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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
33/65

セーブデータ5【雪山】

 プルルルルル、プルルルルル、という着信の音で目が覚めた。


 俺は涎を拭い、掠れた声で返事をする。


「‥はい」

「行くぞ。準備をしてロビーに来い」


 ツクモの凛とした真っ直ぐな声が俺の意識を完全に覚醒させた。


 俺は温泉に入った後、ホテルの部屋で再度眠った。そのお陰か、頭がスッキリしている。


 ユメを叩き起こし、剣にする。

 ジャケットとブーツを履き、急いで階段を降りてロビーへ向かう。


 ホテルのロビーには多くのNPCが行き交っていた。ビジネススーツを着たサラリーマン。ピンクのバケットハットを被り、子供の手を引く母親。フロントでチェックアウトの手続きをしている。


「‥リアルだな‥‥」


 ツクモを探してキョロキョロしていると、3歳くらいの子供が一人でぽつんと立っているのに気がついた。

 うろうろして、よく見るとグズグズ鼻水を流して泣いている。

 

 俺は驚いて駆け寄った。


「大丈夫?お母さんは?」

「‥‥うーん」

 

 フロントは混んでいてこの子の親は分からない。

 うわぁーん、と子供が声を上げて泣き始める。

 

 俺は慌ててしゃがみ、男の子の視線に合わせて宥めた。

 

「大丈夫だよ」

「うわぁぁあーん」


 俺の一番下の従兄弟いとこと同い年位だ。

 よく遊んでいたので、扱いは分かる。


「お兄ちゃん、いいもの持ってるんだー」


 子供は「ほぇ?」と顔を上げて俺を見る。


「手、出して」


 俺はメニューからバニーキャンディーを出して、男の子の小さな手の平の上に乗せる。


 バニーキャンディーは両端が捻った包み紙になっていて、俺はその端を持ち、「ぴょんぴょん」と効果音付きでうさぎに見立てて跳ねさせた。


 子供はキャッキャ、と笑い出す。

 腕や肩、頭に跳ばせると、黄色い声を上げて大喜びする。


 男の子の母親が駆け寄ってきた。


「すみません!」

「いえ、大丈夫ですよ」

「あら、飴までいただいちゃったの?すみません」

「いえいえ」


「あ!そうだ、あなたデバッガーさんよね?来る途中でこんな地図を拾ったの。忘れ物かと思って、フロントに届けるつもりだったんだけど、良かったら使って」


 くるりと巻かれた古びた地図だ。


「わぁ!!ありがとうございます!」


 これはレアアイテムに違いない!


 男の子の母親が微笑んで言う。


「冒険、頑張ってね」

「ありがとうございます!」


 二人が去ると、ツクモが手前にあった柱の影から出てきた。


「ツクモ!」

「見てた。声を掛けようかと思ったけど、イベントっぽかったから、様子を見ていた」

「地図もらったよ!」

「まぁ間違いなく他のデバッガーは見つけられないだろうな。ナイスだ」


 巻き物を結んでいた紐を解いて地図を開くと、バッテン印が描かれていた。

 ツクモが覗き込む。


「まだ踏破してないダンジョンだろうな。この形は知らない。持っておいてくれ」

「分かった。お宝かな?」

「どうだろうな。情報としての価値も高そうだ。俺はサーチで盗聴されていないか分かるけど、他の人間の前で話さないようにな」

「ああ」


 地図にぽたりと水滴が落ちる。


「悪い」


 ツクモが退く。

 ツクモは髪から服までびしょ濡れだった。


 雪で濡れてしまったんだろう。

 

 俺はホテルから拝借してきた大きなバスタオルをアイテムから取り出して渡した。


「ありがとう」


 万が一何かあったら使えると思ったのだ。


 ツクモが頭を拭きながら言う。


「明日会議があるけど、またノコノコ付いて行って騙されないようにな」


「え!明日会議なんだ。京都みたいな?」


「まぁそうだな。でもボスじゃなくて、今後の攻略をどこからやっていくか、とか、その報告が主になるけどな」


 ツクモは猫の体を丁寧に拭いていく。

 ホテルの窓の外は細雪ささめゆき程度だ。


 俺はたずねた。

 

「そんなに外吹雪いてるのか?」


「ダンジョンがヤバい。場所によっては何も見えない。装備から備える必要がある」


「装備?」 

 

「雪に耐性がある装備を作る。まずは、装備の素材集めからだ。沢山集めれば、デバッガー達の戦闘準備が整い易い。レベル上げをしつつ、素材を集める事がお前のミッションだ」


