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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
62/65

roly-poly

「なんで‥どうして‥」

「悪いな、宝は俺が貰う」


 ツクモも、もう一体のマニュアルが欲しいと思っていたのか。

 ここで出会うなら、つまり、東家あずまやで別れて、俺に一度ログアウトする、と嘘をついたという事か。

 信じたくないが、今はそこに気を取られるべきじゃない。

 宝を得るのが何より先決。


「ツクモ、俺には宝が必要なんだ、絶対に」

「俺も譲れない」

「なんで?マニュアルなんて2個なくて良いだろ」

「それは俺も同じ言葉を返すよ。宝を欲する権利は同等にある筈だ。手にする権利も」


 ツクモは、シンプルに宝を欲しているだけなんだ。

 そう、アサヒと同じように、それよりも強くもう一つのマニュアルを求めていただけ‥


 俺は考えて言った。


「それはそうかもしれないけど、宝が無いと攻略が進まないんだ!ツクモ、俺は過去からここへ飛んで来た!」


 ツクモが問う。


「攻略が進まないとは具体的にどんな状況なんだ?証拠も合わせて説明しろ」


 ツクモを突破する為。

 だが、宝を得て、もう一体のマニュアルを手に入れても「決闘」ではマニュアルの使用が不可だ。

 正直、具体的な解決策は俺も分からない。

 

 俺が言葉を探していたその時、ずっと開け放されていた宝物のある部屋への扉が、ギィと軋みながら閉まってしまった。


「お前は既に宝を持っているのか?」

「さぁ」

「どうやって中に入ったんだ?二人居ないと扉は開かないのに」

「これは人数じゃなく、重さのトリックだ。40キロ以上のものを乗せれば良い。二人必要なようで、一人でも開ける」

「‥‥人を殺した場合、そいつの持っていたアイテムは手に入るのか?」

「さぁ」


 ツクモは細剣を構えて、軽く地面を蹴った。

 ツクモの顔が目の前にある。俺は咄嗟に横に飛び退いて避けるが、光速で何度も放たれる突きにジリジリとHPを削られる。

 レベルが下がっているせいで、剣が突き抜ける風圧だけで、HPが減少する。ひたすら回避していてもHPが減り続けるのが、息が詰まった。

 オニの銃弾を撃ち込めれば勝ちだが、アイテム欄から取り出して装備する操作が必要なのに加えて、相手を殺す事でアイテムを奪えるのかが分からない。

 以前、俺がツクモから貰った良い装備を持っているから命を狙われる、という事があったが、奪えるのが装備限定の可能性もある。

 そうなると脅すしか無くなるが、一度オニの銃を警戒されたら、もう二度とチャンスは巡って来ないだろう。確実に仕留められる状況にしなきゃいけない。

 

 考えていると、ツクモが急に攻撃の手を止めた。

 俺は回避していた体勢で、地面に這いつくばったまま、呼吸を整える。

 ツクモが俺に剣先を向けて問う。


「お前は何の為に、もう一つマニュアルが欲しいんだ?具体的に答えろ」


 僅かに生まれた隙に、メニューを開いて回復薬を取り出すが、肘を蹴られた。衝撃で薬瓶を取り落とし、地面に転がる薬瓶を容赦なくツクモが踏み潰す。ガラスの砕ける音と共に、地面が黒く汚れた。

 

 俺は覚悟を決めて口を開く。


「未来で強敵と対峙する。その時に、今のままでは勝てないんだ。だから来た」

「自らの意志で?」

「何が言いたいんだ?それなら俺だって訊きたい。ツクモは今の猫だけじゃ満足できないっていうのか?」

「そうだ。精神の安定をはかるために必要なものだから手に入れたい。それがひいては目標の達成に繋がる」


 俺は違和感を覚えた。


 ツクモは手を開いて言う。


「デバッガーが最初に選択するのは、力、愛、知能、勇気、命、運。中でも俺は最初に「愛」を選択した。マニュアルはそもそも、デバッガーを支える存在。それを求めるのは当然の話だろう」


 俺はハッとした。

  

 コイツ、狸のプログラマーか?


