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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
34/65

朝陽

「ツクモ!今セーブした!」

「セーブデータ5って事か?」

「そうなる」

「なるほど。良かったな、ここからで」

「‥ああ」


 冗談に取れない。

 何度もやり直す必要がある未来があるなら、この地点にロードしたら、やり易いだろう。


 それ以上ツクモは何も言わず、俺も言うことが無かった。


 視界に文字が表示される。


 ツクモからパーティ申請がありました


 ◯承認 ×拒否


 承認を選択すると、左側にツクモのHPゲージが固定される。


 ツクモが言う。


「まずは、snow horn スノウホーンの毛を集める。これは上衣に必要な素材だ。みんながどれ位確保しているか分からないが、攻略陣営以外のデバッガーもいずれやって来るだろうし、多ければ多いほど良い」

「うん」

「一つの上衣を作るのに、snow hornの毛は13個必要だ」

「13個!?13匹ってこと?」

「そう」


 確かに何匹狩っても損は無い。


 前方には、真っ白な羊が群れをなしている。1 2 3 4‥‥13頭だ。

 

 夜なのが功を奏している。

 スノーホーンは、毛皮もツノも全身が真っ白で、少し発光している。日中だったらカモフラージュになるのだろうが、夜間は白く光ってよく見えた。

 頭を下げて、雪を食べているみたいだ。


「雪を食べてる」

「雪の下の新芽だよ。一度狩ってみろ」

「うん」


 俺は剣を構え、スノウホーンに向かって走って行った。慎重に足を運んだはずだが、真っさらな雪原の上、すぐに気付かれて、羊たちは三々五々に散らばる。

 白銀の世界は、スノーブーツを履いていても、踏み込む度に沈んで動きが鈍る。


 追いかけられない。


 どんどん羊の姿が遠くなる。


 俺は項垂れて立ち止まった。

 ツクモが言う。


「日が暮れるだろ?」

「うん」

「俺も一匹狩るのは簡単なもんじゃない。群れは散らばるし、最初は大変だった」

「ツクモも?」

「ああ。という訳で、狩り方を考えた。出来るだけ多くの数を狩るにはどうしたら良いと思う?」

「出来るだけ‥」


 俺は牧羊犬のボーダーコリーを思い出した。


「‥‥追い込む?」


「そうだ。でも、ただ走っても上手くいかない。牧羊犬は二つのスキルを持っていると言われている。一つは追い込むものだが、もう一つは、「利己的な群れの幾何学」という物だ。みんな自分が助かろうとして群れの中心に行こうとするから、向心力が発生する。つまり周囲を囲むように走って、群れをぎゅっと集めれば良い」


「へぇ‥」


 さすが医者の卵、知識量が違う。


 ツクモが球状の懐中時計みたいなものを差し出して来た。


「これは時限爆弾だ。上手く使え」

「時限爆弾!?」

「複数埋め込むんだ。そうだな、一度に5つ位。一度の爆発はHPの5分の1程度しか削れないが、それが5回重ねれば1になるだろ」

「なるほど!」


 やっぱりツクモは凄い。


 腕で抱えるほど爆弾を渡され、俺は腰のポーチにスライドさせて仕舞う。


「じゃあ、俺はそっちの川の方で釣りをしているから」

「え!助けてくれないの?」

rainbowレインボー fishフィッシュの皮がスノーブーツの素材なんだよ。肉は燻製にすると美味いしな」


 そう言ってツクモは行ってしまった。


 俺は時限爆弾を5つ取り出して、剣に言った。


「ユメ、頑張るぞ!」

「おうです!」


 スノウホーンの群れから少し離れた場所の地面に、膝をつき、時限爆弾を2メートル間隔で埋め込む。

 上部にある栓を抜くと、時計が動き出す。


 300 299 298 297‥


 カウンタダウンは5分か。


 今は1時45分。


 1分ずつズラして起動させた。


「‥‥落ち着け」


 俺はツクモよりも不器用だ。

 一度に爆発で討伐できる自信はない。

 速度も足りなかった。


「そうだ、追い込みにも爆弾を使おう」


 離れたところに1つ。

 左右に1つずつ置いて、手前に1つ、中央に3つ設置することにした。

 

