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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
31/65

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 その時、世界が停止した。

 モノクロの世界。ツクモは動かない。俺も右手以外は動かせない。


 選択肢が表示された。


 ツクモを信じる?


《はい》 《いいえ》 《???》


 カチャ、という効果音と共に鍵のマークが開く。


《二人を信じる》

 

 俺は震える手で《二人を信じる》というコマンドを選択した。


 世界が動き出す。


 ツクモが俺を見て、目を丸くした。


「どうした?」

「いや‥‥」


 これで、あの最悪な状況は回避出来た。

 感動で手が震えた。


「泣くなよ」

「泣いてない。今、選択肢があったんだ」


 俺は説明した。

 ツクモが頷く。


「なるほど。よく頑張ったな。日記も確認してきたよ。ボスの後にロードしたんだな?」

「うん」


 俺はセーブデータ4まで詳しく話をした。

 

 話し終えると、ツクモが言った。


「正直に言うけど、俺は最近少し調子が良くない。あまり時間が無いかもしれない」

「え」


 ショックで頭が真っ白になった。


 ツクモが笑って俺の頭を叩いた。


「嘘だよ。お前がちんたらして、全然攻略を進めないから、ちょっとヤキモキした」


「そ、そういう冗談は言うなよ!!」


 でもそうか、現実では時間が経過してる。

 俺が過去にロードする分、攻略の速度は落ちてしまう。


「本当のところはどうなんだ?」


「そこそこかな。今は大分寛解していて、最先端の免疫療法でも腫瘍は小さくなってきていて、効果が出ているから大丈夫そうだ」


「‥‥そう、なのか」


「ま、今まで良い悪いを繰り返している。いつまた悪化するか分からないけど」


 俺が焦りを感じると、ツクモは言った。


「だから提案する。今からセーブデータ4までロードしよう」

「えっ」

「登山の時話したことを覚えているか?」

「うん。ツクモがログアウトするから、そのタイミングでロードしたら、ツクモは記憶を保持したままロード出来るってヤツだよな」

「そうそう」


 俺は懸念を口にした。


「でも、セーブデータ4に行けるかどうかは分からない」

「行けると思う。ヒイラギが言ってただろ、世界の意志があるって。それを信じる訳じゃないけど、イチがロードする場所を強制的に決められていたのは、何か理由があるはずだ」


 俺はハッとした。

 確かに、セーブデータ3は、最高率で二人を信じる選択肢のフラグを回収できた。


 ヒイラギと一対一で対話できるチャンスが得られたのは、偶然ではなく必然なのか?


 ‥流石に、そこまで計画はされてないか。

 

「でも、それがセーブデータ4にロード出来るかどうかは、関係ないよ」


 ツクモが細い眉を上げる。


「否定から入るのは良くない。それとも、俺が死んでもいいのか?」

「‥‥そんな訳無いだろ」


 失敗するかもしれない。

 そうしたら、もっと過去に戻ってしまうかもしれない。


 ツクモが手を開いて言った。


「【マニュアルの力は、デバッガーの意志の強さに比例して強くなる】と言われている。ユメを信じてやってみるしか無い。お前なら出来る」

「‥」

「ヒイラギに勝ってみせたんだ。凄いよ」

「‥でも、あれは、たまたまっていうか」

「作戦だろ。山小屋に入って懐中電灯を使うなんて、思いつかないよ。俺の見立て通り、イチはこの世界の適性がある」


 肩を叩かれる。

 そんなに言われると、なんだか出来る気がして来た。

 

「分かった。やってみる」


 俺が頷くと、ツクモも口を閉ざしたまま笑って、頷きを返した。

 絶対に成功させてみせる。


「チェンジ」


 唱えると、ユメが剣から人間になって、花が綻ぶように、ふわりと現れる。

 赤いセーラー服のスカートが揺れて、ユメは片手でそれを抑えながら着地した。

 ボブカットの髪を耳に掛けて、俺とツクモを交互に見る。

 

 俺は言った。


「ユメ、頑張ろう」


 ユメは元気よくガッツポーズをした。


「はい!」



    ◯ ◯ ◯



 ツクモが転生の門に行くのを通話をしながら待った。


 時間に余裕もあるから、悪魔の小瓶は使わないらしい。


「そういえば、ツクモは1日三回朝昼夜にログアウトするって決まってたけど、自分の意思で自由にログアウト出来るの?」


「いや、基本的には決まってる。まぁ、俺は‥前回のログアウトの時に現実で寝てしまったから、ログインしたばかりだけど、多分ログアウト出来るはず」

「へぇ」

「病院って飯出てくる時間決まってるしさ」

「ああ、そっか」


 俺はツクモと通話を続けた。


「今、門に着いた。今からログアウトする。フレンドから俺の名前が透明になるか見ていてくれ」

「ああ」

「名前が薄くなったのを確認して、一応、3分経過してからロードしてくれ」

「分かった」


 ピアスに触れてメニューを開き、フレンドの欄からツクモの文字を観察する。


「行くぞ」

「ああ」


 5秒経ち、パッと文字が薄くなった。


 ツクモがログアウトした証拠だ。


 俺は、ツクモに渡された毒の瓶を取り出した。

 これは、毒になることで他の状態異常を防いだり、武器に塗って用いたりするらしい。


 ー 怖かったら使え


 死ぬのは怖い。


 けれど、代償が必要な気がした。


 現実なら、やり直せない。


 俺は学校に行けなくなってから、何度もあの時こうすれば、ああしなかったら、と悔しく思った。


 やり直す夢を見た。

 朝、涙が出た。

 過去はやり直せない。


 やり直せるのは、神の奇跡だ。

 

 だから俺は‥‥!!


「ユメ!!」


 ユメが振り返る。

 強い眼光で俺を射抜くように見つめた。


 向かい合い、手を繋ぎ合って、最初のように、初めてユメと出会った時のように、見つめ合った。


「チェンジ!!」


 ユメが010101のコードを発しながら、剣に変わっていく。


 俺はその赤い剣で、自分の胸を貫いた。

 赤いコードが散らばり、身体を舐めるように流れ落ちていく。


 ゆっくりとHPバーが減っていく。

 緑から黄色へ。

 

 俺は抜いて、もう一度刺した。


 絶対に、絶対にセーブデータ4にロードするんだ。

 絶対に!


 口から赤いコードが流れる。

 全身が熱く燃えるように痛い。


 痛い。痛い。痛い。


「ぅあああっああ」


 神経が焦げるようだ。

 喘いで、膝を着きそうになる。


 黄色から、赤へ、赤からゼロに。

 

 世界が停止した。

 モノクロの中で、剣が人型に、ユメになって、俺にふわりと向き合う。


 想いを込めて見つめると、ユメの瞳に、僅かな光が宿った気がした。


 セーブしますか?


 《はい》《いいえ》


 はい、を選択する。


 目の前にズラリと文字が表示される。


 セーブデータ1 京都 竹の小道

 セーブデータ2 はじまりの街 噴水広場

 セーブデータ3 富士山 山小屋

 セーブデータ4 富士山 マグマ溜まり跡地


 俺は右手を上から下へ滑らせる。


 緊張に吐きそうになりながら、俺はセーブデータ4を押した。


 ユメが機械的な口調で問う。


 セーブデータ4にロードします


 俺は光の中に吸い込まれた。


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