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RPGデバッガー  作者: 白雪ひめ
東海地方編
3/65

ヒイラギと虎

 何だか冒険者って感じがして格好良いなぁ。俺もああいう風になりたいけど、レベル上げしないと、被ダメがデカすぎて直ぐ死にそうだ。


 そういえば、この世界で死ぬとどうなるんだろう。

 とりあえず、死なない様に気をつけよう。



 俺が光に触れると、周囲が眩しく光って俺は反射的に目を閉じた。

 目を開けると、新しい場所に立っていた。



 綺麗な庭園だ。

 噴水があって、そこから真っ直ぐ道なりに小川が流れている。花壇もある。

 藤の華のアーチを潜りながら、俺はユメを横目に見て言った。


「ユメは取扱説明書マニュアルって言うけど、全くマニュアルじゃないよな。俺の足引っ張るし、すぐ転ぶし」


 ユメは急に立ち止まる。

 少し垂れ目な黒目で、俺をじっと見て来た。


「な、何」


 ユメは目をパチパチと瞬いて、言う。


「先ほどツクモに発生した【empty】(エンプティー)とは、どういう意味か、知っていますか?」

からでしょ」

「正解です。ステータスについての説明をします。【empty】とは、ステータスを【speed】に振ると、確率で付くボーナスの現象です。ツクモはレベルが高く、スピードの値が大きいので【empty】が発動しました」

「なるほど」

「ステータスを振り分けましょう。GreenMantisによって、レベルが6上がってポイントが貯まっています」


 俺は赤いピアスに触れてメニューを開く。 

 ユメが言う。


「イチは元々【speed】の値が高いです。バランスよく【attack】を上げるのが適切だと思われます」


「俺、ツクモみたいにスピード重視が良い」


「ツクモのステータスの振り分け方はリスクがあります。自分よりも高レベルの敵や、敵の攻撃が必中属性であった場合、攻撃をまともに食らってしまいます。デメリットの方が遥かに多いです」

「アタックに振っても攻撃を喰らう時は喰らうだろ」

「ステータスにはボーナスの数値がついています。【speed】に割り振ると、【hit rate】(命中率)が一緒に上昇します。【attack】だと【defence】(防御)が上昇します。この世界ではソロが基本となるので、自分で攻撃と防御が補えるステータス振り分けが重要となります」

「なるほど」


 俺はユメに従って【attack】にポイントを振ってみる事にした。


 attack 23

 defence   18

 speed 20

 hit rate 12

 luck 0


「よく出来ました」


 ユメがコクリと頷く。

 俺はユメに言った。


「チェンジ」


 ユメの全身が010101‥とコードに包まれ、片手剣となり、俺の手の中に収まった。俺は剣を腰の鞘に収める。

 可愛い女は苦手、なんて逆張りをする気はサラサラ無いが、トラブルを起こしても謝罪一つは無く、上から目線なのは頂けないな。


 美しい庭園を横目に、俺は一人歩いた。

 すると、後方からドドド、と音が聞こえ、風と一緒に何かがそこに停止した。


 巨大な影が俺に降り掛かる。

 美しい金茶の表皮と黒い縦の縞模様。


 理解するのに数秒を要した。


 トラだ。


 俺は驚いて後ずさる。

 トラの背の上に、男の影が聳えている。

 俺は少し後ろに下がり、男と向き合った。

 男は明るい茶色のコートを羽織っていた。下には鋼の装備が覗いている。

 僅かに白髪の入り混じった、壮年の男だ。

 目尻などに皺があり、若くない事が分かるが、静かな佇まいから漏れる重いエネルギーが感じられた。

 強い眼光で俺を見下ろす。

 男は少し掠れた低いバスの声で俺に話し掛けた。


「お前がイチか?」

「え、あ、はい」

「案内するから、乗れ」

「え?」


 男は赤いキューブを取り出して、俺に見せた。


「ツクモに交渉を持ちかけられた。赤キューブを貰う代わりに、お前の面倒を見る事になった」

「え」


 男は俺の腕を取って、ひょいと持ち上げる。

 トラの背に乗せられた。

 温かい。安定しているけれど、不安定な感じが、生物に乗っている感触がある。

 トラに乗れるなんて有り得ない。ツクモはここが現実と言ったけれど、絶対異世界だ。

 複雑な道、ダンジョンをあっという間に駆け抜ける。

 男は淡々と言った。


「俺の名前は、ヒイラギだ。京都に用事があるから、お前にも付き合ってもらう」

「あの俺、街の宿に行けってツクモに言われましたけど」

「ツクモの予定が変わった。だから俺に使いの役割を寄越した」

「そうだったんですね‥京都って、この世界にあるんですか?」

「ある。今晩、とある宿で会議が行われる。俺はそれに参加しなければならない為、今日は、お前もその宿で過ごす事になる」

「え?あの、俺、お金とか持ってないんですけど‥」

「ツクモから貰ったレッドキューブから引いておくから問題無い」

「キューブ?」

「レッドキューブは日本円に換算すれば10万円だ」

「10万!?」

「それだけの価値がある。更にこの上の『金キューブ』の相場は100万円だ」

「100万円!?」

「それだけバグも強くなるがな」


 不思議な異世界だ。

 俺はたずねた。


「会議って、どんな事をするんですか?ヒイラギさんもデバッガーなんですか?」

「この世界に居るのは基本的にNPCとデバッガーのみだ。会議はさっき言った金キューブの討伐。金キューブは体力が多く、ソロでは倒せない為にデバッガー同士が協力する事になる。会議の参加は任意だ。お前も興味があれば来れば良い」

「あの……この世界って、異世界ですよね」

「現実だ」


 ふいに、トラが崖から飛び降りた。

 ジェッドコースターよりもリアルな浮遊感に肌が総毛立つ。唇を噛んで悲鳴を押し殺した。

 森から河原へ、河原の端に白く光が浮遊しているのが見える。トラはその光に飛び込み、景色が変わった。

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