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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
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キーワード

 俺は一つ深呼吸をして、考えを整理した。

 メニューからフレンドを開いて名前を確認するが、ツクモの名前は薄くて、まだログアウト状態だ。

 まだ不明な点が幾つか残るが、一番大きな事がある。

 メタ的な変化だ。

 オニ達の様子を眺めるアサヒに俺は気掛かりな事をたずねた。


「シバサキは生きてる?」

「フレンド欄見ると、普通に生きてるみたいだけど、本当に前々回のロードで死んじゃったの?」

「その筈だけど‥」


 今回はskipballを渡されなかった。蔵に来なかった。前回はツクモの猫の誘導で俺に会いに来た。そして、その後のシバサキの行動が変化したから、何らかの死因を避けた、と考えられる。


 あり得るのは、ツクモがログインして、別の指示を出したとか?

 俺が死ぬ前にログアウトしたら、記憶を保持したままになるから、ツクモなら、より最適な行動を取る可能性が高い。

 それか、シバサキがツクモと関係なく現実と接触できる方法があるのだろうか。

 シバサキには、みんなには研究者という素性をバラさないで欲しいと頼まれたから、相談できない。


「シバサキと連絡を取れないか?」


 アサヒが通話をしてくれた。


 ー もしもし、シバサキ?こんな時に、何処に居るの?


 アサヒがスピーカーに切り替える。シバサキの淡々とした男の声が響く。


 ー 攻略を進めていたんだ

 ー メールも見てなかったでしょ?ちゃんと確認してっていつも言ってるでしょ?

 ー はい。気をつけます

 ー ちゃんとしてよね、心配だったんだから、もう


 俺は横から言った。


 ー シバサキさん

 ー はい 

 ー 一回話をしたいのですが、今どこにいますか?

 ー 雪山です。ツクモが不在ですが、代わりに私が指揮を取って百井家で攻略を進めています。イエティを倒してから、新たなルートが開かれました。ボスまではそう遠く無さそうです

 ー 帰って来れそうにないですか?

 ー はい

 

 skip ballのことも聞いておきたい。みんなには聞かれないように話をしたい。


 ー フレンド登録して、また後で通話をしても良いですか?聞きたい事があるんです

 ー 分かりました


 二人だけで、というニュアンスは理解してくれたようだ。


 ー 別に今話せば良いじゃん

 ー ‥‥男同士いろいろ話す事があってだな‥

 ー なにそれ

 ー アサヒさん、詮索はやめて下さい

 ー 言えない事なの?


 アサヒが腕を組んで俺を見る。

 

 ー また後で教えるからさ

 ー ふぅん


 という事で、アサヒを通じてシバサキをフレンド登録した。

 ロードしたら戻ってしまうかもしれないが‥‥頼むから、早くセーブが来てくれ。


 そう思っていると、シロとクロが駆け寄って来た。

 シロが首を傾げる。


「今のシバサキ?」

「うん。元気そうだったよ」


 シロが笑った。


「良かった!」


 クロが眉を上げて言う。


「死ぬかと思いました。もう二度とこんな事やりたくないです」


 構成員を纏め終えたオニがやって来て、腕組みして皆んなを見て訊く。


「お前達、宿は取ってるか?」


 シロが言う。


「取ってないよ」

「もう遅いし、客間に泊まっても良いぞ」


 シロとクロがやったー!と手を合わせた。


「お前も良いぞ」


 オニは、ポツンと立っているアオヤマに言う。


「俺は帰る」


 アオヤマは金髪の前髪を逆立てるように手櫛を通すと、速やかに塀を乗り越えて、帰って行った。

 数人の青山家の構成員も後をついて出て行く。


 アサヒが言った。


「京極家が攻略派に回ったことで、完全に対立したわね」


 オニがクロを見る。


「お前は良いのか?」


 クロは長い黒髪を手で漉いて、肩を竦めて答えた。


「ボクはやりたい事をするだけです。別に、攻略とかどうでも良いじゃないですか」

「そうだよ!友達だもん!」


 シロとクロが手を繋ぐ。

 なんだか可愛らしい。

 オニが無言で横に佇むシシに言った。


「シシ、このチビ達が調子に乗って悪戯しないか見張っておけ」

「御意」


 そして俺たちに言った。


「シシを家臣の一人にする」


 シシが小さく頭を下げた。

 俺たちも頷いて返した。

 


