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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
7/65

帰さない

 俺はたどたどしく、今まであった出来事を説明した。

 ユメも隣に座り、俺の話に耳を傾けている。

 話し終えると、ツクモが言った。


「俺は現実に戻っていたから影響を受けなかった。つまり、時間が戻ったのは、このゲーム内の話という事だな」

「この世界って‥何なんだ?」


 俺の疑問を無視し、ツクモが立ち上がる。


「とりあえず移動する。本来、お前が着くはずだった街に行く」

「着くはずだった街?」

「知らない人に付いてっちゃ行けないって、子供の頃に教わらなかったか?全く呆れたもんだ」


 俺はようやく気がついた。


「ヒイラギは始めから‥」

「そうに決まってるだろ、俺がその装備を持たせたのは万が一の為だ。着くはずだったはじまりの町は初心者ばかりで、殺人はほとんど無い。お前が京都に行く事で防具の価値が発生した。俺は身包み剥がして殺されるように画策するほど鬼畜じゃない」

「そっか、勘違いしてごめん」

「全くだ」

「でも、どうしてはじまりの街は安全って言い切れるんだ?分からないじゃないか」

「はじまりの街=安全都市というのは、暗黙の了解なんだ。心休める場所は必要だ。それに、特に良い施設も無いし、場所が悪い。だから、中レベル以上のデバッガーははじまりの街には来ない」

「ふぅん」

「デバッガーはみんなはじまりの街からやって来る。だから、新たに実装されたばかりの東海地方で出現したお前達は異分子だった」


 俺は息を呑んだ。


「そういう事だったんだ」

「そうだ。それにしても、ヒイラギは何故、俺たちの状況を知っていたんだろうな。まるで狙い澄ましたかのように、俺とお前が別れた後にお前に声を掛けた」


「ヒイラギも防具を狙っていたのかな」

「あいつは俺と同じ高レベル帯の前線組だ。金をかき集めなくても良いだろうし‥お前、何かヒイラギと話したか?」


 俺は苦い思いで答えた。


「現実の事を聞かれて、話した。でも‥‥」


 襲われた時に言われた言葉を鮮明に思い出してしまう。


ー コイツは生きる事を知らないガキだ。嘘を見抜こうともしない。甘ったれの坊ちゃんだ。弱い者は要らない


 そうなのかもしれない。

 俺は他人の挙動で学校から逃げた不登校児だったし、親にも迷惑かけてばかりで‥‥そもそも、誰かを信じたり、人を守ってあげなきゃ、なんて思う事自体、傲慢だったと、甘かったと後悔している。


 俺がため息をつくと、ツクモが片手で俺の肩をどついた。

 俺は衝撃で後ずさる。


「他人の言う事が正しいなんて保証はどこにも無い。自分の考えを持つ事が大切だ。自分は自分。他人は他人だ」

「‥自分は自分、他人は他人」

「そうだ。結局何が正しいかなんて、分からない。それこそゲームのように、セーブとロードを繰り返してエンディングを幾つか比較しない限りはな」


 ツクモはハキハキした口調で言った。


「今から街に行く。お前は余計なことを考えなくて良い。ついて来い」


 しばらく小川の近くを歩いた。

 俺は危険に備えるため、ユメを武器に変えた。


 ちょろちょろと水の流れる音、ザクザクと小石を踏む音、虫の鳴き声、生温い夜風が肌を撫でる感触、全てがリアルだった。

 何気なく口から弱音と本音が漏れた。


「帰りたい」

「無理だ」

「ツクモはどうやって帰ってるの?」

「さぁ」

「どうして教えてくれないんだよ!俺は‥」


 ツクモは足を止め、振り返る。


changeチェンジ


 無表情のまま、俺にレイピアを突き付けた。

 月明かりが差した。


「お前は現実に帰さない。帰せる方法を知っていても、帰さない」

「どうして!」

「俺にもお前を助ける理由がある。お前を助ける都合がな。帰りたいならせいぜい自分で考えることだ」


 ツクモは喉元から剣先を外した。


「change」


 ツクモのマニュアルは猫に戻り、ツクモは猫に向かって手を差し伸べた。猫は腕を伝い、ひょいと肩まで乗り上がる。

 ツクモは俺を見ずに言った。


「お前とは同盟を結ぼうと思っている。俺はお前のセーブとロードの能力が欲しいんだ……走るぞ。完全に日が暮れたら、夜行性の攻撃力が高いバグが出て来る」


 ツクモが走り出す。

 俺も置いていかれないように駆け出す。

 運動不足のはずだが、不思議と息は弾まなかった。

 森のダンジョンを走り抜け、光に触れる。

 ワープし、大きな川の巨大な橋を渡る。橋の先端には光があり、更にそこに触れると、見晴らしの良い丘に出た。再び直進し、ワープの光に触れると、石畳の敷かれた道に出る。

 あらゆるダンジョンを駆け抜け、ようやく街っぽい場所に出た。



 赤レンガの家が並んでいる。表面には木の板が打たれていて、ヨーロッパ風の街並みになっている。

 既に日は暮れて、NPCの人間達も家に帰ったようだ。


「着いた?」

「ああ」

「随分遠かったけど」

「この世界は日本列島を鋳型(いがた)に作られているが、はじまりの街は例外だ。一番隅にある」


 少しだけデバッガーがいた。

 デバッガー達はツクモに気が付くと駆け寄ってきて、小さく頭を下げて舎弟のように挨拶をする。


「何か弱みでも握ってるのか?」

「俺は装備を与えたり、支援をして、レベルを上げやすくしている」

「へぇ」

「戦う意欲の出た奴を支援し、口車に乗せて一人前のデバッガーにする。俺は彼等を利用して、バグを駆逐する基盤を作り上げている最中だ」


 ツクモの目的は分からないが、目標は、この世界を攻略することなのだろう。


 ツクモは俺に言った。


「お前のセーブとロードの能力は誰にも言うなよ。システム中枢にアクセス出来るメタ的な要素なんて、この世界を壊しかねない重大な力だ。悪用されたら大変な事になる」

「分かった」


 どうしてこんな事になってしまったんだろう。

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