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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
35/65

お宝さがし

「‥‥君は?」


 たずねると、栗毛の少女は後ろに手を回し、はにかんで言う。


「アサヒ。助かって良かった」

「ありがとう。本当に」


 アサヒは少し顎を引いて、俺をじっと見つめる。

 めっちゃ可愛い。


 例えるなら、ユメは学年で一番可愛い女の子だけど、アサヒは手の届かないアイドルみたいな感じ。


 そう感じるのは服装のせいもあるかもしれない。

 焦茶色の肩出しのベストは、アサヒの華奢な白い肌を露わにしている。革のベルトがあり、下はギャザーの入ったミニスカートだ。

 そこからスラリと伸びる足は、ワイン色のニーハイソックスに包まれている。上の方がレース生地で、服装にこだわりがあるのが分かる。


 視線を外せなくて見つめ返していると、ユメが俺の前にスイと移動して視線を遮った。


「‥‥」

「‥‥」

 

 ユメが肩口までの黒髪を揺らして両手で拳を握った。

 セーラー服のスカートを揺らし、身を乗り出して訴える。


「ダメ!」

「‥なにが」


 ユメは頬を膨らませてそっぽを向いた。

 たしかに少し比較してしまったのはユメに失礼だったかもしれない。


「ごめんごめん」


 ユメがムッと唇を立てて、俺の腕を掴んできた。


 俺はアサヒにたずねた。


「どうしてこんな所に?」

「うーんと‥‥お宝を探しに来たの」

「え!あの宝の地図のやつ?」


 アサヒはパンと手を打って言う。


「あ、そうそう!ホテルでイベントが発生したのよ。あなたも持ってるの?」

「うん、まぁ俺たちは装備の素材集めを手伝っていただけなんだけどね」

「ふぅん」


 アサヒは俺の隣に来て、上目遣いで言った。


「ね、あなたの命を救った代わりに、一つお願いがあるの」


 やっぱり来たか。

 所詮彼女もこの世界の住人‥


「やだ、そんなに構えないでよ。一緒にお宝探ししない?って言おうとしただけ」

「お宝探し?」

「そう。結構レアなアイテムだって聞くし、持っていて損は無いと思うけど」

「それって地図分お宝用意されてるの?」

「それはどうでしょうね。そこまで含めてお宝探しじゃ無い?」


 アサヒが挑戦的に笑う。


「長時間拘束するのも悪いし、今6時だから、3時間、9時まで手伝って欲しいなって思ったんだけど、どう?」

「うーん」


 まぁ、3時間でロードの危機を乗り越えられたなら、お安い御用だ。

 助けられたのは確かだし。


「いいよ!でもちょっと待って、約束してる人にメール打つから」

「やった!ありがとう」


 ツクモにメールを打った。アサヒは強そうだし、猛毒状態から助けてくれたし、死ぬことはなさそうだ。


「ユメ、戦闘があるかもしれないから、剣にするぞ」

「はい」

「ていうか、どうやって勝手に人に変わったんだ?」


 ユメは首を傾げる。


「イチを助けたくて‥でも、あんまり覚えていません」

「そっか」


 アサヒがユメを見て言う。


「人間のマニュアルなんて、珍しいわね」

「そうみたいだね。アサヒのマニュアルは何なの?」

「秘密」


 アサヒは人差し指を立ててウインクした。



  ーーーーー



 宝の地図は、全く読めないし分からないので、俺はアサヒに付いて行った。


「たぶん、こっちの方だとは思うのよ」

 

 雪原から離れた、針葉樹林の方へ歩いていく。


「一人でお宝探してたの?」

「まぁね」

「攻略されたばかりの前線って、パーティー組まないと駄目なんじゃないの?」

「それは攻略パーティの人達の掟でしょ。あたしはソロだし、自由に来ただけよ」

「ソロ!?」

「そんなに驚く事ないじゃない。ツクモには敵わないけど、2年間寝る間も惜しんで敵を倒し続けて来たから、攻略パーティの平均レベルよりあたしの方が高いと思うわ」

「へぇ!すごい!」


 自分だけでここまで来るなんて、相当な苦労をしたに違いない。


「ま、ソロの方が貰える経験値も高いし、効率が良いからっていうのもあるけどね」

「へぇ。ずっと一人なの?」

「ええ。というか、あなた物好きね。わざわざボス攻略に参加するなんて」


 俺は首を傾げた。


「そう?むしろ俺には、君がどうしてそんなに強いのにボス攻略に参加しないのか不思議だよ」


 アサヒは華奢な肩を竦める。


「リスクとリターンが合ってないもの。それに最前線のロマンとか興味ないし。あたしがやりたいのは、ここでどう楽しく過ごすか、と、いつか現実に記憶を持ち帰ること。お宝は、より楽しく過ごす為のキーになる可能性が高いから欲しいの」 


