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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
44/65

セーブデータ7 【京極家】

 改めて脱走できないか確認したが、塀の上、庭の広い芝生の端の植え込みにも、至る所に監視カメラが付いている事に気が付いた。


 鬼は寝ると言ったけど、俺を油断させているのかもしれないし、下手に動いても直ぐ捕まるだろう。

 物理的な力でユメを取り返しても、俺の力じゃ守り切れない。

 やはり、勝つしか無いのか。


 俺は冷たいコンクリートの、壊れていない平らな部分に寝転がって考えた。


 ユメの能力が必須だが、それは発動する可能性は高い。選択肢ではユメの声が聞こえなかったけれど、世界が停止するのがユメの能力の性質なのは間違いないからだ。


 考えていた時、再度世界の音が消えた。

 闇夜で見えにくいが、先ほどと同じように少し青みがかって深海にいるかのようだ。


 身体もピクリとも動かない。


 まさか、また世界が止まったのか?


 あり得るのは、セーブの選択だ。


 身構えて待機していると、タン、タン、タン、と小さな足音が聞こえ始める。


 停止した時間の中で動いている。


 俺は寝転がって腕を頭の後ろで組んでいるので、木の梁が張った天井しか見えない。

 足音はゆっくりと俺に近づき、次第に大きくなって俺の真横で止まった。


 黒い布が、ひらりと俺の視界の端に入った。

 フードを深く被った人物。

 顔は見えない。

 その後ろで、銀色の光が月光に反射して照り輝く。


 鎌を持っている。


 死神だ。

 

 それは、一つ息をついて俺に問うた。



  セーブ、しますか?


 《はい》 《いいえ》


 

 ゾッと鳥肌が立った。

 ユメとよく似た声だ。女性だ。

 だが、機械ではなくて、抑揚があり、人に近い。


 ユメなのか?

 いや、そんな筈無い。

 意味が分からない。

 同じ能力を使えるマニュアルがもう一人いるとでも、いうのだろうか。


 死神は俺を見下ろし、微動だにしない。

 

 俺は《はい》を選択する。



 セーブデータ7 京極家 蔵



 世界が動き始める。


 死神は消えていた。


 俺は立ち上がり、蔵の中を見るが、壺や木箱などが山になって積まれているだけで、何も無い。


 あの死神は、まさかユメと同じ能力を持っているのか?

 先ほどの選択肢も、アイツが?


 死神は以前、418I'm a teapod を討伐した後、ヒイラギとツクモが争い、ヒイラギがツクモを殺した時に世界を止めて現れた。


 そして、勝利してふんぞり返っているヒイラギを鎌で殺した。

 そのあと、俺は自殺してロードした。

 結局ツクモにも相談したけど、分からずじまいだったんだよな。


 ユメが奪われている間、セーブロードはアイツが受け持ってくれるのだろうか?


