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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
59/65

セーブデータ8【中庭】

 レベルを上げる事も考えたが、疲れているのか、身体が重かった。

 まさかと思い、ステータスを確認するとspeedが低下していた。

 頭をスッキリさせて明日に挑んだ方が良さそうだ。

 布団を敷こうと思ったけど、面倒くさくて近くの座布団に頭を乗せた。

 俺は目を閉じた。



 トントン、と襖が叩かれて、俺は目を覚ました。

 ザッと襖が開き、誰か入って来た。

 明るい少女の声。


「イチー、おはよー」


 アサヒだ。


 俺は寝ぼけ眼で上を見る。

 白くて細いしなやかな脚と、焦茶のニーハイソックスが眩しい。

 起き上がらずにぼうっとしていると、ふわっと膨らんだミニスカートの下から、黒いレースのパンツ、それも真下の図が見えた。


「キャッ」


 俺は踏み潰されて、HPが半減した。一気に目が覚めて、転がるようにアサヒから飛び退いた。

 シャレにならない。


「な、な、なんて格好で寝てるのよ!!」


 アサヒが顔を真っ赤にしてスカートを手で押さえる。

 俺はパンツ(下からの図)を思い出しながら、頭を下げた。


「そこに座布団があって、てきとうに枕にして寝落ちしてた。ごめんなさい」

「も、もう!居るなら返事しなさいよ!」

「ごめん、半分寝てた」


 でも寝たお陰で頭がサッパリした。身体も軽い。

 アサヒは腕を組んでムスッとしてから、部屋を出て行こうとする。横髪を留めていたピンを差し直して、栗色の髪をふわりと揺らして振り返った。


「もうくじ引きが始まるから行った方が良いわよ」

「くじ引き?」

「トーナメント方式で、自分の番号が必要なの。確認した方が良いわ。案内してあげる」

「ありがとう、今行く」


 俺は靴を履いた。

 アサヒに案内されて、廊下からコンクリートの通路を通り、中庭に出た。


 既に大量に人がいた。京極家の中庭は縦横100m以上はある位に広いが、人が押し寄せている。

 これほどまでに北海道の大名の座を狙っている人間がいるとは思わなかった。

 京極家の構成員が「最後尾」の看板を持って大声で言う。


「数字のAは午前、Bは午後です!」


 同じく縁側みたいな場所で、構成員が木箱を持っていて、丸い穴から腕を突っ込んで木の札を取り出す。


「自分で引いて良いのか?予め決められてたじゃん」

「準決勝とか、強い人間の時だけね、予選はキリないし」

「そっか」


 俺の前で中身が無くなってしまい、後ろに置いてあった新しい箱から番号札を引いた。

 将棋の駒みたいな木片に、A-405と数字が掘られていた。

 掲示板に張り出された紙を見ると、405とぶつかるのは、99だ。

 対戦するまで相手の名前は分からないっぽいな。

 まだ俺の試合まで時間がある。

 少し観戦することにした。

 マニュアルはみんなが観戦している縁側の方の台に武器化した状態で置き、デバッガーは、鉄製の武器に切り替える。

 みんなの目があるので、不正は出来なくなっている。


 二人のデバッガーは、片手剣と杖で、明らかに剣の方が有利に思われたが、杖のデバッガーは素早い動きで剣を避け、両手で思い切り杖を叩き付けるように振り下ろした。相手の頭部に直撃し、相手のHPが3分の1を切った所で勝敗が決まる。

 掲示板で勝者の線に赤い線が引かれる。

 たまにダメージが超過してしまい、数人がエスケープした。

 あまりに呆気ない死。 

 だが、誰も気にしていない。

 

 それに対し、俺も何も感じなくなった。

 生の価値も死の価値も自分で決める場所だから。


 順番が回って来た。

 アサヒに肩を叩かれる。


 よし。


 俺が一歩を踏み出したその時、世界が白黒になって停止した。

 

 来た!!!

 やっと来た!セーブだ!


 ユメの優しい声が聴こえる。


 セーブ、しますか?