 まずは小さく雪の盛り上がった雪豪に身を隠し、俺は肉食獣のように、静かにタイミングを伺った。


 スノーホーンの群れは俺に気付いていない。

 メニューで時刻を確認する。

 

 1時49分になった。


 俺は群れの外側を回るようにして、走り始めた。スノーホーンが気がつき、一斉に反対方向に駆ける。

 俺は爆弾を埋めた地面に追い込む為、一気に角度を急にし、孤を描いて疾走した。

 瞬間、時限爆弾が地響きを起こして爆発する。スノーホーンの群れは破裂する土に巻き込まれ、HPゲージを減らす。

 再び反対側に逃げようとして、時間差で手前の爆弾がちょうど起爆した。ドカン、という音と共に、スノーホーンは爆風で打ち上げられる。更に時間差で起爆し、HPをごっそりと削る。

 器用に爆弾を躱し、群れから溢れて逃れようとする残りのスノーホーンを、俺は臆さず追いかけて、中心の爆心地へ追い込んだ。


 1時55分。

 中心の3個の爆弾が起爆する。


「スターラッシュ!!」


 身体を反転させ、俺は反対側に剣を突き出し、スキルを発動させた。

 自動的に直進し、後ろで激しい熱と爆風を感じながら、俺は雪の上に転がる。

 振り向くと、沢山のスノーホーンが01010101‥というデータになり、やがて青いキューブとなった。

 キューブのほかに、白い手の平サイズの綿毛が転がっている。

 風が吹いて、少し吹き飛ばされる。


「チェンジ!」

 

 剣がコードになり、ユメに変わる。


「ほぇ」

 

 急に剣からチェンジされて驚いたのか、ユメが間抜けな声を出して俺を見る。


「ユメ!毛を集めるのを手伝ってくれ!飛ばされないうちに」

「はい!」


 俺たちは慌ててスノーホーンの毛を回収した。


「ユメ、ありがとう」

「いいえ。イチ!凄いです!」

「よし!この調子で頑張るぞ!」


 ユメとハイタッチする。

 ロードを成功させてから、ユメとの心の距離が縮まっているように感じた。


 その後、ツクモと合流した。


「おぉ!すごいじゃん」


 戦果を報告すると、ツクモに褒められた。

 俺は思わず得意になって言う。


「まぁ、もうちょっと時間があったらもっと狩れたけどね、最初コツを掴むのに時間が掛かっただけでさ」

「そうか。なら日が昇るまでやって来い」

「えっ‥」


 ツクモが笑う。


「冗談だよ。よく頑張ったな」

「うん」


 雪原を歩いた。

 俺には同じ景色が続いているようにしか見えないが、ツクモは分かるらしい。


「ここからどうするんだ?」

「俺は一度ログアウトする」

「頼むからすぐ帰ってきてくれよ、俺、死んでロードしたくない」

「もちろんだよ。安全な場所があるから、そこまで案内する」


 雪原は少し土と草が生え、雪の積もっていない道に変わった。

 小さな雑木林が生え始める。

 急にツクモは立ち止まる。


「この東屋あずまやで待ってろ」


 公園とかに良くある木造りの休憩所が目の前にある。


 あずまや、と言うのか。知らなかった。


「周りのバグは強くないし、イチでも十分勝てる。俺は2時間くらいで帰ってくるから、レベリングで時間を潰しておいても良いよ」

「分かった」


 俺はツクモを見送った。


 ツクモは悪魔の小瓶を飲み、上空を飛んで行く。



 俺はひとまず東屋に座って道具を並び替えて整理した。結構パンパンだ。


 バニーキャンディー ×10

 スノーホーンの毛  ×34

 時限爆弾      ×7


 おにぎり(ツナ)  ×2

 おにぎり(高菜)  ×2

 お茶        ×2


 バスタオル     ×1

 剃刀        ×1

 歯ブラシ      ×1

 ティーカップ    ×1

 

