打開策
俺の身体は冷たいコンクリートの上に投げ出された。
壊れた鉄格子。
時刻は‥‥メニューを開いて確認する。
【19:30】
一昨日の夜だ。
また‥‥戻ってきてしまった。
いっぱく遅れて、俺は一気に出来事を思い返した。
凄まじい疲弊と哀しみが襲い掛かり、俺は頭を抱えて蹲った。
「‥あんなの、どうやって‥」
落ち着け。
喚いてる時間が無駄だ。
まずは一つずつ考えていこう。
この後直近で起きるイベントは‥‥前回のロード線なら、シバサキが来た。
発生条件は、ツクモがアモルに俺を探すように指示して、シバサキを導くこと。
だが、セーブデータの後の指示なので、もしもツクモがログインしていなければアモルへの指示は発生せず、シバサキも来ない。
それを裏付けるのは、一度目のロード線でシバサキが来なかった点だ。
逆にログインしていれば、ツクモは同じ行動を取り、同じ事が起きるはず。
俺は願いながらフレンドを開く。
だが、ツクモはログアウトしていた。
ガッカリしては居られない。
そうなると、次のイベントはシロとアサヒとの電話だ。
いや、違う。
この二つはセーブ前の出来事。
アサヒとは特訓を約束した後。
そして俺は思い出した。
選択肢!選択肢を忘れていた!
オニかアサヒ、どちらと特訓をするかで、俺はアサヒを選んだ。
オニが選択肢に出て来るのは意味深だ。俺がまだ行っていないルートはコレだ。
待て。
その前にまず一番にやらなければならないのがシロへの電話だ。
俺はフレンドからシロを選んで、通話をした。出ない。
一定間隔で俺は電話を繰り返した。
絶対、今日の内に伝える。
すると、ブツリ、と音がして繋がった。
オニが聴いているかもしれない。
俺はスピーカーの音を落とした。
シロが言う。
ー しつこいよ〜
ー シロ、お願いがあるんだ
ー 今忙しい
ー お願いだ。時間をくれ。このままじゃ、未来でクロとシバサキが死んでしまう
ー ‥‥え?
ー シロを取り返そうとしてクロと屋敷に向かっただろ?そこでアオヤマに殺されてしまうんだ。アオヤマは嘘をついている。キョウゴクにも話をしていない。だから、京極家の屋敷には行ってはいけない
ー ‥それは、イチの能力なんだよね?ユメが居なくても使えるの?
ー それもややこしいんだけど、絶対に秘密にして欲しい。
ー 分かった。
ー 屋敷に行かないっていう約束も、守ってくれるか?
ー うん。クロを危険な目に遭わせる訳にはいかない。そっか、ユメに会えるかと思ったけど、ダメだったのか
ー ‥うん。そうだ、占いをして欲しいんだけど、まだ使ってない?
ー んん〜??さっき占ったばっかだよ?ボクの占いは、セーブの前の出来事じゃない?
俺は頭を抱えた。
ー そうだった
でもそうか、だからシロはしつこいって言ったんだ。
悪い事したな。
混乱している俺に、シロは優しく言った。
ー ねぇ、ロード使えるんだよね?
ー 今のところはね
ー ボクちょっと思ったんだけどさ
ー うん
ー イチが他の人と大きく違う点って、過去に戻ってやり直せる事でしょ。
ー そうだけど
ー 単に行動を変えるだけじゃなくてさ、詰んでる理由は他にもあると思った。例えば、《進むのに足りない物》があるとか
ー え?
ー アイテムってロードを跨いで過去から持ち越せるんだよね?
ー うん
ー それって意味がある事だと思う。例えば、アイテムが無きゃ上手くいかなかった場面とか、今まであったんじゃない?
俺はハッとした。
ー あった!!
ー つまりそういう事だよ、過去から何か持って来なきゃいけなかったり、とか、どう?
ゾッと鳥肌が立った。
あり得る。それを手に入れることで道が開ける可能性。
ー シロ、凄いよ!!よく思いついたな!
ー えへへ
ー シロ、本当にありがとう
ー いいえ〜
ー 忙しい中ごめんな
ー 気にしないで。そんな深刻な事になってるとは思わなかったし。また何かあったら電話して
ー ありがとう
シロとの通話を切った。
アイテムの取りこぼし、というのは目から鱗だった。
だが、そのアイテムとは何だろう。
もしそういうモノがあるとして‥そんな重要なアイテムなんて、あっただろうか。
俺は考えて、口を覆った。
ある。
未回収のアイテム。
目の前にあったはずが、奪われてしまったアイテム。
『お宝』だ。
でも、待て。
絶対とも言い切れない。
その仕組みで考えれば、逆にこのロード線で回収しなければいけないアイテムがあって、それが無いとお宝がゲット出来ない可能性だってあるんだ。
ややこしい。
クソ、どうする?