 《はい》 《いいえ》


 はい、を選択する。


 セーブデータ8 京極家 中庭


 俺は泣きそうになるのを堪えた。

 良かった。本当に良かった。

 ここまで来て全てやり直しになったら、本当に心が折れていたかもしれない。

 もう一人のユメ、ありがとう。

 俺は胸の内で言いながら、前に進んだ。

 果たして相手は‥‥前を向いて確認して、唖然とした。

 

 藍色のコートをはためかせながら、黒髪の小柄な少年がやって来る。

 

「ツクモ!!」


 ツクモは流麗に腰から片手剣を抜き、一回転させてから俺に刃を向けて構えた。


「えっ」


 ツクモが言った。


「引いてくれ。俺は勝ちを譲れない」


 意味が分からなかった。

 いっぱく置いて、俺はこれが決闘だと思い出す。

 そしてハッとした。

 俺が大名にならなくても、ツクモが優勝してもっと地位を確立したらユメを取り返せるかもしれない。それで、守ってもらえるかも‥‥

 俺の淡い希望は、ツクモの一言によって壊された。


「お前が邪魔なんだ」

「‥‥」

「世界の意志と俺の余命は関係ない。お前のロードに付き合っている時間が無い。俺はお前を守れない。コントロール出来ないなら、閉じ込めて能力を使わせないのが最適解だからだ」

「‥‥」

「だから勝ちを譲ってくれ」


 ツクモはリーウェンと同じように、現在、ユメの力が使えないと思っているようだ。

 

 だが、ツクモなら時差があって不審に思うはず。


 俺は敢えてたずねた。


「時差はどうなってる?」

「リーウェンの話はシバサキから聞いたよ。巻き戻しの能力と影の能力といい、厄介だったな」


 巻き戻しの能力?訳がわからないが、《シバサキはツクモに嘘を言った》のか?

 嘘をついてまで、もう一人のユメの存在と、セーブロードが使える事を隠そうとしている。

 それなら俺がバラすわけにはいかないよな。


 だが、ユメを取り戻すためには、セーブロードが使えないという嘘をついている状態では、取り戻す事が出来ない状態が発生する。

 何故なら結局セーブロードを封じ込めたままで居たいからだ。

 ややこし過ぎる。

 俺は一体どうしたら良いんだ?


 その時ピッ、と笛が鳴る。

 ツクモが地面を蹴った。

 俺は同時にしゃがんだ。ツクモのspeed補正で剣の軌道なんて見えない。頭の直ぐ上を剣が掠める。

 アサヒに特訓を受けたり、ステータスが上がったせいか、以前よりも、剣の挙動がごく僅かに捉えられる。俺は転がるようにして必死で避けたが、ツクモの剣はどんどん加速し、追い詰めてくる。左へ跳んで避けようとした所を足払いを掛けられて、俺は呆気なく尻餅をついてツクモを見上げた。

 スッと首に刃を突き付けられた。温かいものが首を伝って胸に流れていく。

 左上のHPがじわじわ減る。


「エスケープさせる。ユメの居ない今なら、お前を殺すことが出来る最大のチャンスだ」


 やはり、ツクモはリーウェンと同じで、もう一人のユメの存在や、俺が今も尚ロード出来る状況を知らないんだ。


 俺はツクモを助けたいけど、その為にユメを切り捨てる事は出来ない。

 ユメは絶対に取り戻す。

 だから譲れない。

 立ち上がろうとした時、ツクモの剣が俺の首を掻き切っていた。目の前に赤いコードが散らばる。まるでゲームのバッドエンドみたいに、視界が赤く染まった。

 首が痒い。


 何処かでツクモは許してくれるんじゃないかと思っていた。


 ユメの声が頭に響く。

 


『セーブデータ8、へ、ロードします』



 選択出来ない。

 自動オートだ。

 世界は溶けるように渦を巻いて、次の瞬間、俺は再び芝生の上に立っていた。


 世界が再演される。


 ツクモが鉄製の剣を回し、ピタリと俺に刃を向けて言った。


「引いてくれ。俺は勝ちを譲れない」

 

 ここからか。

 自分でも意外に落ち着いていた。考えろ。

 俺は‥‥どう話を持っていくのがベストなんだろう。やはりツクモに勝つしか無いのか?


 ツクモが一歩近づいて言う。


「お前が邪魔なんだ」


 俺はひとまず意見を言う事に決めた。


「譲れない。俺はユメを助けたいからだ」

「俺が大名になったらユメを返せるよ。領土も広くなるし、京極家と交渉出来るし、ユメを守ってもやれる」


 この流れだと素直に自分の考えを言わないらしい。

 俺はキッパリ言った。


「嘘を言くなよ!そんな気なんてサラサラ無いくせに!」


 ツクモが目の前に居た。

 グンとHPが減る。

 俺は飛び退こうとしたが、あっという間に連撃で全身を串刺しにされて、HPがゼロになった。

 

