そもそもの目的地
散々、本当に散々悩み、ヴィヴィアンは五種類の便箋を選び、クラウディアも三種類の便箋を買った。
手紙は書くので便箋はいくつあっても困らない。
あそこのお店は行きつけにしようと決めた。
恐らくヴィヴィアンもそうだろう。
満足げな顔で歩く二人にアーネストが微笑い、ふと何かに気づいたような顔になった。
「クラウディア嬢は疲れてないかい?」
「大丈夫ですわ。普段から領内を歩き回っておりますから」
「よかった。ヴィヴィアンは?」
「わたくしは少し疲れましたわ。そろそろ休憩しませんか? 先日のお菓子の売っているお店は近くにありますか?」
そういえばもともとはそのお菓子のお店に行くはずだったのだった。
アーネストが辺りを見回す。
「もう少し先にあるよ」
「ではそこで休憩にしませんか?」
「クラウディア嬢、構わないだろうか?」
「ええ、もちろんですわ」
「では、そうしよう」
アーネストが先導するために前に出る。
クラウディアはヴィヴィアンと並んでついていった。
外観からして可愛らしいお店だった。
ピンクと白を基調にして差し色に茶色を使っており、見るからに甘いイメージだ。
ここに先日、アーネストは寄ったのだ。
ある意味凄い度胸だと思う。
ヴィヴィアンも同じ気持ちなのか、表情を取り繕っているのが傍目からもわかる。かなり動揺しているようだ。
「お兄様、先日は誰かとご一緒でしたの?」
「いいや? 一人だったよ。さあ入ろう」
その返事にヴィヴィアンと二人、いやキティたちもだろう、とにかくアーネスト以外の全員で慄きつつ、先に入っていったアーネストに続いた。
先にお茶にしてお土産は後で買おうとの言葉に頷いて、一先ず喫茶店側に腰を落ち着けた。
レストラン同様キティたちも近くの席に着いている。
店内は女性客で賑わっており、ここでアーネストが一人で買い物をしたということに内心で慄く。
考えると思考の渦の中に落ちていってしまいそうでクラウディアは考えるのをやめた。
ちらりとヴィヴィアンを見るとヴィヴィアンも同じだったようだ。
二人で思わず頷いているとアーネストに不思議そうな顔をされた。
お茶とケーキを頼んで待っていると、不意に
「二人にこれを」
そう言ってアーネストがクラウディアとヴィヴィアンに差し出したのは栞だった。
「さっきこっそり買っておいたんだ」
それぞれに薄い金属の長方形の栞だが、クラウディアのものは蝶の翅を模した模様が、ヴィヴィアンのものは鳥の羽根を模した模様が施されている。
「まあ!」
ヴィヴィアンが声を上げる。
先程のお揃いの扇にかけてあるのだろう。
「お兄様、ありがとうございます!」
「ありがとうございます、アーネスト様。大切に使わせていただきます」
「喜んでもらえたのならよかった」
アーネストが微笑む。
「もちろんですわ。ふふ、クラウディア、これもお揃いね」
「ええ」
ヴィヴィアンと顔を見合わせて微笑み合う。
そしてはっとする。
渡すなら今だわ。
「アーネスト様、こちらを。あの、純粋に贈り物、です」
店に入る時にキティからこっそりと渡されていた箱をアーネストの前に置いた。
お礼だと言ったら受け取ってもらえないかもしれないので、あえて贈り物だと言ったのだが、どうだろう。
「クラウディア嬢、ありがとう」
アーネストは笑顔で受け取ってくれる。
「開けてもいいかい?」
急に先程の文房具店の店主との会話や選ばれた万年筆の色合いを思い出した。
「えっと、中は帰ってからご覧になってください。その、恥ずかしいので」
アーネストは気づかないかもしれない。
自意識過剰かもしれないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
アーネストは首を傾げる。
ヴィヴィアンもどうしたのかと不思議そうな顔だ。
しかし一度恥ずかしいと思ってしまったらもう駄目だ。
そこへ折よく店員がお茶とお菓子を持ってきた。
「帰ってからの楽しみにしておくよ」
「はい」
アーネストが箱をしまってからテーブルの上にお茶とケーキが並べられた。
心行くまでお茶とケーキを満喫して会話を楽しんだ。
この美味しさを屋敷の者たちにも伝えんと張り切ったクラウディアは、さすがにケーキは無理だからと焼き菓子のコーナーでどれも美味しそうだと悩んだ。
アーネストやヴィヴィアンの助言を受け、こっそりとキティや護衛の者たちの意見も聞き、日持ちもしますよ、という店員の言葉が最終的に背中を押した。
やっぱり美味しいものを食べてもらいたいから、と気になったものは買うことにした。
無事にお土産も買え、屋敷に届けてもらうように手配して店を出た。
読んでいただき、ありがとうございました。




