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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
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心の鍵

 今度は自動オートロードしなかった。


 俺は不思議な場所に立っていた。

 真っ白な大理石の廊下。

 一歩踏み出すと、景色がぐにゃりと変わって、左右に複雑な幾何学模様のステンドグラスがズラリと嵌め込まれる。強く風が吹くと、真紅のカーテンが大きく風に煽られてガラスを隠した。

 俺は何もしていないのに、その風に押されて床を滑る様に走り出す。奥にある二枚扉が軋みながら開く。扉の先には、真っ暗闇の部屋があり、後ろで扉が閉まって俺は閉じ込められた。

 目を凝らすと、奥に、ぼんやりと発光する白い人影が立っている。

 なんだこれ。

 バグ?

 俺は近づき、人影がゆっくりと振り返る。

 その瞬間、俺は背中の服を何かに引っ張られた。超能力のようにぽーんと後ろに飛ばされて、人影から一気に遠のいた。

 誰かが言う。


『見ちゃダメ!』


 ユメ?

 ユメの声だ。

 直ぐに分からなかったのは、それがもっと生気を帯びた、熱い血の通った声だったからだ。

 記憶の方のユメだ。


 ユメ!!


 声が出ない。


 俺は気付けば、01010101‥と無数に描かれた数字の中に閉じ込められていた。

 まるでデータの中に閉じ込められているかのようだ。俺は不安になって硬直した。しばらくすると数字は消えて行き、俺はまた別の場所に立っていた。


 小さな部屋の中に居た。

 クリーム色の壁、窓はあるが、清潔感のある白いレースのカーテンが閉まっているせいで光が入って来ない。部屋全体が海底のように暗い。

 部屋の中心には、音楽室にあるような大きなピアノがある。鍵盤の上には、クマのぬいぐるみと、中身が見える透明なオルゴールが置かれていた。

 気になって俺はオルゴールを手に取り、横に取り付けられているネジを回そうとしたが、錆付いたように動かなかった。

 この世界は何なんだろう。

 ユメ、と何度も呼びかけようと口を開くが、声が出ない。

 もしかして、ここはリーウェンと同じように記憶の中で、ユメの記憶に俺は居るんだろうか。

 そう仮定すると、ここはユメの記憶とも言える貴重な場所だ。

 部屋を見ると、マカロンとかショートケーキ型のクッションが置いてある。

 お菓子とか好きだったのかな。

 俺は少し考えた。

 ユメはピアノを習っていたのかな。父親が警察庁ならエリートだったに違いない。

 ピアノの鍵盤を押してみたけど、音がしない。

 顔を上げると、まっさらな楽譜に赤い文字が浮かび上がった。



【EからWに行くのを永遠に繰り返すもの】

 


「EからW‥」


 分からない。

 ユメは謎解きも好きだったのかな。

 脱出ゲームなら周囲の探索は必須だ。俺は再度、部屋の中を細かく探索することにした。


 おもちゃ箱みたいな物が部屋の隅にあった。

 中には、ぬいぐるみや、ゲーム機のハード、ソフト、フルートや、バイオリンなどが入っている。ピアノ以外の楽器も習っていたのかな。やっぱりユメは、お嬢様だったのかもしれない。

 俺は一つずつそれを取り出して床に並べた。

 底の方に、液晶タブレット、何台ものスマートフォン、血に染まった包丁、太い縄‥‥狂った方位磁針などが出て来る。

 俺は恐ろしくなって離れた。後ずさって、壁にぶつかる。

 知りたく無い。

 俺は胸に手を当てて、深呼吸した。

 現実のことなんて、考えたく無いのに。忘れて通り過ぎてやり過ごして‥‥いつまでもここで‥‥

 俺は首を振った。

 ユメは何を望んでいるんだろう。どうしてユメは、俺をここに連れて来たんだ。

 ユメはユメの一部だ。

 知りたく無い事を遠ざけるのは簡単だ。知らないまま答えを出すよりも、ちゃんと知って向き合った上で出す答えは、多分違う。

 ヒイラギもオニもアサヒも、皆んな真相を求めて頑張っているんだ。

 だから逃げない。

 俺は膝を折り、おもちゃ箱のアイテムを観察した。

 底の方にあった物騒な物は多分、ユメの死因や、自殺に使った物だろう。大量のタブレットは加害者のものを暗示しているのだろうか。

 一つ分からないものがある。

 狂った方位磁針。

 ‥‥樹海で死んだ‥とか?

