呪いの女帝
魔法がある世界で、お約束の婚約破棄ものです。
ひねりもあまりありませんので、楽しんで頂けるか正直微妙。
それでもよろしければどうぞ。
あ、恋愛要素はほぼないので、ジャンルはハイファンタジーにお邪魔させて頂いております。
どうも皆様ごきげんよう。
私はとある王国に在る、国から特別な任を受けている領地無し公爵家の、その娘でございます。
私以外にも兄や弟がおりますので、私が後継者問題で頭を悩ませる事はまず無いだろう、少しだけ気楽な立場です。
家名と名前、それに具体的な容姿?
それはこれから身内……いえ、国。
しかも王家まで巻き込むお恥ずかしい話をこれから語らせて頂きますので、有って無いような名誉や体裁ですが、それを守るためにハッキリした認識を出来ないようさせて頂きました。 すみません。
私の事は一族に多い黒髪黒目をした、無表情な小娘。 とでも認識して下さいませ。
それでですが、まずはお国柄から。
我が国は驚くほどゆるい王国です。
どれだけ身分差が有っても公然と意見できる位で、貴族も意見が正しいと思えばそれを聞き入れます。
そうできるのは各地に根を張る治安機関が強力だからで、特定分野だけ抜き出して言えば、国王だってその治安機関に逆らえなかったりします。
それなので下手な事は出来ず、その治安機関を悪用して悪事を働こうにも悪用できず、魔法や呪いなどで機関の人間を洗脳しようにも不発で逆に捕まったり。
その治安機関が暴走したら恐ろしいとお思いでしょうが、安全装置として機関の各人は誓約を行っております。
魔法等で行ったその誓約を破ったら、最悪命を落とす重い重い誓約を。
とにかく平民貴族問わず、国内で問題があればまず治安機関へ……となるほどに恐れられつつも、同時に頼りにされる治安機関がのさばる平和な王国です。
国の紹介が終わりましたので、次は最大の恥部……本題についてお話させて頂きます。
私の元婚約者であった、元王太子です。
私が婚約者となってすぐの幼き頃は、非常に真面目で他人を気遣えるお方でした。
ですが歳の頃が|貴族の子供達のお披露目が終わった後か、12を過ぎた辺りでしたか。
私との定期的な顔合わせで二人だけのお茶会をしていると、妙にソワソワして目を合わせない様になりました。
それを公爵家当主であるお父様へ相談したら「その頃の若者ならよくある仕草だから、気にしなくていい」などと返答を頂き、その様なものなのかと、なんとなく思ってその場は終わりになりました。
ですが14になっても改善されず、それどころか定期的なお茶会にすら顔を見せなくなって、もしどこかで鉢合わせしたとなれば私を見ては鼻を鳴らして去っていく。
そんな仕草を初めてされた時には、流石にお父様へ報告しました。
それを受けてお父様は呆然。
大きくまんまるに目を見開き、顎が外れたみたいに大きく口を開けてポカ~ン。
いつも厳しく鋭い目つきをしていたあのお父様も、こんな表情をするのかと。
これを見た時はお父様を少し可愛らしく思いましたが、それはこの話に関係ありませんので話を戻します。
少しして正気を取り戻したお父様は、事態の確認のために王城……場合によれば王宮まで行くと言い残し、慌ててお出かけになられました。
呆然としている時にポツリと漏れたお父様のお言葉の「バカかあいつは……」が印象的でしたが、あいつは恐らくお父様と歳が近い陛下でしょうから、聞かなかったフリです。
我が公爵家は前述した特別な任がありますので、他のありふれた貴族よりは陛下に会うハードルが低いので、追い返される心配はありません。
しばらくして帰ってきたお父様が玄関で開口一番「あいつは駄目だ。次代の教育をしっかりやらないと」なんて、疲れきった声で言い捨ておられました。
……ええ。 ここで大雑把な事態は察しました。
あのお方からの釈明以外にも、元婚約者の護衛達からもその辺りを訊いて回って、ダメな理由を確信したのでしょう。
もちろん私にも見えるのと見えないのを含めて護衛がついていて、それは王家からと公爵家からの両方の護衛がおりますが、ここ数年の王家からの護衛はやる気が無くなってきている様子なのも私が察せる材料です。
そしてこの後に、私がお父様から頂いた言葉は「いつでもアレを使う心構えはしておけ」です。
アレが何かは、後で。
それから時間が少々飛びまして。
私がこの国で成人とされる15になる年の始めに、私と元王太子との婚姻披露会も兼ねた新年会です。
そこへ出席した我が公爵家ですが…………。
〜〜〜〜〜〜
「私はお前が国中から“呪いの女帝”と呼ばれている事は知っている! お前達の一族が“呪いの魔法”に秀でている事も知っている!