 回復薬       ×30

 ワセリン      ×9


 入り切らないバニーキャンディーは部屋に置いて来た。チェックアウトはしていないから多分大丈夫だ。


 ツクモにバッグの容量を増やす方法とか、聞いておかないとな。


 

 迂闊に動いたら死にそうな気がして、俺は大人しく東屋で待つ事にした。

 木の香りがする椅子に座り、壁に凭れると、眠くなって来た。


 うとうとし始めた時、ドサ、という音と衝撃がして、驚いて目を覚ました。


 横を見ると槍が突き刺さっていた。

 

 ‥‥は?


 蜘蛛のように何かが飛んできて、壁に張り付き、槍を引き抜いて、俺に向かって突き出す。

 訳がわからないまま、俺は反射的に首を傾いで避ける。


 凄まじい速さで矢尻が突き抜け、耳が痺れ、赤いコードが飛び散った。

 出血し、髪が散る。

 いっぱく遅れて激痛が全身を襲い、俺は地面に膝をついた。


 肌色の何かが弾んで地面に転がる。


 顔の左が痛い。痛い。痛い。痛い。

 顎を伝い、赤いコードが流れていく。

 恐る恐る触れて、俺は悲鳴を上げた。


 耳が無い。


 意識が遠のきかけたが、ユメの声が俺を現実に引き戻した。


「イチ!負けちゃダメです!」


 俺は胸を喘がせて息を吸った。

 身動ぐだけであり得ない位痛い。

 首を刺して死ぬ時よりも苦しい。

 なんでだ‥‥おかしい。変だ‥


 HPが回復したら、絶対元に戻る。

 怖がるな。怖がるな。

 頭を働かせろ。


 相手の武器は槍か?


 顔を上げると、老人の‥‥おきなの面が俺をじっと見下ろしていた。

 乾燥して干涸びて、皺だらけでミイラみたいになっている。

 目はへの字で笑っている。白い顎の長い髭が、俺の目の前で不規則に揺れている。


 恐怖で血が沸騰した。


「あっあ、あ‥」


 強烈な痛みと怖さで、まともな言葉が思いつかない。


 おきなの面を被った人間は、俺に向かって突きを放つ。

 早すぎて躱せない。怪我をする。

 受けるしか無い。

 

 剣で受け止め、突き抜ける角度を変える。

 

 今度は右の頭に激痛が走る。

 こめかみが切れて、生温かい鮮血のコードが腕を伝って流れていく。


 俺は引き抜かれる槍を掴み、引っ張った。俺は立ち上がり、足払いをかける。

 翁は足を崩されバランスを崩すが、地面に手を着いて宙で一回転すると、猿のように身軽に距離を取った。


 なんだコイツは‥‥

 人という感じがせず、原始的な恐ろしさが首を締め付けるように募っていく。


「お前は‥」


 正体を問いただす間も与えられず、翁は距離を詰めて猛追を始めた。


 こんな所で死んでたまるか。恐れるな。

 ただのお面だ。

 

 俺は自分を叱咤し、剣を握る。飛んでくる槍先を弾き、突きの方向を変えながら攻撃を冷静にいなす。

 槍の攻撃自体はシンプルだ。

 攻撃に転じる余裕はないが、受け切れる。


 しかし、攻撃をほとんど受けていないにも関わらず、どんどんHPが減っていった。

 信じられない速度だ。どういう事だ。


 ダメだ。

 死ぬ。


 HPゲージが半分を切る。

 右手を斜め下に振りショートカットに設定していた回復薬を直ぐに出すが、手にした瞬間、槍先で突かれて破壊された。

 無惨に液体が飛び散る。


「くそっ」


 覚悟を決めないといけない。

 ロードは‥‥避けられないかもしれない。

 槍を弾き続ける。衝撃で腕が痛い。

 