 スタートを言う笛の音が無かったから、襲って来ないと思って気を抜いていた。殺しても、不戦勝扱いになるのかもしれない。

 断続的に血飛沫が上がって、視界が赤く染まる。

 あまりの速さに痛みすら感じられない。

 目の前で、ツクモの顔が苦しそうに歪むのが見えた。

 

 暗転。


 同時に俺は、地面に立っていた。

 ロードした。


 ツクモが剣の先を俺に向ける。


「引いてくれ。俺は勝ちを譲れない」


 あるとしたら、俺がここでツクモに打ち勝つ事。

 そうすれば自分でユメを取り戻し、且つ、もう一人のユメの存在、能力が使える事をバラさなくて済む。


 スタートの笛が鳴り、ツクモが飛び込んで来た。手加減しているのが分かる。

 横から刈ろうとする右足を咄嗟にジャンプして躱し、俺はツクモの重心が掛かっている左足を剣で思い切り切り付けた。ツクモのHPがごく僅かに減る。

 6分の1程。

 更にツクモはバランスを崩して膝をついた。

 その瞬間、うぉぉおお、と中庭の各方面から歓声が上がった。

 ツクモが目を見開いて俺を見る。

 ヤバい。ロードしてると悟られてはいけない。


「滅茶苦茶特訓したんだ。アサヒにも丸一日かけて戦術を教わった」


 ツクモが剣を逆手に持ち直して言う。


「そうか。だが、ここは譲って欲しい。俺は「命」が懸かっているんだ。必死にならざる負えないことは分かってくれるよな?」


 命。こっちじゃなくて、本当の向こうの命。


 俺の思考を読んだように、ツクモは言った。


「ユメはマニュアルだ。データの存在だよ」


 この話には意味が無い。

 俺はもう理解した。

 何故なら最後まで答えは分からないからだ。


「俺はログインして、何も変わってないからショックだったよ。その絶望がお前に分かるか?」


 ツクモの静かな嘆きに何も俺は答えられない。


 俺は代わりに訊いた。


「大きな矛盾がある。ずっと思っていた事だ」

「何だ?」

「ツクモは死んでからもこっちの世界で生きたいって考えてるけど、倫理的な問題で向こうで健康に生きてないとここにログインが許されないんだろ?それって矛盾してないか?現実で死んだらここで過ごせないじゃないか」

「現実で契約を結んでる。俺が協力してクリアをしたら、データ脳を終末期患者のサンプルとして起動して貰う」

「分かりやすく言って」

「つまり、若くして病気で生きられなくなった人がこっちの世界でも生きられるってサンプルにする予定らしい。死んでた奴を復活させるのは、また別の話になるからな」

「‥‥そうか、だから早く攻略をしたいのか。でもそれは誰との契約なんだ?」


 ツクモが剣を突きつけて、俺は避ける。突き攻撃の間に斬撃を挟んでくる。回避と防御で精一杯で、攻撃に転じられない。ツクモは永遠に攻撃をしてくる。空気を切る剣の音と残影と、自身の拍動だけしか聞こえない。ふいに胸に衝撃があり、見ると剣が突き刺さっていた。俺は胸の中心を突き抜かれていた。血液のコードがだらだらと流れ落ちてくる。

 ツクモが剣を引き抜くと、強い拍動と共にリアルな勢いを伴って赤いコードは噴き上がり、俺のHPはみるみる減少する。

 痛い。

 貧血みたいにリアルな気分の悪さを伴いながら俺は倒れ込む。

 ツクモが言った。


「俺には勝てないよ。諦めろ」


 世界が渦を巻いて、真っ暗になった。


 俺は再び地面に立っていた。


 ツクモが鉄の剣を抜いて俺に向けた。


「引いてくれ。俺は勝ちを譲れない」


 ダメだ。詰んでる。

 詰みだ。

 どうしよう‥‥

 

 俺は膝をついて頭を抱えた。


 ふと、シロの言葉を思い出した。

 ー 今のままじゃ詰んでる。

 どこかで戻ってやり直さないと


 今なんじゃないか?

 宝を取り戻すタイミング。

 だが、記憶のあるユメは、自動ロードしか出来ないって話を聞いた。

 通常のユメみたいにセーブデータにロード出来たら良いんだけど‥‥

 俺は心の中で叫んだ。


 ユメ!

 ユメ、聞いてくれ!

 俺は自動のロードじゃなくて、手動で過去にロードしたい!


「ユメ‥」


 記憶の無いユメの方に願いが届くかは分からない。

 それでも一度やってみよう。

 俺は目を閉じて、自分の喉を掻き切った。

 

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