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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
45/65

事件


 俺は焦げるような夕陽の中、言った。


「暗くならない内に帰りなよ」

「そうね、オニと約束してる時間が近づいてるし」

「何時?」

「17時」

「決闘モードをしながら帰ることは出来ないの?」

「決闘モードは200メートル四方しか無いから無理ね」

「この屋敷、そんなに広いの?」

「ええ。同じような場所が何箇所かあって、こういう広い庭も東西南北、4ヶ所あるわ」

「へぇ」


 相槌を打ちながら、俺はピアスに触れてメニューを開いた。

 視界の左上に【16:15】と表示される。


「送るよって言いたいけど、俺は大人しくしていた方が良いだろうな」

「うん。蔵の方移動してから決闘モードを解こうか」


 俺達は芝生の整えられた庭から、隅にある蔵の方まで移動し、アサヒが言った。


「そういえばさ、あのお宝なんだけど」

「お宝?」

「あたしが獲ったやつ」


 俺はいっぱく置いて全て思い出した。


「あぁ!俺を騙して勝手に奪ったやつな!」

「違うわよ、あれは‥ってそんな事をどうでも良いのよ。解除解くわよ」

「うん」


 決闘モードが解かれる。

 蔵の中は静かだ。


「というと?」


 アサヒは不可解そうに首を捻って小声で言う。


「中身が空だったのよ」

「え?」

「つまり、先に見つけた人間がいたのよ。心当たりある?あの謎を解かないといけないから、必然的に二人組だと思うんだけど」

「知らないよ。そもそも、あの宝なんだったんだ?」

「まぁ、ちょっとした噂があってさ‥」


 その時、凄まじい悲鳴と怒号が聞こえた。


「なんだ!?」


 アサヒが蔵の入り口にしゃがみ、庭の方へ顔だけ出す。

 アサヒはすっと目を細め、素早くメニューを開き、何かを確認すると、目を見開いた。


 そして、きつく目を閉じた。


「どうしたんだ?」


 アサヒは答えず、項垂れるようにしてその場にしゃがみ込んだ。


 少しして、口を開く。


「シバサキが‥死んだ」


 シバサキ、そういえば、サミットが始まる前、ツクモが紹介してくれた。


 壮年の男性で、中肉中背、どこにでも居るサラリーマンという風体だけど、アサヒは敏腕リーマンだと言っていた。


 親子みたいで微笑ましく思ったのを覚えている。


 アサヒが後ろを向いて顔を覆い、嗚咽を堪える。


 俺は余りの展開の速さに、付いていけない。

 本当に死んだのか、と疑いたくなる。

 流石にそれは口に出来ず、俺は言った。


「どうして、死んだんだ?ここに居たのか?たまたま‥じゃなくて?」


 アサヒは涙を握り拳で拭った後、切り替えた表情で言う。


「分からない。まったく。でも、可能性は高いと思う。慎重な立ち回りをする人だし」


 アサヒはふーっと息をついて、言う。


「明日の武道会には他の大名達も来るんだけど、前日は青山家をもてなすのが伝統なのよ。【京極家と青山家は同盟を結んでいる】から、来ている筈。でもどうしてそこにシバサキが?ツクモも帰ってきてないのに」

「京極家は青山家と同盟を結んでるの?」

「そ。お互い【攻略反対派】だからね」

「そうなんだ」

「そこにどうしてシバサキが居たのか。シバサキの死因を確認しないといけない」


 その時、さらに俺の視界にビックリマークが表示された。



 CALL シロ


 ー もしもし、どうした

 ー うぅ‥


 泣いているのか?

 

 ー 大丈夫か?

 ー 死んじゃった‥


 シロの泣いている声が聞こえて、胸が締め付けられた。

 アサヒが俺に顔を近付ける。


 ー 誰が?

 ー と、ともだちと、シバサキ‥うぅ


 そういえばシロは友達と一緒にいるって言っていたな。

 アサヒが俺の横で声を張って問う。


 ー シロ、ともだちって青山家のクロの事?

 ー ‥うん‥うぅ‥

 ー 状況は?

 ー あ、あの‥ゆ、ユメが心配で、クロが、ユメは返せないけど案内は出来るって言って、それで、そうしたら、シバサキも来るって言って、それで‥‥


 俺のせいだ。

 急速なストレスにリアルな吐き気が込み上げる。


 ー 今どうしてるの

 ー ‥‥


 通話が切れた。

 

「アサヒ、俺も行く」

「絶対死ぬよ」

「行く」


 アサヒと視線が絡まる。

 アサヒのハチミツ色の瞳がキュッと細められた。


「ツクモを助けるんじゃないの?」

「放っておけない。俺のせいだろ」


 アサヒが俺の肩を掴んで言う。


「よく聞いて。こういう時は、事実だけを見るの。シロとシバサキが居なくても、世界は攻略出来る。確かに戦力だけど、言い方悪いけど、ツクモとヒイラギと、その他捨て駒が居れば、十分なのよ。一人二人で速度も変わらない」


