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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
北海道編
32/65

共通点と温泉

 もわっとした熱気のこもった空気が、全身を包み込む。


 俺はボス戦の終わった後の、マグマが引いた黒い土の上に立っていた。


 マグマ溜まりの跡地に、ロード出来た。


 向かい合っていたユメが、きょとん、と目を丸くして俺を見る。


「‥ユメ、良くやった!!」


 ユメは首を傾げる。

 ショートカットの黒髪が揺れる。

 俺はユメを抱き締めた。


「行きたいロードを選択出来たんだ!ユメ!ありがとう!」


 腕を離すと、今度はユメが飛び付いてきた。


「わーい!!」


 デバッガー達が俺たちを見ている。

 みんな口元を緩めて、笑っていた。


 たぶん、ボスに勝ってはしゃいでいる図、に見えるのだろう。


 周囲を見たが、ツクモは居ない。

 

 辻褄合わせの法則で、ログアウトしている時はツクモの姿が消える。

 

 俺はまずシロに駆け寄った。


「‥ツクモがいない‥」


 辺りをキョロキョロ見回すシロに、俺は小声で説明した。


「シロ、この前、俺のマニュアルがセーブとロードが出来るって話しただろ?ツクモがログアウトしている時は、こっちの世界でツクモは消える。ログインしたら、戻ってくる」

「え、そうなの?」

「うん。だから心配は要らないよ。フレンドのところ、見てみて、灰色になってるでしょ」

「本当だ。ログアウト扱いだ」


 シロは汗で乱れた白髪の前髪を掻き上げ、俺を見る。


「ちゃんと来る?」

「うん。向こうでご飯食べてリハビリしたら、またログインするって」

「そっか」


 シロが少し寂しそうな顔をして、俺は困ったが、ユメが駆け寄り、シロの手を握った。


「大丈夫です。なにも心配はありません」


 急にユメに手を握られて、シロは動揺しながら唇を尖らせて言う。


「‥‥分かってる。心配なんか、ボクしてないもん」

「そうですか?表情から、寂しい、不安などという感情が読み取れましたが‥」

「そ、そんな事思ってない!」

「‥‥」


 ユメは首を傾げたあと、目を細めて笑い、頷いた。


「そういうことに、しておきます」

「は!?生意気でウザい。イチ、コイツ武器化して!」


 ユメがふるふると頭を振って俺を見る。


「イヤです!」


 二人のやり取りを見ながら、俺は安堵のため息をつく。二人が無事で本当に良かった。


 その時、ゴゴゴゴ、と音がして、マグマ溜まりの洞窟の壁に、土煙を上げながら、巨大な扉が出現した。


 歓声が上がる。


 扉が軋みながら、ゆっくりと開く。

 

 次の世界へ‥


 みんなが扉の前に集まる。

 自然と列が出来、ヒイラギが山分けした報酬を順々に渡して、扉の先へ、進んで行く。


 俺もヒイラギから報酬を受け取り、慌てて腕で抱えるようにして持った。


 赤キューブ3個と、青キューブ7個。

 100人を30人で割ると、3.3。4個おまけをつけているなら、ヒイラギの自腹になる。


「4個多いよ」

「みんなそうだ」

「‥‥」

「皆、それくらいの働きをしてくれた。ボスは一人じゃ倒せない」


 とりあえず礼を言った。


「ありがとう」


 ヒイラギが俺を見て、微かに笑む。


「良い動きだった。これからも頑張ってくれ」


 これは、柊の表の人格だろうか。


 シロが腕を引っ張る。


「早く行こうよ」

「ああ」



 扉の先に踏み込むと、青白い光が視界を覆った。

 ふわふわとした浮遊感。

 その後、水の中に落とされたような、冷たい感覚が全身を覆う。

 


