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1話/王立フェルベール士官学校 4

 王都までの道は、石畳が敷かれてしっかりと整備されている。

 それは、広大な土地を持つヴェクトランド王国が、収穫した作物をなるべく早く新鮮なうちに王都へと送り届けるために、とおよそ十年以上の歳月を掛けて作り出した物だ。

 おかげで街から街への移動は非常に快適なものとなっており、ランドリザードの牽引する我らが馬車もかなりのスピードで、王都へと向かっていた。

 そんな馬車の中――。


「リリー。我は反対だ。この男は確かに強いが、まだこやつについては何もわかっていないのだぞ」

「ふん、俺が気に入った、ただそれだけの事だ。ていうかリリーじゃねえ」

「だから、気に入った、などという曖昧な理由だけでは……」


 俺とグランは、ジークの処遇について意見を対立させていた。

 俺の意見はジークをそのまま王都へと連れて行き、共にフェルベール士官学校に入学する事。

 グランの意見は、今すぐ馬車から放り出せ、という事。

 グランの奴は中々頭が固い。流石は長い間仕舞われていただけの事はある。


「……そもそもリリー、この男は士官学校に入学できるのか?」

「え?」

「年齢制限があるだろう」


 グランの言う事も一理あった。

 フェルベール士官学校に入学できるのは、十六歳から十八歳までの男女のみなのだ。見た感じジークは俺と同年代だが、もしかすると十九歳とかだったりするかも知れない。

 というか既に成人していたりして……。


「……俺は十七だ」

「あ、そう……。だそうだ、グラン」

「むむむむむ……」


 勝ち誇った俺の声に、グランが唸り声を上げる。

 そこまでしてジークを連れて行きたくないのかね、この聖剣サマは。


「危ない橋は渡らないのに越した事はないだろう」

「お前剣の癖に慎重すぎるんだよ」

「リリー、お前が無鉄砲なだけだ」


 ああ言えばこう言う剣だ。俺は短くため息を吐いて、視線をジークへと戻した。

 ジークは、馬車の窓から映る外の景色をぼうっと見つめている。心なしかその瞳は輝いているようにも見えた。

 