 考えた所で分からないので、俺は他のことを思考した。


 アサヒはどうやってここへ来て、どう修行するつもりなんだろう。詳しい事を聞きたくて、もう一度アサヒに電話を掛けたが、アサヒは出なかった。

 でも、アサヒはベテランだし、何か策があるのは間違いない。


 俺は色々な事を信じて目を閉じた。

 まずは睡眠を取り、脳データの神経系を最高速度で伝達出来る様に整えよう。



ーーーーーーーーーーー



 何かが鼻にとまっている。

 むず痒くて目を覚まし、うわっ、と思わず声を上げた。


 大きなハチミツ色の瞳が、嬉しそうにキュッと細められた。

 木琴みたいな柔らかくて優しい声で、アサヒは言う。


「おはよう。また会えて嬉しい」


 オレンジ色のピアス。

 アイドルみたいな可愛い顔。

 チョコレート色のミニスカートの裾をのばして、俺に笑いかけた。

 俺が起き上がると、アサヒは両腕でぎゅっと俺を強く抱きしめてきた。


「もう、心配した」


 キョウゴクの事が頭を過ぎる。


 ー アサヒは手足が無い


 アサヒは俺を魅了しようとしている訳じゃなく、ただ何かを確かめるように、落とさないように、俺を抱き締めているようだった。


 少しして、満足したのか腕を離す。

 スキンシップ多めなのは、無かったものを使える喜びを確かめているのかもしれなかった。

 いや、それは俺の傲慢な思考かもしれない。


 アサヒは俺に再会して嬉しかったのか、少し顔を高揚させて言う。


「オニには許可もらったよ。さ、決闘の通知送ったから、承認してよ」


 俺は納得した。


 そうか!それなら姿を隠せる。


「分かった」


 視界左上のビックリマークに触れ、決闘モードを承諾する。

 周囲の景色がパズルのようにバラバラと落ちて、仮初のコピーされた世界に立っていた。

 蔵も壊れたままだ。

 メタバースの中にメタバースなんて、改めて、すごい技術だと実感する。


 俺はアサヒに問うた。


「あれから大丈夫?」

「それはこっちの台詞」

「こんな勝手に動いて平気なの?」

「オニに許可貰ったって」

「でも、他の構成員が見てるだろ」


 アサヒはおとがいに人差し指を当て、考える仕草をして言った。


「なんて説明すれば良いかな‥‥キョウゴクの家臣はオニとシシで、その下が構成員で、オニが構成員を束ねているの」

「うん。それは分かる」

「この世界はね、とにかく力が全てなの。《自分よりも強い相手には従わなければならない》昔の武士と百姓みたいな」

「‥‥なんかすごいな。一つの人類史じゃないか」

「あたしは嫌いじゃ無いけどね、シンプルで分かりやすい。世襲性も無い。案外腐らないのよ。強い人間は生きている何月が長いし、知識量も豊富で頭の回転も利く」

「なるほど」

「そういう人間は、カリスマがある」


 キョウゴクやヒイラギ、ツクモを見ていれば良く分かる。

 

「それじゃ、早速修行に入りたいと思うんだけど」

「お願いします」


 アサヒが俺に何かを放り、慌ててキャッチする。

 普通の片手剣だ。


「これ、アイテム?でもアイテムって決闘の中に持ち込めないんだよな?」

「サブ装備の武器は許されているわ。マニュアルを使わない決闘も出来るようにね」

「へぇ」

「オニが短剣で威嚇していたでしょう?」

「あ、なるほど」

「毒を塗ったりは出来ないけどね。ステータスにも変動は無いけど、少し重量が変わったり、装飾にも種類がある。考えたけど、それが一番イチのマニュアルと近いと思うの」

「え、なんで分かるの」

「手合わせしたじゃない。当日もこれ使いなさい。買いに行くのは面倒でしょ」

「ありがとうございます!」


 アサヒも槍を取り出して、言った。


「じゃあ、庭の方へ行きましょう。あたしが攻撃を仕掛けていくから、バランスを崩さずに受け切る所が最初のステップね」

「はいっ」


 蔵から出て、広い芝生の生えた屋敷の庭に移動する。


 アサヒは振り返り、槍を一回転させる。腰を下げると、一気に俺に襲い掛かってきた。


 迫力に気圧され、僅かに身体が後ろに引いてしまった。その隙をすかさず突かれ、アサヒは槍を横に開くと、後ろから薙いだ。


 俺は重心が後ろにあったので、大外刈りをされたように、見事に引っかかって尻餅をついた。

 あっさりとした敗北に俺が俯く間を与えず、アサヒは言う。


「大切なのは重心。もっと腰を下げて、どっしり構えて。隙を見せない事」

「はい」


 アサヒは教えるのが上手く、最低限の戦闘姿勢や構え、ステップ、隙の少ない重心移動などが分かってくる。


「うんうん、飲み込みが早いよ」

「頑張ります」

「うん。じゃあ次のステップに行きましょう。今からの攻撃を弾いてみて」


 中段の構えで、突き攻撃だと構えていたが、急に大上段から脳天をパシンと叩かれた。後ずさると、槍は上段、中段から闇雲にバシバシと叩いてくる。左右に避けても全方向から叩かれるので、どうしたら良いか分からず、俺は白旗を上げた。


「な、なんだこの攻撃」

「そもそも、槍というのは突くものじゃ無い。それは現代のイメージで、戦国時代じゃ叩くものだったのよ」

「叩く!?」

「木材を芯に倒した竹で出来ていて、しなりを利用して、こう、上からバン、とやっていた。要するに、武器一つでも攻撃方法は様々あるという事」

「なるほど」

「しかも皆んな、それを隠している」


 アサヒは新たな武器を取り出して、俺は驚いた。


「敵を知り己を知れば百戦危うからず。まずはあたしが他の武器をやるから、対応してみて」

「他の武器使えるの?」

「そりゃね。対戦ゲームでも色んなキャラを使った方が相手の行動も分かりやすいのは鉄板でしょ。何が嫌な立ち回りかも、ね」

「なるほど」


 剣、弓、銃、拳‥‥


 と順番にガードと回避を学んでいく。


「杖ってどう戦うの?」

「剣みたいに打ち合うのよ。接近戦で戦えませんって言い訳だから」

「え、でも、流石にきつくない?」

「杖の大名いるよ?東北地方のアオヤマとか」

「へぇ‥」


 次はカウンターの練習に入った。

 

