虜囚の…
なにもかもが終わった。ただそれだけが確かだった。私は、なんのために戦ったのだろう。何のために将卒を死なせたのだろう。虜囚として王都まで護送されることになった。準備が整うまで待たされている。ぼんやりと観察していると、それまであまりわからなかった相手の服装にもうっすらと身分の違いがちゃんと表章されているのに気が付く。生地の異なり、襟の形、襟章の大きさ、帯剣の種類。そういうのが見えてくると、次第に面白くなってくる。所作の違いであるとか、そういったところから理解が始まる。なにもすることがなく、それをただ観察している。言葉の違いとか色々あってよくわからないことも、観察によって推察できたりする。
私は、いまなにをしているのだろう、なにをすればいいのだろう。
'lastkʀaftvaːɡn、とかいう種類の車の荷台に乗せられて、待っている。馬や牛のつかない車、というものは何とも不思議なものだ。
少し高いところにいるので視界が開けた。周りをそっと見る。帝国の兵隊が、住民から茶をふるまわれていて、談笑している。ほかも、例えば宿が開いていたり、田畑へと向かうのがあったり。普通に日常の生活をしている。宮殿から出ることが稀で、出たとしても日常など知らなかった。民とは、ただ庇護されるだけのか弱い存在でなく、だれを戴いていても日常を継続するたくましさがあるのだと、知った。そうであるならば、君臨する者は、どのようにして徳治を成し遂げたらよいのだろう。そもそも『徳』とは何ぞや。価値観が打ち砕かれてゆく。
車は蒸気を噴き出しながら動き始める。急速で、初めての加速度だ。幌の枠と思われるものに掴まって、転ばないように耐える。市内の街道をゆく。囲壁をでる直前に、軍馬に飼を与えている一団を見た。一瞬その軍馬にマドセン嬢の乗馬がいたように思って振り返ったが、あっという間に遠ざかってしまっていてもう見えなくなってしまった。
囲壁を出て街道を快走していく。速さ自体はそれほどでもないが、ずっと速いままを保っている。生き物が牽かないからこそだろうか。一種の冷たいまでの機械らしさと、その利便性。このような機械をわが国でもたくさん導入できたら。今後この国が存続できるかもわからないというのに、未来に事を考えている自分が少しおかしくなって、思わず笑ってしまう。
すれ違う彼の軍隊。馬匹に大きな砲を曳かせている。どうやら彼の軍隊でさえ機械化は完全でないのだろう。それでさえこれほど精強で機動力は大なのだから、機械化が完全になった軍隊とはどれほど恐ろしいのだろう。
そうかんがえていると、あっという間にホウレン村近くの川を渡っていた。村自体は通らなかったから、新たに道が付け直されている。3日と経っていないはずであるが、揺れも少ない整地の道がある。何か妖怪変化に化されたのでないかとさえも疑うほど、でも確かに道がある。橋さえ違うものが架かっている。我が国の街道整備で書けた橋より堅固なそれが。戦車とかはきっとこれを使ってわたってきたのだろう。
王都の近くまで来た。まるで人に翼のあるかのような早さだ。夢物語に出てくる一日に1000ヴェルスタを走る馬車とて、これほどの威容はないだろう。
関所があった。真新しい関所だ。衛兵がいる。車は止まって通行証をどうこうしている。ふと衛兵を見やれば、服装や武装は全く彼の軍隊のようでいて、帽章であるとか袖の肩口についた記章であるとかは我が国のものだ。なんだかよくわからないが、いやな予感がする。再び車は動いて、王都に入る。
王都の市壁はあちこちが綻び、恩迎門は打ち砕かれている。瓦礫さえ残ってひどく振動する道。車は、そのまま王城に入った。中庭で降ろされる。そうこうしていると向こうから兵隊の一団がやってきた。
唐突に途切れて見えますが予定の通りです
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