 目を開けると、そこは、しんしんと雪が降る、白く染まった街だった。

 オルゴールの可憐で少し儚いBGMが、俺の心をそっと柔らかいもので包んでいく。

 ここまで戦い、辿り着いて良かった。


 多分、みんなそう感じていた。

 みんな空を見上げて、雪を受け止めるように両手を開いている。


 ゆっくりと黒い文字が降りてくる。



 ー 北海道 ー



 ユメが呟くように言う。


「‥‥綺麗です」

「そうだな。北海道なんて、初めて来た」


 シロもしゃがんで、真っ白な新雪を両手で掬って、上に放り投げ、黄色い声を上げた。


 楽しそうだ。


 目が合う。

 シロはコホン、と典型的な誤魔化しをして、俺に言った。


「旅館か普通の宿かホテル、どれにする?」

「え?」

「どっか拠点は必要じゃん。最前線が一番レベリングの効率良いし、明日からはまた攻略の日々なんだから。金に余裕もあるし」

「そっか!えーっと、じゃあホテル。行った事無いし」


 シロの手から、タロットカードが一枚飛び出て、一定の角度で浮遊したまま停止した。

 

「北か。走るよ」

「何その機能」

「もう一つのパッシブスキルだよ。誰にも言わないでよ?」

「うん」

「『ダウジング』っていうんだ。行きたい場所とか会いたい人の方向が分かる」

「へぇ!パッシブスキルが複数あるんだ」

「多分だけど、他の人も複数持っているんじゃないかな?」

「そうなの?」

「うん。みんな言ってないだけ」


 遅れて走ってくるユメを待っていると、シロがたずねてきた。


「っていうか、ユメってセーブとロードはアクティブスキルの扱いなの?」

「たぶん‥」

「なら、パッシブスキルもあるんじゃない?」


 それは目から鱗だった。


「確かに!」

「鍛えたら?確実にチートなスキルでしょ」

「そうだな。アドバイスありがとう」

「うん」


 振り向くと、追い付いたユメが、ふぅと息をついて膝に手を置く。

 嘘だろ。この距離でバテるか?


 雪の街を堪能したいかと思って、人にしていたけど、これはお荷物だ。


「チェンジ」


 ユメが剣に代わり、俺は腰の鞘に収める。

 ちょっとずつ頑張るしか無い。



 途中で札幌駅があった。駅を横目に街の大通りを走っていくと、大きな建物があった。

 少し低いビルを二つ繋げた感じの外装をしている。


 門が構えてあって、ロータリーがある。車が入ってちょうどホテルの従業員が客の荷物を受け取っていた。


 どこからどう見てもホテルだ。

 少し緊張しながら、シロと二人で自動ドアをくぐってエントランスへ入る。


 赤い真紅の絨毯が敷かれている。

 上には巨大なシャンデリア。

 高級そうなホテルのエントランスで、受付をする。

 よく考えたらいつも両親の後ろにくっ付いているだけだったので、何も分からない。


 代わりにシロが慣れた風に答えてくれる。


「とりあえず一泊。朝食付きで。二部屋」


 カードキーを受け取る。


「泊まれたのラッキーだよ。NPCが混んでて、当日の部屋は、5部屋しか空いてないみたいだった」

「マジか」

「うん」


「それで、シロ、俺、今からレベル上げてこようと思うんだけど‥」

「え?今から?」

「うん。時間が無いし」


 シロは俺に向き合い、首を振った。


「ツクモがログインするまで待った方が良い。イチのレベルじゃそこら辺の雑魚でも普通に死ぬ可能性が高い」

「でも‥」

「地方を最初に攻略する時は、敵が初見だから危険が高い。パーティーを組んで戦うのが決まりだよ。結局、みんなにとってデバッガーがエスケープするのはデメリットでしかない。だから決まりは守らなきゃダメ」

