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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
41/65

サミット

 時刻は17時30分。

 俺は和室のテーブルにあるお菓子をユメと食べていた。


 すると、コンコン、と扉がノックされた。

 同時に!の通知が視界の左上に表示される。タップすると、ツクモからの着信だった。


「はい」

「ツクモだ。本人だから、安心してドアを開けてくれ」

「了解」


 ユメを剣に戻してから、ドアを開ける。

 ツクモとアサヒと、知らない成人男性が居た。

 いや、知ってる!

 攻略に参加してた人だ。

 

 壮年の男性で、中肉中背、どこにでも居るサラリーマンという風体だから、逆に印象的だった。

 服装もシャツとズボンに胸当てと節々を守る鉄の鎧が付いた様な、シンプルな服装をしている。

 ぱっと見、普通な感じだけど、ツクモが選んだ家臣という事は敏腕に違いない。

 ピアスは桃色だ。

 シロと同じだ。つまり、この人も「夢」を見ているらしい。


 壮年の男が言う。


「百井家の家臣のシバサキです。本日はよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」


 アサヒがシバサキの腕を取って言う。


「シバサキは見た目は普通だけど、敏腕リーマンなのよ」

「‥やめて下さい」


 シバサキが淡々と言って腕を振り払って諌めるように言う。


「今からサミットです。気を引き締めて‥」

「はいはい。分かってますよ〜だ」


 年齢的にも娘と父親みたいだ。


 ツクモが俺に問う。


「セーブはしたか?」


 俺は首を振る。


「まだ」

「そうか。焦ってもしょうがないな。じゃあ、行くぞ」

「あれ、もう一人家臣がいるんじゃないの?」

「もう帰るってさ。気まぐれなんだよ」

「え?なんでそんな人選んだの?」

「強いから。またいつか紹介するよ。その為にも、今は無事帰れるようにしないとな」

「うん」


 絶対に死ぬわけにはいかない。

 気を引き締め、俺はみんなと共に三階へ上った。直方体の小さな灯籠が階段の両端に灯っていて、綺麗だ。

 「花の間」という捲り台が立っている部屋がある。

 ぞろぞろとデバッガーが集まって、部屋の中に入っていく。


 想像の2倍くらい広い。

 宴会の広間に似ているが、長机は太い。

 漬物やお菓子、湯呑みや急須などが少しだけ置かれていた。

 

 ヒイラギが居た。肌色のコートを脱ぎ、長袖姿で胡座を掻いて座っている。左右には攻略会議の時と同じ、二人の男性の家臣がいた。


 ツクモが膝を折って話しかけた。


「俺のせいだ。電話で話した通りだ。すまない」


 ヒイラギは前を向いて言う。


「攻略が滞るのは俺としても面倒だ」

「ありがとう」

「オニの話も把握した。上手くやれ」

「ああ」


 攻略を進めたい仲間として、ヒイラギがいるのは心強い。


 ヒイラギの攻略に対する意欲は、天国を作る計画を実現させたいからだろう。

 正義のヒイラギよりも、欲望の方が強いんだ。

 それもそのはず、この世界には記憶が無いとはいえ、目の前にユメがいる。

 ヒイラギが死者を復活させる技術がある、と言っていたのは、まさにこの事だった。


 だとすると、俺はそれで良いのだろうか。

 確かにツクモがこっちの世界で生きられたら良いけど、死者が生き返る世界なんて、俺は望んで無い。

 だってそんな事したら、現実で死んでも怖くなくなる。

 それってとても恐ろしいことな気がする。

 ハッキリと言語化出来ないけど、俺はそういう世界は望んで無い。

 

 でもツクモとヒイラギは、それを理解して、その上で攻略したいと思っているんだろう。


 俺は、ツクモを助けたい。

 でも、死者の復活は望んで無い。


「どうした?」


 ツクモに訊かれ、咄嗟に答えられなかった。


「いや‥‥」


 ツクモは勘違いしたのか、気遣ってくる。


「ユメのことは大丈夫か?」


 俺は、ユメの嫉妬して俺の胸をポカポカ殴り出したのを思い出して、吹き出した。


「杞憂だったよ。本人は気にしてないみたい」


 それに、ユメは記憶が無い方が幸せになれる。

 自殺したなんて、よっぽど辛いことがあったに違いない。

 思い出させたく無い。

 でも、それは俺のエゴなのかもしれない。


 俺はふと気がついて、ヒイラギにたずねた。


「なぁ、お前は、ユメの記憶を取り戻させたいって思うのか?」


 ヒイラギはコートを畳に置き、俺を見た。


「‥‥分からない。だが、重要なメモリーは別の所に保管されている可能性がある。俺も記憶の大切な部分が切り離されているような感じがする。それを見つけたら、もう一度考えさせてくれ」