「何か面白いものでもあったのか、ジーク」

「……いや、王都へ向かうのは初めてだから」

「何?」


 今このご時世に、王都へ行った事のない者がいたとは。俺は少し驚いた。

 王都と言えば国民誰もの憧れの場所であり、同時にヴェクトランド最大の観光名所でもある。

 街道が整備され、定期馬車便なるものが運行されている今、王国の端の村で畑を耕しているはな垂れ小僧ですら簡単に王都へ行く事ができるようになっているのだが。

 だが目の前に座るこの男は、王都へ行った事がないという。


「お前、余程の田舎者か?」

「……なんだ、それ?」

「いや、もういい」


 この男、どうにもこうにもつかみ所がない。

 果たして本当にこいつを連れて行くのは正しいのかどうか、少し心配になってきた。


「ほれ見ろ」


 心なしか嬉しそうな声を上げるグランを無視して、俺は王都へと想いを馳せた。

 今は、士官学校での新しい生活について考えておこう……。







 がこん、と大きな音を立て、馬車がその動きを止めた。

 傍らの窓からは、王国軍の兵士二人組がこちらへと歩み寄ってくるのが見える。

 王都に入るための関門に到着したようだ。馬車の目の前には、高く聳える城門が見える。

 こんこん、と馬車の扉が軽くノックされ、兵士が顔を覗かせた。


「王都へいらっしゃる目的は?」

「これを」


 極めて事務的な対応を見せる兵士に、俺は首元で光るペンダントを見せた。

 王立フェルベール士官学校の生徒のみが携帯を許されるペンダントである。

 兵士は頷き、そして俺の隣で静かに寝息を立てているジークに目をやった。


「こちらは?」

「私の連れですわ」

「……わかりました。どうぞ、お通り下さい」


 短く会話を終え、兵士が城門下で待機していた仲間に合図を送る。

 城門が開けられ、その中を、俺を乗せた馬車が通過した。

 俺はついに、王都サークレンへとやってきたのだ。ついに、俺は夢への第一歩を踏み出した事になる。


「嬉しそうだな、リリー」

「ああ、嬉しいよ。そしていい加減リリーはやめろ」


 グランを軽く小突いて、俺は窓の外を流れていく王都の風景に目を奪われた。

 物が、人が、たくさん行き交う、まさに都会といった場所。流石は王都、伊達に国の中心ではない。

 王都サークレンの特徴はいくつかあるが、その最たる物が、円状に王都の周りを取り囲むよう聳える城壁であろう。外敵の侵入から民や作物を守るため、初代ヴェクトランド王から五代目ヴェクトランド王に至るおよそ百五十年間の年月を費やし建造された、まさしく国の歴史と共に歩みを進めてきた物と言える。

 ちなみに今の王は八代目。ヴェクトは建国からおよそ三百年の月日を経ている。

 話を戻そう。

 このように円状に作られた城壁は、空から見れば見事な円を描いている事だろう。そしてその円の中心には、王族が暮らす王城と、その周りには側近の貴族達や大臣が暮らす屋敷がある区画、俺の入学するフェルベール士官学校などの教育機関、王国軍の訓練所などが置かれている。

 王都は中心に向かう毎に土地の高度が上がっていき、王城に至っては山の頂上にでん、とその居を構えている。

 山の中腹に大臣達の屋敷がずらりと並び、山の麓に士官学校があるということになる。

 王都は外壁の形状による都合から、環状に発展している。区画もきちんと整備されており、人や物でごった返してはいる物の、基本道に迷う、と言う事もない。

 しかし城壁から一直線に王城に向かう事が出来ようはずもなく、サークレンを一周したところでようやく、中心の山――チィベ山――に向かってその足を進める事が出来る。つまり、馬車は王都を一周しなければ士官学校へはたどり着けない。

 これがまた長いのだ。入学試験を受けに行った時も、最後の復習を終えて昼寝をする時間まで出来た。

 今回もそうなるのだろう。既に静かな寝息を立てているジークを一瞥し、俺も瞼を閉じた。


「寝るのか」

「仮眠」


 明日から忙しくなるだろうし、ゆっくり休んでおこう。







「お嬢様、着きました。お嬢様」

「ん、んぅ……」


 ゆらゆらと御者に揺り動かされ、俺はその瞼をゆっくりと上げた。

 俺はまだぼんやりとしている頭のままで御者に礼を言い――金は既に払っている――馬車を降りる。

 目の前に聳えるは王立フェルベール士官学校の門。士官学校に相応しく無骨な鉄の門の中心には、剣と剣が交叉している校章の彫刻が象られていた。うん、ここまで来るとなかなか感慨深い物がある。

 門の中に見える景色もこれまたなかなかの物で、座学の舞台となる校舎だけでなく、修練場や魔道練場、巨大な食堂、寄宿舎などが俺の目に飛び込んでくる。国内から優秀な若者を集い、そして五年の間、国が与えられる限りでの知識を与える、高等教育機関。