「‥分かった」


 シロがつま先たちして、俺の肩を叩く。


「焦っちゃダメ。焦ったら死ぬよ。ツクモが必ず助けてくれるから待とう」


 俺は少し落ち着いた。


「‥‥そうだな。ごめん」


 一時間もしたら、ツクモは帰ってくるだろう。


「気にしないで。じゃあ部屋行って休憩しよ」

「うん」


 どっちが年上か分からないな。


 エレベーターを使って9階へ上がる。廊下を進み、902の部屋の前で、カードキーをドアノブの差し込み口に入れると、カチ、と音がしてドアが開く。


 中にはベッドが一つ、木の椅子と丸いサイドテーブル。テレビとティーカップと、歯ブラシなどが入ったアメニティーグッズが置かれていた。


 仕方なく、俺はベッドに転がった。

 急がば回れだ。


「チェンジ」


 剣がユメに変わる。

 ユメも隣に転がって、大あくびをする。

 それを見ていると急速に眠気が襲ってきて、俺たちは、いつの間にか眠ってしまっていた。



 頬に感触を覚え、俺は目を覚ました。

 巨大な黒い猫目が覗き込む。


「うわっ!」

「イチ、私、お腹がすきました」


 くぅー、とユメのお腹が鳴っている。


 時刻を確認すると、もう18時だった。


 ヤバい、爆睡した。

 これまで寝ていなかったせいか?


 しかも、俺までお腹がすいてきた。


 そうだ、ツクモは?


 ピアスに触れてメニューを開き、フレンドを見る。ツクモの名前が濃いから、ログインはしているようだけど。


 俺は試しに電話を掛けてみた。

 普通の通話と同じように、プルルル、プルルル、というコールの後、繋がった。


「なに?」

「何してるの?」

「マッピング。+(プラス)お前のために安全でレベル上げに効率の良い場所を探してる。夜中の12時に出発するから、それまで休息をとれ」

「え」

「お前の今やるべき事はとにかく休む事だ。

寝なくても動けるけど、睡眠を取らないとデータ脳の中でも神経伝達物質が減る扱いになって動きが鈍る。致命的だ。だから休んで寝溜めしろ」

「分かった」

「忙しいから切るぞ」


 切られた。


 仕方なく、一度部屋を出て、ホテルの隣のコンビニで、オムライス弁当とツナおにぎり、納豆巻きと卵サンドイッチと、スナック菓子を買って部屋に戻った。

 賞味期限は無いから、少し多めに買っておいた。


 そういえば、ロードしたのに何故かアイテムの容量が「バニーキャンディー」でいっぱいになっていた。


 《ロードしても持ち物は共有される》という法則は、今後大きなアドバンテージになるだろう。


 買ったものが入り切らなくて、普通にユメと手で抱えて持ち帰った。


 全部で青キューブ2個で足りた。


 ご飯を食べ、二人でポットで紅茶を飲んでから、少し休憩した。

 

「風呂でも入るか」


 俺が言うと、ユメが元気よく頷いた。


「はい!」


 コンビニでご飯を買いに行く途中、エントランスの端の廊下で、お風呂のマークのついた暖簾を遠くに見かけた。


 せっかくなので、大浴場へ向かう。


 ちょっとドキドキする。

 しかし、その場所にはいつの赤と紺の慣れ親しんだ暖簾が無かった。


「‥あれ?‥男湯と女湯の仕切りが無いんだけど。場所ここで合ってるかな」


 ユメが言う。


「ここのホテルは、混浴です」

「‥‥まじ?」

「はい。そう設定されています」


「じゃあ、ユメ先に入ってきていいよ。俺‥」


 ユメが俺の腕を掴んで言った。


「私、お風呂入りたいですが、誰かイチ以外の男性がいた場合、すごく困ります。なので、私はイチと一緒に入りたいです。一緒に入ってくれますか?」


 上目で俺を見つめる。

 