お前が……お前の一族がその力を使って私が真に愛している男爵令嬢を呪い、嫌がらせしていると聞いた!!
その証言に基き独自に調査を行ったところ、愛する令嬢の家の手記から事実であると確認がとれた!
そのような事までして、私の妃になりたいのかっ! 私はごめんだっ!!
よってお前との婚約・結婚を取り止めにし、妃は私の後ろに控えるこの麗しく愛らしい令嬢を相手にすると宣言する!!!」
なんて沢山の貴族達の前で、私が元婚約者から面罵されました。
あれは…………そう。
私が婚約者ではなくお父様にエスコートして頂いて会場入りした様子を招待者の皆様に目撃されて少々ざわめきが起き、全ての参加者が集まり、それら各々で大体の挨拶が終わった頃でしたね。
それを見計らって王族の方々がいらっしゃる。
……となる流れを壊し、いきなり元王太子とそいつに腕を取られ無理矢理引っ張り込まれた様にしか見えないご令嬢が登場。
ご令嬢の体調が心配になるほどお顔から血の気が引いておりまして、視線が彷徨い脂汗も止まらず。
元王太子に腕を引かれたご令嬢はとても愛らしい見た目であるはずなのですが、この時は本当に見るに堪えない様子で、会場の皆様の間に細波が起こっておりました。
それで話を戻しまして、私が面罵された後。
思ったよりも、会場には反応がありませんでしたね。
…………ああ、いえ。 訂正いたします。
後で私の護衛から聞いた話ですが、気の弱い方々は軒並立ったまま失神なされたそうで。
それで失神なさらなかった方々は、一斉に目を細め冷たい気配を纏って元王太子を見つめていた、とか。
唯一確認できたのは元王太子が連れてきたご令嬢が、あっさりと意識を手放してしまい倒れそうになった所を、慌ててやってきた騎士の方に支えられた場面だけですね。
元王太子自身がそれに気付かず、腕を握ってこちらを睨んでいるのは、滑稽でした。 愛していると言った相手の事より、こちらを気にしているんですから。
はい。 ここで私の公爵家の紹介をさせて頂きます。
私の一族は確かに、呪いの魔法に秀でた血筋です。
それで何をしているかと言えば、国内の各地へ散り、我等の呪いを駆使して治安の維持をしております。
…………ええ。 我等の一族こそ国の紹介で説明した治安機関でして、呪いによって罪人の行動を縛り、呪いによって発生した事件の陳述をする者の嘘やごまかしを縛り、被害者を守り加害者を見つけ出して罰する。
我等以外の者による不当で理不尽な呪いをかけられているならば、その解呪を行う。
呪いを使って治安を維持するのに国内ならば、身分の差は一切無し。 我等は公平に正確な話を聞き出し、その情報を基に王国法の下で判断する。
大まかに言えば、そんな仕事を国から任されている一族なのです。
そんなのは貴族はもちろん、平民の間でも国の常識として知っている事です。
そんな大きな権限を持つ一族ならば、その権限を乱用して悪い事をし放題だとお思いでしょうか?
その辺りは、我等自身にも呪いをかけて縛ってあります。
“呪いの魔法を悪用して私利私欲に走ってはならない”
これを破れば命を落とす位に強い呪いで。
その呪いを各地で公言しておりますし、実際にその呪いが衆人環視の場で発動して命を落とした一族の者もいますので、治安機関として王国の方々は我等を信用して下さっているのです。
分かりましたでしょう?
