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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
49/65

アオヤマとクロ

 目前に広がる光景に絶句した。

 

 沢山の人が倒れている。

 どんどん透明になって、消えていく。


 大量の血液が、襖と畳とテーブルを汚し、切断された手足や人の部位が、そこらじゅうに落ちていた。

 部屋自体が真っ赤に染まり、地獄絵図と化している。


 無音。


 ヒュッ、と喉から空気を吸う音が下から聞こえ、見ると、シロが震えながら蹲っていた。


 シロの悲鳴だったのか。

 

 俺は前からシロを抱きしめて、視線を塞いだ。


「大丈夫。大丈夫だよ」


 無音が続く。

 俺は恐る恐る顔を上げ、唖然とした。


 キョウゴクを含め、他の生き残った構成員たちもみんな、平然と胡座を掻いて座っている。


「な、な、なんで‥」


 混乱して訳も分からず、俺は口走った。


「‥狂ってる」


 俺はうなじに風を感じた。

 

 金属同士が衝突する、キン、という音と、物が破壊される凄まじい衝撃の風圧を感じ、俺は吹き飛ばされた。

 シロを庇い、壁に背中をぶつけた。

 シロは連続するショックに耐えきれなかったのか、腕の中で眠るように気絶してしまっている。

 温かな重みに命を感じる。

 ユメを助けようと奔走してくれたシロを、本当に大切だと思った。

 助かって良かった。


 俺は周囲の様子を確認する。


 木の机が砕けて吹き飛び、襖が折れて廊下に倒れている。

 その瓦礫の中に、アサヒが居た。


「アサヒ!!」


 アサヒのHPが半減している。


「アサヒ!アサヒ!アサヒ!!」


 俺はシロを抱き抱えたまま、震える足でアサヒに駆け寄り、身体に倒れた襖を退かす。


 アサヒは口から流れる血を手の甲で拭い、俺に向かって安心させるように笑った。


「大丈夫」

 

 だが、直ぐに立ち上がる事は出来ない様子だった。一撃で半分を持っていかれた衝撃は精神的にもダメージを与えている。


 俺の能力を信じ切れて居ないなら尚更、慎重になるのは否めない。


 同時に奇妙な笑い声が響いた。


「ひっあっはっはっははは」


 黄金の剣を華麗に振り回しながら、軍服の男が前に出て来た。


 軍帽を被っている。金髪がはみ出ている。


 黒い襟の立ったコートを着、赤いマントを右肩から垂らしていた。

 

 目を瞠るのは、胸の所に刺繍された旭日旗きょくじつきだ。


 黒いズボンに、黒の革のロングブーツ。


 背が高く、男の見目は悪くない。

 だからこそ、狂気が倍になって感じられた。


 武器は黄金の片手剣。

 ピアスは赤。

 勇気。


 コイツが青山家の大名、アオヤマで間違い無いだろう。


 アオヤマは片手剣を振り回して言う。


「俺はさぁ、今、機嫌が悪いんだ。もっと殺してやろうと思ったのに、異物が入って来た。マジでウゼェ」

 

 アオヤマが床を蹴り、目にも捉えられないスピードで俺に剣を振り下ろす。


 刹那、小さな影が間に割り込んで、アオヤマの剣を弾き返した。


 丈の短い黒いワンピースがふわりと揺れる。スカートの下のレースが見え隠れした。


 黒のニーハイソックスが、子鹿みたいな細い足に艶っぽさを足している。


 小柄でロングストレートヘアの女の子。

 背丈と身体つきから、シロと同じ位の年齢だと思われた。

 

 こちらも軍帽を被っている。

 肩の部分に旭日旗きょくじつきの刺繍があり、同じ青山家である事を示していた。


 「可愛い黒髪の女の子」


 クロに違いない。

 クロは振り返ると、俺に向かって言った。

 少しハスキーな、声変わり前の男の子みたいなアルトの声だ。


「離れて安全な場所に居て下さい。ボクはシロがいると心配で心配で、戦闘にまったく集中できませんから」

「分かった」


 もしかして、シロを庇ってクロは死んだのか?それならば、この時点でクロが死ぬロード線は避けられているのかもしれない。

 そう思いたい。


 俺はキョウゴクや構成員のいる反対側へ移動した。


 それを確認し、クロはスカートの裾を伸ばして整えて、アオヤマに言う。


「話が違うじゃないですか。キョウゴクとも話したって言ったし、嘘ついてたんですね」

「ウゼェ」


 アオヤマがクロに大上段から両手で大きく振り被る。

 クロはガラスのステッキの両端を持って掲げ、華麗に弾き返した。


 とても少女の腕力とは思えない。

 ステータスの影響か?


 ステッキということは、魔法職で、ステータスはシロと同じluckの方に振っているはずなのに。


 まさか、能力なのか?


 よく見ると、クロの身体はうっすら赤いオーラで包まれていた。


 クロはステッキを振ってハッキリと唱えた。


「サラガドゥーラ」


 クロはステッキを上に掲げる。

 ステッキの先から、七色のオーラが降り注ぎ、クロの全身を包み込んだ。

 ヒュイン、ヒュイン、ヒュイン、という音が発生し、クロの頭の上に、文字が表示される。


 attack↑↑

 defence↑↑

 HP↑↑

 speed↑↑

 luck↑↑

 hit rait↑↑


 全能力の超強化バフだと!?