「‥いいけど」

「守って下さい!」

「任されました」


 流石に脱衣所は区切られている。


 ガラガラ、と扉を開けて驚いた。


「おぉ‥」


 屋外だ。

 竹垣で囲まれた、石作りの広い露天風呂で、もうもうと湯気が上がっている。


 先客がいる。


 あ。


 攻略で一緒になった男のデバッガーだ。

 会釈して挨拶するが、無視された。


 俺は外側から、見えにくい場所を探した。

 待っていると、ユメがタオルで雑に身体を隠しながらやって来た。

 もう外は暗くて、ユメの周りだけ、白く発光している気がした。

 妖精みたいで、ユメの身体は何度見ても綺麗だった。


「付いてきて」

「あ、はい」


「ここなら端っこだし、岩に隠れてるし、心配ないでしょ」


 ユメがニコリと笑って、俺の隣に座る。


「イチ、ありがとうございます」

「いいえ」


「あー、良い湯」


 この幸福感が身体中にじんわりと染み渡る感触は、格別だ。

 

 少しして、男のデバッガーは去っていった。


 一度湯船から出て身体を洗い、また温泉に浸かっていると、ガラガラガラ、と扉が開いた音がして、俺は振り返り、ギョッとした。


 シロだ。


 ペアペタペタ、と軽い足音の後、ガガ、と椅子を引きずり、豪快にシャワーを浴びている。


 もう出るか?

 いや、ドアまで遠いし、動いたらバレる。

 あと気を使いたく無い。

 俺はまだ入っていたい。

 

 シロが湯船に飛び込み、色々な場所を散策し始め、岩の影から出られなくなった。


 終わった。


 シロと目が合う。


「キャー!!!!」


 俺は思い切り頭をぶたれて湯船に沈んだ。




「なんで入ってるの?」

「いやここ風呂だし」


 ユメがニコニコして、シロに肩を寄せて座った。


「しかも、わざわざ人のマニュアルにして!やらしい!ユメ、こっち来な!」


 シロがユメを抱き締めて引っ張る。

 シロの腕がユメの胸に抑えられ、ユメの双丘が、ふっくらと盛り上がる。


 何だこれ、エロい。


「やだ見ないでよ!!変態!!」

 

 シロに蹴飛ばされて、俺は再び湯船に溺れた。


 俺は仕方なく、背を向けて湯に浸かった。

 わざわざ出たく無い。

 混浴なんだから男が遠慮する必要は無いんだ。

 俺は出ないぞ。


「ねぇー、その傷なに?」


 ちょん、と脇腹を突っつかれて、俺は驚いて湯船に沈んだ。


「アハハ!」「ふふふ」


 シロとユメが顔を見合わせて笑っている。


「‥おい」


 傷?

 ふと、脇腹を見ると、確かに傷があった。


「ああ、盲腸のときのやつだよ。半年前に手術したんだ」


 あれ?

 でも、今は傷は治って見えないはずなのに、ここじゃまだハッキリ見えているな。


「現実じゃ治ってるのに‥」

「あ!イチもそうなんだ!ボクも同じで火傷の傷が酷いんだよ。現実じゃもっとマシな所まで治ってるんだけど」


 ほら、とシロは岩の上に座って身体に巻いたタオルの端を捲る。


 太腿のあたりが赤く腫れて‥少しグロい感じになっていた。


「いひひ、怖い?」

「そんな事ないよ。でも痛くない?大丈夫?」

「うん。全然。てか、この世界は風邪も無いし、怪我も無い。その時HPが減るだけだし」


 シロは湯船に浸かって言う。


「ツクモも変だよね、最初から子供に戻ってたらしいし。なんか外見がこの世界に来た時ピッタリじゃ無いんだよ」


「たしかに」


 言われてみればその通りだ。

 他のデバッガーはどうなんだろう。


「その火傷は何年前?」

「今から4年前。この世界に来るちょうど1年前くらい」

「‥俺は半年だ。時間じゃないのかな」


 シロが言う。


「盲腸って手術する?」

「うん」

「ボクも手術した。ツクモも入院してる」


 俺とシロは顔を見合わせた。


「病院に関係があるのか?」

「もしかして、誘拐事件の被害者の共通点なのかも」

「これだけで決めるのは早とちりかもしれない。あとでツクモに話してみよう」

「うん」


 何か大きなキーワードな気がした。



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