私にも一族にかける私利私欲に走ってはならない呪いを受けておりますので、元王太子の言は絶対にありえないのだと。
もし正しかったのなら、私はとっくに死んでいるのですから。
それで、この元王太子の発言はつまり、我等一族が不正をしていると告発している……ひいては宣戦布告となるのです。
我等は絶対に欲望を持って呪いを使わない。 その誓いを汚されたのです。
この国がより良くなるように、国のために一族で尽くしてきたのに。
よりにもよってその国のトップの一族から、働きに唾を吐きかけられました。
こんなの有り得ないでしょう?
我等は自身の行いに誇りがあります。 矜持があります。
こうなってしまえば、もうこの国など知らない。
我等一族がまるごと移住できるよう手配してくださる国を探して――――
なんて考えを巡らせていましたが、そこで私の肩が叩かれる感覚がして、考えるのを中断しそちらへ首を回しました。
「落ち着きなさい」
――――お父様でした。
いつの間にか私の傍に来てくださっていて、その言葉で私は少々行き過ぎた考えをしていたと反省しました。
私が落ち着いたのを確認して安心したのか、お父様が大きく頷く。
それから私を諭すように、ゆっくり、聴き取りやすい声で優しく語りかけて下さいます。
「我等は普段から何をしている? どんな力を持っている?」
…………そう言えばそうですわね。 私達の任は、一つしかありませんものね。
お父様の言葉が体へ染み込み、怒りに支配されていた心が完全に落ち着きます。
「ここでとは思っていなかったが、アレを使うお前の初仕事が来たぞ」
アレ。
ええ。 大分前に言われていたアレです。
我等の仕事は成人になってから始める決まりです。
子供の短慮な心で呪いを使えば悲劇が起きる。 家訓として伝わっているものです。
事実、トラブルの解決に一族の子供が一方へ肩入れして、判断を間違えた事がありましたので。
なのでしっかり貴族の基礎勉強以外にも、感情をコントロールして思い込みや感情のままに動いて間違えないよう教育され、呪いを正しく使う倫理も徹底的に教え込まれます。
私は王太子妃になる予定だったのでより厳しく教育を受けたというのに、先程誇りを汚された怒りで冷静さを失っておりました。
そこは激しく反省です。 …………あぁ、恥ずかしい。
今一度猛省していましたら、お父様が会場内へ響き渡る大声で、宣言をしておりました。
「我が娘が王太子殿下の言うように、本当に私欲で呪いの魔法を使っているのかを、この場を借りて調べたい!
もし使っていなかったのなら、事の真実を王太子殿下の口から語って頂きたいと思う!」
胸を張り声も張るお父様。
最後に、いつの間にか会場入りして御座におられた国王陛下へ、視線を飛ばしました。
陛下は少しの間目をお伏せになられましたが、その後にお父様へ頷かれました。
「さあ、初めてのお勤めを果たしてきなさい」
それをお父様が確認し、私を促します。
促された私は…………返事もできず、硬い動きで会場の中心へ。
〜〜〜〜〜〜
「我々が関係しておりますが、一族の誓いに則り公平に公爵家一族の仕事を始めさせて頂きます」
この場を仕切るのは、お父様。
問題の当事者が仕切るのもおかしいですし、こうして場を仕切って頂けるのは本当に有り難いです。
「まずは私と娘、それぞれに床へ一時的に本当の事しか舌に乗らない呪いをかけさせて頂きます」
そう言われ、私はお父様が呪った場所から10歩ほど空けた場所に、同じ呪いをかけます。
「この2つの呪いが同じ呪いであることを証明して下さる方はおりませんか?」
会場へ協力を求めるお父様に応じてくださったのは、なんと陛下。
「それぞれの場所で、同じ10の質問をします。 これで答えが同じなら、この呪いが同じものであるとの証明になるでしょう」
そうお父様が宣言なさいます。
それでお父様が質問した内容ですが、その中には「王妃殿下はどれ位大切でしょうか」と間隔をあけて2度質問したり、その質問で得られた順位を出し「陛下が○位に大切な存在は」と投げかけてみたり。