 アオヤマは剣を下段に構えて言った。


「スパーク」


 アオヤマの剣は電流を帯びてバチバチと爆ぜる。金髪が風で舞った様に跳ね上がった。


 能力は【電気】か。

 

 アオヤマは剣を構えてクロに襲い掛かる。クロも自ら壁を蹴って、腕を伸ばし、ステッキを中段に構えて剣のようにして、アオヤマに突撃した。


 アオヤマは右の下段に構えていた剣で切り上げながら、左に避けた所を狙って、左脚で足払いを掛ける。

 クロは剣を避けたが、左に避けてしまい、足払いに引っかかる。

 だが、ザッ、という効果音がして特殊効果が発動した。


 【empty】


 そうか、luckとspeedが上昇しているから、回避が発生しやすいんだ。


「メチカブーラ」


 クロはアオヤマに向かって至近距離でステッキを振った。

 黒いキラキラした粉が散布される。

 アオヤマは距離を取ったが、追尾するように渦を巻いてぶつかった。


 weaken!


 attack↓↓

 defence↓↓


 アオヤマにデバフがかかり、ステータスが大幅に低下する。


 強い。強すぎる。

 追尾して確定ヒットするのか?

 能力自体がとても優秀だ。


「ビビディバビディ‥」


 しかし、次の呪文をクロが唱え終わる前に、アオヤマがクロに突進した。

 魔法が中止されて、光が霧散する。


 詠唱が失敗すると魔法は中断されてしまうのか。


 アオヤマのシンプルな突き攻撃で、クロは廊下の襖とは反対側に吹き飛ばされる。

 ガラスが割れて、派手な音を立てながら庭に放り出されるが、クロの頭上に表れるHPは、一割に満たないダメージしか負っていない。


 アオヤマはアサヒのHPを半分まで削る強さだ。デバフを掛けられているからって、クロが硬すぎる。


 唖然とする俺にくすりと笑い、クロが部屋に戻ってきて、俺の疑問に答えた。


「ボクはluckに振っていません。どうせ攻撃魔法は打てないので、代わりにHPとdefenceに振って生存力を上げています。物理で殴れば問題ないですから」


 能力によってステータスを変えているのか。素晴らしい戦術の一つだ。


 クロはガラスのステッキをクルクルと回して、アオヤマに言った。


「あなたを信じたボクが馬鹿でした」


 空気がバチバチと爆ぜて痺れる。


「お前が家臣の癖に言う事聞かないからだろう?毎回仕事すっぽかしてよ。今日もとんずらしようとしたから、頭使っただけで、お前が大馬鹿なんだよ」

「年貢とか馬鹿な仕組み止めたら?ってボクは毎回言ってるじゃん。やっぱり院卒は違いますね、少年院だけど」


 稲妻が走り、アオヤマは黄金の片手剣をぶん回した。


「俺は大卒だぜ」

「学歴コンプも程々にしたらどうですか?私立なんてお金積めば入れるんですから。それはあなたが良く知っている筈です。それが殺人の動機でしょ?ダッサ」


 蒼い稲光が纏われる。


「本気で殺されてぇのか?」


 そうして前回のロード線、殺し合いの喧嘩まで発展したのが容易に想像出来た。


 ダメだ。

 二人の喧嘩を止めなければ。


「ちょっと待て」


 クロとアオヤマがジロリと俺を見る。


「その‥お前たちの仲間は、怪我をしているし、死んでいる」


 アオヤマが無視する。


 クロが言う。


「エスケープです。問題ありません」

「どうして平然としていられるんだ、おかしいよ‥」


 アオヤマが俺を見る。


「あん?おかしいのはそっちだ。エスケープの何が問題なんだよ」


「自分でエスケープするのはまだしも、事故や不運でエスケープするのは、なんて言うか、何も解決になってないと思うんだ」


 クロが鋭利なナイフの様に言った。


「結局記憶は持ち帰れない。改心したとて、現実じゃ元に戻るだけで、なんの意味も無い。そんな事も受け入れられないんですか?」

「‥‥」


 アオヤマが笑って大声で言う。


「お前、さてはこの世界に呑まれたな?」


「そんなこと‥」

 

 俺は答えられずに俯いた。

 俺はシロを胸に抱いて言った。


「それでも、生きるってそういう事じゃないのか?」

「ん?」

「例え未来に繋がらなくても、今をちゃんと生きることって、美しい事だと思う」


 みんなが笑った。


「綺麗事?記憶消えちゃうんだよ?」

「そうだとしても‥だって、例えばクロにとってシロは大事だろ?簡単にエスケープさせたくない。ちゃんと理由を聞くまでは」

「でも、しょうがないじゃないですか。弱い奴は死ぬんです」


 《でも君は、シロを庇って死んでいる》

 《過去の世界線で》


「そうだな。俺が間違ってたよ」

 

 俺が諦めると、クロは俺を見た。

 クロは何故か、俺の隣に座って来た。

 クロは無表情で言う。


「あなたみたいに、超ピュアな人間に会うのは初めてです。少し驚きました」

「‥どうも」

「ボクも少し言いすぎました。シロが気にするだけの事はあります。趣のある考えですね」


 クロは手櫛で黒髪をとかし、俺に微笑みかけた。

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