 より楽しく過ごす為、という攻略目的の人間と会うのは初めてだ。


「宝って何なの?」

「分かってたら宝じゃないでしょ」

「でもあると生活の質が上がるんでしょ?」

「《唯一無二》の物を手に入れられるらしいの。例えば、世界で一番美しい宝石なら、部屋に置いといたら綺麗だし、良いなぁって思ったのよ」

「なるほど」

「あと期待。こういうの、ワクワクするじゃん?まだ知らないもの、見たことが無いものを感じたい。あたしはこの世界で、現実じゃ体験できないものを沢山経験出来た。だから‥‥」


 アサヒの瞳はキラキラしている。

 未知の何かを解き明かしたい気持ちは、俺にも良く分かる。


「うん」


 相槌を入れると、アサヒが俺を見た。


「なんか、あなたと居るとつい喋りたくなっちゃうわ。聞き上手って言われない?」

「いや?君の話は面白いから、もっと聞きたいなと思うよ」

「ヤダ、もう絶対喋らない。ぺらぺら個人情報喋っちゃうなんて、デバッガーとしてあるまじき行為よ」


 アサヒは腕組みする。

 自分を律しているようだ。


 針葉樹林を歩いていくと、急に広い駐車場に出た。少し青色を帯びた灰色の砕石が敷き詰められている。


 その先に四角い建物がある。そこから電線が斜めに二本伸びていて、山の頂上の方へ続いていた。

 

「‥‥ロープウェイ?」

「青キューブ2個だけど手持ちある?」

「いや、あるけど、これ乗るの?」

「うん。地図じゃ高所にあるみたいだからね」


 NPCが中で受付をしていた。

 チケットを買い、ゴンドラに乗り込む。

 向かい合って座る。

 出発すると、アナウンスが流れた。


ー 本日は旭岳あさひだけワクワクロープウェイにお越し下さいまして、誠にありがとうございます


「一日でこんな場所見つけたの?」

「ええ。ある程度目星は付いてるのよ」

「なら俺来なくて良くない?」

 

 嫌な予感がしてきた。


 アサヒが隣に座り、腕を掴んでくる。

 ゴンドラが揺れた。


「命の恩人なんだから、ちょっと付き合いなさいよ」

「‥‥」

「あたし暇なんだもん。ソロって言っても人と喋りたい時はあるし」

「いや、さっきもう喋らないって自分から言っただろ」


 アサヒが唇を尖らせて、俺を睨む。


「す、すいません‥」


 思わず謝ると、アサヒは俺に顔を近づけた。近い近い。

 メタバースなのに、シャンプーの良い香りがした。

 奥二重の小豆色の瞳が俺を見つめ、細められる。

 ふいに頭に手を置かれた。

 優しく頭を撫でられる。

 アサヒが笑って言った。


「よしよし、分かれば良いのよ。あたしもちょっと言い方がキツかったわ。昔から欠点なの」


 女の子に頭を撫でて貰ったのは初めてだ。

 悪くない。というか、ドキドキした。


 その時、光が点滅して、剣が勝手にユメになった。

 ユメは俺の隣に腰を下ろすと、反対側の腕をギュッと掴んできた。


 ゴンドラが傾く。


「ユメ?お前、どうやって‥」


 ユメはアサヒに言う。


「わ、私は、イチと、その、お付き合いをしているんです。だから、邪魔しないで下さい」


「はっ!?」


 なにその嘘。なんの為に?

 急にどうしたの。

 

 アサヒが言う。


「本人はそんな気ないみたいだけど?」


 ユメは腕を引っ張って言った。


「これから付き合うんです!予約してるんです!」

「ふぅん」


 二人は何やら女子特有のチクチクした言い合いをしている。猫の喧嘩みたいに、無言の間を開けながら、ラリーを続けるのはリアルだ。


 俺は口を挟むのを止めておいた。


 ていうか、普通に考えてマニュアルはAIだし、AIと恋愛とか出来ないだろ。


 俺はそう思ってるから、一緒の布団で寝たり、風呂入ったり、女性として見て来なかったのに、ややこしい事を今更持ち出さないで欲しい。意識してしまったらやりづらい。


 まったくユメも、急にアサヒに張り合ったりして、どうしたんだろう。


 ユメと俺は以心伝心だ。


 俺がアサヒを可愛いと思った事がそんなに気になったんだろうか。

 それなら後でユメにもそう言ってあげないとな。洋服も、ずっとセーラー服じゃ可哀想だし、女の子ならオシャレしたいよな。


 と、考えていると、アナウンスが入ってゴンドラが到着した。


ー 山頂での憩いのひとときをお過ごし下さい


 ゴンドラから出ると、出口にテレポートの光があった。


 触れると、光に包まれた。


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