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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
48/65

獅子と匂い

ピアスの色 (おまけ備考)


 イチ    赤   勇気

 ツクモ   青   知識

 シロ    ピンク 夢

 シバサキ  ピンク 夢

 アサヒ   橙   決意


 ヒイラギ  黄色  希望

 

 キョウゴク 緑色  誠実 

 鬼     水色  献身

 獅子    水色  献身

 

 アオヤマ  赤   勇気

 クロ    ピンク 夢



「決闘モードのまま、屋敷に潜入するのは出来ないのか?」

「解除した瞬間、どこに人が居るかも分からないし、うろつく時、この服装じゃバレるでしょ」

「そっか」


 鉤が付いたロープを投げ、塀を何度も乗り越えて、瓦屋根の上を走る。確かにこれじゃ全く脱獄出来ないし、敷地のどこかで絶対に捕まる。

 

 同じ風景が続く。

 何度目かの塀の上によじ登ると、ようやく外の路地が見えた。


 アサヒが左側を指差す。


「そこが入り口ね」


 身を乗り出して見ると、赤い大きな鳥居があり、その先に続く石畳を進むと、提灯が二つ両脇に提げられた、「京」と文字が入った暖簾が掛けられた入り口がある。


「気付かれない様に、少し離れた場所に降りるわ」

「了解」


 塀の上から飛び降りて、角を曲がって、向かいの木製の建物と建物の間の細い路地に身を隠す。

 その先は黒くなっていて、世界が再現されていない。決闘モードの限界領域である事が分かる。


 アサヒと視線を合わせる。


「じゃあ、解除するわよ」

「ああ」


 決闘モードが解除され、パズルのピースが落ちていくかのように、細かく空間が剥がれ落ちる。


 無音だった世界に音が戻る。


 シリリリ、シリリリ、という虫の声。

 強めの秋風が、耳の中でゴウ、と吠えた。


 アサヒがオレンジ色のピアスに触れ、メニューを弄って一枚の紙を取り出す。ハサミがくっ付いていてべりっと剥がすと、刃を自分の髪に触れさせた。

 すると、長いストレートの髪は、綺麗な栗色のショートカットになった。


「何そのアイテム」


 アサヒが人差し指を立てて小声で答える。


「ヘアカタログっていうアイテムがあるのよ。ボーイッシュにしよっかなって思って持ち歩いてたけど、奇跡的ね」


 奇跡的、という言葉で思い出し、俺は自分のステータスを確認してみた。

 またluckが90まで上昇している。


 アサヒが路地から顔を出し、振り向いて言う。


「来た。後ろから襲う」


 俺は頷いて応える。

 アサヒに説明している時間は無い。


 色違いのキツネ面を被った二人組が目の前を通り過ぎる。


 アサヒが呟く。


「change」


 胸元から顔を出した小猿が槍に変わる。


 二人が前を通り過ぎて、背中が見えた瞬間、アサヒは二人に飛び掛かった。

 いっぱく遅れて俺も飛び出す。

 

 アサヒは膝蹴りと肘打ちで相手を地面に叩き落とし、地面に押さえつけた。

 俺も手足を拘束して手伝う。


「sleep」


 アサヒが唱えると、槍が透明になり、柄の中の紫色の毒が、ちゃぷんと揺れて白く変色した。

 槍先に乳白色の液体が伝う。


 二人に槍で擦り傷を負わせると、一瞬で眠ってしまった。

 二人を路地に転がし、洋服を剥ぐ。


 素早く着物と羽織、袴を装備にセットし、着替えを終える。


 アサヒと俺は並んで塀に沿って静かに歩き、遂に入り口に辿り着いた。京、という文字の書かれた暖簾をくぐって中に入る。

 明るい木の廊下で、左右は白っぽい生成きなり色の土壁が続いていた。


 旅館と大差無い、と思ったのは最初だけで、想像とは全く異なる屋敷の内部に驚いた。

 一階には全然部屋が無い。

 ずっと壁が続いていて、時々、三叉路になっていたり、十字路になっている。


 お面を被った仲間とすれ違う。

 

 角を曲がると、今までよりも太い道に出た。


 こちらに向かってくる岩のように分厚い巨体。 

 獅子の面。


 嫌な記憶が蘇る。

 今は、鬼よりも獅子の方が得体が知れず、恐ろしい。


 アサヒに囁かれた。


「息止めて」


 息?


 呼吸で正体がバレるというのか?

 どういう事だ?


 鬼は耳が良い。

 それならば、獅子は《鼻が良い》などという能力もあり得るのか?