それをまたもう一つの呪われた場所の上でやるものだから、まあ陛下が御尊顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり。
少しとぼけたり誤魔化したりしたい内容の質問を行い、それに素直に答える陛下でした。
…………ええ。 こんなのをせずとも我等への信頼は、既に失神なさった貴族の皆様のご様子から分かっているのですが、それでは納得なさらないお方がおられましたので茶番をせねばならなくなった次第です。
「では、これから本題となります」
質問が終わり、お父様がかけた呪いをさっと祓い、見物人の場所まで下がりました。 お父様の助力はここまでと、言われている様です。
誰もが呪いの効力を疑いようが無い事を示しましたので、尋問となります。
「元を付けるべきでしょうか? 元婚約者様、どうぞ呪いをかけた地点へ」
そう促してみましたが、元婚約者は拒否の構え。
「ふざけるな」だの「私を呪う気か!」だの「私が尋問される謂れは無い!」だの「私は悪くない!」だの。
ありとあらゆる拒否の言葉を使い、呪った地点から遠ざかろうとします。
これには見物の皆様の中から、失笑が漏れ聞こえます。
まあ大半の方々はひどく凍てついた眼差しを元婚約者へ向けておりますが。
いや、まさか初仕事でコレを見られるとは……。
治安機関の仕事をしているとたまに見られる、幼い抵抗。
この仕草をする者は、大抵悪い事をした自覚が有るものです。
ですが恐ろしく稀にですが、ただただ「呪いが怖い」の理由だけで抵抗する方もおられますので、悪人だと決めつけてはいけないのですが。
ただこの姿があまりにも滑稽で、それでいて醜くて、強く印象に残るもので機関の間で話題になりやすいのです。
機関では各人が1年に1度遭遇するかどうかだそうで。
下手するとコレを捌けて一人前扱いされたりする地域も。
それだけ印象深いので、有名なのです。
アレは悪人の最後の抵抗だと。 なので見物の皆様の反応がああなると。
かすかな感動を覚えて陶然としていましたら、あの男爵令嬢を支えている方とは別の騎士が、令嬢の腕を掴む手を解き呪いの場所へ押し込んでおりました。
その間も色々と元婚約者は喚いていたのですが、誰も彼もが完全に無視です。
「……では。 王太子殿下の宣言の真意をこの呪いにて聞き出して行きます!」
習っていた作法通りに、こうして目的を宣言いたします。
それに反応なさる方は…………おられませんね。
強いて言えば見物の皆様の視線が強くなったのと、元婚約者が見苦しく喚く勢いが強まった程度です。
「まずは、私の事を“呪いの女帝”だと仰られましたが、なぜそう呼ばれているか、ご存知でしょうか?」
この投げかけに、元婚約者が良い反応を示します。
「お前が呪いなんて陰気な力を使って、父上を脅したのだろう!? でなければ、お前みたいなのと婚約なんて結ばれなかった!!」
「…………」
だろう、ですか。
嘘も誤魔化しも効かない呪いで、だろうですよ。
何と言うか……今更なのですが、どうしてコレが王太子になったのでしょうか?
ちなみに正解は、自分で言うのもなんですが、一族で一番の呪いの才能を見せたからです。
そしてここは王国ですので“女王”は陛下に対する不敬と見られかねませんので、別の国の形態である帝国から引っ張ってきた。
ただそれだけです。
ひどい回答に呆れて硬直してしまっていると、思わぬ所から正解が飛んできました。
『この馬鹿者っ! 数年前まではとても賢い者同士で、支え合えれば国をより良くできるだろうと期待して婚約を頼み込んだのに!! 今ではお前だけだと心配で、呪いで縛ってでも真っ当な次の王になってくれればと婚約を維持していたのに!!』
驚いて声の方を見ると、そこには御尊顔を真っ赤になさった陛下が。
陛下を宰相様や騎士か宥めておりますが、それでも落ち着かれる様子は見受けられません。
………………その瞬間から場の空気が、なんとも痛ましい感じになってしまいました。