 それがここ、フェルベール士官学校。

 そして、俺が世界の敵となるべく修練を積むべき場所。


「……やったろうじゃない」


 これから先、何が俺を待つかはわからない。

 しかし心配なんて無い。何たって俺は超最強天才美少女魔道剣士ことリーゼロッテ=リヴェルクラン。

 立ちふさがる障害など、俺の魔術とその手に握る聖剣グランシアスでことごとく粉砕してやる。


「……ふふ、ふふふふふ」

「お前はその奇妙な笑い方をやめるべきだと思うぞ」


 折角一人悦に入っていたのにグランのツッコミで少し興が削がれた。


「……ん? ていうかジークはどうした?」

「俺はここだ」

「あ、いたいた」


 声がした背後を振り返れば、そこにはキラキラとした瞳で校門を見つめるジークが。

 俺は興味深そうに辺りを見回す田舎者丸出しなジークの手を取り、校門をくぐった。

 入ってすぐに、同年代の少年少女達が集まる一角が見えた。長机を前に、三人の教師が腰掛けている。

 おそらく、あそこが入学受付だろう。

 ジークも無理矢理ここの生徒としてねじ込まなくてはならないので、俺はそちらへと足を向けた。

 列の最後尾に並び、数分したところで俺の番となる。


「ペンダントは持っていますか?」


 非常に冷徹そうな、若い女教師が口を開いた。

 俺は愛想笑いを浮かべ、胸元のペンダントを見せる。校章を象ったペンダントだ。

 女教師は頷き、俺の名前を問う。リヴェルクランと答えると、俺の前に小さな鍵と数枚の紙を差し出した。


「リリー=リヴェルクラン。寄宿舎の鍵と、入学に際する注意事項を纏めた紙です。明日、組分け試験がありますのでそれまでに一度目を通しておくように」

「わかりました」


 答えると、女教師は次いでジークに目をやる。ジークは眠そうな瞳で女教師を見返し、小さく会釈した。


「ペンダントは持っていますか?」

「ああ、ええと――」

「すみません、先生。学校長を呼んで頂けませんか?」


 女教師とジークの会話を遮るよう、俺が口を開いた。

 少しむっとした顔の教師に、もう一度頼み込む。


「すみません。リヴェルクランが呼んでいると仰って下されば、すぐに来て下さるはずですわ」

「……理由は?」

「少しお願いがございますの」


 俺の言葉に観念したのか、短くため息を吐いた女教師は「少し待っていなさい」と言って校舎の方へと姿を消した。

 そしてきっかりかっちり五分間、何度か顔を合わせた事のある学校長を伴い、女教師は戻ってきた。


「久しぶりだなリーゼロッテ」

「はい、お久しぶりです先生」


 親しげな口調で俺に話しかけて来るのは、この学校の長、最高権力者でもあるレオナルド=カルディラであった。

 片眼鏡モノクルをかけた二十代後半の男で、その歳にしては異例とも言える地位に就いている。

 それは彼の様々な功績による物であり、俺も彼のその功績に一枚噛んでいるのだが今は割愛しよう。

 挨拶を早々に済ませ、俺は早速本題に入る事とした。


「私の友人――、ジークリンデ=ブライトクロイツをここに入学させて頂きたいのです」

「入学? なんでまた」

「彼は危なっかしくて見ていられませんの」


 嘘である。単にジークのような実力者をその手中に収めていたいだけ。

 そしてその嘘は、この男――レオナルドには見抜かれている事だろう。


「お前の頼みを受けるなんて初めてだしな。良いだろう」

「校長」


 そばで俺たちの会話に耳を傾けていた女教師が声を上げるが、意に介せず、と言ったようにレオナルドは懐からペンダントを取り出した。当然、俺の身につけている物と同じデザインのペンダントである。


「あー、ジークリンデ君」

「……?」

「これを」


 レオナルドが、ジークの首にペンダントをつける。

 これで晴れて、ジークはフェルベール士官学校の生徒となったわけだ。

 目の前で、しかも校長がペンダントを手渡したのであればもうどうしようもない。

 しかし未だ納得していない表情で、女教師がジークに鍵と書類を渡す。


「……リーゼロッテ。俺は未だに何が起こっているかわからないんだが」

「じゃあ、説明してあげるわ」


 艶っぽく笑って、俺はジークに告げた。


「あなたは士官学校に入学して、様々な事を学ぶのよ。そう、それだけの事なんだから。ね?」

「……そうか」




 ま、それも初めの数年だけだろうがな。

 俺が得られる物全てを得た時、その時はお前にもちゃんと着いてきて貰おう。

 だから精々それまでは、しっかりと勉学に励んでくれよ、ジークリンデ。


「……これから、楽しみですわね」


 一陣の風が、俺の美しい銀の髪を散らす。

 その風は果たして俺を祝福する物であったのか、はたまた世界の敵となるべく行動を開始した俺を嘲る物だったのか。

 答えはわからないが、だが、俺はただ、自分の目的のためにひた走るだけだ。

ようやく一話目が終わりました。

難産です。展開が早いし描写も薄い。

全体的に課題の残る一話目となりました。

さて次回の二話は、教師も話していた組分け試験についてです。

リリーのルームメイトなど新キャラもぼちぼち出せて行ければなと思います。

また、一話目は連続更新できましたが二話目からはそれもきつい事になっていくと思います。ですが、生暖かい目で見守っていて下されば幸いです。

そして、感想や批評等、いつでもお待ちしております。

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