 獅子は面の頭から生えた白い立て髪を、わっさわっさと、揺すりながら近付いてくる。

 

 すれ違う所で、獅子は言った。


「何処に、行くんだ」


 古い楽器のような声音。

 さらに抑揚もなく、区切って喋るのは、こちらを不安にさせるような不可解さがあった。


「監視塔の、見回りは、ちょうど、交代した所だ」


 アサヒが頭を下げて返事をした。

 俺もそれに倣う。


 この先には監視塔があるのか。

 もしかしたら、アサヒはその付近から探索するつもりだったのかもしれない。


 だが、獅子に疑われてはお終いなので、予定を変更したようだった。


 アサヒは、手前の柱に設置されていた木のレバーをガチャンと引き下ろした。キコキコキコ、と歯車が回るような音がする。


 なんだろう。

 手摺のないシンプルな木の扉がある。


 歯車の音が止むと、木の扉は自動でスライドして開いた。

 木の扉の奥には、もう一つ、金色の柵みたいな、折り畳みのアコーディオン扉があり、同じようにスライドして開く。

 その先には行き止まりの空間。


 まさかこれ、エレベーターなのか!?


 アサヒの後に従って中に入ると、獅子も入って来て、危うく止めていた息を吐き出しそうになった。


 足を伸ばせば触れそうな距離だ。少しでも息を吐いたらバレてしまう。


 我慢だ。


 扉が閉じて、エレベーターがふっと下降し始める。

 リアルだ。本当に現実と同じ、重力と慣性を感じる。


 壁が消え、急に視界が開けた。


 !?


 エレベーターは、壁もガラスも無い。

 ただ木で枠組みされているだけだ。


 しかも、目の前、左右には廊下が見える。


 京極家の屋敷の中は、地下は中央に四角く穴が開いていて、その穴を囲むように回廊があった。何層もの回廊の中央をエレベーターで下降していく。


 地下にこんなものがあるなんて、想像もしなかった。建築の要素とか、あるのだろうか‥‥


 俺は色々な事を考えて、思考を散らしていたが、そろそろ息が限界だった。


 苦しい。


 手で押さえないと、今にも息を吸ってしまいそうだ。


 ヤバい。

 無理だ。

 なんとかしないと‥考えろ。


 獅子は呼気で他人を識別する。

 

 俺はハッとして、アイテムのバニーキャンディーを思い出した。


 アイテムからバニーキャンディーを2つ取り出して両端を引っ張って包装を剥く。

 アサヒにも1つ押し付け、俺は面を少し上げて素早く口に入れた。

 後ろを向いて木の手摺りに手を置いて凭れた。


 キャンディーの溶けた唾液を飲み込み、口内を完全に甘くしてから、俺は少しずつ空気を吸った。

 生まれて初めて、俺は全力で演技をした。

 少し声を低めて、粗野に言う。

 

「あーあ、見回りとか面倒くせぇな」


 言葉と共に少し息を吐く。


 アサヒはエレベーターの側面に背中をつくように角度を変えて、静かに飴を舐めている。

 

 獅子が言う。


「一つ、寄越せ」


 そう来るとは思わず、緊張が走る。

 大丈夫、渡せば良いだけだ。


 俺は少し振り返って伸ばされる獅子の手の上にバニーキャンディーを置いた。


 獅子が口に放る。


「‥美味しい」


 チン、とベルの鳴る音がして、ドアが開く。

 待っていたが、獅子は降りない。

 獅子は扉の所に付いている小さな筒のようなボタンを、長押ししてくれていた。


 アサヒは獅子に向かって礼をし、俺も真似てお辞儀をする。

 そそくさとエレベーターを出て行こうとすると、獅子が言った。


「待て」


 俺はドキリとして顔を上げる。

 獅子が近づく。


「アオヤマが、菖蒲あやめの間に、来ている。機嫌が悪い。邪魔しないよう、気を付けろ」


 注意してくれているのか?


 驚きつつも、もう一度礼をする。

 

 獅子はエレベーターを出て左の方向に歩き出し、俺とアサヒは右側の道を歩いた。


 角を二度曲がり、完全に獅子の姿が見えなくなってから、俺たちは走り出した。


「青山家の大名である、アオヤマは非常に気性が荒いわ。間違いなくソイツの仕業ね。でも、どうしてそんな場にシロとシバサキは行ってしまったのかしら。クロは家臣としてアオヤマに付き添う事も多いけど‥」


 俺は疑問を口にした。


「クロってどんな奴?」

「可愛い。黒髪で、華奢で、強くて、たぶん直ぐ分かるわ」

「そっか。シロはユメを助けてくれるって言われて付いて行ったのはまだしも、どうしてシバサキも居たんだろう」

「分からない。行くしかないわ」


 チラリと時刻を見ると、【16時10分】だった。

 叫び声は【16時15分】頃に発生している。


 クソ、獅子のせいで無駄に時間を食ってしまった


 アサヒの後を必死で付いていく。

 アサヒは回廊を小走りで進み、奥の部屋にある螺旋階段を上がって、また回廊を回るのを繰り返す。

 

「もうすぐ菖蒲の間よ」


 仮初フェイクの心臓が、バクバクと強く拍動した。


 間に合え。


 俺は直感で言った。


「アサヒ、そのまま飛び込む。時刻が同じだ。正体を隠しても、意味が無い」

「賭けって事ね」

「ああ」


 ダッシュし、俺たちは襖をぶち抜いて部屋に飛び込んだ。

 

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