。


読んでいただき、ありがとうございました。


コルム通りには専門の配送業者がおり、各店舗を回って荷物を集めて依頼された場所に届けています。

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