「記憶が物体として存在するのか?」

「プログラムの多くは、この世界から行われている。サーバーのあるデータセンターもこの世界にあるはずだ。何故なら、《現実の身体は眠っているだけで、オンラインで繋がれているわけじゃ無い》本質はメタバース内で動かせるこのアバター自身。この世界の中で、オンラインで個々が動いているからだ」

 

 ツクモが言う。


「初耳なんだが」


 ヒイラギが短く答える。


「今、思い出した」

「まだ隠している事がありそうだな」

「思い出したら伝えているだろう」


 ツクモはヒイラギの隣に座り、下座は家臣達が座る。

 俺も向こうに行こうとしたが、アサヒに引っ張られた。


「当事者なんだから。あなたはこっち」

「えぇ」

「あたしを見殺しにするつもり?ちゃんと責任取ってよね?」


 茶化して言われたが、俺はようやく気が付いた。

 そうだ、一番ヤバいのはアサヒだ。


 ツクモが俺に言う。


「とにかく余分な事は喋るなよ」

「分かった」

「聞かれた事だけ正直に答えれば良い」

「うん」



 18時を過ぎ、わざと遅れて、お面を被った人間が後から大量に入ってくる。

 家臣団の家臣だけでなく、おそらく構成員だろう。

 大分舐められているようだ。

 斥候を紛れ込ませていたなんて、確かに怒って当然だ。

 でも、ツクモはどうしてそんな危険な事をアサヒにさせたんだろう。

 アサヒもそんなリスクの高いもの、良く引き受けたな。お金で動くようには見えないし。何か特別な関係があるんだろうか。

 先に聞いておけば良かった。

 情報が多すぎて、盆暗な俺には、もう処理が追いつかない‥‥

 ロードも神経をすり減らしたし‥というのは言い訳なんだろうけど、この世界は広くて、俺の知らない事が多すぎる。


 俺が小さくため息をつくと同時に、シャンシャン、と鈴が沢山付いたスレイベルが鳴らされた。

 お面の一人が鈴を机に置く。

 京極家はみんな黒い着物と羽織の姿で、和装だ。制服があるらしい。

 なんだか不気味だった。


 一人だけ、濃い緑色の羽織を羽織っている。お面は、能面の小面、鎌倉時代っぽいふっくらした女性の顔だ。よく和系のホラーゲームで出てくるやつだ。

 背は低い。


 キョウゴクはゆっくりと上座に座り、その左右に家臣の鬼と獅子が腰を下ろす。


 キョウゴクは胡座の膝に手を置き、言う。


「起こし頂きまして、誠にありがとうございます」


 しわがれた声、まではいかないが、渋みのある声だ。

 男だ。


 ツクモも軽く頭を下げて言う。


「サミットに応じて下さった事、ご苦労をお掛けします」


 ヒイラギも無言で頭を下げる。

 キョウゴクが無表情で言う。


「では早速本題に入ろう。兼ねてから、アサヒがお前の斥候だという噂があってな。だが、それは噂に過ぎず、噂を信じるのは尤も愚かな事であるために、しっかりと調査をする事にしていた。そして今日、ターゲットであった、お前が目をかけている新人を殺さず、庇う真似をした」


 キョウゴクは鬼と獅子の面に視線を向ける。

 獅子は答える。


「本日8時40分、戦闘に入り、猛毒状態でHPを削りましたが、赤のゲージに入ってから、解毒剤を自ら作って渡しました。それもマッチポンプでお面を取り、あたかも他人が解毒剤を持ってきたかの様に見せかけていました」


 鬼が短く同調する。


「間違いありません」


 キョウゴクは容易された茶に口をつけて、ゆっくりと問う。


「お前は何故、斥候を送り込んだ?」


 ツクモが答える。


「俺は早く攻略をしたい。だが、京極家は攻略に否定的だ。その為、喧嘩をふっかけたり、勝手に殺しをして足を引っ張ってくるのは事実だ。俺は中部地方の長として、そこに棲む人間たちを守る義務がある。だから、京極家の暴挙に対処するために、情報が欲しかった」