 針は、EとWを往復している。

 ハッとした。

 俺は立ち上がってピアノに立てかけられた楽譜を見る。


『EからWに行くのを永遠に繰り返すもの』


 太陽だ!

 East、東で、Westが西だ。


 謎解きだと、何か数字とか英語とかのブロックを使って、はめ込む事が多いけど、そういうのは無さそうだ。

 オルゴールを見てよく観察すると、底に丸く半円の穴がある事に気が付いた。


 球体の物をはめ込むのか?


 太陽‥

 俺はハッとした。

 そういえばアサヒから貰った、太陽に関するアイテムがあったな。

 俺は試しにピアスに触れると、メニューを開くことが出来た。ステータスから装備を解除して、【太陽の印】を表示させる。

 手に太陽の印が握られた。

 俺は太陽の印を箱の所に嵌め込んでみた。

 カチッと何かが開く音がした。

 白いレースのカーテンが、ゆっくりと開いていく。

 部屋に光が差し込み、満ちていく。

 オルゴールが回り出す。

 不思議なメロディーだ。

 黒鍵ばかりで、少し不安になるような感じ。でも、それが途中で温かみのある和音に変わる。

 最後には軽やかな優しいメロディーを奏で、音が止んだ。

 すると、同時にオルゴールの箱が開いた。

 中には音を奏でる機械じゃなくて、小さな鍵が入っていた。

 それは弾かれるように飛んで、俺の胸の中に溶けていった。

 特に痛みもダメージも無い。

 

 次に、強制的にメニューが開かれ、アイテム欄から「skip ball」が選択されて、手の中に現れた。


 skip ball?


 どういう意図なのか考えていると、それは勝手に数字を変え始めた。くるくるとナンバーロックのように回って変化する。

 俺はハッとした。

 

 逆回転だ。

 

 まさか、過去にスキップさせようとしているのか?

 skip ballは3回しか使えない。

 これで使えば、あと1回しか使えなくなる。

 記憶のユメは指定のロードが出来ないから、宝をゲットして、一気に未来へロードするにはマニュアルのユメが囚われている以上、skipballを使うしか手段が無くなる。

 もし失敗すれば、全てが泡に帰す。どこにskipするかも全く予想できないが、そこから再びやらなければならなくなる。


 一度しか挑戦出来ない。

 失敗が出来ない。

 緊張で俺は息が苦しくなった。


 勝手にくるくると数字が動いて停止した。


 でもやるしか無い。

 そうやって記憶のユメが言ってる。

 お菓子とか、食べ物が好きなのはマニュアルのユメと共通している。

 ユメを助けられる未来に進むために、俺は成すべき事をするんだ。

 俺はユメを信じて、skip ballの頭のスイッチを押した。


 景色が歪んで渦を巻く。

 自分の身体が熱い。見ると、手の先から腕、胴体、足まで、輪切りにスライスされたように分裂して、01010101、と透けていく。

 俺は唾を飲んで恐怖を堪えた。

 ここがデータの中なのだと実感する。

 同時に人工的に作られたアイテム、というのも感受出来た。

 メタ的に、ゲームの姿をハッキリと見せてくる。

 通常の場所の転移や、マニュアルのユメのロードはこんなあからさまに内部が見えない。基本的には世界観を壊さないように意識されているのだろう。


 一瞬意識が遠のいた後、俺は何かに腰掛けて、座っていた。

 視線を落とすと、コンクリートの地面が目に入る。左右、上下を見ると、木の梁があり、木造りの建物だと分かる。

 目の前は開けて直接外と繋がっている。

 地面が白い。

 雪か。

 俺はハッとした。

 東家あずまやだ。


 俺は気がついた瞬間、即座に地面に這いつくばった。

 何かが頭上を掠めて、ドスッと後ろで鈍い音を響かせる。


 アサヒの毒槍。


 俺はそのまま転がるようにして東家を出た。頭上を飛んでくる影に向かって盾のように剣の腹を向け、限界まで身体を縮める。

 細い影は俺の剣を蹴り、東家の壁に突き刺さった毒槍を抜いて、振り返る。


「良い反応ね」


 アサヒは紫色に染まる槍先を俺に向け、不敵な笑みを見せた。


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