…………こほん。 と咳払いをひとつ。
「次になぜ私が婚約者になったのか? ……は先程陛下からお答えを頂きましたので、更に次です。
私が男爵令嬢を呪った。 それは全くの事実無根ですが、それを誰から聞きましたか?」
強引に軌道修正を行いましたが、皆様は乗って下さいました。
「…………なあ、父上のアレは本当なのか?」
ひとりを除いて。
〜〜〜〜〜〜
「私が城下へ遊びに行く時の、遊び仲間からだ」
なんとか素直に語って頂きました。
「遊び仲間とは?」
「知らん。 いつの間にか寄ってきて、平民の遊びを色々教えてもらった」
「人相は?」
ここからの聞き取りはかなり順調でした。
「特徴が無いのが特徴みたいな顔だ。 身長も体格も特徴が無かった」
視界の端で我等一族と兵士の動きがありますね。
ですがそれはそちらに任せて尋問の続きです。
「話を変えます。 いつあの男爵令嬢を見初めたのですか?」
「12の頃。 王宮から抜け出して城下へ出た時に、偶然。 可愛かった。 好みだった。 見た途端に恋に落ちたと分かった。 一目ボレだった。 一緒になりたいと願った」
そこだけやたらと熱く語る元婚約者。
「では、私が呪ったとする手記はどうやって用意しましたか?」
「王子(当時)の身分を使い、男爵家の当主に用意しろと迫った。 抵抗されたが、私が強く言えばその通りになるからな。 手伝わせるのは簡単だった」
…………なんとも身勝手な。
それから次の質問をしようとしたら、それより先に元婚約者から続きが。
「だからあの男爵令嬢を何としてでも妃に欲しい。 たとえ本人がはいと言わなくとも。 だからこうやってこの新年会で言ってしまえば、その通りになるだろうと強行した」
…………残りの質問を、全部言われてしまいましたね。
それで、ここから分かることは……。
「子供ですか、貴方は」
思わずポツリと呟いてしまった言葉は、静かな会場で良く響きました。
これを聞きつけた元婚約者が顔を真っ赤にします。
「うるさいうるさいうるさい!! どんな時も表情を変えない所が人形みたいで気持ち悪いんだよっ!!
黒髪黒目もそうだ! 暗くて陰気でいかにも呪われていますって見た目をしていて! それもまた気持ち悪いんだよっ!!
と言うかそれの所為で俺は父さんからもらったお人形に喜んで、そのお人形で遊んでいる子供みたいで惨めに思っていたんだ!!
それと比べて感情豊富なあの令嬢は本当に最高で素敵だったんだよ!!」
強い剣幕でまくし立てて下さる元婚約者。
私情が多分に交ざっており、とても面倒な人物に見えて仕方ありません。
尋問で知りたい事は全て訊きましたので、この子供をどうするか、陛下のご裁可を頂きたいなとそちらへ体ごと向けました所、
『もういい! 貴様の王太子の身分を取り上げ、それ以外の沙汰は追って知らせるっ! こやつを離宮へ押し込めておけ!!』
素早い裁可を頂きました。
それを受けた騎士達が元王太子を拘束し、連行して行きます。
その間も私への暴言を撒き散らしています。
その姿にどんな感情を持ったのか、見物の皆様から小さな呟きが流れてきて、何故か聞き取れました。
『美しい黒髪黒目で、その人形みたいで神秘的な見た目をしている子をフとした時に笑わせて、感情を見せてしまったと恥ずかしがるのが良いんじゃないか……』
……………………は?
何か変な言葉が聞こえましたよね?
そう言って発声源を見ると、なぜか発声源の周囲で…………いや、皆様の中で神妙に頷く方々がちらほらと。
しかも男女の区別なく。
『真理だな』
…………へ?
『ウチの領地にいる一族の子を、誰が笑顔にさせるかって賭けが流行ってる』
…………んんん?
『その賭けは、こっちにも有るわ』
ちょっと?
『……オイ見ろ。 あの公爵令嬢の方、頬に紅が差してきているぞ』
『…………ああ。 いい』
『うむ。 いい』
あの? え?
皆様は、なんで私をからかって遊んでいらっしゃるの?
『可愛い』
止めて! 見ないで!
『素晴らしい』
やめてーーーーー!!!