それに、オニの選択肢も気になる。関係ないなら出て来ない筈。
ヒイラギとツクモの時のように二つ見ないとダメな選択肢もあった。
うん。
まずはオニと修行しよう。
リーウェンをどうするか、そして、オニと修行する事をアサヒに伝えようと思ったが、アサヒは電話を出なかった。
代わりにメールを送っておいた。
俺が次の行動に頭を巡らせていた時、蔵の壊れた入り口に影が差した。
男の声が言う。
「未来でクロとシバサキが死んでしまう」
狐の面を被った男。
「オニ!」
「お前の能力は、未来を体験して死ぬと過去に戻り、やり直せる能力だな」
シロとの通話でバレるよな。
覚悟はしていた。
「そうだ」
「使いようによっては速く攻略が進むが、ロードを繰り返して攻略が遅くなる可能性もある諸刃の剣」
俺は言った。
「オニ、頼みがある。このままじゃ、アサヒが死ぬ。だから死なない様に、力を貸して欲しい」
「嫌だね。俺はアサヒが死んでも良いと思ってる」
「どうして!お前、アサヒの事が好きなんだろう?守りたいって思わないのか?」
「‥‥誰に聞いた?」
「未来のアサヒから」
「アイツ‥」
「どうしてアサヒが死んでも構わないんだよ」
「エスケープだ。死ぬ訳じゃ無い」
「そうだけど、一緒に居たいと思わないのか?」
「アイツには幸せになって欲しい。ここじゃ幸せと夢は手に入らない」
俺は言葉に詰まった。
確かにそういう考えも出来る。
オニは言う。
「この世界は、死よりも何かを優先出来る世界だ。死を重視した行動は、俺はしないようにしている」
「でも、殺さないのか」
「何が正しいか分からない。アサヒは父親の仇を打ちたいと思って心を砕いている。部外者の俺がそれを壊しても良いのか、分からない」
「百井家の家臣であったのは知っていたのか?」
「あぁ。警備で屋敷に鈴を置いていたら、勝手に音は拾う。最初、能力を言ってなかったからな。アイツは盗聴盗聴って言ってくるけど、仕方ないだろ」
オニはそうぼやき、言った。
「change」
着物の合わせ目から、拳銃を取り出す。
「ま、俺には関係の無い話だ。何度でも死んでもらう。幸い俺は記憶が無いから毎回一発目だし楽だ」
「ま、待ってくれ!!」
オニをこちら側に引き込む必要がある。少なくとも見逃してくれる位には。
そうしないと俺は今、死ぬ。
アサヒを使うんだ。
「‥アサヒって可愛いよな。優しいし。そういえば、お前の事も、未来でよく話してたよ」
「‥‥気が削がれるから止めろ」
「盗聴して来るけど、あたしを助けてくれる、頼りになる奴って」
「‥‥」
「お前は、アサヒのどこが好きなんだ?」
「は?」
嘘をつけ。頭を使え。
生きるんだ。
「アサヒが未来で聞いて来たんだ。オニは、あたしのどこが良いんだろう、って」
「‥本当かよ」
「本当だ。さっきアサヒとの通話を聞いていていただろ?未来でアサヒと一日中特訓をするんだ。何度か休憩して、その時に話になった」
「ふぅん」
「考えてみろよ。普段はお前に聞こえるかもしれないから恋バナなんて出来ないだろ。決闘モードの中だったから、多分アサヒは俺に話してくれたんだ」
「そういう事にしておいてやる」
オニは言った。
「‥‥俺は、あんな可愛い異性と話した事が無かった。容姿だけじゃなくて声も、女特有のキンキンしている奴じゃなくて、優しい声をしている。性格は打算的だけど、一つ一つ明確に理由がある。その意志の強さと気の強さ。時々見せる本音が、好きだ」
本当にアサヒが好きなんだな。
「アサヒに伝えておくよ。こういうのは仲介者が居た方が上手く行くから」
「‥‥どうしてお前がそれをやる?俺に恩を売りたいのか?」
「そうだ。俺はアサヒと、シバサキとクロを助けたい。その為には、お前の力が必要なんだ」
「嫌だね、面倒くさい」
俺はオニに一歩近づき、問う。
「アサヒに忘れられても良いのか?」
「構わない」
「アサヒを助けて、みんなで攻略すれば、世界には戻れないかもしれないけど、記憶は持ち帰る事が出来る」
オニは微かに呟く。
「‥記憶だけは」
オニは言う。
「確証は無い。噂だろ」