 槍の突きを躱し、素早く間合いを詰めて、突きを放つ。槍は直線上の後ろに避けてはならず、必ず角度をつけて躱すこと。


「うんうん。良い感じ。これだけでも、相手は嫌な敵だと思うからね」


 どんどん難易度を上げられていく。

 比例してアサヒの指導がヒートアップする。


「ダメ!ここまで出来る様にならなきゃ、次に行けない!」

「は、はい‥」


 繰り返す。もう時間も分からない。

 俺は額に流れる汗を手の甲で拭った。


「だから、ここは違うって言ってるでしょ?何度言えば分かる訳?」

「いや、わかってるんだけど、身体が上手く動かなくて。拳の時の回避と混同しちゃ‥」


 アサヒに尻を思い切り叩かれた。


「痛っ」

「言い訳は聞きたく無い」


 酷い‥


 だが、上手く出来るようになると、アサヒは駆け寄ってきて、俺にハグした。


「すごいすごい!上手!こんなに早く対応出来るようになるなんて、イチが初めてよ!流石!メタバースの才能あるわ!」


 褒められると悪い気がしない。

 そして次の修行へ行くのを繰り返した。


 なるほどこれが飴と鞭‥‥


 夕方には、結構形になっていた。

 こう来たら、こう、というマニュアルがある分、戦闘で状況把握がし易いはずだ。

 自分でも少し自信がある。


 休憩で芝生に腰を下ろすと、アサヒが隣に座り、たずねて来た。


「セーブとロードの能力は使えるの?」

「おそらく」


 俺は不可思議な出来事を説明した。


「ふぅん。ユメみたいな、もう一人の死神か。分からないならひとまず置いておくしか無いわね。で、当日は、負けたら死ぬの?」

「考えてない。考えないようにしてる。想像したら、流れが見えて、負けてしまう気がするんだ」

「ふぅん」


 俺は言い聞かせた。


「俺は死なない。俺は勝つ」

「妙な所で男らしいのよね」

「どうも」


 アサヒは俺をじっと見て、首を傾げた。


「イチはどうしてここへ来たの?問題があるようには見えないわ」

「それは‥」


 俺は説明した。


「なるほどねぇ。確かに度を越したお人好しではあるかもね」

「‥‥アサヒはどうなんだ?」


 アサヒは小猿を撫でて言った。


「あたし、アイドルになりたかったんだ。でも難しかった。障害を負ったけど頑張ってるアイドル、として取り上げられちゃうんだもん」


 アサヒは一人、苦笑して続ける。


「でもそれを平等に扱えって言うのは無理なのも一番よく分かってるわ」


 俺は思った事を言った。


「今のアサヒなら、絶対にアイドル界で天下を取れるよ」

「分かってるじゃない」

「メタバースを完成させたら、この世界の中で夢を叶えられるかもしれないね」


 俺が微かに笑みを作ると、アサヒも安心したように笑った。

 

 そして言う。


「でもあたしが攻略したい側なのは、それだけが理由じゃない。あたしは殺されたお父さんの仇を討ちたいの」

「‥ん?」


 話の流れが大きく変わった。

 アサヒは言う。


「あたしのお父さんは、メタバース計画の研究員なの」

「え!?」

「っていうかまぁ、時系列だと、あたしが小さな頃に事故にあって、障害を負ってから、お父さんは仕事を辞めて、工学系の大学に行って、努力して、あたしの為に、電気の義手とかを作る研究職についたの。で、そんな中、メタバースの計画が持ち上がって、当然お父さんは参加したわ。しかも、凄く重要なポジションで、助教授だったの」

「ツクモに話した?」

「勿論よ、だから斥候なんて、危険な事もしてあげてるの。アイツ、血も涙も無いのよ、最初からあたしの事を冷たい目で見て「はいはい」って全部流すのよ、最低!」


 想像がついて、思わず吹き出した。

 アサヒが腕組みして言う。


「きっと慣れてるんだわ。だからイケメンって嫌い」

「あはは‥」


 アサヒは俯いて言う。


「お父さんはね、誠実で清廉潔白な人だった。だからだと思う。メタバース計画が中止される前、ずっと帰って来なくなった。何かトラブルに巻き込まれたのよ。行方不明になって、今も‥‥‥」


 アサヒの瞳が潤む。

 それでも涙は流さなかった。


「だから、あたしはパパを殺したやつを絶対に許さない。パパの部屋のパソコンのメールはパスワードで分からなかったけど、短いダイレクトメッセージで、黒幕は世界の中に居る、って話をしてた。メッセージの相手は、警視庁の警察で、不倫の証拠を集めて脅したら、社会不適合者がその世界に行けるってゲロったから、学校を休んで、部屋に閉じこもってやったの。条件を満たしたら、ここに来れた」

「警視庁の警察って、ヒイラギとかと同じって事?」

「たぶん。ヒイラギはミイラ取りがミイラになっちゃったけど、元々捜査を進めていたんだわ」


 やはり、ヒイラギが記憶を取り戻せば、中国のこととか、メタバース計画が頓挫した事件についてとか、一気にシナリオが見え始めるのではないか?


 あと気になるのは、アサヒの父親の助教授のパソコン。


「なぁ、そのお父さんのパソコンのパスワードって今も開けられてないの?」

「うん。3回間違えると永遠にロックされちゃうしね。ちなみにあと2回だし」

「そっか」


 もしかしたら、何か重要なことがあるのかもしれない。

 

 アサヒは拳を握り、険しい表情で言った。


「お父さんの仇を取るのと、お父さんが殺された理由を探るの」


 アサヒの橙色のピアスが揺れる。


 俺はようやく、アサヒがどんな人間か、分かった気がした。

 この世界の真相に近づく大きなヒントも知る事が出来た。


 うん、やっぱり、この選択をして良かった。


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