 俺とアサヒは京極家の構成員に案内されて、客間に泊まった。シロとクロとアサヒはみんなで同じが良いと言って、同じ部屋だった。

 俺一人が別室にされる。

 ノックがあり、返事をするとオニが襖を開いて入って来た。座布団に勝手に胡座を掻いて座る。


「ユメの事だが、急に俺が大名になったからといって、お前に返す訳にはいかない」


 ユメを返しはしないだろう、という予想はしていた。


 俺は訊ねた。


「でも、北海道の大名になったからって、みんな襲って来ないものなのか?」

「攻略派かどうかは、この世界じゃ同盟を結んでる位に大きい。つまりお前と同盟を組めば、百井家や京極家、柊家、全員でユメを守ることも出来る。お前一人じゃ守れない状況でも守れる」

「でも武道会で優勝なんて、現実的じゃないだろ。決闘モードじゃないって事は、レベル差がモロに出るんだろ」

「お前覚えていないのか?イエティの時、あり得ないダメージ出していただろ?」


 俺は記憶を辿った。

 確かに、イエティは俺よりも全然高レベルだった。急所を突いたとはいえ、一撃で仕留める事が出来たのはおかしい。

 それだけじゃない。

 418I'm a teapotの時もレベルに見合わない火力が出たし、不思議だとヒイラギに言われた。


「一説によると、隠しステータスがあるらしい」

「隠しステータス?」

「それは固定されておらず、意志の強さに比例して上昇し、ダメージを増幅させる」

「‥‥もしも俺がそれを引き出せるなら、対等に戦えると?」

「そうだ」

「そう上手く行くかな」

「それはお前によるだろ」


 俺には世界の加護もある。確かに、挑戦してみないと分からない事もあるだろう。

 失敗して、その後、また新たな手段を考えれば良い。


「オニ、詳しく話してくれてありがとう」

「お前のためじゃない。全てはアサヒのためだ。もし俺が死んでも、お前がアサヒを守れる位に力を付けて貰わなきゃ困る」


 まさかそんな風にオニが考えているとは思わず、驚いた。

 どう返すべきか悩んで言った。


「任せろ」


 視界の左上にビックリマークがあり、触れるとフレンド申請が来ていた。


「何かあったら直ぐ知らせろ」

「ああ」


 オニをフレンド登録した。

 オニが帰った後、再びノックがあった。


「はい」


 スッと小さく襖が開く。

 そこから、栗色の髪がサッと覗いた。丸い焦茶色の瞳が覗く。

 アサヒだ。


「オニと何話してたの?」

「まぁ、色々だよ」

「なにそれ、教えてよー、入っていい?」

「うん」


 俺は取り敢えず座布団を出した。

 アサヒが入って来て、座布団を無視して三角座りで隣に座って来た。

 俺はふと、オニの能力を思い出して、人差し指を立てた。


(しー!)


 アサヒと仲良くしたら、俺はオニに殺される。

 アサヒはぷくっと頬を膨らませて、人差し指をギュッと手で掴んで来た。

 耳元で囁く。


「ねぇ、何話してたの?」

「色々だよ、ユメをどうするかとか、そういう事」

「ふぅん」

「何か用があって来たの?」

「‥これあげる」


 ペンダントだ。懐中時計みたいに蓋付きで、中にだいだい色の丸い宝石が埋め込まれている。

 触れてじっと見ると、アイテムの名前が表示された。


 太陽の印


「ヤタガラスを倒した時に転がってたの。ヤタガラスは太陽神だから、太陽なんじゃないかなーって思うけど」

「いいの?」

「槍のステータスはhit rait依存だし、これはattackとspeedのステータス上昇が付いてるから、イチの方が使える」

「でも、これ綺麗だよ。アサヒは綺麗なもの好きなんだろ?宝探しの理由をそう言ってたじゃん」


 アサヒが目を丸くする。


「よく覚えてるわね」

「まぁ、騙されてた時だけどさ」


 俺がいじけて言うと、アサヒがクスクス笑った。


「ごめんね」

「笑いながら言われてもな」

「ごめん。でもちょっと嬉しかったんだ。覚えててくれてたから」


 隣に触っていたアサヒが、くるりと後ろを向いて、背を預けて来た。


「宝探しが趣味なのは本当。攻略の片手間で息抜きにやってる。アクセサリー集めるのも好き。本当は印シリーズ、コレクションしたいんだけど、実際良い装備だし、イチにあげないとなぁって思ったの」