「その噂を流していたのは、リーウェン、つまり、プログラマーなんだぜ?実際、ツクモが記憶を持ち帰っている。不可能な事じゃ無いんだ」
俺は手を広げた。
「この世界が続く保証も無い。ずっと身体が寝たままなら死ぬかもしれないし、病気になるかもしれない。ツクモは眠れないからログイン出来なくなってるらしい。それって凄く繊細だ。いつ消えるかも分からない」
「‥‥別にそれで良い」
「本当か?本当にそれで良いのか?何も行動せず死ぬって一番無駄なことじゃないか?」
「‥‥うるせぇな」
オニにとって、アサヒへの想いは自身の死よりも優先すべき事なんだ。
だから自分が危険なのに、アサヒの願いを無条件に聞いて、見逃した。
騙せ。
それがこの世界の生き延びる術だ。
「アサヒは俺に言ってたよ、同じ攻略組だったら、もっと一緒に居れるのにって」
オニが瞬きをした。
「‥‥馬鹿馬鹿しい」
オニは手の中で、拳銃を高速で何度も回す。
カチャカチャカチャカチャ
止まる。
オニはゆっくりと、俺に向かって銃口を向けた。
俺は手を広げて大声で言った。
「諦めるのか?アサヒは俺がもらって行くぞ!!」
オニが鼻で笑った。
「馬鹿言え。お前なんか敵じゃ無い。アサヒと付き合うのは俺だ。change」
赤い紐の両端にそれぞれ二つ鈴の付いたキーホルダーになる。
「アサヒが俺の命より大事なものである以上、俺はアサヒが死んだら、死んでしまうかもしれない」
「‥」
「それに、アサヒは何もしない男はタイプじゃなさそうだ」
「答えは?」
「今回だけだ」
よっしゃ。
「それで、未来で何が起きるのか具体的に説明しろ」
「分かった」
俺はスキップボールのシバサキなどについては伏せて、大体を説明した。
「なるほど。なら、俺を使えば良い」
「‥ん?」
「俺の能力はコピーだ。リーウェンの攻撃をコピーして、リーウェンに弱体化の攻撃を返す」
俺は息を呑んだ。
全然思い付かなかった。
「リーウェンにはアオヤマの麻痺が効いていたんだろう?状態異常が入るなら、俺のコピーも機能する。スキルの性能そのものだからな」
「なるほど」
「だが、俺の能力はコピーしたい対象の身体に触れていないと発動出来ない。銃は遠距離で戦えるのが強みだが、俺は反対に近距離で戦う必要がある」
「近距離」
「ああ。まず俺とお前の力だけでリーウェンに近づくのは至難の技だろう」
あともう一人、いや、複数協力者が必要になる。
「俺はリーウェンを迎え撃つのは屋敷より牢屋が良いと思うんだけど、オニはどっちの方がやり易い?」
「屋敷。ツクモやヒイラギレベルのデバッガーの協力が必要だ。むしろリーウェンを討ち取るチャンスだと思うぞ」
「でも手伝ってくれるかは分からない」
「みんな死ぬのは嫌がる。リーウェンを攻撃する筈だ。色々説明するんじゃなくて、こっちが合わせてやるんだよ」
「‥具体的には?」
「まだハッキリ思いつかないが、リーウェンを倒す条件は、一切攻撃を喰らわずに倒す。または、弱体化を喰らいつつ、コピーしてリーウェンを弱体化し、他の弱体化を受けていない奴が倒す、という二通りだ。俺が接近できるように誰かが気を引くのと、リーウェンのムチを避けるのが必須だな」
「ヒイラギとアオヤマ、キョウゴクは二発目も避けてた。でもその時は既にアサヒは死んでしまっていた。俺を庇ったんだ」
「ならお前が避ければ良い話だ。アサヒは一人なら助かるんだから」
「‥そっか」
「そうだよ。取り敢えず、ツクモはリアルにログアウトしそうみたいだし、ヒイラギに頼むしかなさそうだな。お前が言った和解が本当であれば、助けてくれるかもしれない」
「本当だよ、嘘はつかない。っていうか、ヒイラギの連絡先知ってるんだ」
「現実と違って仲良しだから交換ってものじゃないからな。知ってると都合が良いから登録してるだけで」
「攻略の敵でも?」
「ああ。利害が一致すれば協力する。向こうから連絡先を教えて欲しいって言ってきたしな。柊家の大名だ。断る理由は無い。それに京極家は青山家とかに比べれば柔軟なんだよ。あの軍服気持ち悪いよな」
お前も和装だろ、というツッコミは飲み込んで、俺は電話を頼んだ。
絶対にリーウェンを返り討ちにしてみせる。