呪いなんて後ろ暗いイメージしか無いモノでも、結局は使いよう。
「人の英知が作ったものなら、人を救ってみせろ!」
とあるアニメのセリフですが、これは核を使う時に言ったセリフですね。
あのアニメは終始そんな感じ。
すごいロボだろうがそんなご立派でない物だろうが、なんでも工夫して使う。
本来の用途以外にも容赦なく使う。
すごいロボを谷間の即席の渡し橋として使うのもそうだし、本来は兵器を積むスペースに牛を入れて配送したり、ロボの手首が回転する事を利用して川べりで巨大な洗濯機として使ったり。
ロボを座らせて腕を上げて広げさせて、手の間にヒモを通せば洗濯物干しになるし。
あのアニメは今も好きですわ。
蛇足
呪いの公爵家一族
黒髪黒目が多い。 ただし平たい顔族ではなく、彫りの深い顔族です。
呪いなんて厄介なモノの扱いに秀でる者が多く生まれる一族。
もうそれだけで、一種の呪いかもしれない。
だがそれにめげず、呪いだって使いよう。
使い方を工夫すれば良いことに使えるのよ。
をやって見せている。
なお黒髪黒目は先天性なので、黒髪黒目じゃない子=他のに才能がある子 となる。
だからと言って黒髪黒目じゃない子が生まれたら、ひどい扱いを受けるのか?
答えはNO。
むしろこんな厄介な呪いみたいな宿命を、よくぞ背負わないで産まれてきてくれたと喜ばれる。
治安機関で直接呪いを使う者としては心許ないが、それ以外にお願い出来ることは山ほどある。
そっちで頼りにすればいい。 そんな家柄。
なお一族以外からも黒髪黒目は産まれるので、呪いは一族の専売特許ではない。
だが、呪いを使って周囲に喜ばれるのは治安機関だけなので、大抵の黒髪黒目は機関に集まってくる。
集まってきた一族外の者にも、機関に入るなら私利私欲で呪いを使わない誓約の呪いを受けてもらう決まり。
公爵家が配れる爵位は既に配りきった。
なので公爵家の分家には平民の家もある。
だがそんなのはどうでも良い。
使えるのだから使うだけ。
公の場での体裁が有るからそんな場では取り繕うけど、平民だ貴族だと分けるのが馬鹿らしい。
そんな感じで機関は運用されているので、王国のゆるさはここから来ているのかもしれない。
魔法と髪の関係。
呪い以外に無い。
火の魔法の扱いに長けるから赤髪とか、そんなのは無い。 なぜか呪いに秀でた者だけが黒髪黒目になる。
各種魔法属性の適性
そんなものは無い。 魔法を使えるものは、特定の属性しか使えない……なんてのは無い世界。
公爵令嬢
王太子との婚約は元王太子の有責で破棄。
それから分家の所へ嫁入り。
機関の仕事をしながら、生涯を過ごす。
公爵家当主
国王と少し険悪に。
仕事は仕事としてキッチリこなして私情は挟んでいないが、プライベートでは国王へのグチが止まらない。
結果、家族から少しウザがられるように。
元王太子
新年会で集まった貴族達の前での大失態で、表社会へ出られなくなった。
離宮に隔離されたまま、生涯が終わる。
対外的には病気で没したと発表されたが、いつ没したかも含めて真実は不明。
国王
育て方を間違えたと頭を抱える。
王子はまだ居るので後継者が居ない、なんて事態は避けられている。
が、あんなのを王太子にした責任から、貴族達からの風当たりを少し強く感じて風邪気味だと感じる今日このごろ。
男爵家
被害者ではあるが、手伝わされたのだから犯罪をしたと受け入れる。
それで罰はというと、監査と行政指導。
3年は国から派遣された監査に監視されて、意見を挟まれる。
だが実態は、領地経営の健全化だとか監査経由で国からの提案とかが来て、むしろ支援を受けているような状態。
より良い運営経営ノウハウを意見として教わり、汚職の摘発をしてくれて、王国経由で運営に必要な資材や作物や真っ当な経歴の安全な人材も送ってくれた。
…………逆に言えば、それだけ男爵の領地は不健全だった裏返しなのだが、言わぬが花かも。
これだけ良い目を見ているのだ。 いつかこの反動が来るのかもしれない(ゲス顔)
男爵令嬢
完全な被害者。
目が覚めたら全てが終わっていて、元王太子に握られて続けて出来たアザも治療されて、王宮にて至れり尽くせりで歓待された。
その後男爵家へ戻され、あの歓待は夢だったと時折反芻している。
貴族学園
そんなものはこの世界に無い。
各貴族家で家庭教師を雇い、各家で教育を施す。
首都で貴族学園だなんて(江戸の武家屋敷みたいに)人質を取る気か?
と反発されたので。
ただ新年会みたいに、領地経営で比較的暇な期間を選んで社交シーズンとして、首都へ集まったりはする。