 アサヒは続けて言う。


「イチが強くなれば奴らを対峙出来るかもしれないから」

「奴ら?」

「中国の奴ら。リーウェンは倒したけど、まだオニに擬態してキョウゴクを殺したゴミが残ってる。お父さんの仇を討たなきゃ」


 そうだった。

 アサヒの目的は攻略じゃない。父親を殺した奴らに復讐し、真相を探る事だ。現実の情報を得たりする兼ね合いでツクモと接触し、百井家にいるだけだ。


 アサヒは険しい表情で呟く。


「パ‥‥お父さんを行方不明に追い込んだのは、アイツらだったのかな?」

「分からない。真相を解明しない事には」

「そうね。変なこと聞いてごめん」

「俺も答えを求めたくなるよ。リーウェンは‥‥」


 俺は口を閉ざした。

 話を変えた。


「そうだ!宝って何が入ってたんだ?」

「だから、空だったのよ」

「そうじゃなくて、噂だよ。聞きそびれてた」

「あぁ、それね、もう一体マニュアルが貰えるっていうもの」

「‥えっ」


 サラリと聞き逃してはならない事を言った。


「マニュアルが貰える‥?」


 アサヒが頷く。


「そ、もう一体のマニュアルの噂があったのよ。bunny産の情報だから、確かだと思ってたけど、今思うと眉唾ものね」


 ゾッと鳥肌が立った。

 俺が手に入れなければならないアイテム。

 もう一人のユメ。

 関係ない筈が無い。


「あのさ、お宝が空だったのは、誰かが先に持ち去ったから、なんだよな?」

「そう考えるのが妥当でしょうね」

「アサヒが俺をあそこまで連れて来たのは、宝の場所が二人じゃなきゃ開かない場所にあるから、なんだよな?」

「ええ」

「つまり犯人は二人ってこと?」

「多分。でも相当早く行動している筈。後から来た人間じゃなくて、おそらく攻略に参加しているデバッガーよ」

「‥‥仲間を疑うなんて嫌だな」

「でも別に、宝なんだから悪い事をしているわけじゃないわ」

「地図ってホテルのロビーでしか入手方法が無いの?」

「多分ね。しかも高レベルよ。luckに振る余裕なんて、低レベルじゃ無いから」

「‥‥」

「っていうか、ほんとシバサキメール返信しないんだから、もーう」


 親しいようだ。それも、異性というより、無防備に甘えているような感じがする。


 アサヒがすらっとした足を伸ばして寝転がった。横髪を留めていたオレンジのピンを外すと、綺麗なストレートの髪がスッと広がる。

 アサヒって大人っぽいけど、まだ高校生なんだっけ。

 俺は言った。


「最初シバサキとアサヒを見た時、親子みたいだなって思った」


 アサヒが笑った。


「あたしもそう思う」

「え?」

「本当の名前を呼ばれた事があったの」

「えっ」

「でも、ハッキリ違うって言われた。あたしが聞き間違えただけみたい。見た目も口調も違うしね。でもつい重ねて見てしまう事があるの‥‥あぁ、お父さんに会いたいなぁ。お父さんが一人で育ててくれたのよ。ちゃんと行事も来て、お弁当も作ってくれて‥優秀な人だったわ」

「アサヒ‥」

「お父さんがもし誘拐されてたら、助けられるかもしれないし‥トップの人が殺されたり、物騒な事になったから、正直‥‥無事では無いとは思うんだけど、人間って、夢見ちゃうでしょ?」

「確かにね」


 俺たちは、無言で大切な人の事を想った。


「ユメを取り返さないとね」

「‥うん」

「大丈夫、オニは他の方法も考えてくれてるよ。今はやる事をやるしか無いわ」

「そうだな」


 アサヒはオレンジ色に輝くピアスを弄り、言う。


「ツクモは戻って来てないわね」

「‥」

「ツクモのお父さんって、優秀なお医者さんなんだってさ」

「へぇ」

「法医学医って言って、死体を解剖するんだって。国内でも500人しか居ないらしいよ」

「すごいな。だからあんな優秀な子が産まれるんだな」

「何目線よ」


 アサヒが笑う。


「ツクモがメタバース計画のチームで被験者として参加出来たのはお父さんの伝手もあるでしょうね。きっとお父さんも助かって欲しいって思っているんだわ」

「そうだな」


 俺は想像して、切ない気持ちになった。



 ーーーーーーーーー



 きな臭い話だ。


 オニは鈴を通して話を聞いていた。

 車に轢かれて骨折した時にボルトを入れて手術した時の脚の傷を見る。


 新たなキーワードが出て来た。


 法医学医。これは裁判の時に提示する証拠などにも繋がってくる。死因や身元の特定などをする仕事の筈。検察とも深い関わりがある。


 傷と医師、医師の中でもトップに立つ法医学医。

 そして検察。

 ヒイラギは警察庁だ。

 そこら辺がどうにも怪しい。


 ヒイラギの記憶を取り戻せば何か分かってくるだろうか。


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