 だって、明らかにおかしい。

 ツクモは猫をそんな冷めた風に思っていないのは、明らかだ。

 喋り方はツクモに似ているが、絶対ツクモじゃない。


 偽者のツクモは言う。

 

「俺は目的を答えた。お前も俺の問いに対して、答える義理があるだろ」

 

 俺はその言葉で、確信を更に強めた。


「義理とか、この世界にそぐわない。そんなもの真っ先に捨てる場所だ。お前、誰だ」

「なんのことだ」

「誤魔化しても無駄だぜ。ツクモは自分の事を語らない。ましてや「愛」を選択したなんて、絶対口にする訳が無い。プログラマーの視点だ!」

「それはお前の思い込みだろう」

「俺のことも、基本ツクモは「イチ」って名前で呼んでくれる。でもお前は全部「お前」呼びだ!」

 

 俺が違和感を並び立てると、相手は苛立たしげに剣を地面に突き立てた。


「たかが数日で、俺の何を知ってるって言うんだ」

「人との関係は日数だけじゃ決まらない。俺はこの世界で学んだ。ツクモもそう思っている筈だ」


 俺は相手の立場になって考えた。

 コイツはツクモを演じているんだ。逆に言えば、ここまでリアルに演じられる程、ツクモを知っている人物。


「お前はツクモの近くに居る人間みたいだけどな、お前は何も分かってないよ。上辺だけで、何も分かってない!ツクモを馬鹿にするな!」


 偽者のツクモは剣を抜き取り、再び俺に襲い掛かって来た。突き攻撃だけでなく、バランス良く斬撃も多く入れてくる所が、やけに優等生でツクモとの大きな違いを感じる。

 ツクモが本物でないと確信すると、攻撃も見切れて来る。

 自分のレベルが大幅に下がっているものの、回避のバリュエーションやタイミングの技術は、今の方が圧倒的に優っている。

 避けられる。

 突き攻撃から、右中段の斬撃。腕と身体の動きで分かる。斬撃は後ろへ、突きは横へ飛んで躱す。自分がボールにでもなった様な錯覚が起きる。

 しかし反撃に転じる隙は無く、HPもじりじり減っていく。

 このままじゃまずい。

 何か起点を作らなければ。

 洞窟内の地面は硬くて、基本はなだらかだが、凸凹でこぼこしている部分がある。

 俺はその場所を確認し、後退りして追い込まれるフリをしながら、誘導した。

 その瞬間を、待つ。

 相手が土の盛り上がった部分を踏んだ瞬間、突き攻撃で伸ばされた腕の下を掻い潜り、全力で偽者のツクモにタックルした。

 相手の体重が軽いせいか、思ったよりも綺麗にタックルが決まった。勢いよく吹き飛ぶ。

 その隙に、俺はアイテム欄を開いて【White roly-polyの盾】を装備した。

 ガッシャン、と音を立てながら、左手に身体と同じ大きさの巨大な盾が握られる。

 「roly-poly」とは「ダンゴムシ」の意味で、ズレたパイのように何層にも重なるようなデザインになっている。

 その効果は 

 defence+40

 speed−20

 何故今まで装備しなかったかと言うと、大幅にspeedが低下するからだ。

 リーウェンの戦いじゃ、攻撃を喰らえばステータスが大ダウンするし、武道会でも武器以外のアイテムは使ってはいけなかったから装備していなかった。

 だが、今勝つにはこれしか方法が無い。

 防御をしながら体勢を崩させて、そこにオニの拳銃を撃ち込む!


 偽者のツクモは壁に身体をぶつけてダメージを喰らうが、10分の1程のダメージも入っていなくて、ゾッとした。

 ツクモのステータスもコピー出来るのだろうか。だとしたら攻撃を碌に当てられない状態になるかもしれない。

 相手は直ぐに体勢を立て直して俺に向かって来た。巨大な白い盾を押し出し、飛んでくる剣先にぶち当てる。

 ガゴン、という激しい衝撃。

 相手の身体が震え、特殊なエフェクトが発生する。


 knockback!


 俺は盾を押し切り、偽者のツクモを弾く。その勢いのまま、盾の上から全力で剣を突き出した。

 剣先で、相手の喉元を狙う。

 

 絶対に勝つんだ。


 赤い光のエフェクトが彗星のように暗闇を切り裂き、決意と共に攻撃の手を加速させる。


 critical!


 奇跡的に発生したクリティカルで偽者のツクモのHPが半分までグンと削れる。そのまま大きく体制を崩して地面に横転した。

 大きな隙が生まれる。


 いける!


 俺は重い盾を捨て、追い討ちを掛けに即座に飛び出した。

 偽物のツクモは、たぬきの面を被った男へと変わっていく。

 たぬきの面が、こちらを向いた。

 二つ、穴の空いた部分の闇が、俺を射抜くように見た気がした。


 刹那、脳がギュッと絞られるような感覚と共に、秒針が聞こえる。


 カッ、カッ、カッ


 たぬきが目の前に居なかった。


 何処に行った?


 左右にも居ない。

 空虚な闇と僅かに照らされる地面があるだけ。


 後ろか!


 振り返る俺の眼に、光る剣先と狸の面が映る。


 ふっと目の前が暗くなった。


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