大名と家臣団(かしんだん)
俺は切り出した。
「翁の面を被っていたのは、お前じゃないよな?」
アサヒは怪訝な顔をした。
「何の話よ」
「猛毒になったのは、そいつのせいだったんだ。急に襲われてさ。パニックでちゃんと見てなかったけど、槍に毒が塗られていたんだと思う」
「それであたしを疑っているの?」
「‥‥疑わざる負えないだろ。6個武器あるうちの一つが同じで、しかも同じ毒を使う戦法をしてる」
アサヒは薬の瓶を3つ取り出し、俺に見せて言った。
「これはSHOPでも回復薬と一緒に売られているものよ。武器に塗って使う毒。3種類、poison ・paralyze ・sleepがあるわ。毒を武器に塗るのは結構定番よ。特に槍っていう武器は投擲も突きも薙ぎも出来るから、相性が良くて用いる人は多い。しかも猛毒は売ってない」
「えっ」
「猛毒状態にしてくるバグは滅多に居ないし、赤バグ以上だけで、更にデバッガーで使える者は居ない。おそらくマニュアルの能力よ」
「そうなんだ」
「‥ま、あなたには助けられたし、可哀想だし、護衛してあげても良いけどね」
「護衛?」
「たぶん相手は家臣団‥、その内の一人、殺し屋みたいなもんだから」
殺し屋!?
俺は少し考えて問う。
「家臣団って、あの、大名に仕える家臣の集団じゃないよな」
かしんだん、と聞いたら、戦国時代しか出てこないが‥まさかそんな事‥
「その通り。あのね、この世界はとても広いのよ。詳しく説明するから、よく聞いて」
「嘘だろ」
アサヒは言う。
「この世界って、日本列島を攻略しているでしょう?攻略した地域ごとに、それぞれ大名みたいなデバッガーが居て、取り仕切ってるのよ」
戦国時代かよ。
「‥‥冗談?」
「な訳ないじゃない。もともとこの世界は、ドロップアウトした人間の集まりで治安は最悪。バグは消失しても、一定間隔で現れたりするから、キューブの争奪戦になって死者が出る。そういう問題もあって、区域を定めてるのよ」
「‥そうなんだ」
たしかに、ヒイラギの周りには側近らしい側近が居た。本当に家臣だったとは。
アサヒが人差し指を立てて言う。
「例えば、《中部地方》の大名はツクモなのよ」
「え!!」
「百に井戸の井と書いて、百井家と呼ぶのよ」
歴史物は好きなのでちょっと興奮してしまう。格好良い。
「《関東地方》はヒイラギが大名で柊家。《近畿地方》が京極家。《東北地方》は青山家。《中国地方》と《九州地方》は龍造寺家が統治しているわ」
「他の地方は?」
「まだ攻略がされていない所ね」
つまり、【残るは北海道と、四国】だけなんだ。
ツクモが生きている内に、何とかなる気がする。
「初心者には、一週間経ったら説明する決まりがあるの。あなたもどこかに所属しなきゃいけない」
「強制なの?」
「ええ。戸籍みたいなものよ。年貢も納めないといけないし」
予想の遥か斜め上をいく展開に、俺は唖然とした。
「‥‥何割?」
「一割」
「‥何に使うの?」
「富の分配。家を買えれば良いけど、無理な人に借家の生活保護と、攻略のために、中級レベルの人に装備などを支援する。結局キューブがあれば薬剤もすぐ買えるし、装備も整えやすいからね」
「なるほど‥」
「で、話を戻すけど、家臣団は組織の中でも大名に近い側近ね」
「ああ」
「大名の命令に従ってあなたを殺そうとしている可能性が高い。また追ってくるはずよ」
「‥‥」
「《近畿地方》の京極家の家臣団は、皆んなお面を被っているのが特徴なの」
「なるほど。でも、俺恨みを買った覚えが無いよ」
「何か理由があるんでしょうね」
また襲われたら今度こそ死ぬかもしれない。猛毒の対処法も無い。
「どうしよう‥」
俺はアサヒを見る。
頭を下げて言った。
「守って下さいお願いします」
ぽんと頭に手を置かれる。
「いいでしょう。北海道の街までだけどね」
「本当か!?ありがとう‥」
良かった。部屋の中にさえ入ってしまえば、ツクモのメタアイテムで相手を侵入不可に出来る。
ツクモはまだログインして来ない。
ツクモ‥‥現実で何してるんだろう。
アサヒが俺の頭を撫でて言う。
「そんな泣きそうな顔しないでよ。ツクモ程強くは無いけど、あたしが守ってあげるから」
肩をポンと叩かれる。
「じゃあ、さっさと帰るわよ」
アサヒが駆け出す。
俺も後を追ったが、追いつけない。
「待って、速い」
「‥あたしにも用事があるんだからね。頑張って付いて来なさいよ」
「了解しました」
守って貰えるだけ有難い。
俺は何も起きないように願いながら道を引き返した。




