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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
36/65

アサヒと小猿

 身体を覆っていた光が散り、ふわっと重力を感じると、新たな世界に転送される。

 俺は顔を上げ、眼前に広がる壮大な景色に息を呑んだ。


 切り立った巨大な崖だ。そこから滝が流れている。激しい水飛沫を上げながら、岩場にぶち当たってザァァアアーと鼓膜の奥まで揺らす様な音を立てている。

 森を切り拓いた崖は、様々な植物が混ざり、油絵で描いたように鮮やかで美しい。

 あまり考えていなかったが、今は秋なのだろう。


 視界にゆっくりと文字が降りてくる。



  ー 層雲峡 ー


 

「そううんきょう、って読み方?」

「そう。観光地としても有名なのよ」

「へぇ」


 滝が大きすぎて、距離感が掴めなかったが、少し遠い。


「あの滝、怪しいわね、行ってみましょう」

「おう」


 道は小石で出来ている。

 進むたびに、ジャリジャリ、と音を立てる。空気が澄んでいて、脳味噌がシュッと引き締まる感じがする。

 マイナスイオンが全身を包み込む。

 知らない鳥の声がする。


 俺は思わず言った。


「気持ち良いなぁ」


 アサヒは頷く。


「うん。北海道にいるなんて、夢みたい」

「北海道好きなの?」

「好きっていうか、一度行ってみたかったの。現実じゃ行った事が無いし、この先もずっと、行けないだろうって思っていたから」


 アサヒは一体現実でどんな問題を抱えていたのだろう。

 普通に見えるけど‥‥


 アサヒが辺りを見ながら言った。


「バグが全然居ないわね、もうここら一帯は狩り尽くしちゃったのかしら」

「え?狩り尽くす?昨日の今日で?」

「あたしの他にもソロは居るし、ここのは赤バグも多かったんじゃないかしら。稼ぎたいデバッガーは青バグには興味ないしね」

「そんなにソロが居るのか?」

「ええ。ボス討伐に参加する方が珍しいのよ。ヒイラギの口八丁手八丁に乗せられててちょっと可哀想」


 たしかに、あの時は達成感で麻痺してたけど、結局、命懸けて赤キューブ3つって渋いよな‥‥


 滝の直前まで来て、アサヒが滝を指差した。


「あ!あの場所、なんだか怪しく無い?」

「え、どれ?」

「ほら、滝のすぐ横、洞窟みたいな穴があるわ!」

「あ、本当だ」

「行くしか無いわね」

「‥え?崖にあるけど」

「崖を登るのよ!こんな事もあろうかと、色々用意してきたんだから」


 アサヒは腰のポーチから木片と縄で繋がれた梯子と、金具のカラビナを取り出す。


「いや、でも、危ないよ。他に方法が‥」

「大丈夫、あたしソロでそこそこ強いんだから。任せてよ」


 アサヒのベストの胸元から、橙色の小さな毛玉が出てきて、アサヒは道具を渡していく。


 それは身軽に崖を登っていき、崖から生える草木の枝などに大量のカラビナを引っ掛けていく。

 木とロープで出来た梯子が吊るされた。

 崖に生える植物は案外太くてしっかりしているし、力が分散されて、何とかなりそうな気がする。たぶん。


 橙色の小さな毛玉は、器用に崖を降りてきて、アサヒの胸の中へ隠れた。


「猿?にしては凄く小さいけど」


 一瞬しか見えなかったが、目も丸くて大きくて、ぬいぐるみみたいだった。現実に居ない種類の猿なのかな。


「可愛いでしょ。優秀なのよ。動き回る動作は得意じゃないんだけどね」


 アサヒは俺をじっと見る。

 

「ん?どうした?」

「いいえ、何でも無いわ。さぁ、登りましょう」


 滝の横を梯子で登るのは、怖かった。水飛沫が凄いし、音もデカいし、色々と最悪だ。

 ただの草木に引っ掛けてるだけというのも恐ろしい。

 死ぬ気で登って行くと、途中で洞窟があり、梯子の裏に回ってから、洞窟にゆっくりと降り立った。


「本当にここで合ってるの?」

「行ってみなきゃ分からないわ」


 暗い道を進んでいくと、大きく開けた空間に出た。


「おお、当たりっぽくない?」


 奥に大きな青銅の二枚扉がある。

 更に、左右に石碑せきひのようなものが立っている。


「お、これ、あたし仕組みを知ってる。そっちの石碑に立って、丸い窪みに手を置いてみてよ」


 俺は言われた通り、右側の石碑に移動する。床に魔法陣みたいな模様があり、その上に乗って、石碑に刻まれた円に手のひらを付けた。


 アサヒが反対側で同じ事をする。

 

 ガコン、と大きな音が響き、土煙を上げながら青銅の二枚扉が開いた。


 アサヒがサッサと中に入り、宝箱を抱えた。

 アサヒが笑顔で俺に言う。


「良かった。実は道は把握していたのよ。どうやらもう一人人数が必要だって分かってさ。大助かり。ありがと」


「‥‥?」


「ふふ、じゃ、お宝は貰っていくから。お宝は一つだけらしいから、あなたの分は最初から無いわ」

「え」

「ごめんなさいね」


 アサヒがウインクする。


「ちょ、な、なんで。じゃんけんとか‥」


 アサヒは俺に駆け寄ると、素早く足払いを掛けてきた。俺はなすすべなく、地面に尻餅をつく。

 アサヒは、丸めた地図でパコンと俺の頭を叩いて言った。


「ばーーーーーーか」


 アサヒは小さく舌を出してあっかんべーすると、ふふふ、と楽しげに笑って、颯爽と洞窟を出て行く。


「‥‥うそだろ」


 つまり、俺は仕掛けを解くためだけに都合良く利用された訳だ。


 ユメが人になって現れ、拳を振って憤る。


「許せません!」

「ああ。ぜってー取り返すぞ!」

「はいっ!!」


 猛烈に腹が立ってきた。


 俺はユメと拳をぶつけ合い、ユメを剣に変えてから、アサヒの後を追った。

 

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