オニorアサヒ
イチが武道会に出る理由
優勝すれば北海道の大名となり、イチがトップに立てる。
力=地位となるため、マニュアルにも手出し出来ない。
よって、ユメを取り返せる
鬼と俺が取り残された。
鬼は新しいお面を取り出して被った。
「牢に戻れ」
「‥‥ユメにはいつ会えるんだ?」
「キョウゴクは言っていたじゃないか。一位になれば誰も逆らえないと」
「ユメを取り戻すには、それしか無いっていうのか?」
「さぁ」
でも、それは現実的じゃない。
一度落ち着いて考えた方が良い。
「お前、一度ステータスを見てみろ」
「は?」
「いいから」
鬼が顎で俺をしゃくる。
そういえば、ステータスの振り分けもしていなかった。別に他人が見られるものじゃないしな。仕方なくメニューを開いてステータスを確認し、俺は目を疑った。
attack 42
defence 23
speed 32
hit rate 20
luck 90
「90!?」
「ほらな」
鬼がニヤリと嗤う。
「な、なんで?」
「俺が監視を離れたのは少しの間だ。それも良い感じに怪我をせず脱獄した。宝の地図も自分で手に入れたんだろ?」
そうか、アサヒの後を最初から付けていたんだっけ。
「あれは出現するのに複雑な条件がある。お宝系のイベントはluckが高くないと発生しない。ツクモと出会った経緯も噂で聞いた。お前みたいなヒヨコは直ぐに死んでいただろう。ヒイラギとも和解したと聞く。ヒイラギ自身は決闘は滅多にしない。お前は間違いなく運が良いんだ。ツクモに言われなかったか?」
「‥‥」
「アイツのことは信用しない方が良い。お前の力は、誰もが利用したいと思っている筈だ」
俺は鬼を睨んで言う。
「ツクモは最初から助けてくれた。お前みたく、殺したりなんかしなかった」
「この世界に残らせるなんて、異常だぜ?アイツは寂しいんだよ」
「‥‥」
シロの事を思い出して、何も言えなくなる。
「でも、余命とか、わかってたら、寂しくなるものだよ」
鬼は肩を竦めた。
「お前は正真正銘の大馬鹿野郎のようだ」
腹が立ってきて、俺は言った。
「お前、マジで許さないからな!明後日、死で償え!」
「俺に勝てると?」
「‥‥地形を使えば‥」
鬼が小馬鹿にした風に笑って言う。
「地形は使えない。戦うのはこの庭だ。しかも、決闘モードは使わない」
マジかよ‥
俺は一時諦め、とりあえず疑問を解消させる事にした。
「‥‥どうしてキョウゴクは、お前が俺に戦い方を教えてやれって言ったんだ?」
「そんなの知るか。ただ、お前が北海道の大名になったら予定が狂って皆んな大慌てするだろうからな。面白そうだから乗ってやる」
自由奔放な性格のようだ。
鬼は腕を組んで言う。
「さて。俺はもう寝る。明日は他の構成員とも決闘をしてPVPの練習をする予定だ。お前も勝手に来たら良い」
鬼はそう言い残し、帰って行った。
監視は良いのかよ‥‥
俺は考え、取り敢えず半壊した牢獄に入り寝転がった。
本当にluckだけ上がるなんて、どういう事だろう。
もう一度確認しようとステータスを開き、俺は驚愕した。
attack 42
defence 23
speed 32
hit rate 20
luck 20
「え‥」
下がってる。
あの時は間違いなく90だったのに。
どういう事だ?
変動があるのか?
その時、電話がかかってきた。
call アサヒ
ー もしもし。
ー もしもし、大丈夫?
ー いや、まったく‥
ー シロから連絡あったけど、結局脱獄したの?
ー え、シロとフレンドなんだ
ー シロは柊家の家臣だからね。毒と占いは相性良いし
ー え!?
ー どうしても東京に住んでみたかったんだって。可愛いよね
ー 明後日の武道会にはシロも参加するのか?鬼も出るっぽいけど、家臣って絶対なの?
ー いや、そこは自由よ。参加出来るのは全員だから。構成員にも強い者がいるだろうし、結果によっては、家臣も変わる。家臣を決めているのは大名だからね
ー そうなのか
ー どうして急に?
ー いや、捕まって、明後日の武道会に参加することになった
ー え?イチが?
ー うん。だって、俺が北海道の大名になったら一時が万事収まるんだろう?ユメも取り戻せるし
ー そうだけど、勝てるわけないじゃない
ー そう。今まさに、そこで止まってる。アサヒはどうしたら良いと思う?
ー 普通に無理だから、一度ツクモと相談したほうが良いわよ、って言いたい所なんだけど、さっきからツクモが帰って来ないのよね、最近ログアウトの時間が伸びてる気がするから、あまり病状が良くないのかも
ゾッとした。
こんな所で油を売っている暇は無い。
絶対ロードはしちゃダメだ。
それならば、もう勝つしか無い。
ー 武道会はね《マニュアルを使わない》のよ
ー えっ
ー だから勝機はあるはずよ。1%くらいだけど
ー 十分だ!
ー あたしが戦術教えてあげようか
ー でも‥
アサヒは罪を逃れたばかりで危険だ。二度目は無いだろう。
ー 大丈夫大丈夫、バレないようにやるって。顔もきくし、こんな時の為に八方美人しといたし、眠り毒も使う
ー でも鬼の監視が‥
ー オニは助けてくれる可能性が高いわ
ー どうして?
ー 一度助けてくれたから。詳しい理由は本人にしか分からないし、ツクモは助けてくれると確信していたみたいだけど、何か事情があるのかも
あの鈴を鳴らす嘘発見器は、やっぱり出鱈目だったのか。
ー ふぅん
ー というわけで、あたしが教えてあげる!睡眠はちゃんと取りたいから、明日の早朝に行くわ
でも、明日は鬼との約束がある。
どうしよう。
その時、身体が動かなくなった。
視界の左上に視線を向けるが、自身のHPには何の変化も無い。
パニックに陥りそうになる頭を落ち着け、辺りの景色を観察する。
何だかうっすらと青い?
大穴の空いた蔵のコンクリートと、そこから差し込む月明かり、転がった鉄格子の残骸と瓦礫の山。
大海に沈む沈没船の中にいるように錯覚した。
そして俺は虫の音が聴こえなくなったことに違和感を覚え、ようやく理解した。
夜だったから分かりにくいが、世界が停止している。
ユメが近くにいなくても、もしかしてセーブとロードの能力は発生するのか?
次に表れた文字に、俺は心臓が凍えた。
どちらと修行をする?
《アサヒ》 《オニ》
こんなのアサヒに決まっている。
秒でアサヒを選ぼうとして、止まった。
やはり、リスクが高すぎる。
でも、オニだと流れ通りだ。
このまま自動的に俺はオニに戦術などを教わる事になる。
シロの言った占い結果だと、良くない選択かもしれない。
今のままじゃ‥
ー 「審判」の逆位置は、変化しない、抜け出せない、迷い、不決断
悩みに悩んで、俺はひとまずアサヒを選択する事に決めた。
右手で「アサヒ」を選択する。
再び世界は動き出す。
俺は何も言っていないが、アサヒは「じゃあ、そういう事で、おやすみ」と通話を切った。




