お嬢様からの手紙
順番前後します。
恐らく手紙がつくのはモーガン兄妹とのお出掛けのあとだと思われます。
その日、領地にクラウディアからの手紙が届けられた。
いつクラウディアお嬢様は帰ってくるのだろう、と使用人たちがわらわらと集まってくる。
クラウディアはいつも帰る前に手紙をくれ、帰宅予定日時を伝えてくれるのだ。
領地の本邸を預かる執事長が代表して声に出して読み上げる。
*
みんな元気かしら?
すぐに帰ると言ったのだけれど、しばらく王都にいることになったわ。
というのもねーー
(中略)
ノーラと畑の世話を引き続き頼むわね。
何かあったら遠慮なく知らせてちょうだい。
すぐに帰るから。
せっかくだからいろいろ王都で見てくることにするわ。
お土産話とお土産をたくさん買って帰るから楽しみにしていてね。
それじゃあみんな、身体にはくれぐれも気をつけてね。
クラウディア
*
集まっていた使用人たちは最初唖然としていたが、すぐに憤慨したように言う。
「クラウディアお嬢様を見初めるとは見る目があると思ったが、とんだ節穴だったな。クラウディアお嬢様の素晴らしさがわからないとは」
「本当ね。まあ、クラウディアお嬢様が気にされていないならいいけれど。そんな見る目のない男にクラウディアお嬢様はもったいないからね!」
「本当よ! うちのお嬢様方はとても素敵な方々なんだから!」
「そりゃ、貴族のお嬢様というものからはクラウディアお嬢様は外れているかもしれないが、我々使用人にも領民にも気を配ってくれる素敵な方だ。不当に貶められるなんてあってはならない」
王都の屋敷の使用人より領地本邸の使用人のほうがクラウディアへの愛情が深い。
一緒に過ごす時間が長いのだから当然だ。
領地本邸に勤める使用人たちは皆クラウディアのことを孫や娘、はたまた妹のように思っている。
「クラウディアお嬢様も王都で少し気晴らしをなさるといいよ」
「きっと、帰ってこられたら目をきらきらさせていろいろな話をしてくださるでしょうね」
「帰ってきたクラウディアお嬢様が悲しい思いをされないように張り切って仕事をしますか」
それにみんなで頷き、執事長に返事を任せ、それぞれ仕事に戻っていく。
集まるのも早かったが、散るのも早い。
執事長は人っ子一人いなくなった部屋を見回し、無言で部屋を出た。
彼も仕事をしなくては。
さしあたってはクラウディアお嬢様へお返事を書かなければならない。
*
厩舎にて。
厩舎番は真っ直ぐに一頭の馬に近寄っていく。
栗毛のしなやかな身体を持つ牝馬だ。
何かを悟っているのか馬はじっと厩舎番を見る。
厩舎番はその鼻筋を優しく撫でながら語りかける。
「ノーラ、お前さんの主はまだ当分帰れないそうだから、俺がしっかり世話してやるからな」
心なしか耳がしゅんと垂れたように思える。
栗毛の牝馬ーーノーラはクラウディアの馬だ。
クラウディアが領地にいる間はノーラの世話もしっかりとしていた。
手が回らないところだけ厩舎番が手助けしていた。
「遠駆けの約束もしてたのにな。帰ってきたら連れていってもらえ」
ノーラは鼻先を押しつけてくる。
厩舎番はつらつらとクラウディアの手紙の内容を話し、事情を説明する。
「人間の、貴族の世界はいろいろ面倒なんだよ。クラウディアお嬢様は体面とかは気にされない方だが、まあ、お考えがあるんだろう。お前もクラウディアお嬢様が帰ってきたら存分に甘えろ、な」
ノーラは同意するように尻尾を揺らす。
馬というのは本当に賢い。
*
庭の一角にはクラウディア専用の畑がある。
もともと庭の一角では屋敷で食べる野菜が育てられており、その畑からやや離れた位置にある。
庭師が扱う畑とは決して混ざらず、庭師が気にかけられる絶妙な距離にクラウディアの畑はある。
屋敷の畑の状態を確認し終えてから庭師はクラウディアの畑の様子を見にきた。
クラウディアが大切に手入れをしている畑だ。
万が一のことがあったらクラウディアが悲しむ。
いつもより丁寧に時間をかけて庭師はクラウディアの畑の確認をした。
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書庫にて。
「お嬢様がお好きな本を埃まみれにするわけにはいかないわ」
いつも以上に気合いを入れて掃除をする。
*
お針子の作業部屋にて。
「クラウディアお嬢様がお戻りになる前に、お嬢様のお召しになるものを仕上げてしまいましょう」
王都に行く前にクラウディアに頼まれた普段着の縫製を殊更丁寧にお針子は進める。
等々。
その日、屋敷のあちこちで同様な光景が見られたという。
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