「了解」


 ツクモが蒼いピアスに触れて、アイテムから物を取り出して俺に放り投げた。


「わっ」

「俺とお前の装備は一式作って来た。着ろ」


 アイヌ民族っぽい服装で、シャツの上に柔道服みたいな硬い生地の上着を着て、さらにその上から羽毛がぎっしり詰め込まれた、法被のようなものを羽織る。

 アウターはロング丈で、マントみたいで少し格好良い。

 腰を分厚い組紐みたいなもので縛り、横にじゃらんと垂らす。

 分厚く、滑り止めのついたスノーブーツを履いた。

 

 ツクモも着替えたが、ツクモの生地は藍色で、俺は赤だった。


「色が違う」


 ツクモが俺を見て、ふふと鼻で笑った。


「なんだよ」

「よく似合ってるよ。わざわざ赤い染料で染めてやったんだから、大事に使え」


 そんな事頼んでないけど。

 ツクモが歳をカミングアウトしてから、子供扱いが加速している気がする。


「‥ありがとう」


 俺たちはホテルを出た。

 夜の街は交通量は落ちているが、ビルの灯りはついたままで、明るい。


 歩道を走りながら、俺は共通点のことを話した。


「知ってる」


 漫画みたいに、ガク、とコケそうになった。


「お前達可愛いな、そんなことを話していたのか」

「馬鹿にするなよ、真面目なのに」

「そうか。よく気付いたな」

「温泉で‥いや、混浴で、傷を見られて、話になったんだ」

「言い訳するなよ」

「言い訳じゃないって!本当だからな」


 ツクモが声無く笑う。


 走りながら、俺は今までの出来事を詳しく話した。


「死神っていうのは気になるな。鎌を使うデバッガーはそう多くないけど、システムデータに干渉し、動けない中で動いているというのは、デバッガーじゃない可能性が高い」


「俺もそう思う」

「また死神に出会ったら教えてくれ」

「分かった」


 街の端まで来て、テレポートの光に飛び込んだ。



 ー  雪原  ー



 まだ吹雪いてはいないが、街よりも雪が重く、降っている。

 辺りは真っ白な雪原で、他には何も無いので自分が進んでいるのかも分からなくなりそうだった。


 見失わないように、ツクモの後を追う。


 俺は、ふと思い出した。


「そうだ!情報代返さなきゃ!」

「情報代?」


「bunnyのやつ!ヒイラギが争った時は決闘で決めるって情報を教えて貰った。それが決め手になったんだ」

「なるほど。‥ん?でも、bunnyの店主の名前を知らないと個人情報は教えてくれないだろ。そういう決まりがある」


「あーうん。それが、その前にもミントの洞窟の情報の借金をしてて、保証書?みたいなやつを書いた時に教えてもらったんだ」


「すごいな。そもそも借金なんて制度があるんだな。知らなかった。どうやったんだ?」


「普通に訴えただけだよ。教えて下さいお願いしますって」

「ふぅん」


「見返りに‥その、後からツクモの情報を売ることを約束したんだ。だから、売っても良い情報を教えてほしい。何も言わずに勝手なことをしてごめん」


「お前の知っている事を売っていい」

「え!だって、病気のこととか知られたく無いから言ってないんじゃないの?」


「違うよ、自分から言う必要が無いから言ってないだけだ」

「そうだったんだ。でも、現実の事とかは言わない方がいいだろ?」


「言っていい。プログラマーはどうせ全てお見通しだ。デバッガーもエスケープしたら記憶は消えるしな」


「分かった。自分で考えて、売ったものを報告する」


 ツクモが鼻で笑う。


「真面目だな。勝手に売るくらい強かに生きて良いんだぞ」

「そんな事できないよ。年上だけど、友人だし、仲間だし」

「ふぅん」


 言っていて恥ずかしくなってきた。

 話を逸らした。


「ツクモは店主の名前知ってる?」

「もちろん」

「あ!そうなんだ」


 知っているなら名前出して良いか。


「bunnyって三軒あるじゃん?リーウェンさんが一人でやっているのは本当なの?」


 ツクモが急停止する。


「ツクモ?」


 驚愕に目を見開き、俺を振り返る。


「名前が違う‥」

「そうなのか?でも三人いるって言ってたし、そのうちの一人の名前なんじゃないの?」

「‥‥リーウェンには何も言うなよ。いや、他の人間にもこの話は絶対にするな」

「‥?分かったけど‥」


 詳しく話を聞き出そうと身を乗り出した時、世界が停止した。

 目の前に文字が表示される。

 ユメが機械的に、俺に問う。


  セーブしますか?


 《はい》 《いいえ》



 俺ははい、を選択した。



 セーブデータ5 雪山 入り口



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