 俺は言葉を失った。

 ツクモとヒイラギと、捨て駒。


「‥でも」

「あなたが死んだら攻略速度は落ちる」


 でも。

 アサヒは先程とは別人のように、冷たい目をして俺の胸を突き飛ばした。


「あなたは何の為に何をしようとしているの?」

「‥」

「シロが可哀想だから?シロのために敵討ち?あたしの力になる?それは足手まといだし、あなたの今の力じゃ何も出来ないわ」


 俺は答えられなかった。


「厳しい事を言うけど、簡単に動かないで。あたしは確かに黒幕に復讐したいだけだけど、ツクモには助かって欲しいと思ってるし、あなたが来ると余計ややこしい事態になる」


 アサヒは俺の肩から手を離す。


「様子はあたしが見てくるから、また連絡する。ピアスはもぎ取れないし、キョウゴクも多めに見てくれているのだから、連絡も出来る。大人しくしておくのが一番よ」

「‥」


 アサヒの迫力に呑まれ、俺は何も返せない。


「大丈夫。シバサキとクロは、現実に帰っただけ‥‥死んでない」


 アサヒは言い聞かせるように俺に言うと、踵を返し、半壊した蔵を出て行った。


 俺は壊れた檻の中に入り、背中を丸めて寝転がった。


 どうしてこんな事になったんだ。

 確かにシロの占い通り、このままじゃ行き止まりになってしまう気がする。


 俺は首を振る。

 弱気になるな。

 取り敢えず、明日の武道会のことだけ考えよう。


 目を閉じたが、上手く眠れそうにない。

 不安や緊張で手のひらに汗が滲む。

 起き上がって深呼吸すると、暗闇に違和感を覚えた。


 闇の中で、更に濃い闇がある。


 カツン、カツン、カツン‥


 ヒールがコンクリートを打つ音が、蔵の中に響く。

 目を凝らすと、ソレはゆっくりと現れた。


 血のように赤いスリッドの入ったチャイナドレスを着ている。童話に出てきそうな艶やかな赤い靴。

 ウェーブのかかった黒髪は、団子で纏められていた。

 

「‥リーウェン」


 リーウェンはカツンカツン、とヒールを鳴らしながら俺の前まで歩いてくる。

 俺はアサヒから借りたサブ装備の普通の剣を取り出して構えた。


「どこまで俺の情報を流したんだ?」


 リーウェンは答えず、俺をじっと見つめてくる。


「答えろ!」


 リーウェンは数秒間俺を見つめた後、考えるように細い顎に手を添えて首を傾げた。


「何なんだ!」

「ユメの能力は単体では発動しなかった。つまり、あなたが居ないと発動出来ない。ユメが鍵で、あなたが鍵穴のようなもの‥‥いえ、その逆かしら」

「‥何の話だ」

「案外【世界は詩人】なのかもしれないわね」


 ふふふ、とリーウェンは一人で笑っている。

 

「その、世界っていうのは何なんだ」

「【あなたは世界に都合よく使われている】のよ?」


 世界に都合よく使われる?

 俺が?

 一体、なんの話だ。


 リーウェンは真っ赤な唇を吊り上げ、宣言した。


「この世界を手に入れるのは、アタシだから。あなたに攻略は進ませないわ」


 俺は急に首を掴まれ、口に無理やり銃口を突っ込まれた。


「グガァッ」


 パンッパンッ、と鼓膜が破れるような発砲音の後、脳が熱くなる。

 俺は視界が真っ暗になり、何も分からなくなった。


 ‥‥少しずつ視界に輪郭が戻っていく。


 天井。

 月明かりも無い、白と黒の世界だ。


 世界が停止している。


 視界の左上にあるHPはゼロになってる。

 やはり死んだのか。

 

 ユメの声はしない。

 俺の身体は動かない。


 このままだったらどうしようと不安が込み上げる中、それはぬるりと俺の横から現れた。


 黒いローブに大きな鎌。

 

 死神だ。


 フードを深く被っていて、顔は見えない。


 死神が問う。

 ユメみたいな声だ。


『 ロード、しますか? 』


 《はい》《いいえ》


 

 俺が選択する間もなく、勝手に《はい》が選択される。

 自動だ。あの時と同じ。



 セーブデータ1 京都 竹の小道

 セーブデータ2 はじまりの街 噴水広場

 セーブデータ3 富士山 山小屋

 セーブデータ4 富士山 マグマ溜まり跡地

 セーブデータ5 北海道 雪山

 セーブデータ6 北海道 ホテル駐車場

 セーブデータ7 北海道 京極家 蔵



 セーブデータ7 へロードします



 視界がスッと白くなり、渦を巻きながら俺は飲み込まれる。


 

 放り出されたのは、同じ灰色の天井だった。

 コオロギの声がヒリリリ、ヒリリリ、と聴こえる。


 やはり、あの死神はユメと同じ能力を持っているのか。

 だが、自動でロードした。

 ユメと全く同じではないのか‥?

 何も分からない。


 とりあえず、状況の確認が先だ。

 

 セーブデータ7だから、場所自体は変わっていない。

 変わっているのは、「時間」だ。


 メニューを開いて時刻を確認する。


 19:03


 確か、そうだ、サミットが行われて、俺が拉致監禁されて‥‥えーっと


 俺は記憶を辿る。


 そうだ、ユメのことが心配で蔵を破壊して脱獄し、オニに捕まった。キョウゴクと顔を合わせて、明日の武道会に出場することが決まり、仕方なく檻に戻ってどうするか、考えていたら、アサヒから電話が掛かって来た。


 そして、明日特訓をしてくれる話になって、そこで選択肢が出て、俺はアサヒを選んだ。

 その後、セーブが起きた。


 つまり、一日戻ってる。


 この後俺は寝てアサヒに会う事になる。


 つまり、やり直せる!


 百井家の家臣であるシバサキと、シロの友達であり、青山家の家臣であるクロを助けられる可能性がある!!


 落ち着け。まずは何から行動すべきだ?

 

 俺の力じゃ何も出来ない。誰かに協力を煽るしかない。

 そうだ、ツクモなら絶対何とかしてくれる。最善の方法を教えてくれる筈だ。

 流石にもう帰ってきている時間だろう。


 メニューを開き、フレンド欄を確認したが、ツクモの名前は透過していて、ログアウトの表示がされていた。

 

「どうして帰ってこないんだ‥」


 込み上げる不安を、俺は拳を作って握り潰した。


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