 ツクモは続けて言う。


「俺に非がある。だが、アサヒに非は無い」

「それは通じぬ話だな」

「それ以外の制裁ならば、受ける」


 ツクモの訴えに続いて、ヒイラギが言う。


「赤キューブ200。装備を含む物資の譲渡」


 キョウゴクはお茶を飲み干し、湯呑みをゴトン、と置く。


「金品は足りている。だが、足りないものが一つある」


 ツクモが言う。


「具体的に条件を言ってくれ」


 キョウゴクはお面越しに、ツクモをじっと凝視してから口を開く。


「アサヒは返そう。その代わり、この坊主をウチで預かる」


 坊主??


 ツクモがキョウゴクに問う。


「イチのことか?」


 俺は顔を上げる。


 え、え? 俺のこと?


 ツクモを見ても、目を合わせてくれない。

 変な発言をしてしまいそうで、俺は唇を引き絞った。


 大丈夫。

 ツクモを信じれば、絶対何とかしてくれる。


「分かった」


 俺は身を乗り出し、ツクモに肩を掴まれる。

 ツクモが全て分かっていたような、落ち着いた口調でいう。


「だが、伝えておきたい事がある。おそらく、イチに関してみんなが勘違いしている事だ」


 キョウゴクが言う。


「真偽を確かめるために、鬼の能力を使うぞ」

「構わない。むしろそうしてくれ」


 鬼の能力??


 キョウゴクの隣に座っていた、鬼の面を被った男が立ち上がる。

 胸ポケットからハンドガンを取り出す。

 あの時と同じ、コピーのハンドガンだ。

 

「change」


 《両端に2つの鈴が付いた紐》のさくらんぼのキーホルダーみたいなマニュアルに変わった。


「能力の確認をする。俺が「judgeジャッジ」と唱えた後、話したことに対して、嘘をつくと鈴が鳴る。本当ならば鈴は鳴らない」


 嘘発見器という事か。


 ツクモが鬼に視線を向ける。


 鬼が唱える。


「judge」


 ツクモは話し出す。


「イチの能力の発動条件は、死ぬことだ」

 

 鈴は鳴らない。


 ざわついた。


「お前達は勘違いをしている。情報源はbunnyだろう?そもそも、bunnyの店主のリーウェンは、この世界のプログラマーだ。NPCに扮し、都合の良い情報を流布して世界を操っている」


 鈴は鳴らない。

 

 キョウゴクが問う。


「証拠は?」

「俺はメタバース計画の研究員の一人だった。今も同じ研究室の仲間や教授などと連絡を取り、調査をしている。彼等が突き止めた」


 ツクモはいっぱく置いて問うた。


「逆に聞きたい事がある。お前達はイチの能力をどう考えている?」


 キョウゴクが小面こおもてを少し上げ、顎を手の平で摩りながら答える。


「攻略を効率よく進められるというものだ。手段は分からないが、都合の良いように世界が動く。実際マニュアルは例を見ない「人間」で、能力もハッキリと分からない。お前とずっと居た事からも、その可能性は高いと見ていた」


 だから攻略を進めたくない陣営の京極家は、俺を殺そうとしたんだ。

 

 だが、俺が死ぬ事で能力を発動することを知らなかった。


「イチの能力は、不死身で、未来へ時を進めるものだ。もちろん、時間だけじゃなく、未来の全員が行動している状況まで進められる。タイムマシンに似た能力だ」


 鬼の持つ鈴は静まったままだ。


 は!?

 嘘だろ!?


 あの鬼、デタラメだ!


 俺は指摘したくなるのを堪えた。

 なんでツクモはこんな嘘を?


「そのため、お前たちがイチを殺せば殺す程、未来へ進み、攻略はイチの都合の良い方へ進む」


 鈴は鳴らない。


 そうか、俺が殺されて攻略が滞らないようにしてくれているんだ。


「なるほど。とても興味深いな。お前もまだ分からない事が多いようだ。私達の方で利用させてもらおう」


 ホッとしたのも束の間、キョウゴクは言う。


「例えば過去に遡ることが出来れば、攻略も滞らせることが出来るのだからな」


 キョウゴクはククク、と喉を絞るようにして笑い、サミットは終わった。



 俺は人質として、京極家に連れて行かれたのだった。



 

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