男の甲斐性と女の度量
店先の窓際に飾られているいろいろなものを見て周り、初めに入ったのは小物を扱う店だった。
「お兄様、わたくし扇がほしいのです」
「ああ、いいよ。クラウディア嬢も欲しいものがあれば遠慮なく言ってくれていい」
「え?」
クラウディアはアーネストの意図が掴めなかった。
困惑するクラウディアにヴィヴィアンが言う。
「クラウディア、お兄様がほしい物があったら買ってくださるそうよ」
「でも……」
「お兄様は仕事ばかりでろくに使いませんもの。たっぷりと貯め込んでおいでよ。問題ないわ」
いや、クラウディアが心配しているのはそこではない。
アーネストは苦笑する。
「妹の言う通りだ。クラウディア嬢、ここの支払いは任せてくれ」
クラウディアは婚約者がいたことがないのでこういう場合にどうしたらいいのかわからない。
いや、アーネストは婚約者ではないのだけど。
身内以外の男性と出掛けたことがないのだ。
どうすればいいのかわからなくて途方に暮れる。
「クラウディア、こういう時はにっこりと笑って甘えるのが正解よ。気になるようなら後でお兄様に何か贈り物をするといいわ」
ヴィヴィアンが助け船を出してくれる。
「なるほど。では、そうするわ」
クラウディアはアーネストに丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
「本当に気にしなくていいよ。時間をもて余しているのに付き合ってもらっているお礼だとでも思ってほしい」
それだと却って受け取りにくい。
「ええっと付き合ってもらっているのは私も同じですので……」
「クラウディア、男の甲斐性に付き合うのも女の度量よ。にっこり笑顔で受け取ってお礼を言うのが女の勤めよ」
アーネストが苦笑する。
「そういうことは小声でやりなさい。だがその通りだ、クラウディア嬢。妹とその友人に贈り物をしたいという私の我が儘だ。付き合ってくれると有り難い」
そこまで言われて駄々をこねても仕方ない。
「ありがとうございます」
帰ったらお兄様にお返しを相談しよう。
アーネストの友人である兄なら何が相応しいか、欲しいものは何かもわかるだろう。
アーネストが微笑む。
店内をゆっくりと見て周りながら、ふと疑問に思ってクラウディアはヴィヴィアンに訊いた。
「でも、ヴィヴィアンの扇、まだ全然使えそうだったけど?」
すっとヴィヴィアンの表情の温度が下がる。
「あれ、頂き物だったのよ。もう二度とお会いすることもないでしょうから、使う必要もないわ。あまり趣味じゃなかったの」
アーネストが苦笑する。
……これは深く聞かないほうがいいだろう。
先日、噂も聞いたし、おおよそ誰からの贈り物かわかった。
「そう」
「あっ、あったわ」
扇の置かれた一角を見つけたヴィヴィアンがそちらに向かい、クラウディアもどのようなものがあるのか興味を引かれてついていく。
扇は思ったよりも多く置かれており、模様や色も多種多様だ。
これは、眺めているだけでも楽しい。
「どれにするか迷うわね」
真剣に吟味するヴィヴィアンの横で一緒に扇を眺めて楽しんでいたクラウディアを見て、ヴィヴィアンがいいことを思いついたという顔になった。
「クラウディア、お揃いで持ちましょうよ」
「いいんじゃないかな」
アーネストも賛成する。
「ふふ、クラウディア、どれにする?」
もうお揃いで持つことは決定事項のようだった。
ヴィヴィアンとお揃いのものを持つのは嫌ではないのだが……。
やはり心の中で腰が引けつつ改めてじっくりと見る。
お揃いのもの。
クラウディアの好みもヴィヴィアンの好みも合わせてちょうどいいもの。
「あ、これとこれなんかどう?」
それは絵の描き方や色の柔らかさが同じなので同じ工房のものなのだろう。
絵柄は一つは蝶が藤の花の周りを飛んでいるもの。
もう一つは鳥が花畑の上を飛んでいるもの。
一見するとお揃いには見えない。
「ああ、いいわね」
すぐにヴィヴィアンが意図を察してくれる。
「"蝶は花を愛で、鳥もまた花を愛でる"」
アーネストが短い詩の一節を呟く。
それは昔の、それもあまり有名ではない詩の一節だ。
それを知っていてさらりと言えるのはさすがだ。
「いいセンスだね」
アーネストも褒めてくれる。
「決めたわ。これにしましょう」
「ええ」
ヴィヴィアンが手に取り蝶のほうをクラウディアに差し出した。
クラウディアも同じ気持ちだ。
「ありがとう」
それから三人で店内を一通り見て回ってから会計をして外に出た。
扇の他、クラウディアが目を止めた素敵な細工の小物入れまでアーネストは一緒に買ってくれたのだった。
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