 頭の中でユメの声が聞こえた。


「イチ、槍先を、剣先にぶつけて下さい」


「‥剣先?」


 そんな事無理に決まっている。


「私を信じて下さい」


 このまま死ぬより、試して死にたい。


 俺は胸の内でユメに応える。


 ー いくぞ、次の突きを狙う。


 俺は息を潜め、集中して槍先を見る。

 もう時間が無い。絶対にぶち当てる。


 翁の手首。肘の伸び。

 微かな、空気の流れ。


 スローモーションに見えた。

 俺は無意識で、反射で動いていた。

 腕を伸ばし、剣先を槍先にぶつける。


 ユメが宣告する。


redレッドcannonキャノン


 刹那、剣先から凄まじいエネルギーが発射された。赤銅色の光が目を焼き、灼熱のレーザーが放出している。

 熱い。剣が熱した鉄のようだ。

 激しい勢いに踏ん張りがきかず、俺は後ろに吹き飛んだ。


 レッドキャノンは、翁の身体に直撃し、HPゲージを一気に半分まで減らした。


 翁はふらつき、槍を一回転させた後、踵を返して去って行った。


 助かった‥‥


 俺は仰向けに倒れた。


 何故?という疑問より、安堵が勝って思考が停止する。


 その為、直ぐには気付かなかった。


 HPの減少が止まらない。

 HPバーの上に、紫の髑髏ドクロマークがある。


 deadly poison

 

 ワセリンは状態異常をなんでも回復する。

 poisonは毒だ。

 毒状態は、ワセリンで消せる。


 俺はアイテム欄からワセリンを取り出しててきとうに軟膏を自分の腕に擦りつけた。


 だが、毒が治らない。


「‥な、なんで‥」


 418のボス戦の時は、火傷はこれで治せたはずだ。


「ユ、ユメ!どうしてワセリンで毒が治らないんだ?」


 俺が命令を出さなくても、ユメが勝手に剣から人に変わった。

 それに驚いている暇も無い。


 ユメは俺の傷をじっと見て、ワセリンを塗ってくれたが、ダメだった。


 HPはじわじわと減っていく。

 死が近づく。

 

 ユメは一生懸命傷口を見つけては塗ってくれる。だが効果が無く、次第にユメの瞳が潤み始めた。


「‥ユメ?」


 ユメの頬に涙が伝う。


「‥‥どうしたら良いのか、私、マニュアルなのに分かりません‥‥ごめんなさい‥」


 俺はユメの頬に手を伸ばした。


「大丈夫だよ。もう一度やり直す。そうしたら、もう同じ失敗はしないから」


 ユメが泣くのがつらくて、俺は頭を抱きしめた。


「ユメ、ありがとう」


 ユメのお陰で俺は何度でも立ちあがろうと思うのだ。


「大丈夫、あんな奴やっつけてやるさ。ユメ、出来るだけ直近でロードして欲しい。出来るか?」


「はい」


 HPがミリ単位の短さになる。


 その時だった。

 誰かが駆け寄ってくる。


「大丈夫?」


 ユメとは違う声だ。


 意識が朦朧とし始めた。

 もうあと数秒で‥‥


 ユメがしどろもどろに言う。


「ど、毒が、ワセリンでも治らなくて‥」


「それって、猛毒状態じゃない?」


 飛び込んできた影は、俺の口に何かを突っ込んだ。


「飲んで!」


 俺は食道が焼け爛れるような激辛で熱い飲み物を一気に飲み干した。


 HPの減りが止まる。


 そのまま、俺は回復薬を飲まされた。


 HPが全回復する。

 俺は放心状態で謎の救世主を見上げた。


 栗毛の少女だ。


 小顔で手足が長く、スタイルが良い。

 さらさらとしたストレートの長い髪は、横髪をオレンジ色のピンで左右に留めている。

 控えめなハーフツインで可愛い。

 少女はとても可愛くて、優しそうだ。

 だから、この世界にはそぐわない。


 彼女は一体誰だろう。

 オレンジのピアスが揺れている。


 「決意」を表すその色は、朝陽と重なって美しく見えた。



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